では、第五十七話をどうぞ
Side鏡夜
「幽々子様!」
桜の木にぶつかった彼女の心配をしていると、階段の方から妖夢が走って来た。
俺の上着を着ていているため、詳しくは分からないが、どうやら動けるほどまでに傷と他体力が回復したみたいだ。
妖夢はそのまま彼女まで駆け寄ると、彼女の安否を確認し始めた。首や手首の脈を測り始めたのだ。っと、ここで、思ったんだが、幽霊にも脈があるのだろうか? ……細かいツッコミはなしか。
妖夢は一通り彼女の安否を確認し終えると、一息ついた。
「ふ~良かった。無事なようですね……それにしても、師匠? これは一体?」
「もう師匠って自然と呼ばれるんだ……えっとね、彼女がどうして気絶してるかは……彼女から教えてもらって頂戴」
「え!?」
「あら、気づいていたの?」
先ほどまで気絶していた彼女は、俺の言葉に返答すると、目を開いた。
実は彼女、妖夢が来た時から起きていたのだが、面白がっていったのか、ずっと気絶していたふりをしていたのだ。
だが、目を覚ましていたとしても、ダメージを受けすぎて起きれないか。
「さっきから、気づいてたよ」
「あら、私も落ちたものね」
彼女はゆっくりと立ち上がろうとするが、やはり先ほどのダメージが残っているせいか、立ち上がれなかった。
そんな彼女に妖夢は急いで肩を貸そうとしたが、彼女はそれを拒否して、桜の木に背中を預けて座り込んだ。
「あらら、ちょっとまだ無理みたいだわね。……妖夢、少しお腹が空いたから、食べ物を持ってきて頂戴」
「ですが幽々子様。傷の方が……」
「だからよ。だからこそ、ご飯を食べて元気を出さないといけないでしょう?」
「……解りました。少し待っててください」
妖夢は渋々といった感じでこの場から、走り去っていく。
そうして、わざとこの場から妖夢を遠ざけた幽々子は、走り去っていく妖夢を見てから、無表情でこちらを見つめてきた。
その無表情から出る瞳は、まるでこちらを見透かすようだったが、数秒程こちらを見つめると、ニッコリと笑った。
「助けてくれてありがと~ね~。私は西行寺幽々子。よろしくね~」
「初めまして幽々子さん。私は……」
「時成鏡夜でしょう? 知ってるわよ~」
「おや、知っておりましたか」
「紫に聞いたのよ~それと、妖忌からもね~」
「紫ちゃんに妖忌ですか。……成程、貴方が妖忌が言っていた我が主ですか」
「そうよ~」
「……で、本題はなんですか?」
ぽわぽわとした雰囲気を放ちながら話す彼女だが、どこか無理をしている感じがする。まるで、必死に自分の気持ちを押さえ込んでいるような。
その証拠に、先ほどニッコリと彼女は笑ったが、俺と話している内に、段々とその瞳の奥に、悲しみが渦巻いてきていた。
「……貴方には、解ってしまうのね」
「別に、何もわからないさ。ただ、何か隠しているように感じただけさ」
「……そうなの」
彼女はそう呟くと、桜の木を見上げた。
さっき俺と戦った時にはドス黒い怨念を噴出していたのに、現在はただ綺麗な桜の花びらを咲かせている桜の木だ。大体、八分咲きぐらいだろうか?
「……この桜の木はね」
「ん?」
桜の木を眺めていると、急に彼女は喋り始めた。俺は彼女の方を見ると、彼女は桜の木を見ながら、どこか懐かしむように語り始めた。
「昔、この桜の木は何十、何百って人を死に誘ったの」
「……そのようだね」
「でも、この桜の木はそれでは飽き足らず、この桜の木があったこの場所。この、西行寺の主を死に誘ったの」
「……」
「そこまでだったらよかった。けれど、今度はその主の小さな娘に、ある呪い……みたいなものね。が、掛かったのよ」
「呪い?」
「そ、呪い」
彼女はそこで一旦言葉を切ると、目を瞑った。時間にして数秒ほどなのだが、俺の体感では何十分瞑っているような感覚だった。
そうして彼女は目を開けると、悲しそうに声を出して再びしゃべり始めた。
「その娘には、桜の木と同じ、人を死に誘う、そんな呪いがかかってしまったの。……そんな、呪いを受けた彼女の周りはどうなったと思う?」
「……全員死んだ?」
全員、もしくは親しい者たちの死。そのようなものだと思っていたが、彼女は首を横に振って否定した。
「いいえ。なんとか、全員は死ななかったわ。でも、それでも、彼女の親しい者たちが死ぬか、彼女から離れていったわ」
「それで、彼女は?」
「死のうとしたわ。こんな能力を持っている自分なんか死んだほうがマシだって考えてね」
「それは……」
悲しすぎる。
救いの手も無く、誰にも相手にされず、ただ絶望したまま死んでいく。そんなのは悲しすぎる。
「でもね……そんな絶望している彼女を救った者がいるの」
「もしかして、そいつが」
「その者の名は紫。八雲紫。呪いを受けてからずっと一人だった彼女の、初めての親友だったわ。彼女は、相手が妖怪だと言うのにも関わらず、とっても仲良くしたそうよ」
「そこまでだったら、幸せだね」
「そうね、確かにこのまま紫と一緒に過ごしていれば幸せだったかしらね。……でも、彼女たちの幸せは長くは続かなかったわ」
「……一体、彼女たちに何が?」
「彼女の人を死にさそう呪いが、とうとう桜の木と同じほどまでに強まったのよ。それをどうにかしようと、紫は未熟な力を何とかして抑えようとしわ。でも……もう遅かった。彼女の精神は、周りの人が自分のせいで死んでいくのに耐えられなかった。そして、一度は無くなっていた自殺願望がまた出てきたの」
「その時、紫ちゃんは?」
「わからないわ。何とかして止めようとしていたとは言っていたけど。……それで、彼女は自殺を選んだわ。でも、ただ自殺では無く、自分の命を犠牲にして、桜の木を封じ込めようとしたのよ。……それで、この話はおしまい。それと、この話しは紫に聞いた話しよ」
「……」
わかってしまった。
彼女はそうして自殺し、この桜の木を……己の身を犠牲にして封印したのだ。多分、紫ちゃんは真っ先にこの案が浮かんでいただろう。しかし、それをさせない為に、必死に他の封印方法を模索していたのだろう。
だが、紫ちゃんは間に合わず、彼女は死んでしまった。西行寺幽々子は死んでしまった。紫ちゃんは悔しくて悔しくて仕方なかっただろう。故に、こんな中途半端に幽々子に伝えたのだろう。
それに、どうやら幽々子は自分の生前の記憶を失っているようだし。
「それでね、私が今回なんでこんな異変を起こしたかというと、この話しが関係してるのよね。どうやら、この桜の木の下には、決して目覚めさせていけない何かがいるって紫に聞いたのよ。そんな何かが気になってね。それで異変を起こしたのよ」
何がいるのかしらね~っと彼女は呟くが、内心気づいているのだろう。
桜の木の下に、自分自身の死体が埋まっていることに。
「でも、もういいわ~疲れちゃったから」
「……そうかい、それじゃあこれからどうするんだい?」
「紫と喋ったり、他の皆と一緒に話したり、妖夢と一緒にのんびりと暮らすわ~死んでるけど。それぐらいは許されるでしょう~……」
そう言った幽々子の瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「……席を外そうか?」
「いいわ。むしろもっと近くに来て頂戴」
俺は言われた通り、幽々子に近づきそっと片膝を折って、幽々子と同じ目線にする。
目線を同じにして解ったのだが、今の彼女の表情は、最初にあったお姉さんという雰囲気は消え、一人の、少女のような表情をしていた。
「情けないわよね。屋敷の主というものが泣くなんて……」
「別にいいさ。泣きたければ泣けばいい」
「そう……じゃあ、少し借りるわよ」
「どうぞ」
俺がそう言った次の瞬間、幽々子は背中を預けていた桜の木から背中を離すと、ゆっくりと俺の胸に顔を埋めた。そして―――
「う、うぇぇぇぇええええええんんんん!!!!!!!!!」
少女のように泣きじゃくった。
「眠ったか」
泣き疲れたのか、幽々子は俺の胸の中ですやすやと眠ってしまった。
今まで溜まっていたものが溢れ出しただのだろう。もしかしたら、あの死に体を乗っ取られ時に、生前の記憶でも思い出したのかもしれない。だから、泣き疲れて眠るほど泣いたのかもしれない。
まあ、それは彼女しか知りえないのだが。
「……でだ、いい加減出てこいよ。妖夢」
「……」
桜の木の背後に声を掛けると、そこからゆっくりと妖夢が姿を表した。その表情はどことなく悲しそうな表情をしている。
「……師匠」
「何も言わないであげなさい、妖夢。人には人の、幽霊には幽霊の悲しい記憶があるんだから」
「……はい」
ゆっくりと頷いた妖夢にそっと幽々子を渡した俺は、未だ気絶している咲夜ちゃんの方に歩いて向かった。
「ダメですよ~鏡夜さ~ん。でも~鏡夜さんがいいて言うなら~」
等と訳のわからん寝言を言っているが、そんなのは無視してお姫様抱っこで抱え上げる。
「あん! ダメですよ~そんなとこ触っちゃ~」
「一体、何見てるんだが」
先程までのシリアスは何処えやら。咲夜ちゃんのせいでさっきまでの雰囲気が台無しだよ。
そのまま咲夜ちゃんを抱きかかえたまま、妖夢の所まで行き、妖夢の隣に寝かせる。
「よっと、妖夢、こっちの子の介抱も頼む」
「こちらの方は?」
「俺の家族だ」
「成程、それでは仕方ありませんね」
妖夢の隣に咲夜ちゃんを寝かせた俺は、腕を大きく上に伸ばすと、は~っと息を吐いた。
「さてっと、妖夢。異変解決したから、宴会するぞ」
「宴会ですか?」
「ああ。というか、こんだけ立派な桜があるんだ。折角だし、花見でもしようぜ」
「いいですね。確かに、異変が終わったらそんなことをするって幽々子様もおっしゃってましたし、やりましょうか」
「おう。じゃあ、俺はちょっと料理作ってくるから、二人の介抱を頼むよ。ってなわけで、厨房借りるぞ」
「どうぞ」
そうして、異変も終わり、これから宴会を行うための料理を作ろうとした瞬間、異変は起きた。
鏡夜……
「お嬢様?」
俺は厨房までの足取りを止めて、急に聞こえてきたお嬢様の声に耳を傾ける。
助けて……
「お嬢様?」
お嬢様の声はドンドン大きくなり、そして――――
助けて、鏡夜!!!!!
「っ!?」
悲痛の声となって、俺の耳の響いた。
「すまん、妖夢。急用ができた!」
「え!? ちょ、師匠!?」
すぐさまその場から踵を返し、俺は登ってきた階段まで一瞬で距離を詰める。そして、階段の頂上へと付いた瞬間、その場から大きく前に跳ぶ。
羽を出して普段は飛ぶが、今回は違う。空中へと跳び、空気を蹴り跳ばして前進する。更に空気抵抗も曲げて、速度を上げる。これによって、俺のスピードは音速を超えた。
すぐさま、入ってきた巨大な門の上を通り抜け、通常の空へと抜け出す。
門の内側は真っ暗で、月明かりだけだったが、こちらの世界でも、同じだった。
「あ! 鏡夜さんだ!」
「あらあら、鏡夜さんではないですか」
「え、あ、う、鏡夜?」
外に飛び出すと、プリズムリバー三姉妹がいたが、俺はニッコリと笑ってすぐさまその場を後にした。
「お嬢様。どうかご無事で」
雲を突破して、地上へと出る。すぐさま、紅魔館の方角を見ると、そこには―――
「まさか……無事でいてくれよ!」
右上半分が破壊され、門も破壊されている紅魔館の姿があった。
空中を蹴っ飛ばし、紅魔館の門に接近すると、そこには血まみれで倒れている美鈴とカロの姿があった。
「カロ! 美鈴!」
急いで地上に降りて二人の安否を確認する。
カロの方は完全に気絶しており、美鈴の方は僅かに意識が残っていた。どちらとも、致命傷は避けられてはいるが、瀕死だ。
「美鈴!」
「う、あ、鏡夜……」
「しっかりしろ! 何があった!?」
「フードを被った奴に……襲われた。急いで……お嬢様たちが……」
「お前達は大丈夫なのか!?」
「大…丈夫……だから、速く」
「……すまない」
俺は再び美鈴を地面に寝かせると、そっと例の飴玉を胸に置いて、壊れている右上に跳び込んだ。
「な……これは……」
跳びこんだ先にいたのは、血まみれで横たわるお嬢様達とパチュリー様と小悪魔の姿。そして、そんな皆の中心に、フードを深く被りこんだ、例の吸血鬼事件の時にいた、杖を持った魔術師がいた。
「待っていましたよ。鏡夜さん」
如何だったでしょうか? 次回から、コラボに入っていきます。
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