二人の吸血鬼に恋した転生者   作:gbliht

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今回の戦いはあっさりめ。

では、第九十一話をどうぞ。


第九十一話 伊吹萃香

Sideカロ

 

「恥ずかしかったよ~」

 

鏡夜の作ってくれたスキマに飛び込んだ私は、ゆっくりと出口に向かって歩いていた。

 

ああ、恥ずかしかった。死ぬかと思った。どうして、泣いちゃったんだ私! そ、そりゃあ、泣く時くらい私にもありますよ。別に一人の時とか落ち込んでる時はいいよ? でも、どうして鏡夜に抱きついて、好きだよって言いながら泣いちゃったの!

 

何が、私も大好きだよ鏡夜……だ! どんだけ恥ずかしい事を口走ってんの! 

 

……あれ? でも待って。なんで私それだけで恥ずかしがってるんだろう? 前までは鏡夜に抱きついたり、キスしたり平然としてたのに……どうして?

 

そもそも、私は鏡夜に対して恥ずかしいなんて気持ち、あんまり無かったのに、今は……鏡夜の顔を思い出すだけでもう、恥ずかしくなってくる。

 

これが、恋ってやつなのかな……。

 

色々と考えて気持ちを落ち着かせながら歩いていると徐々にスキマの出口のような物が見えてきた。

 

「満月~?」

 

スキマを出てみれば、そこには大きなまん丸お月様。綺麗な星空に、端が見えない広大な大地。綺麗だな~。

 

周りの景色を眺めながら満月に向かって歩いていると、どこからともなく香しい匂いがしてくる。

 

これは、酒の匂い。今まで嗅いだことないな~この匂い。

 

満月から酒の匂いの方に向かって歩く向きを変える。そう遠くない距離だとは思うんだけど……いた。

 

二本の角が生えてる幼い少女。黒い着物を揺らしながら、一人満月を見ながら酒を飲んでいる。

 

「おやおや、初めてのお客さんだねえ」

 

「どうも~貴方が萃香~?」

 

「そう。私が伊吹萃香……で、お前さんは?」

 

酒飲み幼女……伊吹萃香は立ち上がるとゆっくりとこっちを見て来た。ほんのりと赤くなっている頬。ふらついた足取り。手に持っている盃と瓢箪。完全に酔ってるね。

 

「私は~カロだよ~萃香~」

 

「カロね。で、そのカロはなんでこんな場所に来たんだい? ここに来れるのは、ある人が認めた人なんだけどな」

 

ある人? それは紫の事だろうか? ……いや、もしかしたら鏡夜かもね。色々と私に仕掛けてきてたし。

 

「えっと~それはどっちの事かな~? 鏡夜~? それとも紫~?」

 

「カロは、鏡夜の事を知ってるんだ」

 

「知ってるよ~なんてたって私は鏡夜の相棒だからね~」

 

「へ~」

 

驚いて聞いてきた萃香に答えると、萃香は面白そうにニヤリと笑う。……いい気配放つね、萃香って。肌がピリピリしてきた。

 

「って事は、カロが例の子か……なら、やることは一つしかないね」

 

持っていた瓢箪と盃を床に置くと例のカードを取り出して上に放り投げ、ゆっくりと肩を回して歩いてくる。

 

「鏡夜の認めた相棒の力。見させてもらうよ」

 

「やる気満々だね。そうこなくっちゃ面白くない」

 

戦闘態勢に入り、同じように肩を回しながら萃香に近寄っていく。徐々に徐々に距離は縮まり、私と萃香は互いに拳一発は相手に当たるくらいの距離まで近づいた。

 

私の腰くらいの大きさしかない萃香。見下ろす私に見上げる萃香。お互い、しっかりと互いに顔を見る。

 

「……」

 

「……」

 

沈黙。互いに黙り、戦闘に集中していく。そして、互いに目を瞑り開けた瞬間!

 

「ヅ!?」

 

「ガ!?」

 

私の拳が萃香の顔面にめり込む。だが、萃香の拳も、私のお腹にめり込む。互いに拳の衝撃のせいで後ろに下がるが、すぐに相手に向かって拳を突き出していく。

 

「ヅアアアアアアアア!!」

 

「ガァァァアアアアア!!」

 

互いに拳を避けず、力の限り相手を殴り続ける。一発、十発、百発……数え切れないほどの殴打を相手に喰らわせていく。

 

意識が飛びそうになっても殴る。倒れそうになっても殴る。そして、躱すことだけは絶対にしない。

 

これは、我慢比べだ。私と萃香のただ意地を張り合って我慢してるだけの。

 

「ッ!? ゲホ、ゲホ! ッアアァァァアアアアアア!!」

 

「グッ!? ツアアアアアアアアアア!!」

 

一瞬離れ、また殴り始める。

 

 

 

「ハア、ハア……」

 

「ッア! ハア、ハア」

 

あれから、どれだけ経っただろうか。互いに殴ることに真剣になりすぎて、時間がどれだけ経ったか分からなくなってしまった。

 

殴りすぎて、殴られすぎて、体が痛いし……疲れた。多分、次殴ったら、終わりになるか。それは、萃香も同じようで、全力を拳に集めている。

 

「だあああああああああああ!!」

 

「アアァァァアアアアアア!!」

 

拳が萃香の顔面に向かって吸い込まれるように向かっていく。そして、萃香の拳も、私の顔面に向かってくる。

 

速度は同じ。違うのは腕の長さだけ。

 

本来ならば、私の方が腕が長いため当たるのが先だ。だが、萃香の拳は、私の拳が当たると同時に私にぶつかった。

 

「「ッア!」」

 

ここまでぶっ通しで殴っていたせいで疲れがたまっていたのか、体はまるで石ころのように吹っ飛んでいく。

 

受身なんぞ取れるわけもなく、私の体は地面に叩きつけられた。

 

「痛たたた。流石にこれは……キッツイなぁ」

 

首だけを起し、萃香のほうを見てみれば、そこにはふらつきながらも立ってこちらを見ている萃香がいる。

 

口元からは血が垂れ、体のあちこちには打撲の跡。私も、今あんな感じなのかね。

 

「ケホッ、ケホッ! ああ、さっすが鏡夜の相棒。強いねえ。……で、まさかこれで終わりってんじゃないだろう」

 

もう、こちとら体中痛くてしょうがないってのに。三連戦もやって、その内一回は死にかけてるんだよ? もう体ボロボロ。だから……

 

「当たり前。次は、真っ向からはいかないよ」

 

行くしかないでしょう!

 

「上等!」

 

ふらつきながらも立ち上がり、自身の頬を叩いて気合を入れ直す。萃香も自身の気合を入れ直しているのか、瓢箪に口を付けて酒を豪快に飲みまくる。すると、先程まであった怪我が治っていく。

 

怪我を治すか……なら、私も自己の治癒力を成長させってっと……よし、完治!

 

「ぷはぁ、さ、二回戦目行くよ」

 

「よっしゃあ!」

 

 

 

顔面に向かって愚っ直に飛んでくる拳を下に屈んで躱し、萃香の顎に向かって拳を振り上げる。普通の者なら、この一発で意識は飛んで沈むのだが、萃香は違った。

 

「効かないね!」

 

「なッ!?」

 

咄嗟に後ろに跳んで萃香から離れる。

 

「嘘でしょう。効かないの?」

 

「効かないね。これくらいなら、全然大丈夫だね」

 

首を鳴らしながら、迫ってくる。

 

ああ、これはマズイな。結構本気で殴ったつもりなんだけども、効かないなんて……仕方がない、もう少し本気を出すか。

 

体に力を込め、萃香に向かって真っ直ぐに走り出し、勢いを殺さずに萃香へ飛び蹴りを喰らわす。

 

「だから、まだまだ弱っちいよ!」

 

「これでも!?」

 

繰り出した脚を素手で容易に受け止められ、上に向かって軽々と投げ飛ばされる。

 

もう手加減なんてしない。鏡夜をぶっ飛ばすくらいの力に修正はした。確実に仕留める。

 

空中で態勢を立て直し、上空から萃香に突っ込もうと萃香の方を見てみれば、そこには口元に笑みを浮かべながら腰を落として半身になり、拳を振りぬこうとしている。

 

あの距離で振り抜いた所で届きはしない。なら、私が突っ込むのに対してか?

 

だが、私の予想と反して、萃香は私に狙いを定めると、拳を振り抜いた。

 

「天衣無縫・砕月!」

 

「ッ!?」

 

膨大な妖力が萃香の拳から飛び出してくる。それは、私たちがよくやる塊ではなく、線として飛んでくる。しかも、細い線ではない。太く分厚い。躱そうとしようとする気すら起きない。それ程までに、萃香が出したものは大きすぎる。

 

視界が白くなる中、腕を前で十字に組み、萃香の妖力を僅かでも防ごうとする。しかし、思っていた以上にこの技、威力が高い。

 

一瞬にして体が蒸発しそうだ。少しでも防御から力を抜いたら、殺られる。

 

十秒、或いは一分。どれほど耐えたかわからないが、ようやく妖力の線は消え去り視界が元に戻ると、嬉しそうに笑っている萃香が地上にいた。

 

素早く攻撃態勢に切り替え、痛む体を動かして空を蹴り萃香に突っ込む。

 

迎え撃つように、再び萃香は拳を握って構える。このまま突っ込めば、確実に私が仕留められる。ならば、やることは一つ。

 

萃香の拳が放たれる。瞬間、私は空気を横に蹴り軌道を変え、萃香の側面に回り込む。

 

躱された事に気付いた萃香が反撃に出ようと私の方を向こうとするが、その前に踏み込み、両手を萃香の体に向かって放つ。

 

振り向きが終わると同時に、萃香の胸、腹に両手が優しく触れる。

 

「二手・双手破魂」

 

あまりにも威力がなかったのか、萃香は不思議そうな顔をする。だが、それも、すぐに驚愕の表情に染まる。

 

「うぐ!?」

 

口から血を吐き出し、倒れそうになる萃香。

 

「何……したの?」

 

「ちょっと、萃香の中身を破壊させてもらった」

 

二手・双手破魂。簡単に言えば、内臓破壊。両手に集めた妖力を萃香の中に流し込み、今回は心臓と内臓を妖力で覆って握りつぶした。

 

外が硬すぎてダメなら中を破壊しろ。内臓だけは、鍛えられないからね。……いや、でも妖力やらで覆えば防御は出来るか。

 

「中身を破壊したって……流石は鏡夜の相棒だよ――――――でも!」

 

「ッ!?」

 

萃香に触れていた腕を両方掴まれる。そして、ニヤリと笑った萃香はスッと目を細める。

 

「決着がついてない状態で安心するのはいただけないね!」

 

「しまッ!」

 

「天衣無縫・破山!」

 

掴まれた腕を引かれ、前につんのめってしまう。踏み留まろうとしても、あまりにも唐突過ぎて反応出来ない!

 

がら空きになる体。そこへ、萃香の足が私の顎に向かって一直線に振り上げられる。両腕を掴まれてるため、防げない。なら、躱すしか……! クソ、速い!

 

「ガッ!」

 

躱す間もなく私の顎に萃香の蹴りが入る。腕が放され、後ろへ二、三歩よろめく。

 

顎蹴られたせいで、視界がボヤけてる。これじゃあ、まともに動けないぞ。

 

「天衣無縫・烈火!」

 

萃香から飛んでくる拳が躱せない。そもそも、動けない。動かそうとしても、体がいうことをきいてくれない。

 

まず顔に拳が当たり、後ろに吹き飛ばされそうになる。だが、萃香がそれを許さず、私の腕を引っ張り、顎を下から上に打ち抜き、私の体を中に浮かせ、今度は私の腕を引っ張って地面に叩きつける。最後に、空中に私を放り投げる。

 

「多分心臓やら壊されてるから結果的に、これで相打ちだね。――――――天衣無縫・砕月」

 

そして、再び放たれる妖力の線。

 

躱せない一撃。ああ、凄いな。ここまで三連戦して体力が無くなっている状態だとしても、一人でここまで追い込んだのは、鏡夜やあの人以来だよ。

 

「ハァ、皆強すぎ」

 




カロの弱点は連撃。連続で攻撃を喰らうと、回復が瞬時に出来ないのでやられます。

それと、アンケートでちょっと聞きたいことがあるので、答えていただけると嬉しいです。

さて次回は萃夢想、宴会に入ります。

感想、誤字、アドバイス、お待ちしております。
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