相手はお馴染みのアレですけど。
てかタイトルで丸わかりだよね?
※追記
感想にてご指摘を頂いたので加筆修正を加えました。
話の展開には何ら影響はありません。
今後このような事がないよう精進いたしますゆえ、何卒よろしくお願いしますm(__)m
「フィリスちゃん起きて、もう朝よ」
陽の光が差し込み明るくなった部屋の中、リアーネはフィリスを起こしていた。
「…ん……んん、ふぁぁ……リア姉おはよぉ……」
フィリスは寝ぼけ眼を擦りながらのそのそと起き上がる。
段々と意識が覚醒し、しだいに視界が明瞭となってきたフィリスの眼に映ったのは、見知らぬ天井であった。
そこはフルスハイムやライゼンベルグの宿ではなく、駆け出し冒険者の街、『アクセル』の一角にある宿であった。
「そっか…、そういえば私達、異世界に飛ばされちゃったんだっけ」
ふと昨夜の出来事を思い出すフィリス。
突如として女神エリスが目の前に現れ、告げられた事実を再び噛みしめる。
この世界から抜け出す方法はただ二つ。
魔王を倒すか、錬金術で元の世界へと戻るか。
どちらも一筋縄ではいかない事を承知した上で、二人はどちら共の方法で元の世界へ戻る事を目指していくことにしたのだ。
「フィリスちゃん、今日は朝からクリスさんと会うんでしょ?」
「あ、そうだった!」
リアーネの一言を受けすぐに身支度を始めるフィリス。
服を着替え、髪を整え、荷物を持つとすぐにリアーネと共に部屋を出る。
なお、朝食は食べたい所だったが、生憎二人にはそんな金はないため、そのまま宿を出てきた。
外は美しい外装をした家屋が建ち並び、道は次第に人が多く通るようになり、活気が段々と湧いてきた。
宿を出てからおよそ十分、二人はようやく冒険者ギルドの前へと辿り着いた。
「クリスさん、居るかな?」
「さぁ?でもあの人は私達の力になってくれるって昨日エリス様が言ってたし、多分居るんじゃないかしら?」
フィリスの問いかけにそう答えるリアーネ。
二人はそのまま冒険者ギルドの中へと入っていく。
中に入って辺りを見渡すが、クリスの姿はまだない。
「取り敢えず、どこか空いてる席に座って待ちましょうか」
そう言って奥の席へと座るフィリスとリアーネ。
二人がそのまま待つ事およそ五分、ふいに後ろから声を掛けられた。
「お待たせ二人とも。もしかして結構待った?」
「あ、クリスさん!いえ、私達も今来たとこなので。……あれ、その人は?」
フィリスとリアーネの視線の先にはクリスの他にもう一人、金髪碧眼の美少女が立っていた。
「貴方達がクリスの言っていた知り合いか。私はダクネス、クルセイダーを生業としているものだ」
そう言ってダクネスは優雅に一礼する。
その仕草は高貴な貴族を思わせるかのようで、フィリスとリアーネもまた、ダクネスのそんな雰囲気に圧倒されていた。
「凄い美人……、あぁえっと、初めまして。フィリスと言います。職業はプリーストです」
「初めまして、私はリアーネです。フィリスちゃんの姉で、職業はアーチャーです」
ダクネスの異様なオーラに圧倒されながらも二人はダクネスに自己紹介をする。
ダクネスはそんな二人に対し穏やかな微笑を浮かべ、向かいの席へと座る。
一つ一つの動作が洗練されたように美しく、その凜とした姿はまさしく力強く咲く一輪の花のようだった。
金色に輝く髪は後ろで一つにまとめられており、鎧の上からでも分かる抜群のスタイルは、大人の色気を醸し出していた。
ダクネスの事を既に只者ではないと感じ取ったフィリス達はだが、すぐにその幻想をぶち壊された。
「それで、二人は本当に私を満足させれる程の辱めをうけさせる鬼畜なのか?」
……………これは確かにタダモノではないようだ。
「ちょ、いきなり何言ってんの⁉︎そんな紹介した覚えないけど⁉︎……ねぇ待って、二人共そんな目で見ないでよ!」
フィリスとリアーネは知らず知らずの内にクリスに向けて冷ややかな目を向けていたようだ。
「ん、んんっ……!はぁ、はぁ、そそそ、その侮蔑に満ち溢れたゴミを見るような目を私にも向けてはくれないだろうか!いや是非とも向けてくれ!」
「あ、私達帰りますね。行きましょ、フィリスちゃん」
体をブルっと震わせながら荒い息を吐くダクネスに即答するリアーネ。
だがその素っ気ない態度すらもご褒美と受け取るダクネス。
「な……放置プレイだと⁉︎クリス!このリアーネという人は中々のヤリ手だぞ‼︎」
「あぁもう‼︎ややこしくなるからダクネスは少し黙ってて‼︎」
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「……………………」
取り敢えずクリスの話を聞くことにしたフィリスとリアーネ。
その前には苦笑を浮かべるクリスと、全身を縛られ口を塞がれているダクネスがいた。
ちなみに何故かダクネスの頬は上気しており、先程から荒い呼吸をしている。
「えっと……二人共朝ご飯はまだだよね?」
「あ、はい。朝起きてすぐにギルドに来ました」
「そっか、じゃあ何か頼もうか」
フィリスの返答を聞いたクリスは、近くのウェイトレスを捕まえて注文をし始める。
「かしこまりました。それでは少々お待ちください」
注文を受けたウェイトレスはそう言ってその場を後にした。
「あの、もしかして私達のぶんも頼みましたか?」
リアーネは申し訳なさそうな表情でクリスに尋ねた。
確かに昨日エリスは、クリスが二人の力になってくれると言っていた。
しかしただでさえクリスには散々世話になっているのだ。
ここで朝食まで奢ってもらう訳にはいかないだろう。
「うん、頼んだよ。て、もしかして今注文した量を私一人で食べると思ってたの⁉︎私そんなに大食いに見える⁉︎」
「いえ、そういう訳ではないんですけど。流石に奢って貰うのはちょっと…」
あらぬ誤解をしたクリスに咄嗟にフォローをいれるリアーネ。
その言葉を聞きクリスは安堵の表情を浮かべた。
「いやいや、気にしないでよ。もとより私は奢るつもりだったんだ。君たちがお金を持ってないのは昨日の時点で知ってたからね」
「ですが……」
「それはもういいからさ。ところで、この手帳に見覚えはないかな?」
突然にクリスはリアーネの言葉を遮り、ある一冊の手帳を取り出した。
「もういいと言われましても、ずっとお世話になりっぱなしっていうのも…悪い……ってその手帳⁉︎」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎」
ふとリアーネは目の前に取り出された手帳に目を見開き、フィリスも立ち上がって大きな声を出していた。
周囲の注目がこちらに集まってくる、にも関わらず二人はクリスの持つそれに目が釘付けとなっていた。
「そ、そ、それソフィー先生の手帳⁉︎なんでクリスさんが持ってるんですか⁉︎」
「ちょ、落ち着いてよフィリス。みんな見てるから!」
クリスの言葉にハッと我に返ったフィリスは顔を赤らめながら再び席に着く。
リアーネも咳払いをし、改めてクリスに向き直る。
「それで、その手帳はどこで手に入れたんですか?」
「これは街の近くの草原に落ちてたんだよ。中を見てみたら、『フィリスちゃんへ』って書いてあったし、もしかしたら誰かがキミにあげたものじゃないかなって思ってさ。」
そう言ってクリスは手帳をフィリスに手渡す。
フィリスは受け取った手帳を嬉しそうに眺める。
「そっか…、この手帳もこっちの世界に飛ばされてたんだ」
「ん?こっちの世界?」
「あぁ、いえいえ!何でもないです!」
慌てて首を振り誤魔化すフィリス。
異世界から来た…なんて言っても信じてもらえるとは思えないし、とりあえずは隠しておこうというのは、ギルドに向かう道すがらリアーネと決めたことだった。
クリスが何やら不思議そうな表情を見せる中。
「お待たせしました。カエルもも肉の唐揚げ三人分です」
ウェイトレスさんが料理を運んできた。
手際よく並べられたその料理は、綺麗な狐色をしており、漂う香りもなんとも食欲をそそるものだった。
「それではごゆっくりどうぞ」
そうしてその場を後にしたウェイトレスさんは、程なくして別の冒険者に捕まり、再び注文を取り始めていた。
「それにしてもこの唐揚げ美味しそうだね。確か、カエルもも肉って…言って……た………カエルっ⁉︎」
素っ頓狂な声をあげたフィリスに再び周囲の注目が集まる。
「おお落ち着いてフィリスちゃん。みみみ皆見てるから」
リアーネは落ち着いた声音で、明らかに落ち着いてないような口調でフィリスに注意をするという、なんとも器用なことをしだした。
「あれ?二人ともカエルは苦手?」
「いや、本当は苦手じゃないんですけど…その、昨日会ったカエルは大きすぎて気持ち悪かったし…。そもそもカエルって食べたことないんですよ」
ぎこちなく答えるフィリスに、クリスは唐揚げを食べながら「美味しいよ」と言ってくる。
「この街ではジャイアントトードがよく食べられるんだよ。狩りやすいし数も多いし、何よりスゴく美味しいんだよ?」
そんな事を言って再び唐揚げに齧り付くクリス。
それを見たフィリスとリアーネは、意を決して唐揚げに齧り付いた。
「……ん!んん〜〜〜‼︎……すっごい美味しい‼︎ね!リア姉!」
「これは……、確かに凄く美味しいわね。正直ここまでとは思ってなかったわ……」
その肉は多少硬いものの、噛みしめるたびに肉汁が溢れてくるそれは、だがそれでいて非常に淡白な味でとても食べやすいものであった。
「気に入ってくれて良かったよ。所で一つ君たちに頼みがあるんだけど…良いかな?」
「んぐんぐ……わらひらひでよけれはおへふはいひまふよ?」
「フィリスちゃん……何言ってるかさっぱりよ」
「……っん、私達で良ければお手伝いしますよ?」
リアーネに指摘されて口の中の物を飲み込んだフィリスは、再び繰り返す。
「ホント?ありがとう二人とも!」
「何でもって訳には行きませんけどね。でも私たちに出来ることなら是非手伝わせてください」
リアーネは今こそクリスに恩を返す時だと思った。
クリスとは短い間しか関わっていないが、それでも彼女から受けた恩恵はフィリスとリアーネにとってはとても大きなものだった。
当然今回クリスの頼みを聞いた所でその恩はまだまだ返したりないのだろうが、それでもクリスの力になれるのならと二人は息巻いていた。
「実は今日は一緒にクエストに行きたいなって思ってるんだよね」
「クエスト?確か冒険者が引き受けて、その報酬で生計を立ててるんでしたよね。…はっ⁉︎もしかしてクリスさん、私たちにあれこれしたおかげで、お金がないんですか⁉︎」
エリスの言葉に申し訳なさそうに応じるフィリス。
隣ではリアーネも不安そうな顔をしていた。
「いやいや、そんなんじゃないよ。それとはまた別に目的があるんだけど、それはクエストから戻ってから話そうか」
「それでどんなクエストなんですか?」
「それはね、ジャ」
とそこまで言った時だった。
「はっ⁉︎はああああっ⁉︎何です、この数値⁉︎知力が平均より低いのと、幸運が最低レベルな事以外は、残りの全てのステータスが大幅に平均値を超えていますよ⁉︎特に魔力が尋常じゃないんですが、あなた何者なんですか……っ⁉︎」
それは突然、受付カウンターの方から聞こえてきた。
叫んだのは昨日お世話になったルナだろうか。
何やら一人の女性を前に冒険者カードを眺めるその顔は、信じられないものを見たかのような表情をしていた。
「ブフッ……⁉︎せ、先輩⁉︎」
「うわ⁉︎ど、どうしたんですか?」
ふと目の前でも突然クリスが盛大に吹き出し、フィリスが心配そうに覗き込む。
「い、いや…流石にないか…。それにしても凄い先輩に似てるなぁ……」
「クリスさん?」
リアーネも不思議そうに尋ねる。
と、そこでようやくクリスはふと我に返った。
「あぁ、ごめんごめん。ちょっと知り合いに似ていたもんだから驚いちゃっただけだよ」
コホンと咳払いを一つし、クリスは改めて本題に入る。
「それでなんだけどね、今回のクエストはジャイアントトード五匹の討伐なんだ。一緒に引き受けてくれるかな?」
「えっと、そんなに強くない相手ですか?」
「うん、君たちでも十分に勝てるはずの相手だよ」
その言葉でフィリスとリアーネは互いに顔を向けあい、頷いた。
「分かりました。私達で良ければお手伝いします」
リアーネは笑顔で言った。
それを聞き、クリスも微笑を浮かべた。
「それじゃあ早速クエストに行こうか」
クリスがジョッキの中の水を飲み干して立ち上がると同時。
「んんん!んん!んんんんん!」
「「「あ……………」」」
先程からすっかり存在を忘れ去られていたダクネスが体をガタガタと動かした。
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町の外に出ると、程なくして巨大なカエルがちらほらと見えた。
「ジャイアントトードって、昨日のカエルのことだったんだね…」
そう言って昨日の逃走劇を思い出したのか、フィリスは身震いをした。
「安心しろ。クルセイダーは上級職の前衛職だ。いざとなったら私が三人の盾となろう」
体の自由を取り戻したダクネスは、そんな頼りになることを言ってきた。
………息を荒げながら、だが。
「まさか、この人も一緒に同行するとはね」
リアーネはそう言って嘆息をつく。
フィリスとクリスも苦笑いを浮かべていた。
「ごめんね、この子結構頼りになる時もあるんだけど、普段はいつもこんなのなんだ。ただダクネスの硬さはそんじょそこらの前衛職とは比べ物にならないから安心して。普段はこんなのだけど」
クリスはダクネスにフォローを入れているのかいないのか、そんな良く分からない事を言った。
「それじゃあ軽く作戦会議をしようか。ジャイアントトードには打撃は効かないからそれ以外で攻撃すること。ダクネスはひたすら守りに徹して。以上!」
「それ作戦会議って言えるんですか…」
フィリスがそんな突っ込みを入れるなか、ふとリアーネは重大な事に気付いた。
「どうしよう、私弓ないんだけど………」
……………………。
長い沈黙が続き、リアーネはバツが悪そうにする。
「そういえばリア姉、持ち物が医者いらずと五十コールだけだったね……」
そう、二人がこの世界に飛ばされた時、弓は一緒には持ち込まれていなかったのだ。
今まで色々な出来事があったため忘れていたが、これではジャイアントトードを狩ることができない。
「あー、そういえば何も持ってないね……。ねぇリアーネ、剣は使えるかな?」
「え?はい、一応使えますけど」
クリスはそれを聞くとダクネスの持つ両手剣を指差した。
「だったらアレを使うといいよ。少し重いかもだけど、ダクネスよりかは上手く使いこなすでしょ」
「ちょ…クリスっ⁉︎それは一体どういう意味だ⁉︎」
ダクネスはクリスの唐突な言葉にショックを受ける。
が、そのダクネスの疑問にはリアーネも同様の想いだった。
「でもあの両手剣は、ダクネスさんが使った方がやっぱり良いんじゃないですか?それにあんな重そうな剣は私にも上手く扱えるかどうか…」
「なら少し見ててよ。ダクネス、ちょっと行ってきて」
「私の扱い雑すぎないか⁉︎だが行ってくりゅ‼︎」
そうしてダクネスは一人、カエルに立ち向かって行った。
「だ、大丈夫なんですか?一人で行っても……」
「うん、ダクネスなら大丈夫だよ。それより見て…あの攻撃を……」
クリスの視線の先には、カエルに動じることなく戦うダクネスの姿があった。
カエルに対して力一杯振り下ろされたダクネスの獲物である両手剣は、だが次の瞬間。
_______スカッ、と。
なんとも間抜けな風切り音を響かせた。
「「………え?」」
初撃を外したダクネスの猛攻は尚も続く。
両手剣を振り下ろした後、手首を返して切り上げ、続いて手を横に引きそのまま薙ぎ払い。
一閃、二閃、三閃と。
矢継ぎ早に繰り出される剣撃はしかし、ついぞジャイアントトードに当たることなかった。
「くっ………、ここまでの物とは。このジャイアントトード、中々の強者と見た」
「いや、さっきから全然動いてなかったけど…」
遠くから聞こえるダクネスの声に突っ込みを入れるリアーネ。
当のダクネスはと言うと、遠目からでもはっきり分かるくらい顔を赤らめていた。
しかしそれは先程までの変態的表情ではなく…。
「あ、アハハ……、恥ずかしい……のかな?」
どうやら本当に恥ずかしいのか、ダクネスは巨大ガエルを前に俯いて固まってしまった。
「ご覧の通り、ダクネスはとんでもなく不器用で、武器の扱いには不慣れなんだ」
「不器用ってレベルじゃありませんでしたよ⁉︎」
「う、うるひゃい‼︎」
リアーネの叫びに、必死に対抗する不器用ちゃん。
その時、そんな不器用ちゃんに対して不用意にもカエルの口が近づき。
「ひゃいっ⁉︎」
「「な………っ⁉︎」」
ダクネスの上半身は無情にもカエルの口の中へと吸い込まれていった。
「という訳だから、少なくともアレよりかは、リアーネの方が上手く武器を使えるんじゃないかと思うんだよね」
「ちょ……そんなこと言ってる場合ではないですよ⁉︎」
*****
「あぁ……なんて事だ…。エリス様に仕えるクルセイダーともあろう私が、こんな辱めを受けるなんて………。最高だ………」
ダクネスを呑み込むことに夢中になっていたカエルを倒し、救出したダクネスは異臭を身に纏いながら、なんとも残念な事を言い放った。
「そういやダクネスさ、いつも身につけてる鎧はどうしたの?ジャイアントトードは金属を嫌うから鎧さえつけてれば食べられないよ?」
「……?何を言ってるのだ?だからこそ着なかったんだろ」
「さも当然のように言わないでよ‼︎バカなの⁉︎バカネスなの⁉︎」
クリスとダクネスが何やらおかしなやり取りをしている中、フィリスは呼吸を整えていた。
「はぁ…はぁ…結局クリスさんが全部やったね」
息を荒げながらフィリスはポツリとこぼした。
カエルはずっと無防備な姿を晒しているだけであり、攻撃チャンスなんていくらでもあったのだが、フィリスには生憎『ドナーストーン』以外に有効な攻撃手段はない。
その『ドナーストーン』もあのままではダクネスに直撃するからといる理由で使えず、気休め程度に杖で殴る程度しか出来なかった。
リアーネに関してはフィリスよりも攻撃手段がなく、クリスに使う事を勧められた両手剣も、ダクネスと共にカエルの口の中にあったため、本格的に何も出来ず、ただカエルの周囲をウロウロしているだけだった。
「えっと、それじゃあリアーネにはこの両手剣を使って貰いたいんだけど……、ヌルヌルだね」
「ヌルヌル……ですね」
カエルの口の中にあったそれは、ダクネスと共に粘液まみれで外へと出てきていた。
リアーネはそんな剣に手を伸ばすが直ぐに手を引き、かと思うとまた手を伸ばした。
_______確かにこの剣はヌルヌルだけど、ここでコレを手に取らなければクリスさんの為に恩返しが出来なくなってしまう……
クリスへの感謝をとるか、生理的拒絶に身を委ねるか、どちらに転んでも後悔しかない選択肢の狭間で葛藤するリアーネ。
だが、リアーネは自身の大切にしたい想いには逆らえず。
「仕方ないですね……、コレばっかりは我慢します」
そう言ってダクネスの両手剣を手に取った。
「カッコいいよ、リア姉。リア姉は私の自慢の姉だよ!」
「フィリスちゃん……、グスン……ありがとね。この勝負……負けられないわ‼︎」
「カッコよくキメてる所悪いんだけど、ただ臭い剣手に取っただけだからね?」
「臭いだのヌルヌルだの、お前ら人の剣をなんだと思ってるんだ⁉︎」
そこまで言うと、ふと周りはジャイアントトードに囲まれていた。
その数は四匹、全て倒せばちょうどクエストクリアとなる数だった。
「一人一匹相手にすれば何とかなるかな?二人とも一人で戦える?」
クリスの言葉にコクコクと頷く。
フィリスには『ドナーストーン』があるし、リアーネもあまり使い慣れていない武器とはいえ、実戦経験ならそこそこ積んであるし、この程度の相手では負ける気はしなかった。
「じゃあ先に倒した人からダクネスのサポートね。それじゃあ散開!」
「あ!ちょっと待て!」
クリスの合図に一斉に動き出す三人と、一人取り残されるダクネス。
「打撃は効かないから、もうこれしかないよね!」
そう言ってフィリスが取り出したのは『ドナーストーン』。
先日カエルに襲われた時に使った魔法の爆弾である。
手持ちは残り二つあるが、ここで二つ共消費するのは非常にもったいない為、何としても確実に命中させたいところだった。
カエルはふと口を開けると、中から物凄い勢いで長い舌をフィリスに向かって出してきた。
「うわっ⁉︎危なかった……」
距離がまだ遠かった事もあり、何とか避けれたフィリスだったが、迂闊に近づいて同じ攻撃をされると、正直避けれる自信がなかった。
どうしようかと攻めあぐねていると、ふと攻略法を閃いた。
「よーし、私だって戦えるんだって所を見せてあげる‼︎」
そう息巻いたフィリスは、ジャイアントトードとの距離を保ったまま、囲うように走り出す。
その視線は常にジャイアントトードに向けられたままだった。
ジャイアントトードは再び同じ攻撃をしようと口を開いたその瞬間。
「来たっ‼︎」
フィリスもまた急に立ち止まり、ジャイアントトードの動きを注視する。
そしてその長い舌がフィリスを捕まえようと伸びて来た時。
「それぇ‼︎」
素早く横へ逸れ攻撃を回避、そのまま右手に持っていた『ドナーストーン』を舌の上へと叩きつける。
すると『ドナーストーン』は起爆し、流れた電流は舌を伝ってジャイアントトードへと流れ込む。
ビクンと、ジャイアントトードは一瞬その巨躯全体が跳ね上がり、そのまま舌をだらしなく外へ出しながら二度と起き上がってくる事はなかった。
「やったぁ‼︎私、勝ったよ‼︎」
そう喜ぶのも束の間、すぐに周囲を見渡す。
他の三人は未だカエルと応戦中だった。
というかとある人物に関しては既に手遅れの状態だった。
「イイ、イイぞこれ‼︎新感覚だ‼︎どうやら私は新しい境地に達したようだ‼︎はぁぁ〜、何というご褒美だ‼︎今度使用人にカエルの粘液を調達してもらうとしよう‼︎」
ヤバイ目を輝かせながら顔だけ外に出した状態のダクネスは、何やら訳のわからない事を話していた。
「あれじゃ私には何も出来ないよね。『ドナーストーン』も使うわけにはいかないし。いやでも、使った方が喜んでくれるのかな?あ、クリスさんが倒し終えてそっちに向かってるや」
クリスの指示では、すぐにダクネスのサポートをするように言われていたが、そっちよりもリアーネの援護が優先と判断したフィリスは、リアーネの元へと向かった。
………あんな酷い発言を聞き流せるようになったのも、長い旅を通して逞しく成長したからだろうか。
そんな事を考え成長とはなんだろうと、答えのない疑問を頭に浮かべながら、フィリスはリアーネの所へとたどり着いた。
「リア姉頑張って!えいっ‼︎【強化の術法】‼︎」
【強化の術法】とは、対象の攻撃力、防御力、素早さを一時的に強化する、フィリスの持つ『不死鳥の杖』の固有スキルである。
「………っ⁉︎ありがとう、フィリスちゃん‼︎」
フィリスのサポートのおかげで、先程まで重かった両手剣が、片手剣のように軽々と振るえる。
とはいえ、本当に片手だけで持つと、まだ少し重いのだが、それでも扱い易くなったその剣で、リアーネは素早い攻撃を繰り出す。
一撃、二撃、三撃と。
繰り出させるごとに精度が増していくその刃は、少し前のダクネスのそれとは明らかに違っていた。
そして。
ドサッ!
カエルは動く力を完全に失い、バタリと地に倒れ伏した。
「やったわね、フィリスちゃん!」
仲よさそうにハイタッチをする二人に遠くの方から声がかけられる。
「こっちも終わったよ〜!」
遠くではクリスがこちらに向かって手を振っていた。
かくして初めてのクエストは見事成功に収まった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「「「「カンパーイ‼︎」」」」
クエストから戻って来たフィリス達は、その後大衆浴場で体を流し、ギルドで貰った報酬で祝福をしていた。
「いやー、それにしても二人とも中々やるね!駆け出し冒険者とは思えない手際の良さだったよ!」
クリスはご機嫌になって言った。
「いやいや、クリスさんこそ一人で三匹も倒してたじゃないですか!」
「その内二匹はダクネスが嬉々として足止めしてくれてたからね。凄く倒しやすかったよ」
「なんだかそんな風に褒められると、照れ臭いな」
「「「いや褒めてないから」」」
期せずしてダクネスを除く三人の声が揃った。
その三人の即答にダクネスが興奮した事は、最早言うまでもない。
「さて、それじゃあ祝賀ムードも最高潮に達して来たことだし、一つ君たちに相談があるんだ」
そう言ってクリスはどこからかとある紙を取り出した。
「何ですか?これ」
フィリスとリアーネが身を乗り出して覗き込んだその紙には、こう書かれていた。
『パーティメンバー募集中。当方、クルセイダーと盗賊の二人組。募集要員は、鬼畜な性癖を持つダメ人間。募集要員は前衛職一名、後衛職二名。』
………………。
最高潮に達していたらしい祝賀ムードは、一気に冷め始める。
「ちょっと待ってて少しダクネスと話をしてくるから」
クリスは口早にそう言うと、ダクネスの首根っこを掴み少し離れた所で何やら話し始めた。
「あの紙何?」
「…?パーティメンバー募集の紙だが?」
「どこがさ⁉︎あんなの読んでも普通人集まらないよ⁉︎むしろ通報されるレベルだよ⁉︎」
「クリス、これは真面目な話なんだが、今時そういう人材も必要だとは思わないか?」
「そこまでこの世界も落ちぶれてないよ‼︎というか真面目な話って言ったよね今⁉︎なら真面目に話してよ‼︎」
「私はいつだって真面目だぞ?」
「消して‼︎今すぐあの文言を消して‼︎」
そんなクリスとダクネスのやり取りを、フィリスとリアーネは温かい目……いや、冷めきった目で見つめていた。
そして再び席へと戻ってくるクリスとダクネス。
ダクネスは案の定体を縛られ、口を塞がれ、頬を上気させていた。
「このバカの事は今は放っておいて……」
「あ、はい」
リアーネはそう答えるしかなかった。
「ゴメンね。それで二人への相談なんだけどさ、今度私達パーティメンバーを募集しようと思ってるんだよね。だからさ私達と一緒にパーティを組む気はないかな?」
「「え⁉︎」」
突然の申し出に困惑するフィリスとリアーネ。
「ほら、募集要員に後衛職二名ってあるし。ダメ……かな?」
不安そうな顔を浮かべるクリスに、フィリスは首を横に振る。
「ダメだなんて、そんな事ないよ!ね、リア姉!」
「えぇ、そうね。私達としては、凄く嬉しい申し出なのだけれど。クリスさんはそれで良いんですか?」
リアーネの問いかけにクリスはもちろんと頷いた。
「今日のクエストを通して思ったんだけど、二人って思ったより実践慣れしてるよね。腕前も申し分ないし、私達とも上手く連携を取れそうだし、私としては是非とも一緒にパーティを組みたいと思ってるよ」
クリスは笑って答える。
思えばクリスとは今後も一緒にいたいと、フィリスとリアーネも密かに思っていた。
八方塞がりだったフィリス達に手を差し伸べてくれた、明るくて優しいクリス。
クリスとなら今後も上手くやっていけると思うし、その中で恩返しをする機会があるなら、喜んでクリスの力になりたいと願っている。
もはやフィリスとリアーネに迷いはなかった。
「ふつつか者ですが、今後もよろしくお願いしますね、クリスさん!」
フィリスは満面の笑みでクリスと固い握手を交わした。
強化の術法…杖の固有スキル。対象の攻撃、防御、素早さを強化する
固有スキル…ある武器を装備する事で使えるスキル。武器によって固有スキルが変わってくる
不死鳥の杖…この話でのフィリスの持つ杖。ゲームでは錬金術によって入手可