第九十五話をどうぞ。
Side鏡夜
「さて、それじゃあ向かいましょうかね」
咲夜ちゃんのお見舞いに行った次の日。
昨日のうちに、休みはお嬢様から取っている。家事なども、鏡夢と鏡華に任せるつもりだし、朝飯だって作ってきた。だけども、少しだけ気になることがある。それは……
「どうしてこんな朝早くお嬢様達は起きていらっしゃるのですか?」
「あら、旦那を見送るのは妻の勤めでしょう?」
「なら、何もおかしくないじゃない」
太陽が昇っている中、傘を差しながら答えてくるお嬢様がた。
普段、朝は眠いからと言って一向に起きようとしないお嬢様達が、まさか俺を見送るためだけに朝早く起きるなんて、嬉しくて涙出そう。
「ありがとうございます。お嬢様」
「当然のことよ。それよりも、気をつけて行ってらっしゃいね」
「後の事は、私達に任せてくれればいいから」
まるで向日葵のような笑顔を見せるフラン。吸血鬼なのに、向日葵とはおかしな話だが、そうとしか表現できない。この笑顔を言葉で表すことは出来ない。
「ええ、お願いします。ですが、一応鏡華と鏡夢は置いていきますので、ご安心を……それでは、行ってきますね」
門を出て、スキマを作って地底へと向かっていく。
『鏡夢、鏡華、あとは任せた』
『分かった。楽しんできなよ』
『ちゃんと、遊んでくるんですよ』
『ああ』
さて、地底はどんな場所なんだろうかね。今まで行ったことない未踏の地。楽しみだ。
Side鏡夢
「それじゃあ、二人共、始めましょうか」
「……? 何をですか?」
姉さんと共に兄さんから別れた僕は思わずお嬢様に聞き返してしまった。
始めるって何をするのだろうか。これから、僕と姉さんは仕事に取り掛からなければならないのだけれど。
「何を?」
「決まってるじゃない。勿論……」
お嬢様達は自分の衣服に手を掛けると、脱ぎ出す……って、ダメだよ! なんで白昼堂々服を脱ぎは始めてるの!? まさか、これから始めるのってその……
などと、訳の分からない結論に到達する前に、お嬢様達は服を脱ぎ捨ててしまった。しかし、意外なことに、お嬢様達は全裸ではない。お嬢様達の格好は――――――
「「メイドよ」」
メイド服だった。
「ねえ、姉さん。どうするの?」
「どうするって言われても……ねえ?」
現在、食事や大事な話があるときによく使う部屋へと着ていた。
お嬢様達がメイド服へと着替えた後、僕達は強引にこの部屋へと連れてこられたのだ。説明なんてものはない。
考えてみるに、メイド服に着替えたのだろうから、多分紅魔館での仕事を手伝ってくれるんだと思う。だけど、なんで? 仕事は僕達で全て出来るというのに。
「お嬢様、どうしてメイド服になられたのですか?」
姉さんが聞いてくれる。
その問いに、お嬢様は一瞬キョトンとした表情を浮かべると、まるで出来の悪い子供に教えるような表情をすると、やれやれと首を振ってから答えてくれる。
「分からない? 今咲夜は病気でいない。鏡夜も……まあ、いないわ」
「なら、誰が紅魔館の片付けや料理をするの? そう、私達しかいないじゃない!」
大仰に手を平げて言うフランお嬢様。あの、紅魔館の事をするために、僕達がいるのですが……それに、いざとなったら料理は美鈴が。カロが紅魔館の後片付けをする事ができるのですが。
「それにね、鏡華、鏡夢」
「私達には、ある目的があるのよ」
「目的?」
そうだったんだ。目的があったんだ。お嬢様達の事だから、多分その目的は凄く素晴らしい目的なんだろうな。
「「一回、メイドしてみたかったのよ」」
……うん。なんとなく、そんな感じだとは予感していたよ。
なんで!? なんでメイドをしてみたかったの!? そして、なぜこのタイミング……って、咲夜ちゃんがいないからか!?
ど、どうしよう。そんな理由で働かせたら、兄さんにボコられそうなんだけど。
「そうでしたか、なら一緒に働きましょうか」
「ちょ! 姉さん!?」
「いいではないですか、鏡夢。お嬢様達が働きたいと言っているのです。働かせてあげましょうよ」
「でも、兄さんに怒られそうだよ?」
「問題ないです。ああ見えて、兄さんはお嬢様達には甘いですから。お嬢様達がやりたいといえばやらせる。それが兄さんです」
そうだけども、本当にやらせていいのかな。なんだが、とっても嫌な予感がするだけど。
「それじゃあ、鏡華の許可も降りたことだし、仕事を始めましょうか」
「そうだね、お姉様。それじゃあ、始めましょう」
嫌な予感を心に秘めつつ、仕事に取り掛かる。どうか、どうかお願いですから、何も起きませんように。
「それで、いつも鏡夜と咲夜はどんな仕事をしてるのかしら?」
「最初は館の掃除からですね」
掃除道具一式を取り出し、お嬢様に渡す。僕達も掃除用具を持って掃除に取り掛かろと動くが、レミリアお嬢様が動かない。道具を持ったまま、立ち尽くしている。
「あの……お嬢様」
「ねえ、鏡夢。掃除とは一体何をするのかしら?」
……え? もしかして、そこから説明しないといけないの? ま、まあ、仕方がないか。生まれた時から使用人が掃除していたのだろうから、掃除を知らなくても不自然ではない。
「えっとですね。お嬢様が持ってる箒で、床とかを掃くんですよ」
「へ~」
「お姉様、そんなことも知らなかったの?」
フランお嬢様が半笑いでお嬢様に言うと、顔を真っ赤にしながら腕組みしてそっぽを向いてしまうレミリアお嬢様。ああ、かわいい。
「べ、別に。ただ、聞いてみただけよ。そ、そう! フランが分からないと思って、聞いてあげだのよ!」
「私は分かるわよ、お姉様」
「そ、そう。なら、聞かなくても良かったわね。ほら、早く掃除にかかるわよ!」
箒を持ってツカツカと歩き出してしまうお嬢様だが、生憎とそっちはまだ掃除をするタイミングじゃないんですけど。
隣にいたフランお嬢様と目を合わせると、苦笑いしながらお嬢様の方へと歩いていく。姉の尊厳を守るってのは大変なんだね。
「……なんですか?」
「いえ、なんでも」
隣にいた姉さんを一度見てから、お嬢様達が歩いて行った方に向かって歩いていく。やれやれ、お願いですから厄介は起こさないでくださいよ、レミリアお嬢様。
「ああ、危ないですよ! お嬢様!」
掃除が始まった。……いや、掃除という名の破壊が始まった。
「え? なに?」
「ああ、危ない!」
廊下に置かれている絵画や壺を落としたり、床をぶち抜いて穴を開けたりの破壊が始まった。
お嬢様本人は掃除をしてるつもりなんだろうが、箒を振り回すのはやめてください! ああ、壺が! 絵画が! 昔から紅魔館にあった物が落ちてくる!
兄さんに見つかったら殺さる!
「お姉様、動かないで!」
「え? どうしてよ。ほら、掃除してるでしょう?」
うわっと、危ない! 動くたんびに何かしらの物が落ちてくる! うお!? なんで天井のシャンデリアが落ちてくるの!?
鏡華と僕、そしてフランお嬢様の三人でお嬢様が動くたんびに落ちてくる物を受け止め、元の場所に置き直していく。
「お嬢様、もう動かないで!」
「ちょ、離しなさいよ、鏡華」
なんとか僕とフランお嬢様が直しているうちに、姉さんがお嬢様の事を羽交い絞めで抑えてくれる。
「現状を見てください! お願いですから、目をそらさないで!」
姉さんがお嬢様に言うと同時に、お嬢様の動きが止まる。
「……アレ? もしかして、この現状って私がしたの?」
「そうだよ、お姉様!」
お嬢様の手から箒を取り上げるフランお嬢様。
「そう……じゃあ、掃除を始めましょうか」
「自分で壊しておいて!?」
思わずツッコンでしまった。いや、そうでしょう。だって、自分で壊したのに、ケロッとした表情で掃除をしようと言ったのですよ。これにツッコミを入れなくてどうする!
掃除をなんとか一段落させて、今度は洗濯へと移る。
あの後、お嬢様が掃除した箇所を全て僕達が掃除しなおした。壺や絵画など壊れたものは無かったが、生憎と床だけは直す時間がなかった。兄さんが帰ってきたら、直してもらおう。
で、次は洗濯へと移ったのですが……
「あら、破けてしまったわ」
洗濯板で洗濯をしていたら、この有様。総数五着。皆の服がお嬢様によって壊されてしまった。いや、壊されるのはまだいい。頑張れば、衣服くらいなら直せるから。問題は、別にある。
「ねえ、フラン。壊れてしまったのだけど」
「……奇遇ね、お姉様。私のも壊れてしまったわ」
二人共、力加減が苦手なのか、服を壊し続けてしまう。掃除は丁寧に出来たフランお嬢様なのに、洗濯は出来ないという。
フランお嬢様の壊した衣類、総数十七着。紅魔館の服の半分くらいは破壊されている。
「姉さん、どうするよ」
「もうね、私はお嬢様達が好きにやればいいと思うわ」
後始末が大変だろうな~。兄さんよ、出来るだけ早く帰ってきておくれ。
お昼。それは、お昼ご飯を作らなければならない時間。さて、そんな時間になり、お嬢様たちはというと……
「フラン、そっちは任せたわよ」
「分かってるよ。お姉さまも、そっちはよろしくね」
厨房で昼食を作っております。洗濯は結局お嬢様達に任せてしまい、衣類は全滅。まあ、衣類は直すからいいとして、次の昼食は僕達が作ろうとしていたら、お嬢様達が自分達が作るって言って聞かずにそのままずるずると。
「姉さん、お嬢様達って料理出来るんだっけ?」
「確か……卵焼きは作れたはずですが、それ以外は見たことありませんね」
卵焼き……ああ、鏡夜が作ってもらったやつだね。そうだった。あの、卵焼きは凄く美味しかった記憶がある。でも、それ以外の料理って、食べたことがないような……
「出来たわよ」
「お待たせ!」
「わ~お」
「これは……」
元気いっぱいに出てきたフランお嬢様と、自信満々に出てきたレミリアお嬢様。その二人が持ってきた皿にはなんと、山積みなった卵焼き。
全部卵焼き。それ以外のものは一切乗っていない。皿一面黄色一色。
うん、確かに卵焼きは美味しかった記憶がありますよ。ですがね! 流石にここまで多いと多分飽きますよ!
今日、パチュリー様と小悪魔は昼食はいらないと言っていたから、僕達とカロと美鈴のおかずになるわけですよね? 飽きないで食べきれるかな……まあ、折角作ってもらった物ですから、残さず食べるけど。
とりあえず一つ卵焼きを取って食べる。
「……美味しい」
昔食べた時より美味しくなっている。味は勿論、食感に至っても上達している。素直に、美味しい。
そんな僕の感想に満足したのか、お嬢様達はドヤ顔で僕の事を見てくる。
「それは良かったわ。まだまだあるから、残さず食べて頂戴」
「残したら、泣いちゃうよ」
泣かれるのはちょっと……。いや、残す気なんてないから、泣かせることはないだろうけど。
結果、僕と姉さんで卵焼きの山を食べ尽くした。流石に、百個近くあった卵焼きを食べるのは至難だったよ。
「さて、姉さん。どうしましょうね」
「どうもこうも、動けないでしょう」
午前中の作業が全て終わり、僕達はいつものお嬢様達が紅茶を飲む部屋へと休憩をしに来ていた。
椅子に座り、午前中の疲れをとっていたのだが、予想以上に疲れていたのか、お嬢様は僕にフランお嬢様は姉さんに寄りかかって眠ってしまっている。
普段慣れない仕事をしていたせいで、疲れたんだろうね。安心しきった表情で眠っているよ。
優しくお嬢様の頭を撫で、姉さんと視線を合わせる。
「はぁ……午前中は疲れましたけど、この寝顔をみてしまうと、午前中の疲れも吹っ飛んでしまうわね」
「そうだね。……午後の仕事はどうしよう」
「……私達も寝てしまいましょうか」
「それがいいかも」
ゆっくりとお嬢様の肩を抱いて抱きしめる。吸血鬼だというのに、少し力を入れれば壊れてしまうような錯覚を覚えてしまう。……何だろう、何かがおかしい。けど、今はいいか。この寝顔を見れば、そんな小さな疑問は吹き飛んでしまう。
「鏡夜、大好きよ」
「大好きだよ、鏡夜」
寝言で僕達の兄さんの名前を呼んでから、再び小さな寝息をたてて眠ってしまった。
「俺もだよ、レミリア」
「私もですよ、フラン」
そうして、眠りについた僕達が起きたのは、兄さんが丁度家に帰ってくる時だった。
次回は地底編。二三話くらいかな?
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