ではでは、第六十六話をどうぞ。
Side鏡夜
「きょ……や! ……きょ……」
「お……てよ! ……きょ……」
眠くて意識が半覚醒の微睡みの中。俺の頬に何か冷たいようで、暖かいような何かが落ちてきた。
「に……ん! ……おき……」
そんな微睡みの中、女の子達の悲しい声。いつも聞いている、女の子達の悲痛な声が聞こえてくる。
この声に答えて、俺は起きなければならない。そうしなければならない……いや、そうしなければ、俺の目の前の少女たちは泣き止んでくれない。そんな感じがした。
「きょ……や……目を覚ましてよ! ……鏡夜!」
「っ!?」
一人の女の子の大きな声が聞こえた瞬間、俺の意識は覚醒した。目の前には、見慣れた少女達……俺の愛しの少女達である、レミリアとフラン、そして文。
三人はそれぞれ、俺を覗き込むようにして、大きな瞳から大粒の涙を滝のように流していた。
「……お嬢様」
「!? 鏡夜!」
「鏡夜!」
「兄さん!」
薄らと目を開けながら、三人に向かって声を掛けると、彼女たちはそれぞれ驚いた顔をした。
全く、情けない。こんな、少女達に心配かけさせるとは……俺も落ちたものだ。
お嬢様の膝に乗っけられていた頭をゆっくりと起こして上半身を上げると、体の痛みを無視して彼女達に微笑んだ。
「……心配……かけました」
微笑みながら、彼女達を見渡せる位置に行って言うと、彼女たちは涙を流していたせいで、真っ赤になった瞳を更にうるうるとさせて、俺の方を見てきた。
「鏡夜……起きたのよね……」
「本当に……生きてるんだよね……」
「……生きてるんだよ……ね……兄さん……」
「あぁ、生きてるよ。……いや、貴方たちを置いて、死んでなんていられないですよ」
軽口を叩きながらも、体は限界だ。筋肉は痛いし、頭も痛い、それに、なにより彼女たちを泣かせたことで、心が痛い。
そんな目をうるうるとさせている彼女たちは俺の言葉を聞いて俯くと、同時に彼女たちは俺に抱きついてきた。
「心配……したんだから……!」
「もし、鏡夜が死んじゃったらどうしようって……!」
「兄さん……兄さんが眠っているのを見て、本当に死んじゃったかと思ったんだよ……!」
彼女たちは、それぞれ抱きついたまま、声を殺して泣き始めた。
泣き始めた彼女達に、俺は無言で彼女達の背を撫でる。言葉を今言っても、逆効果だ。彼女たちが落ち着いてから、話しを始める方が、彼女達にとってもいいことだろう。
しばらくの間、彼女たちが泣き止むまで背を撫でていると、彼女たちは泣き止んできて、俺の体をもう離さないとばかり、思いっきり抱きついてきた。
「……文、レミリア、フラン。ごめんな、心配かけて……」
無言で言葉を聞く彼女達に、俺は更に言葉を噤んでいく。
「俺はな、レミリアとフランが傷つけられたことで、我を忘れて怒りのままに戦いを挑んでしまった。……それによって、文、フラン、レミリア。お前たちに心配を掛けてしまった。……本当にすまない」
最後に、彼女たちの体を思いっきり抱きしめた俺は、しばらく流しいていなかった涙を目から流し始めた。
「本当に……本当にすまない」
思いっきり抱きしめた彼女たちは、俺の言葉に反応するかのようにまたも思いっきり抱きしめ返してきた。
「……許さないわ」
「……ええ、許さないよ」
「……絶対に許さない」
明るい声でそう言った彼女たちは、俺から離れると、まるでひまわりが咲いたかのような明るい笑みを浮かべていた。
「許さないわ。だから……」
「許さないよ。だから……」
「許さない。だから……」
「「心配かけた罰として、一生私の旦那さんでいてね」」
「心配かけた罰として、一生私の兄さんでいてね」
「……ああ、勿論だよ。レミリア、フラン、文。俺は、一生旦那で、兄さんだよ」
彼女たちの意外な言葉に苦笑いを浮かべながら、俺は彼女たちともう一度、思いっきり抱き合った。
「それで、文。なんでこんな所にいるんだ?」
一頻り抱き合ってから数分。泣き止んだ彼女たちと俺は、互いに離れると、簡単に紅魔館の後片付けをしていた。
パチュリー様や小悪魔は図書館にて療養。カロに紅美鈴は外で、紅魔館の破片などの後片付けをしている。
そんな中、俺は文になんでここに居るのか訪ねていた。紅魔館の住人ならいざ知らず、何故文がここに居るのか、気になってしまったのだ。
「いやね……私がちょっと兄さんに会いたいな~と思って来たら、紅魔館がこんなことになっていてね……後は、わかるでしょう?」
「つまり、兄の愛不足で俺に会いに来たら、紅魔館が壊れていて、心配になって入ってきたら俺が倒れていたと」
「そういうこと」
納得はいったが、兄の愛不足というのには否定しないんだな。まぁ、文らしいと言えば文らしいか。
なんてことを話しながら片付けをしていると、あっという間に片付けは終了した。
「ふ~これで一段落ですね」
「お疲れ様、鏡夜」
「お疲れ、鏡夜」
片付けが終わると、お嬢様たちが走って、俺に抱きついてきた。
抱きつかれた衝撃で、後ろへと倒れそうになったが、俺はお嬢様達を抱きしめながらその場で回り始めた。
「さあ、お嬢様。片付けも終わりましたし、行きますよ!」
俺がそう言うと、お嬢様達は何を言っているのだろう? といった表情でこちらを見てきた。
「文。お前もついてこい!」
「えっと……何に?」
困っている彼女達に、俺はにやっと笑う。
「異変解決の宴会だよ」
宴会のことで、お嬢様に相談すると、俺と文とお嬢様達を除いた面子は紅魔館で留守番となった。
強制的にお留守番……という訳ではなく、皆傷の手当やら、体力の消耗が激しかったせいか、行く気力がないとの事だ。
そんな訳で、簡単な料理を作って紅魔館の留守番組のご飯を作り、余った食材は全てスキマの中へと入れて、俺達は今回の異変が起こったあの屋敷を向かおうとしていた。
「鏡夜、大丈夫?」
「大丈夫ですよ、お嬢様」
体の事が心配なのか、レミリアお嬢様は心配そうな表情で聞いてくる。
確かに痛みはあるが、この程度は許容範囲だ。それより、彼女たちが心配そうな表情で聞いてくる方が、心が痛い。
「では、宴会場へと向かいますよ!」
俺は詠唱なしで魔法陣を展開すると、魔法陣から四つの龍が召喚された。
斬鬼、溶王、雷帝、毒主。
四匹の龍は頭を垂れたままゆっくりと目を開けると、彼女たちのことを見て、吠えようとする。だが、吠える一瞬前で、俺は四匹の龍の頭をそっと撫でてやる。
「どうどう、敵じゃないから安心しろ。それより、他の俺の手助けをしてくれてありがとうなぁ」
四匹の龍の頭を撫でてやると、龍たちは気持ちよさそうに目を細めて彼女たちの前に頭を下げた。
「さぁ、どうぞ、乗ってくださいな」
龍がそれぞれ頭を下げる光景を見て、彼女たちは口を開けたままポカンとした表情で固まっていた。
「? どうしました?」
「鏡夜……全身から炎出してるんだけど、乗って大丈夫なの?」
「兄さん、なんかこの龍、毒気とか出てるんだけど」
「こっちはなんか全身刃物みたいだし」
彼女たちはそれぞれの龍の前まで行くと、各々の感想を述べた。
「大丈夫ですよ。この龍達は、敵だと認識しない限り、触れても大丈夫ですよ」
俺がそう言うと、彼女たちは龍へと恐る恐るといった感じで触った。すると、龍達はくすぐったそうな声を上げて、普通に彼女達に触れられていた。
彼女たちは、その反応を見て、安心だと解ると、それぞれの龍の背へと飛び乗った。
「お、おお!!」
「わ~触り心地がいい」
「兄さん、この龍良い匂い」
「ふふ、皆それぞれ、気に入ってもらえてよかったです」
それぞれ笑顔になりながら、自分の作った龍の背へと乗っていることに嬉しさを感じながら、俺は最後の龍へと飛び乗った。
「さぁ、行きますよ!」
俺の声と共に、龍達はそれぞれ宙へ浮くと、今回の宴会場へと向かって飛び始めた。
「さて、ここからは飛んでいきますよ」
プリズムリバー三姉妹がいなくなった巨大な門の前へと着いた俺たちは、それぞれの龍から飛び降りて、巨大な門の前へと飛び立った。
飛び立つ際、龍から離れたくないと言ったレミリアお嬢様だったが、手乗りサイズの溶王を渡すと、笑顔で喜んでくれた。
「ありがとう、鏡夜」
「いえいえ、どういたしまして。……さて、ではここから少し大変ですが、行きますよ」
巨大な門を見上げた俺は、ゆっくりと妖力で作り出した翼を羽ばたかせると、門の向こう側へ向かって飛び始めた。
「へ~空中にこんな門があったことも驚きだけれど、向こう側がこんなに綺麗なのも驚ね」
「これは、スクープのしがいがありますね!」
「鏡夜、なんか寒いから抱っこして?」
「いいですよ」
フランお嬢様だけ、なんか二人と違う気がするが、それは置いといて、俺はフランお嬢様を抱っこして、翼を羽ばたかせて、長い階段を飛び始めた。
「そういえば、忘れてたけど、咲夜はどうしたの?」
階段を飛んでいる最中、レミリアお嬢様はそんなことを聞いてきた。
「咲夜ちゃんは、今回の異変の最中に気絶してしまったので、ここに置いてきました」
「置いてきたって……大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。頼もしい弟子に託してきたので」
「弟子……?」
「えぇ、弟子です。……っと、そろそろ着きますよ」
なんて会話をしていたら、いつの間にか宴会場まで来ていた。
壊れていた門は妖夢が直したのか、拙いながらも直っている。そんな門をくぐり抜けると、中には桜の木に背中を付けて眠っている幽々子と、作ったであろう料理を庭のテーブルの上に並べている妖夢と咲夜ちゃんがいた。
プリズムリバー三姉妹は姿は見えないが、どうやら屋敷の中にいるようだ。屋敷の中から、宴会ようの練習か、楽器の音色が聞こえてくる。
「やっ! 帰ってきたよ」
「あ! 鏡夜さん、お帰りなさい」
「師匠、大丈夫でしたか?」
「あぁ、大丈夫だったよ」
二人に声を掛けると、心配した表情で俺に聞いてきた。やはり心配させてしまったことに、少々心苦しいが、俺は二人に笑顔で答えて、二人を安心させる。
「そうですか、流石師匠」
「本当に大丈夫でしたか?」
「あぁ、本当に大丈夫さ。……それよりも、お嬢様たちを席に座らせてくれるかな?」
「あっ! すみません。お嬢様、こちらになります」
「えぇ、ありがとう。咲夜もお疲れ様ね」
咲夜ちゃんは、フランお嬢様とレミリアお嬢様を席へと案内していく。俺はというと、お嬢様達に、後で合流しましょうとだけ言って、お嬢様達と別れた。
「兄さん、私は何をすれば?」
「特にやることはないよ。だから、のんびりと休んでるか、取材でもしてていいよ」
「そう……じゃあ、兄さんの手伝いをするよ」
「そうか。じゃあ、妖夢、少し台所借りるぞ」
「どうぞどうぞ。台所は、中に入って右に真っ直ぐ行けばありますんで」
「あいよ」
妖夢にそれだけ言って、俺と文は台所へと向かった。台所へと着いた俺は、スキマに入れていた食材を取り出していき、それぞれ使う食材を決めていく。
「文、料理は何を作れる?」
「え? 何って、ご飯とか魚の煮付けとか」
「そうか……じゃあ、それを作ってくれ。俺は違う料理を作るから」
そう言って、スキマからお手製の調味料と調理器具を取り出してく。そんな光景に、文は呆然と見ていた。
「……使いたい?」
「いいの!」
「いいよ」
調理器具を渡すと、文は嬉々として調理器具を受け取り、そのまま料理を開始してしまった。
「楽しそうでなによりだ。……さて、じゃあ俺も作るか」
楽しいそうに調理する文を見て、俺も腕まくりをして、本気で調理へと取り掛かった。
「こんなもんか」
「……見たこともない料理が並んでる」
「ま、だろうな」
目の前には、大皿に乗った料理が三十種類以上。それも、全部山盛りで積まれている。
和洋中全ての料理を作っているため、文が見たこともないという理由も頷ける。生粋の日本で生きている文だから、洋中の料理は見たことないのだろう。
「んじゃあ、運ぶぞ~」
「どうやって運ぶのよ、兄さん……」
「そりゃあ、こうやって」
霊力を操り、料理全部を持ち上げた俺は、文の肩を叩いた。
「……出来るだろう?」
「出来るか! そんなん、後百年は修行しないと普通は出来ない!」
「そりゃあ、俺はお前より長生きだからな」
「それでも、普通はできないよ!」
「そんなことは今はいいや。さっさと運ぶぞ~」
「あ! ちょっと兄さん!」
料理を持った俺は、そのまま庭へ出る。すると、料理を並べていた妖夢が、驚いた表情でこちらを観ていた。
「……何ですか、その量」
「皆の宴会用の分」
「皆って……十人もいませんよ」
「いや、いるんだなそれが」
「うわっと!」
よくわからないといった感じで首を傾げる妖夢に、料理を全て託した俺は、幽々子の元へと近づき、そっと肩を揺さぶる。
「幽々子、起きて」
「う、う~ん? あら~鏡夜じゃない。おあよう」
「おはような。さて、目覚ませよ」
「あら、一体何が起こるの?」
「宴会の時間だ」
ニヤリと笑ってそういった俺は、スキマを開く。
「さぁ始めようか! 異変解決の楽しみ! 宴会の時間だ!」
そう叫んだ俺は、スキマから今回関わったメンバーと、今回は関わってこなかった霊夢ちゃんをスキマでこちらに送る。
「幽々子、楽しめよ」
俺がスキマから落ちてきたメンバーを見ながら、そう幽々子にたいして呟くと、幽々子は心底楽しそうに笑いながら―――――
「えぇ、楽しませてもらうわ。私の救世主」
さて、次回は宴会本番です。イチャコラ多数ありです。……多分。
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