ソードアート・オンライン ~時を越えた青薔薇の剣士~ 作:クロス・アラベル
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「じゃ、じゃあ……グリムロックさんが……?グリムロックさんがあの人を殺したって言うんですか!?」
「…直接手は下していないにせよ、間接的に……具体的には汚れ専門のレッドプレイヤーを使って、だろうな」
キリトの推理に信じられない、と驚愕する3人。
「……まあ、動機とか、そう言うのは本人から聞くことにしよう」
「え……?」
キリトがそう言うとキリトの後ろにある木々の向こうから誰かがやって来た。
「お待たせ、キリト君、ロニエちゃん」
「アスナさん!」
そう、アスナである。そして、彼女に連れられているのは_____
「え……?グリムロックなのか…!?」
今回の主犯______グリムロックだった。
「キリト君の言う通りだったわ。ちょっと遠いところで見てたみたいよ。さ、全て話してもらいます、真犯人さん」
「真犯人?………何を言うかと思えば、わけも分からないことを…」
「嘘を言うのはやめてください。では何故貴方はあそこにいたのですか?貴方はことの終わりを見に来たのでしょう?自分のしてきたことがギルドのみんなにバレる前に始末してしまおうと、そう思って。」
「何をしてきたというのかな?血盟騎士団副団長さん」
「……グリセルダさんの殺害及び、彼女のアイテムの窃盗よ」
「殺害?私はグリセルダを殺すほど強くはない。ステータス面で言えば彼女を殺すのなんて不可能だよ」
「レッドに依頼したんでしょう?そんな汚れ仕事、レッドならいくらでもやってくれたでしょうに」
「その証拠は?そのレッドプレイヤーの証言があるとでも?」
「……貴方という人は……!」
アスナがグリムロックを問い詰めるが、あまり効果がない。というより、アスナがヒートアップしていく。なのでキリトが代わりに問い詰めることにした。
「……こんにちは、グリムロックさん。俺はキリトっつう……まあ、単なる部外者さ。さて、あんたに聞いておきたいことがいくつかある。1つ、今回の圏内殺人事件で、あんたはいくつかの武器を2人に渡した。それはいいか?」
「ああ。あまり進んでという訳ではなかったけれどね」
ヨルコとカインズがこの事件で使った武器、それはグリムロックが製作したものだった。それについては彼は否定しない。
「2つ、あんたはここに来た理由をこの2人の計画の顛末を知っておきたかった程度で済ますつもりだろう?」
「……済ます、というのは君ならの根拠があっての事だね?」
「まあな。アスナ、グリムロックさんはあの
キリトはアスナに問う。
「ええ。ラフコフが来る前から
「すまないが、私はしがない鍛冶屋さ。この通り丸腰で来ているからね、あの恐ろしいオレンジと戦えの言うのも無理がある」
アスナの棘のある言い方にグリムロックは溜息を着きながら答えた。
「確かにな。でも、あんたは戦えないから隠れてた訳じゃなく、元ギルドメンバーである3人が目の前で確実に殺されるのを見るため、だったんだろう?元ギルドメンバーの中でもグリセルダさん殺害事件の真相を知ってしまうかもしれないこの3人を」
「机上の空論、とはこの事を言うんだね。どちらにせよ君は、その容疑者である私に物的証拠を突きつけていない。君の言葉には説得力がない」
キリトの推理にグリムロックは飄々とした態度で答えた。
「ああ。俺は確かにあんたがこの場所にいた事と、あのラフコフの襲撃を結びつける材料なんて持ち合わせちゃいない。たぶん、あいつらに聞いても何も証言してくれるわけが無いからな」
キリトは自分自身の持ち合わせている証拠では追い詰めることは出来ないかもしれないと、ため息をついた。だが、キリトの推理はまだ、終わっていない。
「それでも、去年のギルド《黄金林檎》解散原因となった《指輪事件》……それに関してはあんたが関わっていることは確実だ。グリセルダさんを殺したのが誰であろうとグリセルダさんと結婚しストレージを共有しているあんたにグリセルダさんの装備している物以外が手元に行った筈だからな。あんたはその事実を誰にも言わず指輪を秘密裏に換金してその半額を共犯であるシュミットさんに渡した。これは犯人にしか出来ない行動だ。あとは可能性として指輪事件の真実に気付かれてしまうかもしれない《
「……面白い推理だ。だが……」
「グリセルダさんがあの指輪をストレージに入れていない可能性も否定出来ない……そう言いたいんですよね?グリムロックさん」
「……わかってくれている人がいたようだ。お嬢さん」
「…初めまして、グリムロックさん。私はロニエ。キリト先輩とこの事件の解決に乗り出した部外者の1人です。」
何か反論をしようとしていたグリムロックよりも先に、ロニエがようやく口を開いた。
「ヨルコさん達に色々聞かせてもらいました。グリセルダさんはギルドの中でもトップの実力を持っていた。カインズさん達にも信頼されていたようですし、その指輪を使うべきはグリセルダさんだ、とも言っておられたそうです。それにグリセルダさんはスピードタイプの剣士。ならば彼女に指輪を装備してもらう方が良いと考えてでしょう。だから貴方はグリセルダさんが指輪を装備していたかもしれない、と言いたいんですよね?」
「その通り」
「……でも、変ですね。グリセルダさんが殺されて、グリセルダの遺品を持ってきてくださった方はその場にドロップしたアイテムを奪われたであろうアイテム以外を全て貴方達ギルドメンバーに渡した。その中に、指輪が2つあった……そう、ヨルコさんから聞きましたが…」
「……!!」
「黄金林檎の
「……ヨルコ…君は……!!だが、もう去年の事だ。君がその指輪を持っているとでも言うのか?ヨルコ」
彼の表情に焦りが見え始めた。
「いえ、ヨルコさんは持っていません。そのお墓の中にあるそうです」
「墓の、中……?」
「
「!?」
グリムロックが目を大きく見開いた。
「容量はだいぶ小さいですが、その中に入れておけば、耐久値が減ることは無い……魔法のアイテムです。今お墓を掘り返してみれば、その指輪があるはずです。貴方の名前とグリセルダさんの名前が刻まれた指輪と印章が……!」
「……」
ロニエは今までにないほどに鋭く睨みつけ、証拠を突き付ける。
「この世界では指輪は片手にひとつしかはめられない。彼女が死んだ時、その場に残っていた指輪が2つだったということは例の指輪はもう装備できる状態ではなかったということ……後はもう、分かりますよね?」
「…………まさか、言い逃れが出来なくなるほど、か…」
ロニエの最後の言葉に、グリムロックは、頭を抱えた。
「……どうして……どうしてリーダーを、奥さんを殺してまで指輪を奪ってお金にする必要があったの…?」
小さな声で、ヨルコが呟いた。
「……金?金、だって?」
グリムロックはヨルコの言葉に、帽子を深くかぶりながら、アイテムストレージから麻袋を取り出して地面に放り投げた。
「……その金は指輪を売った金の半分だ。金貨1枚だって減ってない」
「え……?」
思わず全員が呆気にとられていると、グリムロックは話し始めた。指輪事件の真実と、その動機を。
「私は、金の為に殺したんじゃない。私は………どうしても彼女を殺さねばならなかった。まだ、彼女が私の妻でいる間にね」
妻でいる間に、とはどういう事なのか。
「彼女は、現実世界でも私の妻だった」
「!?」
暴露されたその事実にその場の全員が驚愕した。
「私にとって、最高の妻だった。理想をそのまま形にしたような、人だった。夫婦喧嘩すらしたことが無かった。だが、この世界に囚われてしまってから変わってしまった」
体を震わせながら続ける。
「怯え、怖れていたのは私だけだった。グリセルダは……《ユウコ》は戦闘面でも、状況判断力においても私を超えていた。ついには私の反対を押し切ってギルドを結成し、メンバーを集めて鍛えた。私の目には現実世界よりも生き生きとして……より充実しているように見えてしまった。認めざるを得なかったのだよ______私の愛していたユウコは消えてしまったことを。例えこの世界から出られたとしても、あの日のユウコは、永遠に帰って来ないだろうということをね」
途中で出てくる名前は、現実世界でのグリセルダの本名だろうか。彼の独白は続いた。
「愛は失われてしまったんだよ」
そうぽつりと呟き、顔を覆い隠した。
「君たちには分からないだろうね。だが、いつか分かる日が来る。愛情を手に入れ、それが失われようとした時に、ね」
悲しげな最後の言葉に、1人反論しようとしていた人がいた。
「………いや、あんたは間違ってるッスよ」
ベルだった。
「どこがだい?少年。君の事は知らないが口を出す権利すらないのだよ。何も知らない人間には…!」
「いや……あんたはこう言った。
彼は続ける。彼のみが知り得る真実を。
「…でも、愛は元から失われてなんかいなかったんだ。
「何を言って…」
グリムロックでさえ理解できないその言葉に誰もが疑問を抱いた。
「もういいですよ、グリセルダさん。あなたも、限界でしょうから」
その言葉と同時にベルの隣で密かに震えていたローブのプレイヤーが、そのフードを外した。
「_____________」
その瞬間、グリムロックの時が止まる。そして、黄金林檎のギルドメンバーも例外ではなかった。
そのローブを着た人は____
「……どうして________」
_____泣いていた。
そのプレイヤーは_____
「どうして本当のことを言ってくれなかったの、貴方……!!」
そう言って、グリムロックへと走り寄り、彼を抱き締めた。
「私は、貴方をずっと愛していたのに……!」
「……ユウ、コ……?」
「「「リーダー……!?」」」
そう、彼女こそが、指輪事件でレッドプレイヤーによって殺された筈のグリセルダだった。
「……彼女は、確かに死にました。でも、俺が蘇らせたンスよ。蘇生アイテムを使ってね」
「え!?この人が……グリセルダ、さん……!?」
「はい、すいませんキリトさん。今の今まで隠してました。彼女が生きていることを知らせるには、まだ早かったんですが……キリトさん達のおかげで早くに済みました」
「でっ、でも、グリセルダさんは死んだって…!」
「……俺はとある1人のレッドプレイヤーが何やら怪しい動きを見せている、との連絡を受けてそれを追ったんです。そしたら、そのレッドプレイヤーが彼女を追ってるのを見て、すぐアルゴさんに調べて貰ったッス。それが幸いしましたね。彼女が死ぬ瞬間に出くわしてしまって……それで即座にそのレッドプレイヤーを無力化して、例の蘇生アイテムを使って彼女を蘇生したっス。本当に危なかったッスよ」
蘇生アイテム。それはこのSAOでは3つしかない激レアアイテムだ。
それは去年のクリスマス限定イベントにて、登場したボスがドロップしたと言うアイテムだ。キリトたちもそのイベントに参加する予定だったのだが、運悪く《オプリチニク》と出くわしてしまい、戦闘を強いられてしまった。そこでとあるプレイヤーにボス攻略を任せたのだ。その後、そのプレイヤーはボスに1人で勝ったが、ボスからドロップしたアイテムである蘇生アイテムがプレイヤーが死んでから10秒間しか効果がない事がわかった。そのボスを倒したプレイヤーはそれを《スズラン》に譲渡することを言い出し、そのアイテムを放置したという事情があり、その後、その蘇生アイテムは2つがスズランに、1つは攻略組に分けられた。
ベル曰く、そのアイテムを使って彼女を蘇生し、彼女を助けた。その後レッドプレイヤーを尋問し全ての真実を洗いざらい吐かせて、彼は考えた。まだ証拠が未完全だ。そのグリムロックを確実に追い込むなら、もっと証拠を集めるべきだと。そして、彼女を説得し、彼を追い詰めることのできる証拠が出るまで……その時まで彼女が生きていることを隠すことにした。
「……大変だったッスよ。生命の碑の偽装から、グリセルダさんのフレンドの全消去まで……まあ、僥倖だったのは、グリムロックとの結婚が1度死んだことにより解除されていることでした。そのおかげである程度死を偽装することは簡単でした。ギルドからも外されていたようですし……」
そう、全て偽装するために所持アイテムを全て捨てさせることまでしたのだ。ベルとグリセルダの今までの苦労を考えると冷や汗が出る。全プレイヤーから気づかれることなく今までを過ごしてきたなど、誰が思おうか。
「……でも、ここまでやってきた甲斐がありました」
ベルがそう言った直後、グリセルダが言った。
「この人の事は私達に任せて貰えませんか?私刑にかけたりはしません。もちろん、責任をもって罪は償わせます。お願い出来ないでしょうか?」
「……任せるよ、グリセルダさん。その人のことを1番知ってるのはあなただ。そうした方がいいだろうしな」
「……ありがとうございます」
グリセルダは最後に深々と頭を下げてシュミットたちと共に丘を降りて行った。
「……俺は1度、ギルドの方に戻ります。色々報告しなきゃいけないこともあるので」
「ありがとう、ベル。本当に助かった」
「ありがとうございます、ベルさん」
「ありがとう、ベル君」
「いえ、これが仕事ですから。多分もうすぐ行われる攻略会議でまた報告をすると思うので、またその時に」
ベルはそう言って一礼し、丘を降りていった。ベルのその背中はキリト達と相対し、攻略組を去っていったあの時よりも大きく見えた。
「……さて、俺たちも街へ戻るか」
キリトは背伸びをしながらそう言った。
「ええ、そうね。ご飯食べてないからお腹ペコペコよ。街で何か食べましょう」
「そうですね!事件も一件落着しましたしね!」
「じゃあさ、俺おすすめの店があるんだ。アルゲード名物、見た目は完全お好み焼きなのにソースの味が全然しないというあれを……」
「「却下で」」
「ヒッドイ」
こうして、この事件はキリト達と、ベル達《スズラン》の活躍によって幕を閉じたのであった。
自分なりにこの圏内殺人事件をハッピーエンドで書いてみましたが、どうでしょうか?無理やりな所もあるとは思いますが、楽しんでいただければと思います。
出来れば感想や評価の程をお願い致します(*_ _)人
それでは、来年もどうぞよろしくお願い致しますm(_ _)m