ソードアート・オンライン ~時を越えた青薔薇の剣士~   作:クロス・アラベル

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こんにちは!遅くなりました、クロス・アラベルです!
えー、今回は年内にもう1話投稿を……と思っていたら、凄いギリギリに完成しました。
今回は鬱、鬱、鬱と、鬱でしかありません。これが年内最後の投稿になるかと思うとちょっと思うところはありますが…
それでは、あと30分間しかありませんが、良いお年を……(´・ω・`)


~殺人鬼(カイン)編~ 残された者達の苦悩

 

 

キリト行方不明から2時間後。ユージオ達攻略組は始まりの街への帰路に着いた。

モルテから送られてきた写真を手掛かりにこの砂漠地帯へやってきたが、キリトの姿は無かった。残されていたのは、キリトの愛剣のみ。フレンド一覧からはキリトの名前が消え、索敵スキルの派生スキルである追跡スキルでの捜索も行われた。ユージオのスキルだと20分前の行動なら追跡スキルで追うことが可能だが、その砂漠でキリトの剣が刺さっていた周辺で足跡がプツリと途絶えていた。そこからキリトがどうなったか、容易に想像できる。

「………」

黙り込むユージオ。まだ現実を受け切れずにいるのか、表情は険しいものだった。

ユージオだけで無く、攻略組全体がそんな空気に包まれた。キリトはこの攻略組でもディアベルの人望に負けずとも劣らなかった。攻略組にもキリトに助けて貰った者も多い。そして、元βテスターの知識を余すことなくアインクラッドのプレイヤーに教えたり、そのβ版での経験から攻略組を何度も窮地から救った。攻略組はキリトあってのものだったのだ。今キリトが居なくなって士気はガタ落ち。キリトが死んだということを受け入れられない者もいた。

「………みんな!今日のところは解散しよう。明日に予定していたフィールドボス攻略を3日後に延期する。その間、十分休んでくれ!」

このままでは明日のフィールドボス攻略にも支障が出ることを悟ったディアベルは攻略組に解散を促した。

その後、宿屋の部屋を取りユージオ達と攻略組幹部であるディアベル、リンド、キバオウ、そして、アニキ軍団のリーダー、エギルが集まった。

「……ティーゼ、ロニエは…?」

「…私の部屋のベッドで眠っています。すぐ眼を覚ますといいんですが…」

「ちょっと、攻略参加は見送らなきゃいけないね。あのショックで気絶したくらいだから、例え起きたとしても戦えるかどうか…」

「…本当にキリト君は、死んだのかしら……?あの人の事だから、ひょっこり出てきてもおかしくないのに……」

「……確かに、フレンド一覧からは消えてたけど生きてるって可能性もあるよね」

「現場に突き刺さっていたあの剣だが……本当にキリトさんので間違いないかい?」

ディアベルが改めてキリトの剣について言及してくる。

「うん、間違いないよ。僕らが一番近くにいて、あいつの剣技を見てきたから……」

「……」

その時、ドアがノックされた。アスナはこんな時に誰だろうと思いながらドアを開けた。するとそこにいたのは______

「あ、アルゴさん?」

________アルゴだった。フードを深く被り、表情は見えないが、彼女のトレンドマークであるヒゲが見えた。アスナは喋らないアルゴを無言で部屋に入れた。

「…………聞いたヨ。キー坊が、死んだっテ」

「……っ」

「……ねえ、アルゴ。アルゴの情報網に何かない?キリトと似た人物を見たとか……例えば中層とかで……‼︎」

ユウキが笑みを浮かべながらアルゴに問うが、その笑みは決して『笑み』とは言い難いものだった。

「……ついさっき、キー坊が死んだって言う知らせを聞いて、生命の碑を見てきたヨ」

『『‼︎』』

アルゴの一言にそこにいた全員に緊張が走る。

 

 

 

 

「_________キー坊の名前が、赤い線で消されてタ」

「っ……」

「……アルゴはん、死因は、どないなもんやったんや?」

「……死因は、ダメージ毒レベル3による死」

「ダメージ毒……!」

「どう考えても人為的な何かだ。第一層で出現するモンスターの持つダメージ毒は精々レベル1だった……」

リンドが冷静な声で呟いた。

「十中八九、PK集団だ。あいつら……アインクラッド(ここ)から出たくないのか…⁉︎」

PK集団。攻略組にとってもユージオ達にとっても仇敵だ。何度も彼らに殺されかけたことがあったユージオ達は尚更だった。

「……まずはロニエの様態を見てからにしよう。本人が起きてくれないと、何とも言えないしね」

「分かりました」

「…うん」

「ええ。じゃあ、今日のところは解散ってところかしら?」

「そうなるね。ゆっくり休んで」

「……私、部屋に戻りますネ」

みんなは15層の宿に戻って行った。

 

ユージオとティーゼはロニエの部屋の隣をとった。そして、ユージオはティーゼを連れて無言で部屋に入って行く。

「せ、先輩?何で部屋を一つだけ……」

ティーゼは頬を赤くしながらユージオに聞いた。一緒の部屋で寝ることに抵抗があったので_______確かに一緒の部屋で寝てみたい、泊まってみたいと少し、いや、結構思ったが______今はそんな時ではない。なのに何故?とティーゼはユージオに問おうとしたその時、ティーゼはユージオが震えていることに気がついた。

「…ごめん、今夜だけ……今夜だけ、一緒にいてほしい。誰かと一緒にいないと、なんだか…消えちゃいそうなんだ…」

ユージオは小さな声でそう言いながら、ティーゼの服の裾を掴んだ。掴んだそのユージオの手は力がかなり入っているのか、震えている。心なしか、声も嗚咽が混じっているように思える。

「……はい」

ティーゼはユージオの願いを聞き入れて、震えたユージオの手を取る

「大丈夫、傍にいます。だって私は、あなたの傍付き剣士ですから」

「……っ」

そして、ユージオは膝から崩れ落ちて静かに涙を流した。ティーゼは無意識にユージオを抱きしめる。

「……キリトが、死んだのは僕の所為なんだ…っ、だって、僕がちゃんと気にかけていれば、こんなことにはならなかった………」

「……」

「……違う、気にかけるなんてことで避けられるものじゃなかったんだ。僕が………僕がここにきてしまったから、全部変わっちゃったんだ……っ」

「………!」

ユージオの言葉は意外なものだった。

ユージオ達はキリトの暗い過去を変えるために過去(ここ)にきた。けれど、それが悪い方向に進んでいたのだとユージオは言っている。

過去を変えるということは、それまでにあった(できごと)から逸れるということ。その結果に決して良いことがあるとは言い難い。ユージオは周りには言ったことはないが、それを一番恐れていたのだ。

「……」

だが、ティーゼは慰めの声をかけることはなかった。ティーゼは慰めるほどの言葉が無かったし、例えそれがあったとしてもかけなかっだろう。一方的な慰めの言葉が無意味だと知っているからだ。そして、ティーゼは何も言わず、全てを受け入れるという事の重要さを知っている。未来(過去)ロニエに慰められた事(同じようなこと)があったからだ。修剣学院(ユージオ)の時もそうだった。

ユージオの泣き声が静かに漏れる中、ティーゼは優しくユージオを抱きしめ続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「________ 」

ロニエは静かに目を覚ました。何故か、何もかもを失ったかのような喪失感が心に降りかかって止まない。

「_____ぁ」

そして、全てを思い出した。キリトの死を。

「_______ 」

彼女は無言で涙を流した。自分の片思いする相手を失った傷は彼女の心に深く残ってしまった。

「______あぁ」

「____現実、だったんだ」

灰。

全てが灰色に見えた。

音はエコーがかかったように何重にも聞こえ、見るもの全てに色がなかった。

「____ 」

ロニエは『全てを失った』事をこの時、悟った。

その部屋にはロニエがただ一人ベッドで寝ているだけだった。

 

「ロニエ……⁉︎目が覚めたの⁉︎」

その時、部屋にティーゼが入ってきた。

「_____ティーゼ」

「ロニエ!大丈夫⁉︎あなたいきなり倒れたから……!」

「うん。大丈夫だよ?」

「___っ」

力ないロニエの言葉にティーゼは悟った。

「あれからどれくらい経ったの?」

「……二日よ」

「フィールドボス攻略はどうなったの?」

「……延期になったわ。この後行く予定だったのよ」

彼女はもう全て失ってしまったという事を。自身も経験した、あの喪失感を。

「________分かった。私も準備するね」

「ま、待ちなさい!ロニエあなたは休んでいていいの。疲れてるでしょう?」

「…そんな事ないよ。私も戦う。戦わなきゃいけないから_____」

「駄目。もうディアベルさんはあなたの攻略組の一時脱退を認めたわ。ロニエ、今のあなたじゃ行ったとしてもまともに戦えるかどうか…!」

 

「____戦えないなんて決めつけないでっ!!!!」

「っ⁉︎」

ロニエの口から出た、怒号。それは悲鳴にも、助けを呼ぶ声にも聞こえた。

「………私だって、戦えるもの。私だって_____」

不意にロニエはメインメニューを開き、ストレージから剣を取り出した。控えめな音と共に一振りの剣が現れる。その剣は_____

「________ 」

月光の剣(ムーンリット・ソード)》。それはキリトの愛剣だった。

鞘が無かったため目の前に現れ、床に落ちた。

「___キリ、ト……先輩……っ」

その時ロニエの心にあった悲しみの念が心を溢れさせた。

「……」

「いやっ………もう、私を置いていかないでぇ……っ‼︎」

ロニエはその剣の柄に触れ涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから二週間後の2月6日。

攻略組は2体目のフィールドボス攻略の為、フィールドボスのいるエリアに向かっていた。

「………ロニエ、本当に大丈夫なのかい?」

「……」

「そうよ、ロニエ。無理しなくても…」

「大丈夫です。戦えますから、心配しないで下さい」

攻略の一行にはロニエもいた。ユージオ達は不安で気が気でないのだろう。

「……」

今回のフィールドボスは斬撃系武器を持つプレイヤーが主な火力になる。そうなればユージオやティーゼは勿論、ロニエも駆り出されるという事だ。

「………頑張りますね、先輩」

ロニエは左腰にある剣____ムーンリットソードの柄を右手で握り、誰にも聞こえないくらい小さな声でそう囁きかけたのだった。

「みんな‼︎何度も言うが、今回のフィールドボスは攻撃力がかなり高い!特にブレスは必ず避けて余計な被ダメを抑えてくれ。モーションが少し分かりにくいだろうが、俺が合図する!これだけは覚えておいてくれ‼︎……………行くぞ‼︎」

フィールドボスの視認可能範囲ギリギリでディアベルが攻略組に最後の注意事項を告げ、士気を高めようと声を張り上げるが、攻略組の反応はイマイチ。やはりキリトの死の影響は大きかったようで、ユージオ達はディアベル自身の声にも覇気がいつもより足りないと感じた。

そして、フィールドボス攻略戦は士気の揺らいだ状態で始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッく‼︎耐えてくれ!あともう少しで最後のケージが半分に行く……‼︎」

戦闘は均衡していた。ボスは黒いチーターのような容姿をしており、攻撃力、共にスピードも高く攻撃も喰らいやすい。だが、その分耐久面に難があることは明白だった。だが、それも攻撃が当たればの話。今までにないトリッキーな動きで攻略組を翻弄する。

「スイッチ………ッ‼︎」

ユージオも他の前線プレイヤーと交代して、モンスターに斬りつける。

「……なかなか攻撃が当たらないね………キリト、スイッ____ッ‼︎」

ユージオはここには既にいないキリトにスイッチをしようとしたことに戸惑いながらも一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)戦法を利用してすぐさま離れ、攻撃を避ける。

「ウォーーーーールッ‼︎」

『『『おおおおおおおおッッ‼︎』』』

フィールドボスの突進攻撃をウォール隊全員で受け止める。鈍い音とボスの金属と大差ないほど頑丈で鋭利な爪が盾とぶつかる音が響く。

「ぐあッ⁉︎」

鈍い音の正体はウォール隊の一人が衝撃で5メートルほどノックバックして、地面に叩きつけられたものだった。

「ッ!交代しぃ‼︎すぐ下がって回復するんや‼︎早ぉ早ぉッ‼︎」

キバオウはその叩きつけられたプレイヤーのプレートメイルを掴んで引きずりながらも安全圏へ移動させる。

「…これじゃあ、ラチがあかないわよッ!」

スピード型のステータスを持つアスナも思わず悲鳴をあげた。

「今回のフィールドボスは当たりですネ……中ボスにしては異様に強いッ、でス‼︎」

このアインクラッドのフィールドボスは迷宮区のボスより弱く設定されている。だが、稀にその層より一つか二つほど下の迷宮区ボスと同等レベルの《バケモノ(フィールドボス)》がいることがある。それを攻略組は()()()と呼んでいる。

「よし……半分切ったぞ‼︎みんな、もう一踏ん張りだッ‼︎」

そう攻略組をに檄を飛ばした、直後。

『グルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ‼︎』

ボスは一際大きな雄叫びをあげて、口からノーモーションで広範囲にブレスを吐いた。

『『『うおおおおおおおおおッ⁉︎』』』

予期せぬ攻撃に攻略組一同はそのブレスの直撃を許してしまい、殆どのプレイヤーが吹き飛ぶ。

「⁉︎」

ユージオ達もブレスを受けてしまって、後ろに吹き飛んでいく。

そして、復帰しようと立ち上がろうとした時、ボスの口から火の粉が漏れ出す。ブレスの予備動作(プレモーション)だ。

「しまっ…⁉︎」

ユージオ達は誰もが死を予期した。

 

だが、そのブレスは火の粉を漏らすだけとなった。

『ルグォッ⁉︎』

「ロニエ⁉︎」

そう、ロニエだった。彼女はいち早く前線から離れてブレスを回避していた。

「はあああああああああああああああッッッッ‼︎」

そこから叩き込まれていく怒涛のラッシュ。技後硬直を強いられるソードスキルの使用を避けて、通常攻撃だけで突っ込んでいる。だが、一人で立ち向かうということは誰もフォローしてくれないということ。一撃でも受ければ一方的な蹂躙が始まるのは目に見えていた。

『グルオオオオッ‼︎』

「ッ‼︎」

ボスの攻撃を紙一重で回避し、隙あらば一撃を叩き込む。だが、完全には避け切っても余波で少しずつダメージを食らっている。このままではたった一発でも致命傷となる。

『自殺行為』、『自暴自棄』そうとしか取れない戦闘スタイルだった。

そして、限界は訪れる。

『ガアアアアアアアアッッ‼︎‼︎」

「_______っぁ」

爪による攻撃を避けた瞬間、それを見計らっていたかのように剣のように鋭い尾がロニエを斬り裂いた。

「ロニエ⁉︎」

「危ない‼︎」

吹き飛ばされて倒れたロニエは歯を食いしばって剣を杖代わりにして立ち上がろうとする。

「ぅ、ぁぁあああああッッ_______‼︎」

震える体に鞭を打ち、ボスを睨みつける。

『グルオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ‼︎‼︎』

「あああああああああああああああああッッッッ‼︎‼︎」

ロニエに再び鋭い尾が叩きつけられようとしていた。

 

 

 

だが、その剣撃はロニエに当たることはなかった。ガキィィッという金属音がロニエの前で響く。

「___?」

ロニエの目の前であるプレイヤーがボスの攻撃を止めていた。そのプレイヤーは_____

「________キ、リト…せんぱ、い?」

フルプレートに身を包み、両手剣を持っていて、キリトではない事は明らかだった。

「_____オオオッ‼︎」

そのフルプレ男は気合と共に_____鎧越しなので金属質ではあるが男だと分かる______ボスの攻撃をいなした。

そして、ソードスキルを発動する。

「_________ふッ‼︎」

両手剣ソードスキル単発技《サイクロン》。ユージオ達のいたアンダーワールドでの別名《輪渦(リンカ)》。

その一撃でボスの残り少ないHPゲージを吹き飛ばし倒してみせた。

直後、ボスがポリゴン片となって四散した。

 

「…………お前、死にたいから戦ったのか」

「__っ」

「………だとしたら、それは御門違いだ。答えを出してから、戦場(ここ)に来い」

「__________ 」

彼はそう言って剣を左に一度、右に一度振って腰の鞘に剣を収めた。

「_______私…………何に向かって、進めばいいんですか……キリト、先輩……」

そんなロニエの悲しい声がフィールドに溢れた。

 

 

 

 

 

 




ユージオ「それでは、皆さん!」
ロニエ「来年も!」
ティーゼ「時を超えた青薔薇の剣士シリーズ共に!」
ユウキ「龍剣物語シリーズも!」
「「「「よろしくお願いします‼︎」」」」

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