ソードアート・オンライン ~時を越えた青薔薇の剣士~   作:クロス・アラベル

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こんにちは!クロス・アラベルです!
ついに原作2巻のお話に入って行きます(次回から)今回はプロローグということです。
それでは、どうぞ!


少年(ユージオ)の独白

 

 

黒髪の少年(キリト)が血溜まりの中で倒れこむ亜麻色の髪の少年(ユージオ)に何かを叫んでいる。そして、()は最後に言った。

 

『この………小さな、世界を…………夜空のように……優しく……………包んで……………』

 

()はそう呟いて血の滲む彼の頬を手で触れた直後、安らかにこの世を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少しうるさめの音楽が聞こえる。これはユージオ自身が設定したアラーム音だ。

 

「……」

 

静かに目を覚まし、右手を振りメインメニューをだす。

時刻は8時40分。とある人物との約束には間に合う時間だ。

 

「……また、あの夢を…」

 

あの夢とはアンダーワールドのセントラルカセドラル、ユージオ最期の時の記憶だ。

最近彼はよくこの夢を見る。この夢が何を意味するかは彼自身分かっていない。

 

2023年4月5日、このアインクラッドに来てあれから半年が経った。現在の最前線は22層、ユージオが今いるのかその層だ。

生存者は8491人。全体の約二割が死んだことになる。だが、その死んだ約1500人のうち攻略組の犠牲者は16人とかなり少ない。これはやはり一層で死ぬ運命だったディアベルが生きているからだろうか。

などと考えながらユージオは装備を整える。整える、とは言うもののボタン一つで出来てしまうが。いつもの空色のシャツに黒に近い紺色のズボン、そして、青いコートを羽織り、腰には片手直剣を帯剣する。

 

「……さて、行こうか」

 

ユージオはそのまま宿を後にした。

 

 

 

 

ユージオが来たのは18層主街区《ラーサン》。温暖な気候と美しい情景が楽しめるともっぱらの噂となっている層だ。木造住宅が建ち並び、公園、教会などもあり、ユージオたちにとってはなんだか懐かしい気分にさせてくれる、そんな町だ。もちろんユージオも訪れたことはあるが、あまりいいクエストがなかったので覚えていない。なんとなく、ぼんやりとイメージが浮かび上がるくらいだ。

 

「……ここ、だよね」

 

約束した場所は大噴水の広場だ。その広場の大噴水はいろんな装飾がなされており、東西南北に一体ずつ彫刻が立っている。ユージオは南の祈りを捧げるセイレーンの像の前の長椅子に座り待つことにした。

 

「ユージオ先輩!」

 

待つこと五分後。約束の相手が現れた。

 

「……やあ、ティーゼ。おはよう」

 

「おはようございます! 待たせちゃいましたか……?」

 

「そんなことないよ。ついさっき来たばかりだから」

 

そう、約束の相手はティーゼだ。二日前に攻略を今日は一日休んで出掛けようと誘われた。本人曰く新しい防具を作る、らしい。

 

「…!」

 

「えっと……どうですか?やっぱり似合ってませんか…?」

 

ユージオはティーゼがいつもの服装と違うことに気付いた。

白いワンピースにつばの広い麦わら帽子。麦わら帽子には一輪の赤い花が飾ってある。白いワンピースが燃えるような紅葉色の髪を引き立てている。

 

「似合ってると思うよ。ちょっとびっくりしちゃった」

 

「本当ですか!あ、ありがとうございます!」

 

「…じゃあ、どこのお店に行くの?」

 

「友達がやってる露店なんですけど、かなり鍛治スキルを鍛えてて……最近、武器作成だけじゃなく、防具作成のスキルも取ったみたいなんで行ってみようかな、と」

 

「へぇ…」

 

ティーゼの友達に鍛冶屋がいたことは初耳だったユージオは感嘆する。このアインクラッドでは殆どが戦闘職につくのだが、やはりネズハのように生産職を目指す人がいることに驚き、そして、尊敬の念を込めて言った。

 

「凄いね。その人はいつも中層域で露店を開いてるのかい?」

 

「いえ、今日は特別らしいです。いつも最前線の主街区で売り込んでるそうなんですが、定期的に中層域や下層域に戻って開くんです。『中層域で燻ってる人も下層域で怯えてる人にもあたしの作った武器を使ってもらってアインクラッド攻略に役立ってくれれば、これ以上のことはないわね』って本人は言ってました」

 

「あたしってことは、まさか女の子?」

 

「はい。ロニエたちとも面識ありますよ?」

 

「そうだったんだ、知らなかったよ」

 

 

二人は話をしながら街中を歩く。それを見た人々八割(主に男性プレイヤー)が嫉妬による殺意の視線(デスビーム)を放ち、残り二割(主に女性プレイヤー)による暖かい視線がユージオ達に注がれた。

寒気を感じたユージオは少し肩を震わせて道を急ぐ。

 

「えっと、メッセージで書いてあったのは…あ、あそこです!」

 

「!」

 

メインストリートの一角、そこにその露店____というよりは絨毯を敷いてその上に商品を乗せただけのものだったが____はあった。

そして、そこにいたのは短めの茶髪に同色の瞳、頰にそばかすがある少女。右手にスミスハンマー、左手に鉄色をした金属の延べ棒を持っている。作業をしようとしていたのだろうとユージオは悟った。

 

「いらっしゃい…ってティーゼじゃない!アレを取りに来たの?」

 

「うん。出来てる?」

 

「もちろん。防具はあんまし自信なかったのに、あんた急に今日…二日後までに作ってくれ、だなんていうからびっくりしたわよ」

 

「そう?」

 

「……んで、隣の彼は?」

 

「僕はユージオ。よろしくね」

 

「あたしはリズベットよ。見ての通り鍛冶屋をしてるわ……あんたがユージオかぁ……へぇ、イイ男捕まえたじゃん」

 

「ちょ、リズ⁉︎」

 

「…?」

 

ユージオは仲良さげに話す二人を見てかなり前からの付き合いなのだろうと感じた。

 

「はい、これ。約束通りのブツよ」

 

「あ、ありがとう!」

 

ティーゼはリズから新しいプレストプレートを受け取った。

 

「…あ、凄い!前よりも性能がいい!」

 

「ふふん、結構鍛えたのよ?それぐらいはあって当然でしょう?」

 

「さすがリズ……本当にありがとう!はい、お代金」

 

「ん、毎度あり。うちの店をご贔屓に頼むわよ?」

 

「言われなくてもしてるけど?」

 

「……そう言えば、ティーゼ」

 

「はい?」

 

「…これを受け取るためだけに来たの?」

 

「……はぃ////」

 

ユージオは疑問に思った。これを受け取るだけなら二人でなくてもいいのでは?と。

 

「………そりゃ違うに決まってるでしょ」

 

「え?」

 

「ティーゼはあんたと一緒に……ううん、二人で出かけたかったのよ」

 

「……っ」

 

「…ほら、あんたからも言いなさいよ。どっかカフェかなんかでもいいから一緒に行こうって」

 

「……せ、先輩……い、行きましょう//////」

 

「…そう、だね」

 

ユージオは頷き、ティーゼとともにリズの店を後にした。

この時ユージオはティーゼの思う所、リズの言わんとしている所……つまりユージオへの恋慕を知っていた。気付いたのはアンダーワールドの人界の修剣学院を退学になり、セントラルカセドラルに連行される直前……いや、ライオス・ウンベールによるフレニーカ・シェスキへの性的暴力を知り、それを抗議した直後。ティーゼがユージオにあの言葉をかけた時から、気付いていたのだ。

 

だが、ユージオはその想いを受け取れないでいた。アンダーワールドではアリスを助けるために剣を取った。そのことはティーゼには言っていない。そして、今もユージオはその想いを受け取れなかった。何故か、それはアンダーワールドでの理由と殆ど同じ。

 

『このアインクラッドにアリスも来ているのではないか』というものだ。

ユージオ自身、諦めたくはなかったのかもしれない。ともにアンダーワールドから消え、運命を共にした。だが、それでも会いたい。そう思ってしまう。

だが、その可能性はゼロに等しいことも、ユージオは知っていた。ユージオは攻略が休みの日に第一層の生命の碑を見に行って、アリスの名前があるかも調べた。それは全て神聖語(英語)でしか書かれていなかったが、アリスのスペルが《Alice》だということはアンダーワールドでアリスの開いたステイシアの窓を開いたときに見たので知っていた。

 

探した所、《Alice》なる人物は全員で7人、うちの3人は死亡、残りの四人は生きていた。そして、また別の日にその全員に会いに行ったが誰一人としてユージオの知っているアリスはいなかった。

この結果が意味するのは、《アリスはここにはいない》ということ。

その事実を受け止めてしまえば楽なものを、ユージオは出来なかったのだ。

 

 

 

 

 

 

「楽しかったですね、ユージオ先輩!」

 

「そうだね。色々買えたし、ね」

 

「……はい////」

 

買い物の帰り、二人は自分たちの宿へ向かっていた。頰を赤らめるティーゼの首にかかっているのは、一本のネックレス。これはユージオが先程ティーゼに買ってあげたものだ。買ってあげた時はそれはもう喜んだ。

 

「……喜んでもらえてよかったよ。まあ、その場で思いついたことなんだけどね」

 

「いえ、あたし、嬉しいです。本当に!」

 

ティーゼは少し走って、夕焼けを背にこちらを振り返り向日葵のような明るい笑顔を見せた。

 

「……」

 

ユージオはこのアインクラッドに来て何度も例の頭痛……キリトの記憶を見た。ボス戦時のボスのパターン変更やPK集団の襲撃など色んな時にそれは起こった。

そして、分かった事がある。

この頭痛(記憶)はキリトにとって辛ければ辛いほど痛みも増し、その心傷の跡が深ければ深いほど、その事象が発生するより前に起こる。

そして、僕は今日、今までにあった頭痛(記憶)で最大級の痛みを味わった。

 

「_________ッッッ⁉︎⁉︎」

 

それは頭が焼ききれそうなほどの痛みだった。痛みで気を失いそうなほどに。

 

「あ、ああああああああああああああああッッ⁉︎⁉︎」

 

「ゆ、ユージオ先輩⁉︎どどうしたんですか⁉︎」

 

「うあああああああああああああああああああああああああ______⁉︎」

 

流れ込んでくる記憶。それは冷たい川の水のようだった。

 

 

 

出会うは森の中。ゴブリン型のモンスターに追われる総勢5人のパーティ。

背景が変わり、街の橋の下に座り込んで顔を伏せて泣くひとりの少女。それを無力な少年(キリト)は彼女にこう言うしかなかった。

 

『………君は死なない』

 

目まぐるしく変わる背景。ベットの中で、少年(キリト)は呪文のように囁く。

『…君は死なない。君は、死なない』

 

そして、大量のモンスターに囲まれるリーダーを抜いたパーティ。

次々と倒れるパーティメンバー。また一人、また一人と力尽きていく。

そして、少年(キリト)が『君は絶対に死なない』と囁き続けた、守りたかった少女は________

 

その命を儚く散らした。たった、十文字の言葉を残して。

 

 

 

 

 

「あああああああああああぁぁぁぁぁぁ_______」

 

「ユージオ先輩!ユージオ先輩っ‼︎」

 

そして、その記憶を見終わった直後、僕は気を失った。

ただただティーゼの悲痛な叫びが僕の頭の中に木霊するだけだった。




※今年の夏からリアルの方が忙しくなるので更新ペースが落ちます。ご了承ください。

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