ソードアート・オンライン ~時を越えた青薔薇の剣士~   作:クロス・アラベル

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こんにちは、クロス・アラベルです。
では、前回の通りのお話になります。
ここらへんのお話は平和で良いですねぇ…
では、本編へどうぞ〜


釣り

 

 

 

「______ふわぁ…」

湖のほとり。

キリトはあぐらをかいて、竿を片手に欠伸をひとつ。

 

「…………おかしいな。あれから2時間たっても1匹も釣れないんだが…」

 

キリトが釣りを始めてはや2時間。

ウキは全く動くことなく、ただ風に揺られているだけだった。

「_____ん」

キリトの膝の上にはユイが眠っていた。

初めはユイもやってみたい、とねだったがキリトが始めにパパの見本を見てからな?と説得し、彼は釣りを始めた。

釣りを始めて30分程は起きていたのだが流石に暇を持て余したのか、キリトの膝の上でこくり、こくり、と眠そうに船を漕いでいた。なので、眠かったら横になってもいいんだぞ、と言うと、ユイは直ぐに横になって眠ってしまった。

「……一応、釣りスキルは熟練度500超えてるんだけど」

キリトが暇潰しに、と始めた釣りスキル。今では熟練度500を超えている。なので、大体なら釣れるだろうと高を括っていたのだが、甘くはなかったようだ。

 

「……んー…」

1度竿を上げてみる。返ってくるのは____

「おいおい、食うもの食ってサヨナラってことなのか…?」

___餌にしていた小魚が消え、寂しそうに光る銀色の釣り針だけだった。

「_____割に合わないぞー、これ」

文句を垂れながらももう一度餌をつけてヒュンッ、と音を鳴らして湖へ釣り針を落とす。一瞬沈みこんで浮き上がってくるウキ。それをずっと凝視して____もうあと10分だけ待とう、と決めるキリトだった。

 

 

「ん……ぱぱ、まだつりしてるの?」

 

20分後。10分経っても全く釣れず、もしかしたらもうすぐで釣れるかもしれない、と我慢強く待っているとユイが起きたようだ。

「ああ。いつ釣れてもおかしくないんだけどなぁ」

「…ままのところかえる?」

「いや、手ぶらのままで帰るのはパパの沽券に関わるんだ……帰りません、釣れるまでは_____!!」

と、ユイの提案に首を横に振り、再び湖面を睨みつけるキリト。

すると____

 

「どうですか、釣れますかな?」

 

「どうにもこうにもウキが沈む気配すら無いんだって_____って、え!?」

「?」

隣から聞こえた声はユイの物ではなく、歳を重ねたおじさんとおじいさんの中間____優しい壮年の男性の声だった。

「あ、はははは!驚かせてしまいましたな」

と、頭を掻きながら笑顔で彼は言った。

「えっと……どなたですか…?」

「いや、ただの通りすがりですよ。私もここら辺で釣ろうかな、と思っていたら先客がいたのでつい気になって…」

 

厚着のジャンパーに、恐らく防水加工されたであろうテカテカのズボン。肩には1本の釣竿を携えている。麦わら帽子を被った彼は明らかに四十代、いや、五十代を超えているように見える。鈍色の眼鏡をかけた彼は、このSAOには中々に不釣り合いだと、キリトに思わせた。何せ、SAOと言えば重度のゲームマニアが揃って争奪戦に挑み、その中で勝ち抜いた猛者だけがここに来ることを許される_____今や地獄と化した訳だが_____そんなアインクラッドにこんなおじいさんがいるだろうか、と不思議に思った。

 

「あ、すみません。何でしたら別の場所に移動しますけど…」

「いえいえとんでもない!ここで釣りを続けてくださっていいんですよ。良ければ私もお隣にいいですかな?」

「はい、もちろん」

彼の提案にすぐに答えるキリト。一瞬NPCかと思ったが、違うと言うことをすぐに察したキリトは、自己紹介から始めた。

「上の層から引っ越して来た、キリトって言います。この子はユイ」

「_____おじさん、だぁれ?」

「私は、ニシダと言うんだよ。呼びやすい呼び方でいいからね?」

ユイに対して優しく自己紹介をする、ニシダ。

「ぅ……おじさん?」

「おじさんでえいよ。ユイちゃん」

おじさん、と呼ぶユイの頭を優しく撫でてキリトに視線を戻す。

「お子さん……ですかな?それともNPC?クエスト真っ最中でしたか?」

「あー、いえ、プレイヤーですよ。ちょっとワケありで………この層の森で迷子になってた所を保護したんです。記憶もあまり覚えていないようで…」

「それは……何とも、妙な話ですな。ですが、有り得ない話でもない。こんな世界に閉じ込められちゃ……小さい子供はそうなってしまう」

複雑な表情を作るニシダ。やはり彼なりに思う事はあるようだ。

「私は、ここを拠点に活動している釣り師でして。日本では『東都高速線』という会社の保安部長をしとりました」

名刺がなくてすみませんな、と付け足してわはははと笑う壮年の男性。

「____東都高速線……もしかして、SAOの回線保守の…?」

「…覚えて下さってましたか。ええ、一応責任者ということになっとりました」

 

『東都高速線』。

SAOを作ったアーガス社、そのアーガス社と提携していたネットワーク運営企業の一つ。SAOサーバーに繋がる経路も手掛けている、一大企業だ。

が、そんな事にまで目をつけている人はやはり少ない。キリトはかなり重度のゲーマーで、SAOに関する雑誌などは読み耽っていた事もあり、少しだけ覚えていた。

 

「何もログインまではせんでええよと上に言われてたんですがねぇ。私は自分のやってる仕事は自分の目で見んと収まらん性分でして……全く、年寄りの冷や水が、とんでもないことになりましたわい」

ははは、と彼は笑う。

 

SAOにおいて、プレイヤー達は2種類に分類される。片方はこのデスゲームを受け止めきれず、心を閉ざす者。もう一方は、この現実を受けいれてそれでも尚ゲーム攻略に挑む者。現実を受け入れた上で戦うことは出来ずとも、前へと進もうとする人達である。

 

その点で言うと、彼は恐らく_____

「まぁ、私と同じようないい歳してアインクラッド(こんなところ)に来てしまった親父達が二、三十人いるようでして。大抵、初めは始まりの街でじっとしとるんですがね…まぁ、それでも外に出ていく変わり者がいくらか居たんですよ。まぁ、その一人が私なんです」

____後者だろう。

彼は最後に笑って、自らの持っていた竿を、すい、と振った。年季が入っているようで、自然な動きだった。

「私の場合、これ(釣り)が三度の飯より好きなもんでして。良い川やら湖、それに海が無いかと探している内にここに辿り着いたんですよ。ここは…何と言うか、故郷を思い出す」

彼はそう言って、遠い故郷を思い出すかのように景色を見た。

「…確かに、ほかの層と比べても何と言うか、自然豊かで……落ち着きますし、何よりモンスターが出ない」

 

ええ、とニヤリと笑い、慣れた手つきで竿を動かす。

SAO内の《釣り》のシステムは特に竿を持った時の現実と同じ技術力は必要ないのだが、彼はそこにさえ拘っているのだろう。小刻みに竿を動かしている。恐らく、《トゥイッチ》と呼ばれる竿の動かし方だ。キリトに専門的知識は無いので、おお凄いなぁ、程度にしか感じられなかった。

 

「で、上の層には良いポイントはありますかな?」

「うーん、そうだなぁ…17層の海……は知ってますか。なら、六十一層はどうです?あそこも全面海でしたよ。確か、相当な大物が釣れるとか何とか。俺は攻略に必死であまり釣りは出来てませんでしたけど、結構良さげでしたね」

「ほほう!それはぜひ行ってみなければ…む!」

 

と、その時。

ニシダはこれまた自然な動きで竿を操る。ヒットしたらしい。

彼の釣竿はキリトのものと違って上級者向きの釣竿なようで、ウキが着いていない。

故に彼の竿を持つ手の感覚が頼りになる。

反射神経は抜群でかかった瞬間、彼の表情は真剣なものへと_____現代で言う、ゲームに夢中になる子供のような表情になった。

彼は、彼なりにこの世界を楽しんでいるようだ。

やはり年の功、と言う奴か。

キリト達よりも、随分と大人だった。

 

「ぇ……なんで釣れるんですか___ってうお!?デカい!!」

「ぁ、ぱぱ!すごい!おじさんつれてる!!」

「あ、ああ!凄いな、ユイ!」

親子のように2人して身を乗り出し、湖面を凝視する。

チラリと見えた魚影はかなりのもので、50cmを余裕で超えそうなぐらいだった。

それを横目に、彼は悠然と竿を操る。そして___

「ほっ!」

「おお!」

「すごい!」

一気に水面から魚を引き抜いて見せた。

「うん、中々のあたりですな」

「お見事!……結構《釣り》スキルの熟練度上げてますね」

「まぁ、ほぼ1年半の間ずっとやっとった事ですからな。数値次第で何とかなります。そういう所は、向こう(現実)とは違いますねぇ」

「まぁ、そういう世界ですし…」

「……実は私、釣るのはいいんですが、料理が何とも……スキルは少し前から鍛えてはいたんですが、何せ向こう(現実)の調味料がアインクラッド(ここ)では無いと来た。煮付けに刺し身でビールをクイっとやりたいんですが……醤油が無いと如何せん、向こう(現実)の味を再現出来ないもんで…」

「あー………まぁ、ここにはこれって言うような調味料無いですから。やるなら自分自身で作れっていう鬼仕様ですし…」

 

醤油やみりん、ポン酢、マヨネーズ等の基本的な調味料がここには無い。塩や胡椒などの最低限の物はあるが、それ以外に関しては皆無だ。あっても、それっぽいナニカである。故に料理スキルはある意味鬼畜仕様で、向こう(現実)で舌の肥えてしまった現代人には厳しい現状である。

 

しかし。

キリトにとって、それは瑣末な問題であった。

ロニエ達攻略組女子グループが1ヶ月以上かけて再現した調味料の数々があるおかげで非常にいいモノを食べていたからだ。

その中には醤油もあったような…と思い出すキリト。

 

「あ、まま!」

「?まま?」

「うん!ままはね、すっごくおいしいごはんつくってくれるんだよ!」

「ほぉ!料理上手なお母さんがいましたか。それはさぞ美味しいでしょう」

と、油断しているとユイが勝手にロニエの料理を自慢し始めた。と、言っても、まだ2食しか食べたことが無いはずなのだが。

しかし、ユイがこんなにも自慢げに話してしまったのだ。後になって引けないな、とキリトは諦めてニシダに声をかける。

「……ウチに、自家製の醤油っぽいものならありますけど……」

控えめに言うキリト。それを聞いた彼は_____

「______な、なななななななな、なんですとォ!?」

目を輝かせて身を乗り出してきた。

ああ、これは是非ウチのロニエ()の料理を振舞ってあげなくては……そう思ったキリトだった。

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

「おかえりなさい、先輩」

お客さんを連れて帰ってきた二人。ロニエはその二人を優しく出迎えた。

「ただいま!まま!!」

「おかえり、ユイ。ちゃんとパパの言うこと聞けた?」

「うん!」

「あ、もしかして、そちらの方が…?」

「ああ、こっちが釣り師のニシダさん。湖で一緒に釣りしてたんだ。話は言った通りだな。ニシダさん、こちらが____」

まずは紹介を。

「______きっ、キリト先p……いえ、キリトの妻の、ロニエですっ」

「貴女が……?いやぁ、キリト君から話は聞きましたよ。自分にはもったいないくらいのいい嫁さんだって」

「ふぇっ!?」

「いやぁ……妻子持ちとは、恐れ入りますなぁ!」

「妻子持ちって……まぁ、半々で正解不正解かな」

「キリト君の言う通り、美人さんだ。こりゃ、いい人を捕まえましたなキリト君!」

「そうでしょう!」

「せ、先輩っ!」//////

 

 

 

 

 

 

 

やってきたお客さんにも楽しんで貰えるように、と腕によりをかけて作ってくれた料理を食べ終わった4人。

「いやぁ…美味しかった!こんなにも美味しいものを食べたのは本当に久し振りですなぁ」

「良かったです!魚料理は慣れていなかったのでどうかな…と思ってたんですけど…」

「美味かったな、ユイ!流石はママだ」

「うん!」

「____仲が良いのですね。すっかりお二人に懐いている」

優しい笑みで三人を見ているニシダ。

「ニシダさん。良かったら、醤油を貰ってくれませんか?」

「いいんですか!?」

「はい。故郷の味と言うのは何より嬉しいものですし、是非貰って頂けたらと」

「…ありがとうございます!」

ロニエの提案で醤油を分けることになった。瓶に入った液体____色は本当の醤油とは全く違うが____はニシダにとっては宝のように見えただろう。

ロニエから瓶を貰って心躍らせるニシダ。

「ニシダさん、所でこの魚…全てニシダさんが…?」

「ええ」

「しょ、しょうがないだろ……だって俺だけ釣れないんだよ…」

「い、いえ、私先輩に嫌味を言ってる訳じゃないんです!」

「ははは!仕方がありませんよ。あのキリトさんが釣りをしていたあの湖は特別難易度が高いんですから、高い釣りスキルの熟練度が必要になってきますしねぇ」

「え」

と、ここでいきなり驚愕の事実。キリトの釣りスキルは500を超える程度。到底、釣れるものではなかったらしい。

「私がここで釣れるようになったのは確か、熟練度が800行ってからですな。今になってはコンプリートして楽に釣れるようになりましたがね」

「……俺が変に難易度高いとこに行ってたせい、か…」

「あはは…」

「何せ_______あの湖には()()がおるようですからな」

「「_____ヌシ?」」

「?」

ここでニシダの口から飛び出す聞きなれない単語。

「…ヌシって言うと、あの湖の元締め…じゃないですけど、かなりの大物なんですか?」

「ええ。私が住んどる村…その一角にある釣り道具専門店に、他の釣竿と比べると変に高いものがあるんですわ。気になってしまって、買ってしもうたんです。性能的には確かに耐久値の方がかなり他より高く設定されてたんです。試しに使ってみたんですが、それが全然釣れない。1時間以上待っても一向に釣れなくて、どこで釣れるモンなのかと歩いて____あの湖にたどり着いた」

「…!」

「……その釣竿を使うことが出来るポイントが、先輩が釣りに行っていた湖だったんですね?」

「そうなんです。初めてヒットした時は驚きました。すぐ引いたんですが_____それが、餌どころか竿ごと持ってかれましてね。凄いモンですよ、アレは!最後に魚影を見たんですが、5mは余裕でありましたよ!大物なんて言葉では表せない_____文字通り、化け物(モンスター)級でしたな!!私自身、あまりレベルは高くないので負けてしまいましたが…いつか再戦したいと思っとるんです」

「へぇ…5m級の魚か_______」

「凄いですね…!」

「おっきいおさかな?」

「うん、そうよ」

「……そういえば、キリトさん」

「はい?」

「確か、上の層から越してきたと言ってませんでしたかな?」

「ええ、まぁ」

「レベルの方は如何程に……?」

「……」

いきなりストレートな質問にどうしようかと一瞬悩むキリト。

 

SAOにおいて、他人にレベルを聞くと言うのは御法度とは行かないにしても、あまり褒められた行為では無い。ある意味、この世界での個人情報でもある。それを言いふらされたり、その情報を情報屋や殺人鬼(レッドプレイヤー)に渡されると、キリトも流石に困る。

 

しかし、彼の人となりを今日半日見てきたキリトには彼がそんな事をするような人柄には見えなかった。それに彼は純粋にレベルが聞きたいようだ。

それに、キリトには彼の考えている事が何となく分かっていた。

目でロニエに確認をとる。ロニエも分かっていたようで笑顔で頷いてくれた。

「100は、超えてますけど…」

「な、なんと!」

「筋力値も自信アリですよ、ニシダさん」

「…もしかして、バレましたかな?」

「…お手伝い、ですよね?」

「いやはや、隠し事はするもんじゃありませんな!」

ははは、と大声で笑うニシダ。キリトの勘は当たっていたようだ。

「じゃあ、お手伝いをお願いしてもよろしいですかな?」

「ええ、俺でよければ。まぁ、手伝いと言っても何すればいいか、てんでわからないですけどね」

「いえいえ!ただ、《スイッチ》するだけですよ!ヒットした瞬間に、キリトさんと私がスイッチするんです。そうすればもう魚はヒットしとる訳ですし、後はキリトさんにお任せです!力いっぱい引っ張ってくれれば!」

力説するニシダにほうほう、と頷くキリト。

「奥さんも、よろしいですかな?」

「はい、私もご一緒しますね。その噂の《ヌシ》が釣れるところを見てみたいですから」

「…!ゆいもいく!おおきなおさかな、みたい!」

「そうね、ユイ」

「では……明日はどうですかな?私は用事なんてありませんから、お二人の予定さえ合えば…」

「どうする、ロニエ?」

「行きましょう、先輩!ユイちゃんの件はその次の日にしましょう」

「だな。じゃあニシダさん。喜んで手伝わせてもらいますね」

「ありがたい!」

急遽頼み事(クエスト)を受けた二人は快く承諾したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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