ソードアート・オンライン ~時を越えた青薔薇の剣士~   作:クロス・アラベル

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こんにちは!クロス・アラベルです。

久し振りの戦闘シーンです。そして、かなりシリアスです。
では、どうぞ!


あの日の友は今宵の敵

森の中でお互いの得物を構える二人の少年。少し離れた所でも同じ状況の少年達がいる。

 

静かに一滴の冷や汗をかく少年、ユージオ。右手に握る愛剣の切っ先も心なしか不安そうに揺れている。オーソドックスな中段に構えている。

 

「………」

 

対する片手槍を持った少年は淀みのない矛先をユージオに向けている。だが、それとは裏腹に瞳は少し濁っているように見える。そして、彼から放たれるのは明確なる殺意。つい一週間前に共闘したとは思えない。

 

「……」

 

その少年の名は、《ベル》。だが、彼はユージオの知るベルではなかった。

 

デュエルまで残り、30秒。

死闘が始まろうとしていた。

 

何故こうなったか、それは今から10分程前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……キリト、こっちであってるの?」

 

「ああ。マップによれば……あと少しで着くぞ」

 

アルゴと別れてから僕らはキャンペーンクエストの一部である「潜入」を他の皆には内緒で進めることにした。このクエストは森エルフの野営地に届く指令書……黒エルフの野営地にある秘鍵を盗みだすこと、失敗した場合は増援を待って野営地を強襲せよという内容らしいそれをこちらから盗み出すことだ。言葉通り、戦闘無しでクリアできるらしい。けれど、βテストの時は強行突破して戦闘は避けられなかったらしい。しかし、今はその時よりレベルもスキルの熟練度もはるかに上回っている。ならば、隠蔽(ハイディング)スキルで隠れながら潜入することができるだろう。そのためには隠蔽スキルを持っている僕らだけでクリアしようという魂胆だ。

 

「…こっちだ」

 

「え?でも、地図にはこのまま真っ直ぐって……」

 

「そっちじゃ門番と鉢合わせするだろ?俺は攻略法(ルート)を知ってる。」

 

キリトは静かに僕を諭し、崖沿いにある野営地の下、川のあるところまで行った。

 

「キリト、野営地はこの上だぞ?どうやって……ま、まさか」

 

僕は悟った。キリトは崖を登って行くのだと。

 

「…分かってるじゃないか、ユージオ」

 

『まあ、伊達に二年も一緒に過ごしてないよ』と心の中で突っ込む。

 

「……じゃあ、早速…」

 

キリトが崖を登ろうとして崖に近づこうとした、その時だった。

 

 

「______ッッッ!?」

 

 

あの記憶の頭痛がやって来たのは。

 

 

 

 

流れ混んでくる記憶の欠片。

 

同じ、崖と森が映る。そして、森から今まで居なかったところからコイフを目深に被ったプレイヤーが現れる。

 

そして、散る火花。繰り出されるソードスキルの数々。

 

 

 

 

「……待って、キリト。」

 

「?」

 

頭痛が終わった瞬間、僕は誰かに見られているような感覚に陥った。すぐさま僕は、キリトの肩をつかみ、止める。

 

「どうしたんだ、ユージ……ッ⁉︎」

 

キリトも気づいたみたいで僕の見ている方向に振り返る。

 

「……!」

 

僕とキリトは視線の元を見続ける。そこに誰かがいるのはわかっていた。しかも、一人は殺気が漏れ出している。

 

「……ッ⁉︎」

 

見続けて20秒程経つとそこの背景が陽炎のように揺らめき、人の影が滲み出てくる。人数は、二人。

 

『『…………』』

 

先ほどのキリトの記憶にあったコイフを被っていて腰に剣を履いているプレイヤー。そして、もう一人の主武器(メインアーム)は背中に装備した片手槍。二人目のプレイヤーは僕らの知っている顔だった。

 

「……お、お前……⁉︎」

 

「……っ‼︎」

 

頭では分かっているのに、心が完全否定する。そんな筈は無い、これは勘違いだ……そうがなりたてている。キリトの顔は驚愕に染まり、声に動揺が滲み出ている。僕も、人のことは言えないが。

 

「……ベル…ッ!」

 

ベルは相対していた……僕らと。言葉が出てこない。冷や汗が一筋、僕の右頬を伝い、地面に落ちる。

 

『………いやぁ、まさか見破られるとは思ってませんでしたよ、キリトさん、ユージオさん』

 

もう一人のコイフを被ったプレイヤーが気の抜けたような声で僕らに話しかけてきた。

 

「……あんた、モルテだな。青の騎士団に所属してる…」

 

『はいぃ、いかにも自分がモルテってもんですー。そんで、隣がベルですー……って、お知り合いでしたから、知ってますか。やっぱり情報が早いですねぇ…自分、街にはほとんど立ち寄ってないのに……流石は攻略組の中のトッププレイヤー!』

 

「……御託はいいよ。今、何で隠蔽スキルを使って隠れたのさ。明らかに友好的じゃ無いよ」

 

「えーとですねぇ……自分、用事……というか、お願いががあったんですよねー……キリトさん、ユージオさん。お二人に…」

 

間抜けた声で僕らに話してくるモルテとは正反対の態度を見せるベル。さっきからずっと黙りっぱなしだ。

 

「このエルフクエスト懐かしいですよねー。β時代の時に自分らの時もやりましたけど、完全クリアは出来ませんでしたよぉ。完全クリア出来たのってキリトさん達ぐらいだったらしいですよー」

 

「……おい、何が言いたい」

 

キリトがモルテののんびりした喋り方にイライラしたのか、少し低い声で問いただす。

 

「嫌だなぁ、楽しくお話ししてるだけじゃ無いですかー」

 

「……僕らとしては早くクエストをクリアしたいんだ。早く退いてくれない?用がないなら、失せて欲しいんだけど」

 

「わーわー!分かりました、言いますって……」

 

ワザとらしく大袈裟に言うモルテに僕も腹が立ってきた。

 

「……ぶっちゃけ言うとぉ…このエルフクエスト、今日は挑戦するのやめて帰ってくれませんかねぇ……あ、エルフクエをやめるって言うのもいいかもですけどー」

 

「……クエストを?」

 

「……?」

 

モルテの言うことが分からない。何故クエストを遅らせようとしているのか。多分、そんなことをやってもモルテ達に一つも利益は無い筈だ。

 

「……やめたらどうなるんだ?」

 

「それはー………内緒ですぅ。でもでも、すぐ分かりますよぉ。」

 

「……僕らとしては、そんなことをハイハイわかりましたって従う義理は無いよ」

 

「……自分、こう見えても歌得意なんですよねー…なんなら、今ここで一曲披露しましょうかぁ?」

 

「……?」

 

「……何を言って…っ!まさか、MPKをするつもりだったのか……⁉︎」

 

MPK___僕とキリトがパーティを組んですぐの頃、アニールブレードを手に入れるためにクエストを受けた。あの時、コペルというプレイヤーが、僕らにモンスターをけしかけて、殺そうとした。彼の本意ではないと信じたいけど___をやるつもりだったらしい。多分、森エルフを呼ぼうとしていたんだろう。

 

「……嫌だなぁ。自分、そんなことするつもりないですよぉ。ただ……キリトさんとユージオさんが引かないなら……こちらも強制手段を取るしかありませんしねー……」

 

「……言っとくが、そんな事をすればお前に犯罪フラグが立つだけだぞ」

 

「そんな激サックなことしませんってばぁ……キリトさん、覚えてますー?βテストで物事きっちり決める時って、アレやってましたよねー?あの超デンジャラスで、超エキサイティングなアレですよ!」

 

「……まさか、完全決着決闘か?」

 

「いえいえ、そんな死人が出ちゃうような事しませんよぉ。でも、半減決着なら大丈夫ですよね?だって、HPが半分減ったら即終了の激甘バトルですしー……」

 

キリトに聞いたところによると、決闘には三種類あるらしい。HP全損で決着がつく完全決着、大きめのダメージを一回でも食らえば終了する初撃決着、そして、今話に出た半減決着だ。

 

咄嗟に視線会話(アイコンタクト)をして、一緒に戦うと伝える。

 

「……俺とユージオはいい。だが………ベル、お前はどうするんだ」

 

「……本当は完全決着が良かった…が、半減でもいい。ただし、俺は……ユージオ、お前の相手をする」

 

「…‼︎」

 

「……決まりですねぇ…」

 

「……移動するぞ。ここじゃ、森エルフに気付かれるからな」

 

「じゃあ、付いていきますから、お先にどうぞー」

 

「……」

 

「行こう、ユージオ」

 

「……うん」

 

こうして僕らは一対一のデュエルをすることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ」

 

そして、今に至る。

 

「……」

 

ベルは片手槍を構えて待機している。僕もアニールブレードを中段に構えている。

 

僕自身、立ち合いは何度もしてきたけど、デュエルをするのは初めてだ。でも、今感じている感情は、不安、恐怖、そして、悲しみ。

 

白亜の塔セントラルカセドラルでの戦いで僕は最高司祭アドミニストレータによってシンセサイズされ感情を殺された整合騎士と化してしまった。そして、キリトは整合騎士化した僕と戦った。僕は途中からしか覚えていないけれど……その時キリトが一番感じていた感情は、悲しみだったんだろう。途中で目覚めた僕でさえ、感じたのだから。

 

ベルが僕と同じような状況になっているとは決まっていないが、それでも僕は止めなければならない。友達を、仲間を助けるために、僕は……この剣を振るう‼︎

 

そう覚悟を決めた時、自然と震えが止まった。構えも安定して定まり、剣は力を取り戻したかのように輝きを取り戻したように思えた。

 

残り、20秒。

 

僕は落ち着いてベルを見据える。ベルは先程と構えは変わっていない。

 

残り15秒。

 

僕はベルに毅然としてこう言った。

 

「ベル!僕が勝ったら、何故君がこんな事をするのか…理由を教えてほしい‼︎」

 

残り、10秒。

 

その時、ベルは顔を怒りに染め、小さな声で言った。

 

「………………何も、知らないくせして…言うんじゃねぇよ」

 

残り、5秒。

 

「……ぇ?」

 

その言葉に驚き、声が漏れてしまった、その瞬間。

 

 

「……ッッ!!!!」

 

ベルはデュエルが始まっていないのに僕に突っ込んできた。

 

 

「な……ッ⁉︎」

 

 

残り、1秒。

 

ベルは片手槍を橙色に閃かせ、ソードスキルを発動させた。

 

 

 

決闘開始(デュエルスタート)

 

 

 

「……ッ⁉︎」

 

 

 

僕は咄嗟にアニールブレードでそのソードスキルを流す。が、その槍の矛先が僕の左頰を掠める。

 

「……チッ」

 

ろくにダメージを与えられなかったことに苛立ったのか、舌打ちをして追撃してくるベル。

 

「……っ!」

 

僕はそれを捌いていく。僕はキリトにこう教えてもらった。___アインクラッド流剣術は剣と剣を当てることを重点を置くんだ。相手の攻撃が来たら、パリィ……流して攻撃を凌ぐ___だから僕は今、守りに徹している。

 

冷静に、落ち着いて防ぎ、攻撃のチャンスを作ろうとするけど、ベルはさせないとばかりにソードスキルではないものの連続攻撃を浴びせてくる。こっちは防戦一方だ。

 

どちらも手の内は知ってる。僕は片手剣以外使わない。そして、ベルは片手槍を使う。ソードスキルの連撃数は今の僕らと変わらないはず。勝率は五分五分といった所だ。このデュエルで勝つために必要なのは、駆け引きだけだ。

 

その時、心に引っかかるものがあった。僕が知っている筈の、何か。この戦いをひっくり返せる程の……

 

「おおおおおおおおおおッッ‼︎」

 

「っ⁉︎」

 

そこまで考えた時、ベルが雄叫びをあげながら攻撃のスピードを上げたので思考が途切れた。

 

そして、ベルはそこから無理矢理ソードスキルを放って来た。

 

「うおおおッ‼︎」

 

「ぐッ⁉︎」

 

その3連撃を体には当たらなかったものの剣で思いっきり受けた。そのせいで身体のバランスが崩れる。

 

「ハアァッ‼︎」

 

「うっ⁉︎」

 

そのまま蹴り飛ばされる。体術スキルのソードスキルではないからダメージは喰らわないものの、崖まで飛ばされた。

 

「不味い……ッ!」

 

早く立て直して反撃を……そう思ったその時。

 

 

 

 

 

「オオオラアアアアアアアアアアアッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

ベルの雄叫びが森に響く。その直後、左肩に大きな衝撃を食らった。

 

「がッ_______」

 

僕は左肩を見て驚愕した。そこに突き刺さっていたのは、ベルの使っていた片手槍。それは僕を貫通して、崖にも突き刺さっているようだ。武器を投擲してくるとは思っていなかった。HPゲージを見ると、九割を切った。そのまま減り続けている。

 

「………貫通継続ダメージ……ッ⁉︎」

 

キリトから聞いたことがある。武器が身体に突き刺さったり、貫通してそのままにしておくと継続してダメージが入るらしい。それを今、僕は受けている。抜かなければダメージは止まらない。

 

「ッ‼︎」

 

すぐさま剣を左手に持ち替え、右手で抜いた。だが、そこで疑問に思った。

 

何故主武装(メインアーム)である片手槍を投擲したのか。避けられてしまえば、攻撃出来ないし、反撃を食らえば守ることさえ出来ないという最悪の事態に陥る。そんな危険を犯してまで………

 

その時、一つの結論に辿り着いた。

 

ベルはただダメージを与えるために片手槍(これ)を投擲した訳ではない。本当の目的は、一つの場所に僕自身を縛り付け、時間を稼ぐこと。そして___

 

僕の上に影が躍り出る。

 

僕は槍を川に投げ捨てながら上を見上げた。

 

そこにいたのは、空中で血の如く紅い光を宿した()()()を思いっきり振りかぶった、ベルの姿だった。

 

「________」

 

 

 

 

 

 

「____死ね」

 

 

 

 

 

 

ズガァァッッ

 

「かはッ__________」

 

ベルのソードスキルを食らって僕は川まで吹き飛んだ。

 

HPゲージがものすごい勢いで減っていく。たが、五割程で停止した。

 

「________はぁっ、はぁっ、はぁっ……⁉︎」

 

「………チッ。お前、受ける直前に右へ避けたな。だから、これくらいのダメージ量で済んだ」

 

一瞬で悟ったベルに畏怖を覚えながらも、川の水を滴らせながら立ち上がろうとする。

 

そう、僕は咄嗟に右へ飛んで、デュエル即終了を防いだ。だがしかし、以前僕は不利な状況に置かれている。相手のHPゲージは全く減っていないのに対して、僕はもう少しでも攻撃を受けたら、負けが確定する。そして、僕は今の攻撃を受けた衝撃でアニールブレードを落としてしまった。こちらに歩いてくるベルの後ろにある。武器がない僕じゃ、勝つことは非常に難しい。

 

「………まあ、あと1発…いや、掠っただけでも終わりだな。しかも武器は持っていない……」

 

勝つにはまず、武器を取り戻さなければ。ベルの後ろの地面に突き刺さっているから、回り込むか、玉砕覚悟で正面突破か。正面突破は、体術スキルを使うことになる。だが、これは出来るだけ隠しておきたい。ベルの知らないスキルの筈だ。僕の起死回生の一打となり得るスキルだ。だが、全くダメージを受けていないベルにそれを食らわせても、ろくにHPゲージを減らせないだろう。ならベルの視界を水で____いや、それは可能性が低すぎる。どうすれば……

 

その時、僕の右手に()()が当たった。

 

「……?」

 

疑問に思って()()を掴む。

 

「……!」

 

()()はこの戦いの戦況をひっくり返すことのできる、重要なものだった。

 

「……さて、終わらせるか」

 

ベルの両手剣がギラリと月の光をはじく。僕のもう一つの誤算……それはベルが主武装を第二層のボス戦時に両手剣へ変えていたこと。両手剣こそがベルの本当の主武装だ。あれは片手剣より遥かに威力があり、片手武器では防げない。思わず、息を呑んでしまった。

 

そして、僕はある作戦を考えついた。

 

それが成功すれば、武器を取り戻せるし、形成逆転できる。

 

僕はその作戦に全てをかけることにした。

 

ベルが両手剣を振り上げ、ソードスキルを発動させた次の瞬間、僕は走り出した。

 

「……まだ、足掻く気か?」

 

ベルは僕を哀れな目で見て両手剣を振り下ろそうとする、その瞬間。

 

 

 

「ああああああああッッ!!!!!!」

 

 

 

僕は()()をベルに向かって全力で投擲した。

 

「ッ⁉︎」

 

ベルは反応出来ずに()()を右肩に食らった。

 

ベルの右肩に突き刺さったもの、それは、()()()()()()()()()()()()だった。

 

ソードスキルはキャンセルされて、ベルは通常よりも長い技後硬直を課せられた。

 

僕はベルに脇目も振らず、アニールブレードのもとに疾駆した。

 

そして、アニールブレードを地面から引き抜き、急ブレーキをかけて、ベル目掛けて走った。

 

「ッッ‼︎」

 

無言で叩き込む、2連撃ソードスキル《バーチカルアーク》。ベルは防御も出来ず、左肩に食らう。斬り上げた反動を利用して、体術スキル《水月》を繰り出し、それをベルの後頭部に命中させる。これこそ、アンダーワールドでキリトに教えてもらった技術、《剣技連携(スキルコネクト)》だ。武器を使ったスキル同士だとより難しいけど、今回は武器と足だからやりやすい。

 

「ぐあッ⁉︎」

 

ここでHPゲージを確認すると、七割を切っている。こちらの技後硬直もすぐ終わる。なら、ここで…

 

「……畳み掛けるッッ!!!!」

 

そして、前に倒れこもうとするベルを追撃する。僕はアンダーワールドでも、アインクラッドでも、2連撃より多いソードスキルを使ったことがなかったが、つい最近3連撃ソードスキルを習得した。

 

僕の願い(思い)を_______

 

「受け取れ、ベルッッッ!!!!!!!」

 

3連撃ソードスキル《シャープネイル》。一連撃目は左肩に、二連撃目は右肩、最後は背中を斬り裂いた。

 

「ッッ⁉︎」

 

ベルはさっきの僕と同じように川へ吹き飛んでいく。ベルのHPゲージはさっきの僕より早いスピードで減っていく。五割を通り越して、二割を残して止まった。

 

その瞬間、音楽が聞こえた。

 

目の前にメニューウィンドウが出てくる。『WINNER!』……これは勝者という意味だろう。キリトから聞いた。

 

「……はぁっ、はぁっ、はぁっ……勝った……?」

 

そう呟き、僕は剣を鞘に収めた。丁度ベルは川の水を滴らせながら、立ち上がった。

 

「……何故……何故、俺は負ける…⁉︎いつも、俺は………⁉︎」

 

小声でベルは呟いた。いつも、負ける……?

 

「……ベル、何故、こんなことをしようと思ったの……?聞かせて欲しいんだ!ベル!」

 

「………うるせぇよ」

 

ベルは僕の問いに答えることはなく、その一言しか言わなかった。

 

「ベルさぁーん、早く引きますよぉ〜。目的は達成出来たみたいですし…」

 

と、その時、キリトと戦っていた筈のモルテがベルを呼び、森の中へ消えた。

 

「……分かってる」

 

「……っ!ベル‼︎待っ_____」

 

もう限界だと悲鳴をあげる身体に鞭を入れて、森の奥へ消えようとするベルに手を伸ばす。だが、ベルは氷のような冷たい目でこう吐き捨てた。

 

「……今度会う時は…()()

 

「……ッ⁉︎」

 

ベルは森の奥へ消え、森には静寂が戻った。

 

「ユージオ!大丈夫か⁉︎」

 

「……キリト…僕は、大丈夫……君は?」

 

「デュエルには引き分けたが、なんとか。ユージオは……勝ったのか?」

 

「…うん。でも……負けたも同然だよ……っ!」

 

僕はキリトの声を聞いて今まで力んでいた身体中の力が抜けて地面に片足をついた。

 

 

 




次回《雷帝の暴動と死神の陰謀》

モルテって、イタリア語で《死神》という意味らしいです。初耳ですね。

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