では、第七十一話をどうぞ。
Side鏡夜
「……き……起き……」
お嬢様を抱きしめたまま眠りについていると、枕元から誰かに声を掛けられる。聞いたことある声なのだが、誰だったか? とっても馴染み深い筈なんだが……。
「……て……きて……」
いやだ、起きたくない。ってか、起きたらなんかやばい気がする。とてもとっても大変な気がする。だって殺気とか感じるし……。
「起きろ……起きろや……」
「起きなさい……起きろ……」
段々殺気が濃くなって枕元の声が低くなり、その声に怒気が含まれていく。誰だったかな~? この声は……。
「へ~、狸寝入りを続けるんだ」
「なら、文句はないですね」
二人の声音が一層深くなった瞬間、俺はお嬢様たち二人を抱きしめて、周りにいる全員をスキマに落とし回収し、この屋敷から飛び出す。と、同時に屋敷が粉々に砕け散り木片等が吹き飛んでくる。
飛び出す時、ちらっと二人の姿を見たが……やっぱりか。
「あぁ、クソ。マズイな」
お嬢様たち二人を寝かせたままスキマに落とし、屋敷を見る。そこには二人の男と女……いや、少女と少年が般若のような形相でこちらを見ていた。その瞳はまるで虎のような肉食獣の瞳をしており、アホみたいな殺気をこっちに向けてくる。
「この! バカ兄さん!! 乙女の純情をなんだと思っているのですか!!」
「僕だって危なかったんだよ!! なんとか後一歩の所で逃げてきたけど、それでも危なかったんだよ!!」
二人……鏡華と鏡夢は今度は涙目になりながら大声で怒鳴ってくる。その声を空の上で何時も通り聞きながら、二人の顔の前で両手を合わせて頭を下げた。
「すまん!! 許してくれ!!」
「「許さん!!!」」
「ですよね!!」
否定の言葉と同時に、鏡華と鏡夢は俺に向かって飛び出してきた。一応、俺達が互いに殺し合っても互いに吸収し合うため問題は無いのだが、如何せん俺達が戦えば幻想郷がぶっ壊れる。
その為、即効で例のスペルカードを発動し、こことは違う別次元へと移動する。
「五竜王!!」
「喰らえ!!」
鏡華からは五体のいつも龍が飛び出し、鏡夢からは光の槍が光速で放たれる。本気で殺しにかかって来てるんだけど、こいつら……。
確かに、悪いのは俺だよ? でもね……あぁ、駄目だ、言い訳できね。
「オラァ!!」
それでも、俺はただでは殺られん!!
光の槍は光の速度のまま飛んでくる。その槍を縫うようにして、雷帝が雷のように迫り、それに追従するように、他の四竜王が向かってきた。
飛んでくる光の槍を上半身を後ろに逸らすことにより避け、雷帝は両手を犠牲にすることによって防ぐ。
流石は俺と同等の力を持つ二人なだけに、両腕は一瞬で灰になり、全身に痺れを残すほどの威力を持っていた。
すぐさま、両腕を再構築し、向かってくる四竜王を、足を振るうなぎ払いによって霧散させる。
俺の両腕を灰にした雷帝は、大きく旋回すると、再び閃光を放ちながら雷のように背後から突っ込んでくる。
「調子に乗るな!」
両手両足に霊力を練り込み強化し、背後から突っ込んでくる雷帝の顎を右足膝蹴りで蹴り上げ、すぐに左足を大きく振り上げて、かかと落としを放ち地面に叩きつける。
「赤と朱と紅!」
「落ちろ!」
「ッ!? グ!」
雷帝を叩き落すと同時に、鏡夢が背後から蹴りかかってきた。背後からの攻撃ということもあり、反応が少しだけ遅れた俺は、肘を曲げて顔の横にクロスさせて置き、鏡夢の蹴りを防ぐ。
鏡夢の蹴りにより腕は折れることはなかったが、威力を完全に防ぐことは出来ず、地面へと吹き飛ばされてしまう。
地面に叩きつけられる前に、空中で態勢を立て直して地面へとクレーターを作りながら着地する。だが、着地したのも束の間、目の前から血のように紅い槍が無数に俺を串ざそうと迫ってきていた。
バックステップによって、その槍たちを躱していくが、槍は止まることをしらないかのように地面を抉りながら迫ってくる。
「チッ! 自分で作っておいてなんだが、しんどいな」
躱して躱して躱し続けていると、急に背中が壁にぶつかった様な感触を感じた。それに、なんだと思い背後を見ると、そこには槍が壁となって、俺の後退を阻止していた。
上に飛ぼうとしても、上からは鏡夢がかかとを振り上げながら降ってくる。横は、槍が刺さっていたり突き出している。そして、正面と地面からは鏡華の槍が迫ってきている。
絶対絶命、超絶ピンチ。それだけに、突破するのは面白い!
「行けるか……いや、行く!」
全身に今あるだけの魔力、霊力、妖力を纏、正面の槍に向かって飛び出す。迫り来る槍は音を切り裂きながら迫ってくるが、それを全て紙一重で躱していく。
速さはそれ程でもない。それでも、紙一重に躱す事になっているのは、圧倒的な質量のせいだ。一や二ではすまない。十や百? いいや、その程度ではない。千や万、それ程の質量があるのだ。
それでもなんとか気合と根性と破壊によって鏡華へと迫っていく。切り傷は体中にでき、刺し傷が肩や腕に出来ていくが、そんなことは気にしない。
「舞い散る桜吹雪!」
迫っていく俺とは対照的に、鏡華は後退しながら槍を放ち、懐から扇子を取り出した。すると、鏡華の回りに桜吹雪が発生する。
桜吹雪はそのまま鏡華から俺の方へ舞うと、桜吹雪の一つ一つからピンク色の弾幕が放たれた。
「しゃあねぇ、新技とお披露目といくか!」
飛んで来る弾幕は、視界すべてを埋め尽くすほどの量だが、俺は走りながら自らの魔力のみで翼を作る。
この翼は飛ぶためのものじゃない。この翼は、攻撃を繰り出すためだけの翼だ。フォルムはコウモリのような翼なのだが、翼は六枚、色は銀色。そこいらの刃物程度なら、紙切れのように切り刻めるほどの鋭さ。隕石が降ってきたとしても、耐えれるほどの耐久力。それらが、この翼には詰まっている。
「切り刻め!」
飛んで来る弾幕を翼のひと振りにより、千や万とあった弾幕を全て切り刻む。更に、翼で自分を包みながら、俺はその場で鏡華の方にダッシュし、地面と水平に体を倒して横に回転しながらジャンプする。
弾丸のように俺の体は鏡華の方へと飛んでいく。その突飛な行動に、一瞬動きを止めた鏡華に、俺の体はぶつかり、その体を切り刻みながら吹き飛ばした。
「キャアアアアア!!!」
吹き飛んだ鏡華は、吹き飛んだまま淡い緑の光となって消え、俺の体の中に戻ってきた。
今は気絶して寝ているが、これが俺の体で起きたら……なんか今度してあげよう。うん、それがいい。
「ブラッディアーマー」
俺は鏡華の姿を見て、翼を通常に戻し振り返る。そこには、鏡華の残した血のような槍を吸収し、鎧として身に纏った鏡夢が迫ってきていた。
息を少しだけ吐き出し、全身に力込めて迎え撃つように俺は鏡夢へと走り出した。
互いに距離という概念を無視したかのように一瞬で迫り、光を置き去りにした拳を互の顔面へと向かって放つ。
「グッ!」
「ズァ!」
一発で意識全てを刈り取るような拳は互いの顔面に当たり、周りを吹き飛ばすような衝撃波が発生させるが、俺と鏡夢はそんな事を無視して、ふらつく体に力を込めて蹴りを放つ。
さきの一発の間に、鏡夢は殴られた箇所から槍を放ち俺の腕を破壊し、逆に俺は拳が当たったと同時に、翼を使い鏡夢の腕をバッサリと切り落としている、ゆえの、互いの蹴り。
綺麗にお互いの蹴りは脇腹に吸い込まれるように入る。流石に、アバラの何本かは粉々に粉砕したが、それでも倒れない。
いつも通り治せばいいだろうと思うが、そんな余裕はない。そんな事をしたら、一瞬でやられてしまう。それも鏡夢は分かっているのか、鏡夢の自分の治療を無視して、攻撃を仕掛けてくる。
鎧から槍を出して貫こうとする鏡夢の攻撃を、翼の一振りで全て破壊し、こちらが翼で切り刻もうとすれば、鎧の耐久力を上げて、翼を弾く。
「はぁ……はぁ」
「はぁ……もう、終われ」
何度目になるか分からない程の攻防を続けてから数時間程経った。互いに息は絶え絶えで、余力は殆どない。つか、残っている方がおかしい。
鏡夢の鎧は所々砕け、顔を覆ってたマスクなんかはもうボロボロだ。対して俺は、翼が所々欠けている。隕石でも耐える自身があったんだが、まさかここまでボロボロにされるとはな。
そんな風になりながらも、俺と鏡夢は互いに倒れずに立ち、互いに睨んでいた。お互い同じ力なだけに、決着が着かねぇんだ。
鏡華の時は、新技だけに対処が遅れたおかげでいけたが、今はそんな新技なんか思いつかん。
「嫌、だね……先にそっちが倒れろ」
「断る。兄貴としてのプライドが許さん」
「いいじゃない、兄貴のプライドなんて」
「よくねぇ。絶対にそれだけは駄目だ」
「……じゃあ、次の一発で決めよう」
「いいだろう。かかってこいや」
口では挑発しているが、内心は超きつい。体はボロボロだし、回復の時間がないから回復もできなし。それでも、なんとか意地で頑張ってはいるが……流石にな。
残っている腕を引き、拳を作る。鏡夢も同じように拳を作り、腕を引く。そして、互いにゆっくりと距離を詰める。
最初の距離を無視した速度は見る影もないが、それでもゆっくりと互いに距離を詰め、とうとう拳がぶつかる距離まで詰まった。
「……」
「……」
互いに睨み、睨んで、そして二人して笑顔を作る。それと同時に、俺達は互の顔面に向かって拳を放つ。
拳がスローモーションのように流れる世界で、俺と鏡夢は互いに笑いあっていた。まるで、この喧嘩が心底楽しいからゆえに。……でも、もう二度としたくないね。
そうして、拳が互いにぶつかった瞬間、俺と鏡夢は後ろへと吹き飛んだ。
「は、はは。負けちゃった」
「舐めんな弟。兄貴は、つえぇんだよ」
「そうだね。……でも、強いけど、今日の事は許さないからね」
「はは。今度なにかしてやっからそれで許せ」
「わかった」
体をゆっくりと起こすと、鏡夢は仰向けで笑顔になりながら淡い緑の光となって消えてった。
「……あ~あ、もうしんどい」
すぐに体中の傷を全て治し、呼吸を整える。後、体力も即興で回復させていく。
「さて、治療も終わったし、帰……」
「おいおい、な~に帰ろうとしてるのかな?」
「無論、孫を虐めたのだから、その報いを受けてくれるのだろう?」
「おいおい、妹と弟を虐めといて、私達と戦わないわけないだろう」
「嘘でしょう……」
さて帰ろうと立ち上がると、見知った気配を背後から三名を程感じた。それは、今の状況で一番会いたくない奴ら。
ゆっくりと振り返り、そこに居たのは俺の分身。鏡忌、卿夜、そして、極夜。三人はそれぞれ笑顔を浮かべ、拳を握っている。
「いえ、あのですね……」
「理由はいらねえぞ?」
「まぁ、どのみちあんな戦いをしたんだから、儂らとも相手してくれないとな」
「血が滾って仕方ないんですよ。ですから、もう一勝負くらいはいいでしょう?」
有無を言わさない口調のまま、三人はゆっくりと詰め寄ってくる。
もう、これは逃げらんないや。えぇ、にげられませんとも。ならば、どうするか? 答えはたった一つ!
「よっしゃあ、かかってこいやあああああああああああ!!!!!!!」
手を獣の鉤爪のようにし、俺は三人に飛びかかった。もうね、こうしなきゃ収まりがつかんのですよ。
「はっはあ!!! さっすがだぜ!!」
「手加減はせんぞ!!」
「死んでも恨むなよ!!」
そうして、なんとか三人を打ちのめし、スキマに落としていた全員を屋敷に返してから、俺はブッ倒れた。
翌日、なんか体を揺さぶられて起きたら、そこは屋敷の庭だった。なんでこんな所で寝てるのと皆に聞かれたが、苦笑いのみを返したと言うのはまた別の話。
次回から、小話を四、五話入れてから、萃夢想へと行きます。
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