二人の吸血鬼に恋した転生者   作:gbliht

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地底編スタート。しかし、二三話で終わる予定。

では、第九十六話をどうぞ。


第九十六話 鬼と妹

Side鏡夜

 

「へ~ここが地下か」

 

スキマを抜けて外に出てみれば、そこは一面真っ暗の洞窟だった。……正確に言えば、光の無い地下洞窟って所かな?

 

上下左右、外への道はないが、光が奥の方から薄らと漏れ出している。あそこに向かえば、鬼たちが住んでいるのか。

 

本来なら見えないであろう暗い道だが、能力のお陰で暗闇でも俺はいつも通りの明るい道に見えているため問題ない。

 

俺は、右手で手を包みつつ、光の下へ歩いていく。

 

 

 

しばらく歩いていると、川と橋、そして喧騒が鳴り止まない里が見えてきた。あそこに、鬼どもがいるのか。いやはや、鬼達が好きな酒の匂いがここまで香ってくる。こりゃあ、鬼達は確実にここにいるな。

 

「こんな所に人間がいるなんて、何者よ」

 

肩車をしつつ橋の方へと歩いていくと、そこには緑色の瞳に金髪のショートヘアー、そしてエルフ耳の少女が橋の上に立ってこちらを睨んできている。

 

なんだが心が操られるような感覚を感じるが、まあ別に問題はない。この程度の心の操作は、心の操作のうちに入らん。

 

「初めまして、綺麗なお嬢さん。私は時成鏡夜。お嬢さんは?」

 

「歯に衣着せぬその言葉、妬ましいわね。しかも、私の能力も効かないようだし、本当、妬ましいわね」

 

こちらが自己紹介を終えると、急に彼女は爪を噛むと、キッとこちらを睨んでくる。ありゃりゃ、嫌われてるようですな。

 

肩車をやめておんぶへと切り替えてから、彼女の下へ歩いていく。

 

「残念ながら、その類の能力は効かないんだよ」

 

「そう、嫌な男ね。私に嫉妬心を煽られないなんて」

 

「生憎、生まれてこのかた嫉妬したことがないんでね」

 

軽口を叩きながら、彼女の横を通り過ぎる。

 

嫉妬心ね。そんなもんはどっかに置いてきた。それに、嫉妬する程他人を羨ましがることなんてなかったからな。

 

「待ちなさい」

 

彼女の横を通り過ぎ橋を渡り切ると、背後にいた彼女から声がかけられる。おぶりつつ、彼女の方を向くと、そこには橋に背を預けて腕組みしている彼女がいた。

 

「水橋パルスィよ。人間、覚えておきなさい」

 

「覚えておくよ、パルスィ。私は鏡夜でいい。覚えておいてくれ」

 

「気が向いたら覚えておいてあげるわ」

 

パルスィはそう言うと、俺とは反対側の方に歩いて行ってしまった。こちらも、要は済んだので、振り返って里の方へと歩いていく。

 

「パルスィね」

 

「鏡夜ね」

 

「「面白い奴」」

 

 

 

おぶりつつ、里の方へと歩いていると、徐々に里の喧騒が聞こえるようになってきた。

 

鬼たちの叫び声、喧嘩の音。里で物を売りさばく何者かの声。いいね。人里とはまた違った活気で満ち溢れてる。

 

おんぶをやめて、右手で再び手を包み込む。そして、里の中へと入っていくと、何やら集まっている連中がいる。

 

「おう、コラ! テメエ、どこ見て歩いてんだよ!」

 

「ああ? んだとコラ! テメエがぶつかってきたんだろうがよ!」

 

集まっている連中の中央には、何やら言い争っている鬼が二人。昔あの時に見た鬼の連中の中では見てない鬼だから……新参者か?

 

「はーい、どいてね、鬼さん。はい、どいてどいて」

 

集まってる連中をどけ、中央にいる鬼二人の下へと歩いていく。

 

「はーい、お二人さん。喧嘩はそこまで」

 

「ああ?」

 

「誰だよ、テメエ! 文句あんのか!?」

 

おうおう、威勢がいいね。けど、実力が足りないな。あの時の鬼の方がまだ力がある。ま、時代が時代だから仕方がないか。強い者に挑む時が少ないから、力が弱っていくんだろう。

 

「文句はあるね。お前ら少しうるさい。これ以上うるさくするようなら……潰すぞ」

 

笑いながら言うと、鬼二人はポカンとした表情をしてから、いきなり笑い出す。

 

「ガッハッハッハッハ!!」

 

「ハッハッハッハッハ!! どこから来たか知らんが、人間風情が俺達鬼を潰すだと?」

 

「笑わせてくれる! 久々に聞いたぞその言葉!」

 

笑いに笑い、鬼達は腹を抱えてからひとしきり笑うと、目を鋭くさせて俺に近寄って見下ろしてくる。瞳には明らかに敵意が篭っている。

 

「おい、小僧。見逃してやる。この場を去れ」

 

「去らぬならば、この場で食い殺すぞ」

 

……ッハ! ハッハッハッハ!! こちらこそ久々に聞かせてもらったよ、そのセリフ。いや~何百年ぶりだろうか、食い殺すなんて啖呵を切れる妖怪を見たのは!

 

笑いを必死に堪え、俯いていると、それを怖気付いたと捉えたのか、鬼の一人が俺の頭を手でポンポンと叩いてくる。

 

「ほれ、とっとと帰れ小僧」

 

右手で覆ってた手を離して遠くにやってから、俺は鬼の腕を握る。

 

「あ?」

 

「おいおい、なんだこの手――――――」

 

「餓鬼風情が思い上がるなよ」

 

瞬間、時が止まったかのように鬼達の動きが止まる。それは目の前にいる二人だけではなく、周りにいた鬼達の動きも止まる。

 

「テメエ、今なんて言いやがった?」

 

「聞こえなかったならもう一回言ってやろう。餓鬼風情が思い上がるなよ」

 

言い終わると、俺の顔面に拳が飛んできた。避けるなんて事はしない。ただくらい、吹っ飛んでいく。

 

「小僧がいきがるからだ。悪く思うなよ」

 

「ま、死んだら食ってやるからよ」

 

吹っ飛んでる最中、何か鬼達が言ってるが、どうでもいい。アイツ等は俺に手をあげた。ならば、殺られる覚悟はあるんだよな。

 

「よっと」

 

空中で態勢を立て直し、地面にゆっくりと降りる。

 

「さて、餓鬼共。殺られる覚悟は出来ているのだろうな」

 

驚愕に染まる鬼共だが、俺はそれを無視して俺を殴った鬼に向かって歩いていく。

 

「別に、できていなくても構わん。だが、一発殴ったのだから、俺も一発殴らせてもらうぞ」

 

「こ、小僧! なに……者、だ?」

 

「何、しがない小僧だよ」

 

拳を握り、殴ってきた鬼の顔面を殴って吹き飛ばす。少しの抵抗もなく鬼は吹き飛び、店の中へと突っ込んでいく。

 

ピクリとも動かない鬼を尻目に、今度はもう一人の方の鬼を睨みつける。

 

「で、どうするよ。餓鬼」

 

「ぐッ……」

 

押し黙り、後づさってしまう鬼。何だよ。腰抜けか。鬼ならば戦えよ。

 

「騒がしいねえ。喧嘩ならもっと派手にやりなよ」

 

鬼に迫り、これ以上下がる事が出来なくなった鬼を睨んで挑発しようとした瞬間、どこからか瓢箪らしきものが飛んでくる。

 

俺は避けたが、残念な事に鬼には瓢箪が当たり気絶してしまった。ま、仕方がない。コイツは諦めるか。だから、相手してくれるんだろう。

 

「大体、誰が相手だって言うんだい。同士での喧嘩だろう? なら、もっと盛り上げなきゃつまらないじゃないか」

 

「ゆ、勇儀の姉貴!?」

 

振り返りってみれば、こちらに向かって歩いてくる一人の女性が。

 

腰まである金色のロングストレート。額に生えた大きな一本角。手に持った大きな杯。そして、風情ある紫色の着物。ああ、懐かしいなあの姿。

 

「で、結局誰が喧嘩してたんだい?」

 

「そ、それが、人間でして」

 

「人間だって?」

 

周りにいた鬼に群がられた勇儀は、鬼達を避けて俺の事を見る。すると、勇儀は目をまんまるにして驚き、持っていた杯を落としてしまった。酒が入っていたのに落とすなんて、勿体無い。

 

「きょ、鏡夜!?」

 

「久しぶりだな、勇儀」

 

 

 

 

「来るなら連絡の一つでもよこしな、鏡夜。こっちだって、準備があるんだから」

 

活気あふれるあの場所を抜け、俺と勇儀は桜が舞い散る道を歩いていた。

 

不思議なもので、桜が咲いているというのに、天井からは雪のような物が降ってきている。季節的に両方共存在するのはおかしいはずなんだが……ま、幻想郷だから気にしたらダメか。

 

「すまない、勇儀の事を驚かしたくて来ただが、いざこざに首を突っ込んでしまってな」

 

「いいや、そいつらの事は別にいいんだけども……」

 

歯切れが悪いな。もしかして、忙しい時に来てしまったか?

 

「どうした?」

 

「いや、その……今ここの主をやっている奴の妹を探してて」

 

「主? 鬼神母神が仕切ってるんじゃないのか?」

 

てっきり、鬼神母神がこの地下を仕切ってると思ったのだが、違うのか。なら、誰がこの鬼達を纏めてるんだ? 弱くなったといっても俺基準だから、結構力がないと収められないぞ。

 

「母さんは仕切ってないよ。……いや、正確に言えば、鬼達は仕切ってはいる」

 

「鬼達は?」

 

「そう、鬼達はね。でも、母さんを仕切っているのは、また別にいるんだ。そうだね……あそこに大きな建物が見えるだろ?」

 

桜並木を抜けて大きな川を跨いでいる橋の上に来ると、一度止まって橋から見える建物を指差す。

 

遠目から見ても大きく見える建物。形的には紅魔館に似ているが、色合いや雰囲気は紅魔館より明るい。

 

あの館にいるのか……ふむ。気配を巡らして建物の中を探ってみたが、三人と何匹かの動物のけはいしかしないぞ? アレだけ大きな建物なのだから、もう少し住人がいてもいいと思うのだが……って、紅魔館も対して人数はいないか。

 

「どんな奴なんだ? あそこにいる奴は」

 

「桃色の髪した女の子だよ。でもね、なんていうかこう、こっちの心を見透かしているような感じがするんだよ」

 

心を見透かしてるような女の子ね。想像するにうちのお嬢様達位の見た目と考えるが、そんな女の子が鬼神母神を従える……ふむ、おかしいことではないか。お嬢様達だって、あの見た目で相当強いから。

 

あの見た目からは想像できないカリスマも持ち合わせているし、小さいからと言って弱いと考えない方がいいな。

 

「母さんも、そのせいで何か接しづらいらしいんだ。だから、大人しくその女の子のいう事を聞いてるだけ」

 

「成程ね。で、勇儀は鬼神母神のお使いをしてるってわけか」

 

「そ……で、どうだい?」

 

「どうだいというのは?」

 

「何か見つけたかなと思って。ほら、鏡夜なら見つけられるんじゃないかと思ってさっきから連れ回してるんだけど」

 

通りでなんかさっきから人がいない方に向かっているのか。

 

確かに探そうと思えば探し出せるだろうが、生憎と見た目が分からなくては探しようがない。

 

「勇儀、聞くのはいいんだが、その妹の見た目を教えてくれなければ探し用がないんだが?」

 

「あっ……」

 

あってなんだ、あって。もしかして、気づいてなかったのか? 十分位歩いておいて、気づいてなかったのか?

 

重大な事に気づいた勇儀は慌てると、顔を赤らめながら頭の後ろを掻いた。

 

「あ、え、ええと、その……ごめん、忘れてた」

 

「そうか。まあ、そこを責めるつもりはないから、早めに妹の特徴を教えてくれ」

 

「えっと、聞いた話だと、ちょっと緑の入った灰色の短い髪。帽子を被っていて、胸の辺りに閉じた眼を付けてるって聞いた」

 

ええと、ちょっと緑の入った灰色の短い髪……うん、合ってる。帽子を被ってて、胸の辺りに閉じた眼を付けている……も、合ってる。この子が妹か。

 

「なあ、勇儀。見つけたぞ」

 

「え? どこだ!?」

 

「ここ」

 

「ふえ?」

 

握っていた手を持ち上げ、足元にいた少女に指差す。最初から俺に付いて来てたんだけど、まさかこの子がここを仕切っている奴の妹だったなんて。

 

「お兄さん、私の事気づいていたの?」

 

「気づいていたもなにも、この地下に来てからずっと俺にくっついていただろ?」

 

「きょ、鏡夜? その、分かるのか?」

 

「何が?」

 

わかるって何が? この子が最初からついて来てたのは知ってたし、強いて言うなら妹だったってのが分からなかったくらいだぞ?

 

「気づかないはずなのに、気づいたなんて……初めてかも、こんな人」

 

何やら妹が呟いているが、分からない。

 

「その、鏡夜。その妹の能力は『無意識を操る能力』普通の者なら気づいたとしても気づけない能力のはずなんだが」

 

「俺は普通に気づいていたぞ?」

 

妹を見ると、薄緑色の瞳で俺の事を見上げていた。表情が乏しいせいで何を考えているか表情からは分からないが、瞳からは分かる。

 

悲しみ、悲痛、自己嫌悪、周りへの不信感、そして……喜び。

 

「そもそも、気づかない方がおかしいだろ。こんな可愛い少女を見逃すなんて、俺からすればありえんな」

 

「わっとと」

 

妹を抱え上げ、自身の肩に乗っける。

 

驚きの声を上げる妹だが、気にはしない。今は、姉の下へ届けるのが先だ。

 

「ねえ、お兄さんは人間なのに私の事が怖くないの?」

 

不安を声に乗せて、妹は聞いてくる。

 

……今の一言で大体理解した。妹はどうやら、人間から嫌われていたようだ。ならば、さっきの悲しみを含んだ瞳の理由もわかる。

 

ため息を吐き、妹を見ずに真っ直ぐ見て言う。

 

「怖くない」

 

「ッ!」

 

息を飲む音が聞こえる。多分妹が驚いているのだろう。……それもそうか。今まで散々人間から嫌いと言われてきたのだろうからな。

 

妹はしばらく無言になると、俺の頭に抱きついてきた。

 

「嬉しい」

 

「そうか」

 

「お~い。そろそろ、蚊帳の外の私を仲間に入れてくれませんかね」

 




次回は姉登場(予定)

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