ちなみにダクネスは今回も暴走しているかもしれませんね。
クリスと変態の二人と別れたあと、フィリスとリアーネは宿へと戻ってきていた。
今回のクエストで手に入れた報酬は、ジャイアントトードの討伐による報酬と、クエスト自体の報酬を合わせて十二万五千エリスであった。
その内二万五千エリスはクエスト達成の、ひいてはパーティ結成の祝杯に注ぎ込まれた。
残った十万エリスはその六割程がフィリスとリアーネの取り分となった。
リアーネは、せめて均等に分けようと提案したのだが、お金を全く持っていないフィリス達がより多く貰った方が良いということで、六万エリスで妥協となった。
尚、その六万エリスは全てリアーネの管理下にある。
ドンケルハイトの一件があったため、フィリスがそうする様にリアーネに頼んだのだった。
「それじゃあおやすみなさい、フィリスちゃん」
「うん、おやすみ、リア姉」
部屋の灯を消し、二人が寝床に着こうという所で、それは突然に現れた。
「こんばんわ、フィリスさん、リアーネさん。また来ちゃいました」
どこから侵入したのやら、テヘペロと言わんばかりに舌を出して片目を瞑り、茶目っ気たっぷりな挨拶をぶちかましてくる女神エリスがそこにはいた。
「また来たんですか、エリス様。女神というのも案外暇なんですね。それじゃおやすみなさい」
「えっ…あれっ?なんか冷たくないですか⁉︎」
「エリス様、もうそろそろ寝ないとお肌に悪いですよ?」
早口でまくし立て寝ようとするリアーネと、涙目で抗議するエリス。
フィリスは全く見当違いな事を言いだし、もはやカオスである。
「ちょ、少しは話を聞いてくださいよ!」
「はいはい、冗談ですよ。ちゃんと話聞きますから」
エリスがとうとう泣きそうな顔で懇願して来たので、フィリスとリアーネもそれに応じる。
「アハハ、ごめんなさい。ちょっと悪ふざけが過ぎましたね」
とりあえずフィリスはエリスに対し謝罪を述べる。
「もう、おふざけはこれきりにして下さいね。私だって暇じゃないんですし、お二人の為に色々してるんですからね?」
エリスは拗ねた子供のように頬を膨らませて言う。
その可愛らしい姿は多くの男性を一発でオトせそうだ。
「分かりましたよ。それで、今日は一体どうしたんですか?」
リアーネはさっきまでとは打って変わり、エリスの話を聞く態勢に入る。
その様子を見たフィリスも、それに倣ってエリスに向き直る。
「そんなに畏まらなくても良いですよ。ところで今日、とある例の銀髪の少女と、あとは金髪の子ともパーティを組みましたよね?」
流石は女神といったところだろうか、この世界でのフィリス達の様子は筒抜けのようだ。
「はい、確かにパーティを組みましたけど…何か問題があったんですか?」
首をかしげるフィリスに、エリスは手を横に振って答える。
「いえいえ!問題があるという訳ではないんですけど、その、パーティとなったお二人に事情を説明してみてはどうですか?」
「事情を…ですか?」
エリスの言葉に今度はリアーネが首をかしげた。
フィリスとリアーネが異世界から飛ばされて来たという事は、とりあえず隠しておこうというのが二人の意見であった。
そのため、クリスにもダクネスにもこの事は伝えていない。
この事を知っている者といえば、当事者であるフィリス達と、この世界の女神であるエリスだけである。
「あの二人なら、きっと貴方達の言う事も信じてくれますよ。それに、事情を知れば色々と協力してくれるかも知れませんしね」
「うーん、でも本当に信じてもらえるのかな?」
「えぇ、きっと」
エリスは笑顔で答える。
どうやらエリスは、クリス達の事を信じているようだった。
「そうですね……、確かに私達の状況を知ってもらえたら、色々と力にはなってくれるかもしれないわね」
リアーネはふとクリスの事を思い出した。
クリスは元からそういう性分なのか、困っている人は放っておけないらしい。
その事は困っていた人の一人であるリアーネが、身を以てよく分かっていた。
これ以上迷惑をかけるわけにはいかないと思いながらも、折角パーティになったというのに隠し事をしているのも良くないのではないかとも思う。
「リア姉、思い切って話してみない?」
フィリスはクリスとダクネスを信じ、事情を話したいと思っているらしい。
フィリスがそう決めたのならと、リアーネもその意見に賛同する事にした。
「そうね、明日ギルドで会った時、二人に説明しましょうか」
フィリス達がエリスの提案を受け入れた所で、エリスは再び口を開いた。
「どうやら事情をあの二人に明かしてくれそうですね。それは良いのですが、その際私の存在はくれぐれも出さないでくださいね」
エリスは二人に対して釘をさしてきた。
「え?なんでですか?」
「あの二人は、どちらとも敬虔なエリス教徒です。自分で言うのも恥ずかしいのですが、もしそのようなエリス教徒が自分たちの崇める御神体が現世に現れたとなれば、あまり落ち着いては居られなくなるでしょう。不用意な混乱を避けるためにも、どうかご協力ください」
フィリスの疑問に淡々と答えるエリス。
「うん…確かにそうね。分かったわ。エリス様が降臨なさったと言う事は、言わないでおきますね?」
リアーネはエリスの言う事に従う事にした。
それにしてもクリスとダクネスがまさかエリス教徒だとは、やはりお金の単位にまでなっているだけの事はある。
「今日ここに来たのはその為だけです。それではゆっくり休んでくださいね」
「わっ⁉︎消えちゃった……。やっぱりエリス様って凄いんだね……」
目の前で忽然と姿を消したエリスに対し驚くフィリス。
そうしてその日もまた終わりを迎えたのである。
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翌日。
「_______という事がありまして、私達は全く違う世界から飛ばされてしまったんです」
「ふむ、そんな性癖は聞いた事ないな」
「性癖じゃありませんよ真面目な話ですよ」
ギルドでクリスとダクネスの二人と待ち合わせた後、昨夜エリスに言われた通り事情を説明したら、ダクネスがあらぬ誤解をしてしまった。
というかどう解釈すればそんな風に誤解できるのだろうか。
「ちょっとダクネス、二人とも真面目に話してるんだからふざけないでよ」
フィリス達がダクネスに若干引いていると、クリスが二人のフォローをしてくれた。
「あれ?クリスさん、信じてくれてるんですか?」
「うーん、正直まだ少し疑ったりもしてるんだけど、二人が嘘を吐いているようにも見えないんだよね。だから、とりあえずは信じようかなって思ってるんだ」
フィリスの問いかけにクリスはそう答える。
どうやらエリスの言う通りにして良かったと、フィリスとリアーネはホッと息をついた。
「しかし錬金術なんて急に言われても、そんなものは聞いたこともないからな」
ダクネスも真面目な顔でそう言う。
彼女も真剣に聞く気になってくれたようだ。
「ちなみに錬金術とやらは話に聞く限り、様々な物を生み出せるらしいが」
「はい、そうですけど」
「イヤらしい所を的確に弄ってくるヌルヌルの触手とか生み出せないのか?」
「無理ですね。出来たとしても作りません」
どうやら気のせいだったようだ。
むしろ別方向で真剣に聞いているようだった。
「ちょっと待っててね二人とも。今この変態ドMクルセイダーを黙らせるから」
「「お願いします」」
待つこと数分。
全身を縛られ頬を上気させたいつものダクネスが完成した。
「これで良しっと。ところでその錬金術というのは、こっちの世界でも出来るのかな?」
「こっちの世界で……ですか?」
クリスは手をはたきながら突然質問を投げかけてくる。
確かに言われてみれば、こっちの世界に来てからというもの、一度も錬金術を行なっていなかった。
もちろんエリスは錬金術で元の世界に戻れると言っていたので、こっちの世界でも錬金術は行使する事が出来るのだろうが。
「えっと、錬金術を行うにはいくつか道具がいるんですけど、それらが全然揃ってないんですよね…」
そも錬金術を行うにあたって、いくつか道具が必要になるのだ。
が、こちらの世界に飛ばされた時に、特典としてそんなものまで一緒に付いてくるはずもなく。
お金も殆どない為道具を買い揃えることもままならないのだ。
今こうして改めてその問題に直面すると、そこには頭を抱えたくなってくるような現実が待っていた。
「あー…そっか、まぁそうだよね。二人ともお金あんまりないし、こればっかりは少しずつお金を貯めていかなきゃ厳しいかな。と言っても実際どのくらいの金額があれば道具が揃うのかは知らないけどね」
クリスは右頬の傷を掻きながら苦笑を浮かべた。
「そもそも、錬金術に使える道具ってどこで売ってるのかしら?」
リアーネのそんな素朴な疑問に、クリスはポンっと手を打って答える。
「そうだっ!別の世界から来たって事は、こっちの世界にはまだ慣れてないんだよね。だったらさ、今日は道具探しも兼ねて街中を散策しない?私、案内するからさ」
そんなクリスの提案をフィリスとリアーネが断るはずもなく。
「え?良いんですか⁉︎じゃあ是非ともお願いします!」
「そうですね、私からもお願いします」
「よし、決まりだね。それじゃあ早速出発しようか」
そうして三人は冒険者ギルドを出て、街へと繰り出した。
そして。
「ん〜〜⁉︎んん〜〜⁉︎ん〜〜〜〜〜⁉︎」
取り残されたダクネスは、ギルド中から憐れみの視線を浴びる事となった。
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ギルドを出たフィリス達が最初に向かったのは武具屋だった。
錬金術に使う道具も確かに必要ではあるのだが、それより最初にリアーネの武器を確保しなければいけないという事になったのだ。
「どう?良さそうな弓はある?」
「はい、あるにはあるんですけど…」
クリスの問いかけに渋い顔で応じるリアーネ。
そんな彼女の目の前には確かに素人目で見ても良さげな弓が壁面に掛けられてはいたのだが。
「これはちょっと手を出せないですね…」
そこに表記されている値段は五十万エリス。
所持金六万エリスの彼女には全く手の届かない代物であった。
「やっぱり買うとしたらこれかしらね」
そう言ってリアーネが手に取ったのは二万四千エリスの安物の弓であった。
「それで良いの?リア姉」
フィリスが目を向けた先にはもう少し高いが、その分性能が良いであろう弓が立て掛けてあった。
「良いのよフィリスちゃん。むしろ、これでも結構わがまま言ってる方なんだから」
リアーネは手に取った弓の弦を軽く指で弾いた。
心地よい弦音が店内に響く。
「じゃあリア姉がそう言うなら」
確かに今後錬金術に使う道具を買い揃えていく事を考えると、二万四千エリスというのは決して安い買い物ではないのかもしれない。
それを考えると、店内にある八千エリスと書かれた最も安い弓を買う事もリアーネは検討したのだろう。
だがそれらの安物は全て木材で出来ており、衝撃には弱そうだった。
下手に安物を買ってすぐに壊れてしまうのなら、もう少し耐久性や性能を考慮しても良いのかもしれない。
そんなリアーネの意図に気がついたフィリスは、その意図を汲むことにした。
「ありがとう、フィリスちゃん」
リアーネはフィリスに笑顔を浮かべた後、手に取った弓の代金を支払いに行った。
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武具屋にて二万四千エリスの弓と、五十本で三千エリスの安物の矢を買った事により、現在の所持金は三万三千エリスとなった。
「三万三千エリスかぁ。これで錬金術に使う道具がどこまで買えるかな?」
フィリスは元いた世界で使っていた数々の道具を思い出していた。
錬金釜、フラスコ、試験管、天秤………。
考えると、現在の資金ではどうやっても買い揃えることは出来ないだろう。
最低限として錬金釜があれば様々な物を作ることが出来るのだろうが、より高性能な道具を作るとなると、材料の質は良いことが前提だが、その他にも道具を使ってより精密な作業をする必要があるのだ。
だがこの残金で錬金釜を買えるとは思えないし、元々の所持金の六万エリスでも、買えるだなんて思ってもいなかった。
少なくとも他の道具はいくつか買えるだろうが、そもそも錬金釜が無いのでは意味を為さない。
そしてそれ以前にとある問題が一つ。
「そもそも錬金釜ってどこにあるの?」
そう、もとよりこの世界には錬金術というものが存在していなかった。
その為、錬金術に必要な錬金釜という物もこの世界には必要ないものであり。
「フィリスちゃん、そっちにあった?」
「ううん、なかった。リア姉の方は?」
「それらしいものは見当たらなかったわね…。あ、クリスさん、ありましたか?」
「普通の釜ならあったんだけど、錬金術…だっけ?それに使えそうな大きな釜は見つからなかったよ」
「そうですか、ここもハズレね。フィリスちゃん、次の店に行きましょ?」
「うん…そうだね、リア姉」
本日八軒目となる店にも錬金釜は見つからず、フィリス達は店をあとにする。
先程から日用品が豊富に置いてありそうな店をクリスが提案し、それらを中心に回ってはいるものの、やはり錬金釜として使えそうな物はどこにも置いていなかった。
「うーん、でももう何処を探しても錬金釜なんて置いてなさそうだよね…」
ふと上を見上げると、日はとっくに傾き、空は紅色に染め上げられていた。
既に街中の案内は一通り終わり、今はただただ錬金釜が置いてそうな店を探して回っているだけであった。
「うーん、正直言ってここまで見つからないとは思ってもいなかったよ。まぁ考えれば当然の事ではあるのかもしれないけどね」
クリスは苦笑を浮かべながらそんな事を言った。
「それじゃあ、今日の所はとりあえずもう解散としましょうか。街中を散策するのに夢中になり過ぎてご飯も食べていなかったし」
お腹をさすりながらリアーネは今日の事を振り返った。
思えばギルドで朝食をとろうと思っていたのだが、それ以前に事情を説明する事に気をとられ、ふと気がつくと朝食を食べないまま街へと繰り出していたのだ。
また、昼食も錬金釜を探すあまり、完全に食事のタイミングを逃していた。
そんな事を思い出すと、急に空腹がフィリスとリアーネを襲った。
「アハハ、そう言えばあたしも昼に何も食べてないかな。それじゃあこの後ギルドに行って一緒にご飯食べない?」
クリスも昼食をとっていなかった事を思い出したのか、そんな提案をしてきた。
「そうですね、それじゃあそうしましょうか」
リアーネもその提案に賛同する。
と、ふとフィリスがある事を思い出した。
「はっ⁉︎そう言えばダクネスさん放置したまんまだった…」
…………………………。
長い沈黙が、他の二人もダクネスの事を忘れていたという事を暗示していた。
「ま、まぁでもあのまま放置されててもギルドとしては困るだろうし、きっともう解放されて帰らされたんじゃないかな?」
クリスが困ったような顔でそう言った時、ふと遠くから物凄い足音が聞こえてきた。
「え?何この音?というか何だか近づいてきてない⁉︎」
そう言ってフィリスが振り向いた視線の先。
長い金髪をたなびかせ、物凄い形相でこちらに向かってくるダクネスがそこにはいた。
「に、逃げるわよ、フィリスちゃん‼︎」
「うん、そうだね……って何で逃げなきゃいけないのリア姉⁉︎」
「も、もしかしてダクネス怒ってるのかな?はっ…⁉︎まさかダクネスのアイアンクローが炸裂するんじゃ……逃げなきゃ‼︎」
「ちょ、クリスさんまで⁉︎」
そうこうしている内に、ダクネスがフィリス達の元へと辿り着いた。
「はぁ……はぁ……、やっと見つけた……」
荒い息を吐きながら、ダクネスは真剣な顔でフィリスを見つめていた。
「あのダクネスさんがこんなに真剣な顔をするなんて……や、やっぱり怒ってるんですか?」
「ダクネスさん……ごめんなさい!まさかここまで怒ってるなんて思わなくって……」
「私も悪かったよダクネス。だからいつもの常時発情期の様な顔に戻って!」
口々に勝手な事を言う三人。
ダクネスはそんな三人を怪訝そうに見つめる。
「怒るってなんのことだ?というかクリス、今なんて言ったのだ⁉︎なんだかすごく失礼な事を言わなかったか⁉︎」
「え?ダクネスってば、ギルドに一人寂しく置いてかれた事を怒ってるんじゃないの?」
クリスはダクネスの突っ込みを華麗にスルーして言った。
が、帰ってきた答えは三人を安堵させた。
「置いてかれた事は別に構わん。これが放置プレイと言うやつかと思うと身震いがしたし、そんな私に向けられる周囲の好奇の視線もなかなかのものだったし満足はしたぞ」
「良かったいつものダクネスだ」
ダクネスが怒っていない事を知り、ホッと息をつくと同時、軽く引くクリス。
だがそんなクリスの態度には御構い無しと言った感じで、ダクネスは改めてフィリスに向き直った。
「クリスが何を言っているのかは分からないが、まぁ良い。フィリス、一つ頼みがあるのだが…」
「え?私ですか?」
「ああ、そうだ」
ダクネスは真面目な表情でフィリスの事を見つめる。
ダクネスの内面がどうしようもない変態だと知っているが故に、そんな真面目な表情をされるとフィリスもつい身構えてしまう。
一体どんな変態的要求をされるのだろうか。
そんな事を考えていたフィリスに放たれた言葉は、だが想定していた事と全く違うものであった。
「フィリスは錬金術……というものが出来るのだろう?それを使って、ある道具を作って欲しいのだ」
ダクネスのその真剣な瞳には僅かな焦燥も含まれていた。
こちらの世界に来てからのフィリスにとっては、それが初めての錬金術の依頼となるのであった。
さてさて、とうとうアトリエらしいイベントが発生しましたね。
次回はフィリスがダクネスの依頼のため奮闘します(多分)。