ソードアート・オンライン ~時を越えた青薔薇の剣士~ 作:クロス・アラベル
それでは早速続きをどうぞ!
○
2時間後。
3人は、50層の主街区《アルゲード》に居た。
「……全く分からん…」
「絶対にデュエルによる殺害だと思うんだけど……なんでWINNER表示が出なかったのかしら」
「WINNER表示ってどこに表示されるんでしたっけ?」
「確か……プレイヤー同士の中央、若しくは…………離れている場合は両プレイヤーの近くに出てくる…だったっけ?」
「えっ?じゃあ、あの時、カインズさんにもWINNER表示は出てたんですか?」
「いや、出てなかった…ってことはデュエルとは言い難い…」
「……うーん…」
キリト達は圏内殺人事件について議論を交わしながら、猥雑な路地を縫うように歩く。
「まあ、考えてるだけじゃ分からないしな。さっさとエギルのとこに行って調べてもらおう」
「……本当に大丈夫なの?この時間帯ってお店忙しいって聞くし…」
「大丈夫だろ、たぶん」
「先輩…」
3人はこの街に店を構えているエギルの元へと向かっていた。証拠品として預かっているロープとショートスピアを鑑定スキルで基本的な情報を調べてもらう算段だ。
「うーっす。来たぜー」
「言っとくが、客じゃない奴に《いらっしゃいませ》なんて言わんぞ」
雑貨屋に入ってキリトが間延びた声でそこの店主…エギルに声をかけると、彼は不機嫌そうに答えた。
中に客はおらず、キリト達が来る前にここにいたであろう客にはご退場してもらったんだろう。
「すみません、エギルさん。お忙しいのにこんな急に押しかけてきて…」
「謝るこたぁねえよ、ロニエちゃん。まあ、理由が理由だ。《来るな》なんて、言えねえよ。」
「ありがとうございます、エギルさん」
「いやいいさ。いつもの面子が揃っただけだしな……で、例の品は?」
「……これだ」
キリトがエギルの言葉に例のアレをストレージから取り出した。
「……これが話にあった、圏内殺人で使われたものか…」
「ああ。早速で悪いんだが、鑑定頼む」
「おう」
そして、エギルがロープに向かって鑑定スキルを起動させると、ロープの右隣にウィンドウが現れる。
「…まあ、わかってたと思うが、
「……あれだけ重装備のプレイヤーをぶら下げてたからな。」
「本題は次だな」
「ああ、頼む」
エギルが先程と同じように鑑定スキルを発動すると、またウィンドウがでた。
「ふむ……これは、PCメイドだ」
「!!」
「本当ですか!?」
「製作者の名前は…?」
「……《
グリムロック。キリト達にも聞き覚えがない。攻略組の戦闘斧使い兼商人であるエギルが知らないのなら、3人が知っていることはかなり少ない。
「探すことは出来るはずよ。だって、このクラスの武器を作成できるレベルに上げようとしたら、完全なソロプレイをしてるとは思えないわ」
「中層の街あたりで聞き込めばそのグリムロックさんとパーティを組んだことのある人だっていますよ!もしかしたら、ギルドにも入っているかもしれませんし…」
「……でも、この武器は対モンスター用の物じゃない。どちらかと言うと対人戦に使われるやつだ。このグリムロックって奴はそれを分かっていてこれを作ったとしたら……相当タチが悪い。人を殺すことを知らされたら、普通は断るけど、この人はこの槍を作った。何も知らされてないって言うんなら別だけど、どちらにせよ、話を聞かないと進まないな」
「そう言えば、エギルさん。その短槍の名前ってわかるんですか?」
ロニエのこの言葉にエギルは答えた。
「…
これは単なる偶然か。
状況に合いすぎたその固有名にキリトが目を細めた。
逆棘が密生する柄は、天井に付けられた明かりを反射して黒い輝きを放っていた。
○
「今は捜査線上に上がってきた、噂のグリムロックさんに話を聞くしかなさそうだ。アルゴに情報集めてもらうかな」
エギルから話を聞いた後、3人は店をあとにし、始まりの街にやってきた。理由は勿論、生命の碑でカインズが本当に死んでしまったのかを確かめる為だ。
「でも、簡単にお話を聞かせてくださるかどうか……」
「うん。その時はお金を払ってでも話してもらいましょう。」
「じゃあ、その時は3人で出そうな」
「……あら?男らしくないわね、キリト君。そこは男の子が払うものでしょう?」
「いやぁ……この間面白そうなバフが付いたアイテムがあってさ……そのー……手持ちが心細くてさ…」
「はあ……またそんなの買ってるの?」
「つい買っちゃうんだよ。気になっちゃって…」
「_______先輩?」
「ヒイッ」
キリトの口から暴露された事にロニエは目に見えて不機嫌になる。キリトの訳分からないものに金を費やしてしまう癖にアスナもため息をついた。キリトは今夜あたりロニエにこってり
「カインズ、カインズ……か……Kだっけ?」
「はい。ヨルコさんの話だと綴りはKainz、だそうです」
「k、k、k………あった」
生命の碑前。そこでキリト達はカインズの名前を見つけた。
「やっぱり、駄目みたいね」
「ああ。死因は……貫通継続ダメージだ。完全に一致してる」
死因は一致、時刻さえも完全一致している。これでは殺されていないなどと諦めの悪いことは言えないだろう。
「じゃあ、本当に圏内殺人だっていうの……?」
「そうじゃないと、それ以外あの事件を説明するのは難しいと思います。でも、どうやって…」
「手口も分かってないからな。有り得るのは、システム的な抜け道、アンチクリミナルコード発動圏内である街でプレイヤーのHPを減らすことの出来る特殊アイテム、またはスキル……か」
3人は生命の碑を後にし、一先ずヨルコの元へと戻ることにした。
カインズの名前が赤い線2本で消されているということは、死んだ、ということだ。キリトなりの推理に2人も唸る。
その時だった。
前からタンクであろう重装備の鎧を着たプレイヤーが走ってきた。
「はあ、はあっ、はあ……キリトさん!あんたと話がしたいんだが、いいか?」
「あれ?あんたって確か……シュミットさん?」
「ああ。タンクのリーダーをやらせてもらってるシュミットだ。キリトさんに覚えてもらってるとは、光栄だよ」
攻略組のタンクリーダーをしている、シュミットだった。メイン装備は大型のランス。タンクとしては攻略組の中でもトップクラスだ。
「いや、まあいつもお世話になってるしね。アタッカーが攻撃に集中出来るのはタンクの人達のお陰だ。で、話ってなんだ?」
「話というのは、その………今日起こったって言う、圏内殺人事件のことについてだ」
「もう広まってるのか。でも、なんでそんな血相変えてシュミットさんひとりで来るんだ?来るならキバオウとかディアベルもだと思うんだけど……」
「いや、ディアベルさん達抜きで話がしたい。その…カインズのことについてだ」
「「「!」」」
シュミットの口から出た予想だにしない台詞に3人も驚いた。
「……カインズさんのことを、知っていらっしゃるんですか?」
「ああ。詳しい話はここではなんだし、他の人にあまり話を聞かれたくない」
「そう、だな」
「どこか、カフェに行きましょうか。そちらの方が話しやすいでしょうし……ロニエちゃん、どこかいい所ない?」
「東通りにいい所がありますよ。そこに行きましょう」
ロニエに連れられ、4人はとあるカフェへ向かった。
「で、何故シュミットさんがカインズさんの事をしてってるかどうか、教えて欲しい。あとシュミットさんの怨恨の方があるかどうかを聞いておきたいんだ」
この世界ではメモ帳は無いため、メインメニューにあるメモ機能を起動し、キリトがシュミットに事情聴取を始める。
「ああ……その前、聞いていいか?」
「何ですか?」
「……本当に、カインズは殺されたのか…?」
「その瞬間を俺達がこの目で見た。さっき、生命の碑も見てきたけど……ダメだった」
「そう、なのか…」
「……ヨルコって人にも聞いたんだけど、どういう知り合いなんだ?」
「ヨルコ!?ヨルコもいたのか!?」
ヨルコを知っているような口振りに、ロニエは説明する。
「最初からカインズさんと一緒にレストランで食事をしていたそうです。彼女が最初の発見者です」
「…ヨルコさんのこと知ってるのか?」
「……元々、俺とヨルコ、そして、シュミットは同じギルドにいたんだ。《黄金林檎》っていうギルドなんだが_______」
彼は、後々わかる事だ、と全て知っていることを話してくれた。
「……レアアイテムの使用方法についての論争の後に…か。確かに、その指輪は間違いなくレアアイテムだ。俺達攻略組でも聞いたことがない。話を聞く限り、そのグリセルダさん殺害事件はアイテム売却反対派の誰かが仕組んだ物だろうな」
彼の話を要約し、一時的だが、客観的結論を出す。
キリトの言葉に肩をビクリと揺らすシュミット。
「その指輪の事はギルドメンバー以外は誰も知らないんですよね?」
「ああ。このことは内密に、とグリセルダさんから忠告があったから…」
「そんなレアアイテムがあったらどんなプレイヤーでも欲しがるだろうな。多分、攻略組からも、中層、低層プレイヤー様々なプレイヤー達がその指輪を求めてギルドの元へ来る。中には、指輪を無理矢理奪おうとする奴も出てくるはずだ。グリセルダさんはそれを恐れたんだろう」
キリトにしては珍しく饒舌だが、やはり彼はゲームプレイヤーとしての考えを理解することに関しては長けている。『は』は酷いかもしれないが。
「懸命ね…でも、それでも彼女は殺されてしまった…」
「やっぱり、ギルドの中で誰かが情報を外部に流した……?」
「まあ、その本人がやったとは思えないしな。だって自分で殺してしまえば自分のカーソルがオレンジになるし、そうなればギルドメンバーに気付かれる…」
「
「十中八九そうだろう」
「……ギルドメンバーはグリセルダさんを抜いて7人、ですよね?」
「そうだ。そのうち指輪売却に反対したのが、俺とカインズと、ヨルコだ。俺は、自分が使いたかったが為に反対してた……指輪を売ろうとしてたリーダー意思に反していた俺たちが1番怪しいからな。もしかしたら……」
「グリムロックさんが、復讐の為に殺しをしてる……そう言いたいのか?」
「…そうとしか言えないだろう!?既に1人死んでるんだ!そう考えるしか他にない……っ!」
「一応、ディアベルに連絡しておくよ。今の状態じゃ、まともに攻略に参加出来ないだろう?」
「……すまん…」
「いいよ。多分、ディアベルも納得してくれるだろうしな。どうする?シュミットさん。なんならあんたが外に出るのはかなり危険だ。例え攻略組のタンクでも、今回のは異常事態だ。あんたでもカインズのようになる可能性もないとは言えない。あまり外には出ないでくれ」
「もとよりそのつもりだ……ヨルコを頼む」
「ああ。ヨルコさんにも外に出ないよう言っておくよ」
○
「さて、俺達がこれからするべき行動は三つある。1つ、中層で手当たり次第にグリムロックの名前を聴き込んで居場所を探す。2つ、ギルド《黄金林檎》のほかのメンバーに会ってシュミットさんの話の裏をとる。三つ……カインズさん殺害手口の詳しい検討をする……ってとこか」
キリトは人差し指、中指、薬指と順番に三本上げていく。
「「うーん…」」
「1つ目は効率が悪すぎると思うわ。もし犯人がグリムロックさんなら、まあまず身を隠してるでしょうし……可能性は低いわ」
「ふむ……」
「2つ目も少し厳しいと思います。他のメンバーも当事者です。そうなってくると、シュミットさんの話とは矛盾する証言や情報が得られたとすると……シュミットさんの情報と他のメンバーの方々の情報、どちらが真実かを判断する方法がありません。帰って混乱するだけかと…」
優秀な刑事と助手のおかげで選択肢は最後の3つ目となった。
「するならもうちょっと客観的な判断材料が欲しいわね」
「……残るは、3つ目か」
「今回はグリセルダさん殺害事件の解決ではなく、今回の圏内殺人事件の解決及び圏内殺人のカラクリを暴くのが目的ですし、それが妥当かと」
「そうだな……でもさ、俺たちじゃ知ってる事って限られてくるよな……もうちょい知識のあるやつの協力が欲しいな…」
「そんなこと言ったって、ここには管理者はいないーのよ?それはちょっと無理が、
「……あ、いたわ」
「…先輩、もしかして……」
「その通り。アスナ、お前の近くに一人いるじゃん」
ロニエは半分察しているようだ。
そう。キリト達より知っていることが多い、博識な人物それは______
血盟騎士団団長にして最強の防御力と圧倒的プレイヤースキル、そして、アインクラッドでの知識を持つ、ヒースクリフその人だった。