ソードアート・オンライン ~時を越えた青薔薇の剣士~ 作:クロス・アラベル
今回は完全鬱回、シリアス100%です。
それではどうぞ〜
○
キリトとロニエのデートが終わってから2日後。第十五層主街区ではフィールドボス攻略会議が始まろうとしていた。
「……もうフィールドボス攻略か。なんか早かったな」
「確かにね。ダンジョンを一つか二つクリアしたらすぐだったもんね」
「今回のフィールドボスはどんなモンスターなんですか?」
「ああ、確か異様に硬い殻を持ったサソリらしいぞ。おおよそ毒攻撃はしてくるだろうな」
「事前に聞いたアルゴさんの話だと、攻撃力はそこまでないけど、すごく
「……だとすると、やっぱり打撃系武器がメインになりますね。あたし達は片手剣ですから……エギルさん達が主力になる…?」
「そうなると嬉しいんだけどな」
いつものメンバーで話しているとディアベルが舞台に立ち、会議を進行しようとみんなに声をかけた。
「みんな!これから第15層フィールドボス攻略会議を始めたいと思う。早速、フィールドボスの情報から行こう。フィールドボスは…」
「……キリト、どう思う?」
「………え?」
「今回のフィールドボスだよ」
「多分、死人は出ないだろうけど、時間がかかる奴だろうな。俺達の出番はなさそうだし…」
「……でも、攻撃してゲージが一定まで減ってからボスの攻撃方法の変化とか、全体的なステータスの急上昇……っていうのもあり得ると思うけど」
「そこら辺は十分考慮しないとな。まあ、ディアベルは言われなくとも分かってるだろ」
二人が話をしているうちにどんどん会議は進んでいく。
「じゃあ、今回は主力メンバーは打撃系武器をメインアームとしたE班とF班、そして、エギルさん達のパーティで構成する。次に、
「……!」
その時、キリトが何かに気づいた。
「メッセ…?」
「どうしたんですか?キリト先輩」
「…ああ。誰かからメッセが来たみたいでな」
「そうでしたか」
キリトはロニエにそう言ってつい先ほど届いたメッセを読む。
「___________」
それを見たキリトは目を大きく見開いた。が、すぐにメニューを閉じ、会議に聞き入った。
「…?」
その一部始終を見たロニエは何が書いてあったのかキリトに聞こうと思っていたが、キリトが何もなかったかのように会議を聞いているのを見てやめた。
これから起こる惨劇を知らずに____
○
20分後、会議は滞りなく終了した。流石はずっと攻略組のリーダーをやっているディアベルはメンバーの意見をまとめるのがうまく、短く終わった。
「……よし、それじゃあキリト先輩。私達はアイテムの補充に……って、あれ?」
ロニエが会議終了直後、隣にいたキリトに声をかけたが、彼はそこにはいなかった。
「どうしたのよ、ロニエ」
「キリト先輩が私の隣にいた筈なんだけど、見当たらなくて…」
「……キリト先輩が?」
「うん……」
「どうしたんだい?二人とも」
「いえ、その……キリト先輩がいつの間にかいなくなってて…会議の始まる直前にはいたんですけど…」
「……キリトが?」
ロニエはユージオとティーゼに相談してみるが、やはり二人は案の定知らないようだ。
「……今までキリトが攻略会議を中抜けすることなんかなかったんだけど…キリトもそこまでサボる奴じゃないしね」
サボリ屋のキリトでも大事な事はすっぽかす事はなかった。四人で首を傾げていると後ろから声をかけられた。
「なんや、なんかあったんか?ユージオはん」
キバオウだ。後ろにはディアベルやリンド達攻略組メンバーも見ている。
「そ、それが……キリト先輩がいなくなっちゃって……」
「キリトさんがいなくなった……?」
「…最後に見たのはいつなのかな、ロニエさん?」
「えっと、ディアベルさんがパーティの構成を決めていた時です。その時キリト先輩は私の隣にいたんですけど……」
「いくら不真面目なキリト君でも途中で出て行くなんて考えられないけど…」
「……そうだ、ロニエ。キリトの言動に何か変だなって思ったところないかな?」
突然のキリト雲隠れに攻略組全員がロニエの言葉に聞き入る。
「…変な言動………?」
ロニエは今朝キリトと会ってから攻略会議の始まる五時まで思い出すもそんなことはなかった。
「いえ、別に変な所は______」
その時、思い出した。キリトがメッセージを受け取りそれを読んで目を見開いていた時のことを。
「……ありました。会議の途中、キリト先輩に誰かからメッセージが届いて、それを読んで声は出なかったけどすごく驚いていたのを覚えてます」
「…メッセージ、か…」
「誰からか聞かんかったんか?ロニエはん」
「は、はい。すぐ何事もなかったかのように会議を聞いていたので……」
「……誰からだったんだろうね。そんなに大事なメッセージだったのかな?」
ユウキが首を傾げながら、うーんと悩む。全員がお手上げだった。
その時、ロニエの脳内にメッセージの着信音が鳴った。
「?」
メッセージは一件。タイトルは《ロニエさんへ》だ。ソードアートオンラインのメッセージはL○N○のような既読機能は付いておらず、もちろん変なサイトに飛ばされることもない。そして、別に絶対に返信しなければいけない訳ではないので、ロニエはごく普通のタイトルだったので警戒する事なくメッセージを開けた。
そこにはある画像が添付してあった。
8層からドロップし始めた写真クリスタルは低層でも金額は高いものの売られており、第一層にいても手に入れることができる代物だ。
が、問題はその画像の内容だった。
「________ 」
ロニエはその画像を見て凍りついた。顔が一気に青ざめた。血の流れが止まり____仮想世界のアバターなので血など通っていないが____全身に寒気がした。
「……ろ、ロニエ?」
そんなロニエを見たティーゼは怪訝そうにロニエを呼んだ。ユージオもいきなり黙り込み顔色が悪くなっていくロニエを疑問に思い声をかけようとした、その時。
「____ッッッ‼︎」
ロニエは凄まじいスピードで広場の外へ駆けていった。
「ろ、ロニエ⁉︎」
「⁉︎」
流石はトッププレイヤーの集まりである攻略組の一人。すぐに見失ってしまった。
「どうしたのかしら……ロニエちゃん」
「……メッセージに何が書いてあったんだろう……」
ロニエが消えた後、ユージオはロニエに届いたメッセージの内容が気になった。が、ロニエが受け取ったメッセージはロニエしか見れないし、ウィンドウはその場に残ることなくプレイヤーについてくる。なので先程のメッセージウィンドウはロニエと共に消え去ってしまった。
どうしたのだろうかと不安になっているとユージオにメッセージが届いた。
「…メッセージだ」
ユージオはそのメッセージの来るタイミングを見て、何か嫌な予感がした。タイミングが良すぎる。ロニエのメッセージといい、攻略会議が終わっているであろう時間を狙っているようにもユージオは思えた。
開いてみるとタイトルは《ユージオさんへ》となっており、画像が貼ってある。
「__________ 」
そして、ユージオは先程のロニエ同じようにその画像を見て凍りついた。血の気が引いたのを感じた。
「ゆ、ユージオ先輩?どうしたんですか……?」
「……不味い…」
「やからどうしたんや⁉︎不味いだけじゃ伝わらんやろ?」
ユージオはキバオウに急かされてそのメッセージウィンドウをみんなにも見えるように可視化し、みんなに見せた。
「_________⁉︎」
そこには_________地面に倒れるキリトの姿があった。
「何、これ…⁉︎」
思わずアスナが零した言葉にユージオは答えられなかった。
その画像にはキリトが仰向けに倒れていた。表情は画像が暗くて見えないが、キリトの頭の横にHPゲージが表示されていた。黄緑色の雷マークと毒マークと共に。
「……これは、麻痺状態と毒…⁉︎」
「な、なんでこんな写真が……⁉︎」
今現在、休憩時間に全員別行動をしていたのでパーティを解散しており、今は個人のHPゲージしか表示されていない。もしパーティに入ったままだったらキリトの異変を即座に気付いて救助に行けただろう。
「……ゆ、ユージオ君!送り主は⁉︎」
「………モルテ…‼︎」
そう、送り主はあのモルテである。そうとなれば信憑性が増す。モルテ達のことは少し前に会議で要注意人物として名前が挙がっているので攻略組全員が知っている。何度もキリトとユージオに剣を向けてきた相手だけに、今回もこんな事をしかねない。
「ど、どこにキリトがいるの⁉︎早く探しに行かないと…!」
「今すぐ捜索するで‼︎早よせんとキリトはんが………‼︎」
「待て、キバオウさん!何も情報がない状態でどうやって探すつもりだ⁉︎しらみ潰しに第一層から探すか?」
「そやけどなぁ………!」
「……二人とも落ち着いてくれ、まずは情報を集めよう。情報屋にも伝えておくべきだ。」
熱くなりすぎたキバオウ達を落ち着かせ、攻略組全員に指示を出しているところを見ると、流石はアインクラッド初の攻略組レイドリーダーだと言える。
「……待って。もしかしたら情報は必要ないかもしれない」
「どういう事だい?」
「……この写真、ちょっと暗いけど地面が黄色い砂が全面に写ってるよ。それに夕陽がキリトの後ろに見える……って事はこの写真に写ってる場所は西なんだよ。つまりそれだけでも場所は限られてくる……」
「…つまり砂漠ってワケですネ!」
「……砂漠の層といえばそれらしい6層と13層ですね」
「よし、その二つに的を絞って探そうか」
「……でも違和感があるんだ。なんか、
「と、トラップ?」
6層と13層に行こうとしていた攻略組がその言葉に首を傾げる。すると意外なところから声が上がった。
「………あ、これって、第一層のレアアイテムじゃない」
「え?」
「これよ。この写真の端に写ってる……これ!この花よ」
アスナが指差したのは写真の端にうつる一輪の花だった。
「一層のレアアイテムぅ?なんや、6層と13層ちゃうんか?」
「でも、砂漠なんか一層には……あっ!」
「確か、第一層はバリエーション豊富なフィールドダって聞いたことありまス!」
「草原、森林、湿地帯、火山……その中に砂漠も例外なく入っているということか」
「しかもその砂漠地帯は最西端にある………これで決定的ね」
ユージオの勘は当たり、引っかかることなく捜索できる。
「よし、捜索範囲を第一層最西部の砂漠地帯に狭める!全員移動開始!」
そのディアベルの掛け声に攻略組全員が動き始めた。
ユージオ達は先行し、走り出した。おおよそ第一層の最西端まで十五分、いや、十分もかからないだろう。ユージオ達のレベルならまだ間に合うかもしれない。
「…………ロニエはこれをあの一瞬で見抜いたのかな…」
ユージオは走りながらロニエの瞬間的推理力に感嘆したのだった。
○
第一層、最西端の砂漠エリアを走る一人のプレイヤーがいた。そのスピードは砂を巻き上げるほどだった。
「______ハァッハァっ____ッ‼︎」
「(間に合う。まだ間に合う。キリト先輩が死ぬ筈がないもの。だって、いつだってわたし達を助けてくれた。何度だってどん底から這い上がってきた。私の、
ロニエは必死に自分へ言い聞かせた。襲いくる数々の不安に押しつぶされそうになりながらも、キリトが生きているという事だけを信じて走った。もう四分もすれば最西端……崖(アインクラッドの空)に着く。またキリトに会えるのだ。あの無邪気な笑顔を見られる。
彼女はそう信じて砂漠を疾駆した。
●
「………く、そ…‼︎」
キリトの目の前にいるのは真っ黒なポンチョを着た男。片手にはナイフを持ち、器用にクルクルと回している。
「……そろそろ、
キリトのHPゲージはもう黄色に染まっており、危険域に突入している。
「その毒はレベル3だ。結構長い時間効果があるんだぜ?もちろん麻痺毒もだ」
その男の後ろには三十人程のプレイヤーがいた。ニタニタと笑ったり、無表情にキリトを見ている。暗色系統の装備を見るに彼らもこの男の仲間だろう。
「……キリ……ト、さ……ん…………‼︎」
そこには同じく麻痺毒により麻痺したベルの姿があった。ただし、彼にはダメージ毒は受けていない。
「まあまあ、黙って見てて下さいよぉ。ベルさん……」
うめき声をあげながらキリトに手を伸ばそうとするベルの右手をモルテは足で踏み押さえた。
「……さぁて、そろそろ終わらせるか」
そして、その男はナイフで弄ぶのをやめ、キリトに切っ先を向ける。
「……キリト。お前は第5層で会ってからずっと殺したかったんだ。誰かにやらせてじゃあねぇ。俺自身の手でだ。俺はお前を殺して、この
そんな狂った言葉にキリトは麻痺して、体を動かさない状態でも尚、剣呑な目で彼を睨みつけた。
「……そういうとこだよ。俺はそういうところが好きなんだ!ここまで死が迫っているっていうのに、折れない、諦めない、戦うことをやめないお前がッ‼︎」
「_________ッ‼︎」
「……終わりだ。じゃあな、黒の剣士」
その男は最後の言葉を言い終わると同時にソードスキルを放った。
「がッ_________ 」
キリトはそれをまともに受け、崖下へ吹き飛ばされる。
「_____(____ごめん、ユージオ。お前と一緒に戦えなくて。ごめんな、みんな)」
キリト以外の全てがスローに見える。今までの記憶が走馬灯のようにフラッシュバックする。最後に見えたのは、いつもそばにいてくれた、ロニエの月のような眩しい笑顔だった。
「_____(_____ごめん、ロニエ)」
キリトのHPゲージは赤く染まり、それでも減り続けた。
そして______________
○
「____っ?」
いきなりだった。何か、金属がひび割れるような音が響いたと同時に、左手首に痛みが走った。
なんだろうと走りながら左手首を見ると、そこには宝石部分がひび割れたブレスレッドがあった。
「⁉︎」
壊れる筈が無い。ロニエ自身、そう思った。何もしていないし、キリトがこれを買ったのは2日前だったらしく、それからも攻略時にもこのブレスレッドは攻撃を受けておらず、ほとんど耐久力も減っていないのだ。だが、不自然にひび割れてしまった。
そして、このブレスレッドはキリトとお揃いである。
ブレスレッドのヒビはまるで
そんな思考を即座に切り捨ててロニエは走った。
地図を見る。目的地であろう場所は目前だった。
「___ハァっ、ハァっ、ハァっ……キリト先輩‼︎」
ロニエは目的地______砂漠の最西端にやってきた。だが、
ロニエは藁にもすがる思いでキリトの名前を叫ぶが、答える声はない。虚しく空に響いた。
「キリト先輩‼︎何処ですか⁉︎キリト先輩‼︎キリト先輩、何処⁉︎キリト先輩ッ⁉︎」
そう叫んだ時、足に何か金属質なものが当たった。
「⁉︎」
そこにあったのは、砂漠に刀身が10センチ程突き刺さった片手剣だった。鞘は無く、薄暗くなる砂漠の中でキラリと光った。
「こ、これって_______」
そう、その片手剣はキリトのものだった。キリトがこんなフィールドに突き刺したまま何処かへ行くとは考えられない。あれだけ大事にしていた愛剣なのだから。
そうとなれば、考えられるのは一つ______
「ロニエ!大丈夫なの⁉︎」
その時、ティーゼ達攻略組が追いついた。
「……」
「き、キリトは?ロニエ、キリトは見たのかい?」
ユージオは息を切らしながらロニエにそう聞いた。だが、ロニエはキリトの剣を手に取ったまま動かない。
「……取り敢えず、フレンド一覧から確認してみましょう!メッセージも送ればいいわ!」
「分かった!」
アスナの言葉にユウキは慣れた手つきでメインメニューからフレンド一覧のウィンドウへ移動して________動きを止めた。
「………そんな…!」
「どうしたの?ユウキ!」
「_________キリトの名前が一覧に、
その言葉を聞いて、全員が絶句した。
「______いやっ」
キリトの剣を胸に抱いたロニエの口からか細い声が漏れる。
自らが信頼し、敬愛し、尊敬し、憧れ、愛した、彼との記憶がフラッシュバックし、浮かんでは消えていく。最後に見たのは__________キリトの無邪気な笑顔だった。
「そんなの______いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ_________‼︎‼︎」
「ロニエ⁉︎」
《
そのまま彼女はキリトの剣を抱いて気を失って倒れた。
ユージオ「あとがきのコーナーです!今回、ロニエとティーゼは体調不良によりお休みで、僕一人になります。まあ、体調不良の理由は……SAOアリシゼーション11話で察してください。あとがきのコーナーといっても今回は短めになるんですけどね。アニメ11話では問題のあのシーンが放送されました。何というか、作者も言っていたのですが、やはり『胸糞回』という声が多かったそうです。否定はしませんけどね。それでは、あとがきはここら辺で。次回もお楽しみに!