ソードアート・オンライン ~時を越えた青薔薇の剣士~ 作:クロス・アラベル
第二層の最後をどうぞお楽しみください!
爆散し、散って行くガラス破片。
「ぐはっ⁉︎」
「キャッ⁉︎」
私達は重力に逆らうことなく床に落ちました。
「痛てて……」
「……はぁ、はあ、はあ……や、やった……のか…?」
『『『『やったあああああああああッ‼︎‼︎』』』』
溢れる喜びの雄叫び。ボス戦での肌を裂くような緊張感はいつのまにか解かれ、明るくなっていました。
「コングラチュレーション」
「お疲れ、二人とも。」
「ロニエ、お疲れ!」
「やっと終わったね、ボス戦!」
「……ナイスアタックよ、ロニエちゃん。」
「Поздравляю!(おめでとう!)ロニエ!キリト!」
エギルさん、ユージオ先輩、ティーゼ、ユウキにアスナさん、ナギちゃんが集まって来ました。なんとか立ち上がり、みんなと握手します。
「相変わらず見事な剣術とコンビネーションだな。だが………今回の勝利はあんたじゃなく彼のものだな。」
「ああ。あいつが来てくれなきゃ、少なくとも10人…いや、皆殺しにされてたかもしれないな……」
ネズハさんを見ると、ボスがいたその場所をまぶしそうに見上げています。
「やった!やったで‼︎今回も犠牲者無しで第二層のボス突破や‼︎」
「ああ!やったなキバオウさん!」
攻略組の方はキバオウさんとリンドさんが肩を組んで喜んでいます。ディアベルさんも二人と、いえ、皆さんと喜び、はしゃいでいます。
「……犠牲者無しで第二層ボス突破、ですか……」
「ああ。危なかったけど……ひとまず終わりだな。」
「ふう……これで一安心だね。」
「皆さん!」
ふと後ろを向くとネズハさんが立っていました。
「お疲れ様でした、皆さん。キリトさん、ロニエさん、最後の空中ソードスキル、凄かったです。」
「あー、いや、それはその…」
「いいえ、凄かったのはあなたよ。3日前から使い始めたとはいえ……手に入れて使い出したばかりの武器をああも完璧に使いこなすなんて……練習、大変だったでしょう?」
「いえ、大変だなんて思いませんでした。だって、僕はやっと、なりたかったものになれたんですから………本当に、ありがとうございました。これで、もう……」
ネズハさんは途中で口を閉じ、また深々と頭を下げました。
「……ネズハさん、あなたもレジェンドブレイブスの皆さんと一緒にいていいんじゃないですか?」
「いえ、いいんです。僕にはもう一つ……………やらなきゃいけないことが、ありますから…」
「?」
「え?何をだ……?」
キリト先輩がそう聞いた時、ネズハさんの後ろ……攻略組の方から四人のプレイヤーが近づいてくるのに気づきました。
一人は確か、シヴァタさん、3人目と最後の一人は名前は知らない方でした。ですが、二人目は私達のよく知っている人でした。
「あんた……何日か前まで、アルバスやタランで営業してた鍛冶屋だよな?」
シヴァタさんは強張ったような声を、ネズハさんにかけました。
「……はい。」
「なんでいきなり戦闘職に転向したんだ?しかも、そんなレア武器まで……それ、ドロップオンリーだろ?鍛冶屋でそんなに儲かったのか?」
ま、まさか……シヴァタさんは、ネズハさんを疑って……⁉︎
「…………僕がシヴァタさんとそちらの三人の武器を、強化直前にエンド品にすり替えて騙し取りました。」
この言葉が、ボス部屋をしんとした重い沈黙に引きずり込みました。
「……騙し取った武器は、まだ持っているのか?」
「……いえ、全て
「…そうか……なら、金での弁償なら出来るか?」
……その問いは、可能…と言えるには言えます。レジェンドブレイブスのメンバーが持っている武器を売れば、できます。
すると、震えながらもネズハさんは答えました。
「……………いえ……弁償も、出来ません。お金は全部、高級レストランの飲み食いとか高級宿屋とかで残らず全部使ってしまいました。」
私達、事情を知っている私達は驚愕しました。ネズハさんはこの場を全て一人で切り抜けるつもりです。
その時、とうとう我慢の限界がきたのか、名前の知らないプレイヤーが怒鳴りました。
「お前……お前、お前ぇえッ‼︎分かってるのか‼︎オレが……オレ達が、大事に育てた剣壊されてどんだけ苦しい思いしたか‼︎なのに……なのに、オレの剣売った金で美味いもん食っただぁ⁉︎高い部屋に泊まった⁉︎挙げ句の果てに、残った金でレア武器買ってボス戦に割り込んで、ヒーロー気取りかよッ‼︎」
「俺だって、剣なくなって、もう前線で戦えないと思ったんだぞ⁉︎そしたら、仲間がカンパしてくれて、強化素材集めも手伝ってくれて……お前は、俺だけじゃない、あいつらも…………攻略プレイヤーも裏切ったんだ‼︎」
二人の言葉が導火線になったかのように、周りにいたプレイヤー達がネズハさんへ一斉に怒号をあげました。
その後ろ……レジェンドブレイブスのメンバーはどうしたらいいのか分からないのか、ひそひそと囁いていました。
私たちも、どうすべきか躊躇していました。
その武器をあげたのは私たちです、ネズハさんだけで詐欺をしたんじゃない、あるプレイヤーに唆されてやってしまったんだ。そう言うのは容易いでしょう。でも、それで怒りの矛先を私達に向けるのが果たして、本当に解決した……そう言えるのでしょうか。
ネズハさんのさっきの言葉の続き……あれは……
『これで、もう………
そう言いたかったんですか……?
私達が何も出来ないでいると、たった一人、止めに入る人がいました。
「みんな、待ってくれ!一度落ち着こう‼︎」
驚いて攻略組プレイヤーが一斉に振り返りました。そこには、今までで一番険しい顔をしたアインクラッド初のレイドリーダー、ディアベルさんがいました。
「みんな、頭を冷やすんだ。こんなことをしていても、解決にはならないぞ?」
ディアベルさんの言葉に少し落ち着いたのか、みなさんは声を上げるのをやめました。
「………君、名前はなんて言うんだい?」
ディアベルさんが優しくネズハさんに名前を聞きます。
「ネズハ……です…」
「……ネズハ、だね………ネズハ、君のカーソルはグリーンのままだ。だからこそ、罪は重い。システムに規定された犯罪でオレンジになったんなら、カルマ回復クエストでグリーンに戻ることも出来る。でも、君の犯した罪はどんなクエストでも雪げない。その上、弁償も出来ないなら……他の方法で償ってもらおうと思っている。」
……まさか、自殺…とかじゃないですよね…ディアベルさん……多分、ディアベルさんならこれからのボス攻略の貢献、定期的弁済……ぐらいでしょうか…
キバオウさんもリンドさんも固唾を呑んで見守っています。
「だから、君には……」
そう、最後の審判をネズハさんに下す……その直前、攻略組のプレイヤーの皆さんから甲高い声が上がりました。
「違う………そいつが奪ったのは時間や金だけじゃない!」
「……えっ……?」
「オレ……オレ知ってる!そいつに武器を騙し取られたやつはほかにもたくさんいるんだ‼︎そんで、その中の一人が、店売りの安物で狩りに出て、
しんと静まり返る主人なき大広間。そして、一人が掠れ声で言いました。
「し、死人が出たんなら……こいつ、詐欺師じゃねえだろ……ピッ……ピ……」
「そうだ‼︎こいつは人殺しだ!PKなんだよ‼︎」
そして、さっきの甲高い声が火に油を注ぐように言いました。PKとは神聖語で人殺しという意味があるそうです。プレイヤーキラーの略だとか……それでも、公にしてそんな言葉を聞いたのは今が初めてです。
「土下座くれーで、PKが許されるわけねぇぜ‼︎どんだけ謝ったって、いくら金積んだって、死んだ奴はもう帰ってこねーんだ‼︎どーすんだよ!お前、どーやって責任取るんだよ‼︎言ってみろよぉ‼︎」
この声は……第一層でも聞いたことのあるものです。小刀で鉄板を引っ掻くような……
ネズハさんはその糾弾を小さな背中で受け止めて、少し震える声で答えました。
「皆さんの、どんな裁きにも従います。」
そんな、この大広間で搔き消えそうな声を聞いて、また沈黙が流れます。
私達はこれから起こりうることを防ぐために止めようとした……けれど、半秒遅れてしまいました。
「じゃあ、責任取れよ」
次の瞬間、うわっ、というような大音響が部屋いっぱいに広がりました。
「そうだ、責任取れよ‼︎」
「死んだ奴に、ちゃんと謝ってこい!」
「PKならPKらしく終われ‼︎」
そんな言葉がいよいよ、私達の予想していた言葉になりました。
「命で償えよ、詐欺師‼︎」
「死んでケジメつけろよPK野郎‼︎」
「殺せ‼︎クソ詐欺師を殺せ‼︎」
それは詐欺事件だけでなく、今までの……この世界に閉じ込められた怒りも込められているように感じました。
ディアベルさんもキバオウさんもリンドさんも……かくゆう私たちもどうすればいいか、わかりませんでした。
その時、一人のプレイヤーが前に出てきました。
腰にあるのは両手剣。軽装備で髪は茶髪の少年。
「………覚悟があるんなら……今ここで、殺してやるよ…」
そう言って、鞘から両手剣を抜き、上段に構え、ソードスキルを発動させました。
「ッ‼︎」
それを見て、動いたのはキリト先輩でした。即座にソニックリープを発動させて、なんとかそのソードスキルを受け止めます。
「ぐッ‼︎」
「⁉︎」
流石に、両手剣の威力は片手剣で相殺できず、少し拮抗します。
「………なんで……なんで止めるんすか…キリトさん」
「……やめ、ろ……ネズハを殺したら、お前も犯罪者になるんだぞ⁉︎
そう、ネズハさんを殺そうとしたのは、第一層でも一緒にボスと戦ったベルさんでした。
「……犯罪者を殺して何が悪いんすか?」
「そんなんじゃ、解決にならないだろっ⁉︎」
「……そいつが望んでるんですよ?なら、殺さないと……」
「……そんなことしても、死んだ奴は帰ってこないぞ……んなこと、間違ってるだろ⁉︎……殺すなんてこと、俺が、許さないッ‼︎」
そう言って、両手剣を弾き、距離を取ります。
「………失望したっす……キリトさん…犯罪者を庇うなんて」
「ネズハが犯罪者でも、そうじゃなくても……俺は助けたぞ。」
沈黙する大広間。このままじゃ……ベルさんをなんとか説得しないと……
「待ってください、ベルさん!」
「………」
「あなたも、ネズハさんに武器を詐取されたんですよね?」
「………そうっすよ……言ってなかったんですけど……いつから気づいてたんすか?ロニエさん」
「………ボス戦を始める直前です。いきなり主武装を変えたので、もしかしたら、と……」
「…………」
「私もですよ。被害者は、あなただけじゃない。」
「……!」
その時、レジェンドブレイブスの皆さんが、ネズハさんの前に立ちました。
「……待ってください…」
「!」
「……!」
そして、オルランドさんがネズハさんに、震えるように言いました。
「………ごめんな、ネズオ……本当に……ごめん……‼︎」
「………‼︎」
「……ネズオ……ネズハに詐欺をやらせていたのは、俺達です。」
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「………なんで私達がこんなことをしなきゃいけないわけ?」
愚痴をこぼすアスナさん。
「ま、まあまあ……私達は軽装備ですから……あまり欲しいものは無かったですし……」
今私達は第三層へ続く階段を登っています。
「……良かったね!無事に解決出来て!」
「……危なかったですね……まさか、あそこまでなるなんて……」
「そう言えば、今日のキリトは凄かったね。全部ラストアタック持って言ったんでしょ?」
「えっ……」
「……私は将軍と王様を倒しましたよ。」
「僕は大佐だけだけど……もしかして、キリト……全部、同時攻撃で…ラストアタックボーナス貰ったの?」
「うぐっ………」
図星ですね。
「………前線に出るには時間はかかるだろうけど……ネズハ達…また、一緒に戦えたらいいね。」
「……戦えるさ。ネズハなら……きっと……」
「……そうだといいですね。」
今、ボス部屋ではレジェンドブレイブスの皆さんの持っていた武器や鎧をオークションというもので売り払っています。私達はあまり欲しいものは無かったので、傍観してるだけだったのですが、ディアベルさんに、第三層のアクティベートを頼まれたのです。
「………ここからがソードアートオンラインの本番なんだからな。」
不意にキリト先輩から出た言葉。
「え?なんでですか?」
「………えっと、だな……」
板についてきたキリト先輩の説明を聞きながら私達は第三層へと向かいました。
これで今年最後の投稿になります。今年はこの作品を読んでいただきありがとうございます!来年からは第三層のお話になっていきます。来年も、よろしくお願いいたします!
それでは良いお年を‼︎
次回第三層《黒白のコンチェルト ~青の改変~》 『神聖なる大森林』