ソードアート・オンライン ~時を越えた青薔薇の剣士~ 作:クロス・アラベル
いよいよ、ボス戦です。
このボス戦に関しては、あともう一話続く予定になっています。
元々原作、またはアニメで骨ムカデ戦は戦闘描写が少なめになっているのに、少し不満を感じ、自分なりに書けたらなぁ…と考え、頑張りました。
では、本編の方をどうぞ〜
○
1年半と少し前。
SAOのベータテストが開始された当時、ボス戦とは完全なトライアンドエラーの繰り返しだった。最初のボス戦もレベル不足で全滅したという。そして、ベータテスター達はそのトライアンドエラーを繰り返して、ゴリ押しに近い形でベータテストを楽しんだ。
それ故にプレイヤー達からすれば今回のギミック、《結晶無効化地域》も刺して問題なく、トライアンドエラーに_______本来はなる筈だった。
しかし、デスゲームとなってしまったこのSAOでは、トライアンドエラーは絶対に許されない。
回復結晶であれば即座に体力が完全回復する優れ物。転移結晶であれば一瞬で街へとワープが出来る高価なものだ。ボス戦において、双方は回復、撤退に使われていた。
が、今回はそれが出来ない。
そして極めつけは_______撤退が完全に不可能という事だ。
扉はボスが倒されるか、ボス部屋に入ったプレイヤーが全滅しない限り内からも外からも開かないという鬼仕様。
1度入れば、もうボスを倒すまで出ることは許されない。
これでは偵察部隊を送り込むことも意味をなさない。
故に、これからのボス戦は
プレイヤーから言わせれば_____《鬼畜》そのものだ。
数多くの足音。ガシャガシャと、鎧と鎧が走ることによってぶつかり合い、金属音が鳴り響く。
ボス部屋に入り込んだ攻略組一行。
しかし_____ボスの姿は無い。
「_____何処だ?」
全員が入口に集まり、周囲を確認するが、ボスの姿は見当たらない。
しかし____唯一、記憶を見て知っているユージオは即座に上を向いた。
「_____皆、上だ!!」
ユージオの声に全員が上を、ボス部屋の天井を向く。
そこには_____
「
天井に張り付くように、ヤツはいた。
その姿はまさに、ユージオが言った通り百足に似ている_____全身の肉が無く、骨しか残っていないのを除いて。
『_____!!!!!』
即座に居場所がバレたボスは、腹立たしげにユージオ達攻略組を睨みつけ、奇声を上げながら____落下してくる。
「全員戦闘態勢_____これより、75層ボス攻略を開始する!!」
各々が武器を構える。
轟音を響かせて飛び降りてきたその百足骸骨はボス部屋の中央に陣取った。
『ギジャァァァァァァアアアアアア!!』
ボスの体力ゲージが出現し、ボスの名前が表示される。
《The Skullreaper》
ボス特有の固有名称。
直訳すれば___《骸骨の刈り手》。
刈り手というのは、ボスの前足の2本の鋭い鎌から来ているのだろう。
死闘の火蓋が_______切って落とされた。
「タンク隊前へ!!」
ディアベルの指揮の元、攻略組は今まで以上に上手く回っていた。
戦闘開始から10分間のボス行動パターンの見極め。それが上手くいったおかげで攻略組の立ち回りも確立した。
彼らが1番気をつけるべき攻撃は_____前足による強斬撃。これは予備動作が大きいので分かりやすい。が、火力が尋常ではない。
これを初めに血盟騎士団の団員2人が不意打ちの強斬撃を武器による防御体勢で受けた時は____攻略組全員、血の気が引いた。
____七割。
防御姿勢のままでもここまで削られてしまった。
ディアベルの判断により、前足による全ての斬撃は6人以上の盾持ちタンクでの防御必須となった。
しかし、タンク達でさえ半分近く削られる為、一度の防御で全員が下がって回復をしなければならない。
「3、2、1____今!!」
『『『うおおおおおお!!』』』
凄まじい衝突音。
しかし、タンク隊は見事防ぎきった。
直後、後ろへと下がっていくタンク達。
だが______ボスの攻撃は一撃だけではない。大鎌の如き前足は二本ある。
それを防ぐのはタンク隊ではなく____
「ネズハ!!」
クワァァァァァン、という爽快な音と共に振り下ろされるはずの前足はその場で止まる。
ボスの顔面に炸裂した何かは、弧を描いて攻略組の後衛、ボス部屋の入口へと帰っていく。
《チャクラム》。
SAOにおける、遠距離武器は殆ど無いに等しい。しかし、その例外として____唯一、遠距離武器が用意されている。
それが、《投擲》スキルと《体術》スキル、両方を持っていないと使うことが出来ない武器、《チャクラム》だ。
そのチャクラムは攻撃力としては最底辺で、ダメージは微々たるものだ。しかし、そのチャクラムの利点として____モンスターの弱点にクリティカルヒットさせることによって、高確率でモンスターの攻撃を《
そのチャクラムを使うプレイヤーは極少数、SAOにおいても、使用者は50人も居ないだろう。何せ、チャクラムはサポート武器だ。1人ではモンスター討伐はままならないし、モンスターを倒せないということは、ろくにレベルアップを出来ない。
だが_____このボス戦においては、最重要ポジションとなる。
高確率でボスモンスターの攻撃を《
故に、指揮官たるディアベルやヒースクリフ達につぐ重要___いや、この攻略組においてこのチャクラムこそが今までのボス戦をほぼ
それ故に。
この攻略組唯一の《チャクラム使い》、ネズハは攻略組を支える大きな支柱だった。
ネズハはそれを見事にキャッチし、再び投げの姿勢へ。
チャクラムによる《
その一瞬を_______《
「うおおおおッ!!」
「「やぁぁぁああ!!」」
「はあッ!!」
すかさず各々の得物を閃かせる。
しかし____
「___硬いな!」
HPゲージはほんの数ドット削れたかどうかと言ったところだった。
「けど、攻撃が通じてないわけじゃない!」
「落ち着いて行きましょう!!」
「____攻撃来ます!」
ボスから距離をとりつつ、相手の行動パターンを読む。
振り上げられた大鎌。それを二手に分かれて避け、再び突撃態勢へ。
その大鎌の如き前足は_____再び飛来したネズハのチャクラムによって《
そこへ___二本の紫閃が走った。
「せいやぁ!!」
「はッ!!」
ユウキとランだ。
2人は双子らしく息ぴったりの動きを見せる。
とある層の迷宮区にて。
同時攻撃でなければダメージが与えられない規格外のボスが現れ、攻略組は苦戦を強いられた。
が、そんな鬼仕様のボスに対し難なくシンクロ攻撃を成功させ、そのボス戦においてのダメージ量はトップだったユウキとラン。しかも2人とも武器種が片手剣と細剣と、使い勝手が違うと言うのにまさに精密機械の如く、2人は攻撃を合わせることが出来る。レベルだけではない、技術面に関しても他とは違った。
その2人のシンクロ攻撃は、攻略組の中でも郡を抜く。
キリト達に次ぐ、トッププレイヤーだ。
攻略自体は、順調だった。
当初はかなり苦戦していたものの、20分程の様子見でパターンを割り出し、今に至る。
攻撃開始から1時間ほどが経過している。
5本あったHPゲージは後、二本。それも4本目は後、1割。
「____今のとこ、犠牲者無しだ……このまま行くぞ!!」
死者はゼロ。
HPを八割一気に飛ばされることはあれど、即刻退避を徹底しているため死者は出ていない。
再び走り出すキリトたち。
このボス戦をここまで安定させられているのは、ネズハのチャクラムともうひとつ_____
『ギジャァァァァァ!!!!』
《強制中断》から立ち直ったボスは即座に移動しながら斬撃を喰らわせようと大鎌を振るう。
それを、
「ぬんッ!!」
がっちりと大盾で防ぎ切る、壮年の偉丈夫。
血盟騎士団団長、ヒースクリフだ。
彼こそが、タンク隊____いや、アインクラッドの中でもNO.1のタンクだろう。
絶対的守り。
攻略組がここまで死者ゼロで進めてこられたのは、彼のおかげとも言える。
ボスの強斬撃ですら、受け止めてしまう凄まじい防御力。
対して、彼のHPゲージは_____半分まで減っていない。
今の一撃を止めた時の反動は、2割程度に収まっている。まさに化け物だ。
先程もこのボスのフェイントモーションに騙されてキリトが死ぬところだったのを彼に助けられた。
しかし、ヒースクリフと言えど止められるのは片方の大鎌のみ。
完全な同時攻撃はしてこないボスだったが、ヒースクリフに右の大鎌を止められたことに苛立っているのか。即座に折りたたんでいて左の大鎌を解放し、ヒースクリフを貫こうとする。
「ティーゼ!!」
「はいっ!」
それをユージオとティーゼが息ぴったりのソードスキル同時発動をし、ボスの強斬撃を払う。
「ぜああああッ!!」
「りゃあああッ!!」
奴の前足による強斬撃は、いくらキリト達といえど1人では防げないし流すのも難しい。
だが____2人なら話は別だ。
タイミングさえ合えば2人で大鎌の攻撃を払うことは可能だった。
「おおッ!!」
「やぁッ!!」
その隙を逃さず、ソードスキルを叩き込むキリトとロニエ。
仰け反るスカルリーパー。
ユージオは自分のHPゲージを確認して、一時後退を即決した。ユージオもティーゼもHPゲージが6割。このままだと心もとない。ディアベルにもHPが7割を下回ったら後退し、回復するようにと言われている。
「ティーゼ!」
「分かりました!」
ティーゼに一言かけて、ユージオはボス部屋の入口_____1番後ろへと下がっていく。
キリトとロニエの一撃が頭に入ったからか_____ユージオとティーゼが下がった直後、ボスが床に崩れ落ちた。
「____全員、突撃!!ボスを出来るだけ囲まないように、最大攻撃力のソードスキルを叩き込め!!」
倒れ込むボス。それにディアベルはすかさず指示を出す。
ユージオは一瞬、自分も攻撃に回った方がいいかと考えたが、やはり体力の回復は済ませておきたい。なので、総攻撃は断念した。
全員が各々の得物を閃かせる。
ソードスキルのライトエフェクトがボス部屋を染め上げる。
そして____ボスのHPゲージ、4本目が完全にゼロになった。
「全員後退!!パターン変わるぞ!!」
ディアベルの指示は的確だった。
SAOのボスはHPゲージが最後の1本になると、行動パターンが変わる傾向がある。第1層の《コボルドロード》のように。
故に、ゲージを飛ばしたら即後退。
これがセオリーだ。
攻略組全員がわかっている。
だから、攻略組の行動は早かった。
すぐさま後ろへと下がろうとした_____その時だった。
『ギ…ギギギギギギギギギギギギィィィィィィイイイイ_____!!』
ボスが、奇声を上げながら何か体をとぐろを巻くように、丸まって______
直後、ボス部屋全体に衝撃が走った。
轟音。
「が、ァ______!?」
ボスが生み出した、衝撃波のような
ボスの近くにいたプレイヤー達____ほとんどのプレイヤーがそれを食らって、ボス部屋の端に吹き飛ばされていく。
「な_______」
ユージオとティーゼは驚愕した。その声はどちらから出たものか。
奴に____あんな攻撃方法があったというのか。
世にいう、《初見殺し》だった。
あんなもの、対処出来るはずがない。
ユージオの視界の左端、パーティメンバーであるキリトやロニエ達HPゲージが表示されている。
ユージオは直ぐにそれをちらりと見た。
残るHPは______2割程度と言ったところか。
これでは、戦うことなど不可能だ。ほぼ全快状態で戦って今まで交戦出来ていたというのに。
攻略組の中には、レッドゾーンに入っている者もいる。
ユージオはボスを見る。
ボスは____奇声を上げながら暴れている。HPゲージを削りきった時のモーション中のようで、まだこちらに攻撃をする気配はない。だが、このままでは一人、また一人とトドメを刺されてしまう。
通常のボス攻略なら結晶アイテムが使える。今からでも立て直すことはギリギリ可能かもしれない。
だが____今回のボス戦にて、それは許されない。《結晶無効化地域》がボス部屋のデフォルトになっている今、時間のかかるポーションによる回復を余儀なくされている。
《
連続でポーションを飲もうとすれば、1分かかってしまう。
しかし、ボスがその1分間、じっとしてくれる訳が無い。今はHPゲージを削られた時のモーションを見せているだけで、あと10秒程度で再び攻撃を始めるだろう。
詰み。
完全に、プレイヤー側の敗北だった。
____しかし、ここには、回復が後数秒で終わるプレイヤーがいる。
ユージオとティーゼ。そして、その他、回復していたプレイヤー達数人。月夜の黒猫団達と、血盟騎士団数名。
しかし、人数は10人と少し。
普通なら、逆転など有り得ない。
全滅を回避するならば______ポーションを飲み、回復する時間を稼がなければならない。
贅沢を言うならば、2分程度か。
その2分があれば____ギリギリで回復が済むかどうか。
「_______ティーゼ」
故に。
ユージオは即決した。
「___先、輩……?」
「
「____!!」
ユージオの
「_____でも、あれは」
「ティーゼ、1分半_______いや、2分持たせる。その間に、みんなを」
ユージオは左腰の愛剣の柄に手を当てて、そして、メインメニューを呼び起こす。
「ぁ_______っ!分かり、ました。任せて下さい。でも、___ユージオ先輩、一つだけ……約束してください」
「___?」
「_______私のこと………また置いていかないでくださいね…?もう、次は許しません、から…!」
「_____うん、約束するよ」
ティーゼの涙の懇願に、ユージオはティーゼにそっと優しくキスした。
「さあ_______行こう、相棒」
ユージオは愛剣にそう呟いて、とあるスキルを発動する。
剣を鞘から抜いて、刃を____自分の左手に
「____ッ」
そして、左手から剣を抜く。
流血のエフェクトがユージオの《
ユージオはそれと同時に、メインメニューに表示されたスキルの発動するボタンを押した。
「____やっぱり、あの時の再現みたいで、あんまりいい気分じゃないなぁ」
直後、紅い光が剣を包み込む。
氷の如く白く、綺麗なスカイブルーの刀身が____真紅に染まっていく。
ユージオの、血のエフェクトと同色へ。
目を閉じて思わず、
「_____じゃあ、最後まで足掻こうか」
彼が今までティーゼにしか打ち明けていなかった、
それが今、解き放たれる。