少女と錬金術と異世界と   作:蜂蜜れもん

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段々と投稿ペースが遅くなってる。
いやむしろこの位がやはり普通なのだろうか。


七話 ある日の出来事〜フィリスside〜

フィリス達が採取に出かけた日から三日がたったある日の夜。

フィリスは錬金釜の中をグルグルと掻き混ぜていた。

 

「よいしょ、よいしょっと。よし、完成だー‼︎」

 

釜の中からは悪魔の形を模した瓶が出てきた。

それは、『小悪魔のいたずら』と呼ばれるアイテムであった。

『小悪魔のいたずら』は錬金の難度が低めな、敵にデバフをかける道具である。

ちなみに今回作った『小悪魔のいたずら』には、その効果として『レベルダウン・中』と『スロウを与える・強』が、特性には『使用回数+2』がついてる。

ダクネスからの依頼にはうってつけの道具が完成したわけだが。

 

「でもまだ一個かぁ……。まだまだ頑張んなきゃだね」

 

そう、未だに一個しか依頼用の道具が出来ていなかった。

というか今しがたその一個が完成したのだ。

 

と言うのも、この三日間はずっと試行錯誤を繰り返していたのだ。

 

錬金術のやり方を簡単に説明するならば、フィリス曰く「材料をばっ、って入れてぐるぐるーって混ぜたらどーん!って出来ちゃうんですから! 」とのことだが。

作り方によっては同じ道具でも発現する『効果』が変わったりするのだ。

更に言うなれば、同じ材料でも品質やサイズなどによって、のちに出来上がる道具の性能も変わってくる。

オマケに『特性』という概念もあり、その『特性』によって使用回数の増減や威力の増加なども見込めるのだ。

錬金術はパッと見は地味で、フィリスの説明からしても至極単純な様に思えるが、その実非常に奥が深く、極めるのは困難な事だ。

 

だからフィリスは当初、どの材料がどの様な反応を起こし、どんな錬金成分が含まれているかをずっと確かめていたのだ。

初日はフィリスの予想外の反応が起こることもしばしばあり、その都度爆発などもしたものだが、基本的には元いた世界と同じように錬金術が出来た。

二日目には材料に含まれる錬金成分が大体把握でき。

そして三日目の今日、ようやくフィリスの描いた通りの道具が一つ完成したのだ。

フィリスが満足げに、それでいてやる気に満ちた表情で『小悪魔のいたずら』を眺めていると。

 

「フィリスちゃん、クッキーが焼けたわよ」

 

リアーネがお菓子と紅茶を持って台所から出てきた。

 

「え?ホント?やったー!リア姉のお菓子久々だぁ!それにちょうど道具も完成して落ち着いた所だったしね」

 

フィリスはリアーネの持ってきたお菓子を、目を輝かせながら見つめた。

この世界に来てからと言うもの、慌ただしい毎日だったため、お菓子を作る余裕なんて今の彼女達には全くなかった。

が、こないだのクエストで僅かながらに収入を得たことにより、数日分の食費は手に入ったのだ。

本当はお菓子の為の材料も買う余裕はまだないのだが、フィリスはリアーネの作るお菓子が大好物だった。

その事実は姉冥利に尽きるのか、リアーネは頑張っているフィリスの為に、なけなしのお金をはたいてお菓子を作ることにしたのである。

 

「そう言ってもらえると嬉しいわ。さ、どんどん食べてね」

 

フィリスの言葉に嬉しそうに応えながら、リアーネは机の上にクッキーの乗った皿と紅茶が入ったカップを置いた。

フィリスは錬金術で少し汚れた手を洗った後、椅子に腰掛けて手を合わせた。

 

「いっただっきまーす!」

 

そうして美味しそうにクッキーを頬張った。

 

「ん〜〜!やっぱりリア姉の焼くクッキーは最高だね‼︎」

 

「ありがとう、フィリスちゃん。またお金が入ったら作ってあげるわね」

 

「へー、クッキーですかこれ。美味しそうですね、私も一口頂きますね」

 

幸せそうなフィリスを見て幸せそうな顔を浮かべるリアーネの前に、突然エリスが降臨してきた。

 

「ダメですよエリス様」

 

「いたっ!ちょ、やめて下さいよリアーネさん!」

 

勝手に家の中に侵入し、勝手な事を言って、勝手にクッキーへと手を伸ばすエリスの手をリアーネは叩いた。

 

「それはこっちのセリフです。これはほんの僅かしかないお金をはたいて、フィリスちゃんの為に作った物なんですからね」

 

可愛く頬を膨らませるエリスに、フィリス絡みの事となると女神だろうが悪魔だろうが容赦しないリアーネが食ってかかる。

 

「まぁまぁ、落ち着いてよリア姉。一枚くらいなら良いでしょ?」

 

「むぅ……フィリスちゃんがそう言うなら」

 

「ありがとうございます、フィリスさん。それでも一枚だけなんですね………」

 

フィリスの言葉にリアーネは渋々了承し、エリスは苦笑を浮かべていた。

 

「それで、今日はまたどういったご用件で?」

 

リアーネは紅茶をエリスに出しながら問う。

エリスはその紅茶を素直に受け取った。

 

「あ、これはどうも。………美味しいですねこの紅茶!やっぱりお菓子と紅茶の組み合わせは良いですね」

 

「そうですね。それでどういったご用件で?」

 

エリスの言葉を軽く受け流し、再度問うリアーネ。

エリスは「雑談も出来ないんですか…」と肩を落としながら。

 

「実は、これと言って特に重要な用件はないんですよ」

 

苦笑を浮かべて言い放った。

 

「むぐむぐ……んっ、じゃあ重要じゃない方の要件はなんですか?」

 

フィリスは口の中のクッキーを飲み込んでから、エリスの意図を推し量るように言った。

 

「えぇ、お二人の様子を伺いにきたんですよ。とりあえずは順調そうですね」

 

「まぁ、順調と言えば順調ですかね。金銭面を考慮しなければの話ですけどね」

 

エリスがホッとしたような表情で話す中、リアーネは愚痴を零しながらも相槌を打つ。

 

「それでも今のこの現状は中々のものですよ。まさかダクネスがここまでするとは思ってもいませんでした」

 

「あれ?エリス様、ダクネスさんの事を知ってるんですか?」

 

「えぇ、彼女は敬虔なエリス教徒ですから」

 

エリスはフィリスに対し、ほんのり頬を赤く染めながら応える。

どうやら自分で言ってて少し照れているらしい。

そんなエリスを可愛いく思いながらも、フィリスとリアーネは同じ事を考えていた。

 

ドMが自分の信者ってどんな気持ちなんだろう_______と。

 

「そう言えば、こないだもクリスさんとダクネスさんは自分の信者だって言ってましたよね。同じ宗派なのにどうしてああも違うのかしら?」

 

「やっぱり国教になっている程なんだし、信者だって多種多様な人が居るんだよきっと」

 

「あの…、それってもしかしなくてもダクネスのアレな内面の事を言ってますよね」

 

流石は女神様である。

信者の性癖の事もバッチリ分かっていらっしゃるようだった。

 

「ま…まぁでも無事に錬金術が出来るようになってて良かったです。それにしても錬金術って凄いんですね。ただ…このデザインは何とかならないんですか?」

 

エリスはフィリスが作った『小悪魔のいたずら』を手に取りながらそんな事を言う。

 

「デザイン?デザインに何か問題があるんですか?」

 

「いえ、あの、そう言う訳ではないんですけどね…。その…一応私も女神なので、やっぱり悪魔とかアンデットは敵視してるんですよね。そもそも悪魔というのは………」

 

エリスは右頬を掻きながらどうにもならない事を言ってきたと思ったら、今度は悪魔の悪口をコンコンと説き始めた。

どうやら神と悪魔は水と油の如く相容れぬ関係らしい。

フィリスとリアーネは段々とヒートアップしてくるエリスの話を呆然と聞くしかなかった。

 

「………というわけで、悪魔は最低最悪の悪趣味な種族なんです」

 

「なるほど、そうなんですね。フィリスちゃん、『小悪魔のいたずら』を大量に作ってストックしておきましょう」

 

「私の話聞いてました⁉︎」

 

的確にエリスの嫌がる事を提案するリアーネに、エリスは涙目で訴えた。

 

「リ、リア姉落ち着いて…」

 

「冗談ですよエリス様。と言っても、デザインに文句を言われてもこちらとしては困るんですが」

 

「わわ、分かってますよ。ただ、もしどうにか出来るなら私としてはそのデザインは控えて欲しいのですが」

 

「んー、手間なのでお断りします」

 

「ですよね…」

 

エリスはがっくりとうな垂れた。

 

「まぁ、やはりどうにもならない事を言っててもしょうがないですよね。今日はあなた方の様子を見れただけでも良しとしましょう。それでは、お休みなさい」

 

エリスはそう言うと、フッとその姿を消した。

それを見送ったリアーネは心底疲れたようにため息をついた。

 

「悪魔の話をしてた時のエリス様、すっごい面倒だったわ……」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日。

フィリスは錬金術で『レヘルン』を作っていた。

ダクネスに道具を渡すのは今日の十五時である。

それまでに道具を完成させねばならないのだ。

そのためフィリスは朝早くに起き、錬金術に勤しんでいた。

現時点で完成した道具は、『小悪魔のいたずら』と『不幸の瓶詰め』の二つであった。

どちらも対象の動きを遅くさせる効果を持たせ、更には使用回数を増やす特性を付与させている。

残るは『レヘルン』を作るだけである。

 

「うんうん、何だか順調だね。あとは一昨日作った『中和剤』を……、って、コレ『中和剤』じゃなかった」

 

それが何かもよく確認せずにフィリスが手に取ったのは、リアーネが採取してきたヘドロのような怪しい液体が入った瓶だった。

フィリスが手にした瓶を戻そうとした瞬間。

 

 

ドゴォォォォォォォォォ‼︎

 

 

爆発音のようなそれは突然に街中へと轟き、大地を震わせた。

 

「わぁっ⁉︎ななな、何っ⁉︎何なの⁉︎」

 

その轟音にフィリスは驚き、萎縮した直後。

 

ポチャン

 

「あ…」

 

先程までフィリスが握りしめていた瓶が錬金釜の中へとダイブした。

 

「………あ」

 

フィリスが恐る恐る錬金釜の中を覗くと、既にそれは禍々しい色へと変色しており。

 

「あわわわわ…どどどどうしよう……、爆発する⁉︎」

 

今までの経験からその事を察知したフィリスは、咄嗟に錬金釜から飛び退き、床に伏せて頭を抑えた。

ドゴォォォォォ‼︎

 

直後フィリスの後方から爆音が響く。

 

「ケホケホっ……うぅ、いい感じだったのに……」

 

突然起こったアクシデントにフィリスは悲しみを隠せなかった。

が、すぐにふとある事を思案した。

 

「今の音、多分街の外からだよね。リア姉大丈夫かな?」

 

というのも、リアーネは朝早くに一人でクエストを受けに行ったのだ。

 

なんでも、今日の分の食費がもうないらしい。

 

本当はフィリスもついていきたい所だったのだが、フィリスはダクネスの依頼をこなさなければいけなかった為、仕方なくリアーネ単身でクエストを受けに行ったのである。

なお、クリスは今日は別の用事があるらしく、ダクネスも午前中は用事が、午後はフィリスと落ち合う約束なのでクエストにはいけないとのことだ。

 

そういう訳でリアーネは外へと行っているのだが、そんな中突然あの爆音が鳴り響いたのである。

音と振動からして、相当な大爆発が起こったことが予想される。

もしかしたら巻き込まれてはいないだろうかと、フィリスは不安になった。

 

「うぅ、心配だぁ……。でも、ここでずっと考えてても何も変わらないよね。よし、私は私に出来ることをしなきゃ!」

 

万が一の事態を想定すると、身震いが止まらなくなったが、それを振り切ってフィリスは錬金術を再び再開した。

たった今調合には失敗したものの、幸いまだ時間はある。

フィリスは今度こそ成功させるために、すぐに思考を切り替えて、錬金術に集中した。

 

*****

 

「か、完成だ〜〜〜‼︎」

 

それは、約束の時間の十分前であった。

見事錬金術を成功させ、フィリスは『レヘルン』を完成させていた。

 

「はぁ…良かったぁ。えぇと、時間は…十分前かぁ。間に合って良か……十分前っ⁉︎」

 

ちらりと時計を一瞥したフィリスはそんな驚きの声を上げた。

どうやらずっと時計を見ていなかったらしい。

 

「あわわわわ…急がなきゃ!えっと、『小悪魔のいたずら』は……あった!『不幸の瓶詰め』は……」

 

慌てて作った道具を掻き集めると、フィリスはすぐに家を飛び出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はぁ…はぁ……、ダクネスさん……これ、はぁ…頼まれてたものです………」

 

「あ、あぁ…、ありがとう……」

 

汗だくで冒険ギルドへと辿り着いたフィリスは、その中にダクネスの姿を確認するや否や、その場へと突進していった。

フィリスの想定外の登場の仕方にダクネスが反応に困っていると、フィリスは徐ろに鞄の中の物を広げた。

 

「はぁ…これは…はぁ、はぁ…小悪魔の…はぁ………」

 

「と、とりあえず落ち着け。そうだ、何か飲み物を頼もう。私の奢りでいいから、な」

 

息も絶え絶えの状態で道具の説明をするフィリスをダクネスは宥めながら、近くの職員を捕まえて注文を取る。

それから数分後、頼んだ飲み物が届くとフィリスはそれを一息で呷った。

 

「んぐ、んぐ……ぷはぁー!」

 

「どうだ、落ち着いたか?」

 

「はい、ありがとうございます、ダクネスさん」

 

落ち着きを取り戻したフィリスは、改めて道具の説明をしだした。

 

「えっとですね、これは『小悪魔のいたずら』と言って、対象の動きを遅くさせる効果があります。使用回数は六回ですね。それからこっちの『不幸の瓶詰め』と呼ばれる道具も同じ効果を持っています。こっちは使用回数は七回です」

 

「なるほど、動きを遅くさせれれば十分ではあるな」

 

道具の解説を聞き頷くダクネス。

どうやら道具の性能にそれなりに満足しているようだ。

 

「それで、こっちの道具は何なのだ?」

 

「あぁ、それは『レヘルン』という爆弾です」

 

「ばく…だん?」

 

ダクネスは怪訝そうな顔を浮かべる。

 

「どうかしたんですか?」

 

「いや、爆弾言われてもな…そこまで人を傷つけるような物は必要ではないんだが」

 

「あぁ、そういう事ですか」

 

ダクネスの懸念を知り安堵するフィリス。

ダクネスはそんなフィリスの反応にさらに怪訝そうにした。

 

「この『レヘルン』とかいう道具が爆発するのであれば、これは受け取ることが出来ない。必要以上に人を傷つけることになるだろう」

 

ダクネスは『レヘルン』を興味ありげに触りつつも、そんな事を言った。

が、フィリスはそんなダクネスの言葉に得意げな顔を浮かべた。

 

「フッフッフッ…実はですね、これ普通の爆弾じゃなくて、氷の爆弾なんです!まぁこの世界にとっての普通の爆弾がどんなのか分からないですけど」

 

ドヤ顔で披露するフィリスに、ダクネスはやはり不思議そうな顔で質問した。

 

「氷の爆弾?どういうことだ?」

 

「えっとですね、これは人に投げるんじゃなくて床に叩きつけて使うんですよ」

 

「床に?」

 

「はい。と言っても本来は敵にぶつかるものなんですけどね。まぁそれはさておき、これを床に叩きつけたら床が凍ります。そしたら、追っ手の足止めになると思いませんか?」

 

「…っそうか!」

 

ダクネスはフィリスの意図がようやく腑に落ちたようで、手をポンと叩いた。

 

「気に入ってくれて良かったです。でも、ホントは『暗黒水』と呼ばれる道具を作りたかったんですけどね」

 

フィリスはダクネスが満足そうにしているのを見て喜びつつも、少し残念そうに言った。

というのも、ダクネスの役に立ちそうな道具はそれなりに作ったフィリスだったが、本来の依頼は敵を傷つけずに無力化する道具の作成である。

今回納品した道具でも満足はしてくれたようだが、それらは全て敵の足止めは出来るが無力化とまではいかない物だ。

その点『暗黒水』なら敵を無力化出来るものの、それは現時点では錬金する事が出来なかったのである。

その事はフィリスにとっても唯一悔やまれる事であった。

だがダクネスは落ち込むフィリスの手を嬉しそうに取った。

 

「その『暗黒水』…とやらが何かは知らないが、とにかく助かった。ありがとう、フィリス」

 

「………っ!はいっ、どういたしまして、ダクネスさん」

 

フィリスはダクネスの感謝を素直に受け止めた。

 

今後もこうして錬金術の依頼をされる事もあるだろう。

その時も今回のように相手の期待に応えようと、ダクネスの表情を見たフィリスはそう思えたのだ。

そして、次こそは自分でも満足のいく結果にしようとフィリスは決意した。

 

そんなフィリスの前に、ふとダクネスはポンと袋を置いた。

 

「ん?何ですか、これ」

 

「今回の依頼の報酬だ」

 

「え?」

 

困惑するフィリスをよそに、ダクネスはさらに続けた。

 

「今回の事は私が依頼した事だ。報酬を出すのは当然だろう」

 

「いや、でも報酬なんてそんな…。第一ダクネスさんには錬金術の為の道具とかも買い揃えてもらったんですから」

 

報酬なんて受け取れません、そうフィリスが言おうとするも、ダクネスはそんなフィリスの様子にはお構いなしに立ち上がった。

 

「それでは、今回は本当に助かった。次に困った事があれば、その時は再び依頼させてもらうとしよう」

 

そう言い残すとダクネスは凛とした態度を崩さぬままギルドを出ようとする。

そんなダクネスをフィリスは呼び止めた。

 

「待って下さい、ダクネスさん!」

 

「いいんだフィリス。その報酬は遠慮せず受け取ってくれ」

 

「いえ、それもあるんですけど…。その前に道具持ってって下さい!」

 

「_______っ⁉︎」

 

少しカッコいい感じの態度と口調をとってその場を立ち去ろうとしていたダクネスは、今度は顔を真っ赤にしながら戻ってくると、道具を持ってそのまま走り去ってしまった。

 

「………ダクネスさんって面白いなぁ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ダクネスから貰った報酬をぶら下げ、フィリスは家への帰路を辿っていった。

 

「でもまさか五十万エリスも置いていくなんて、ホントにダクネスさんって何者なんだろう?」

 

ダクネスが机の上に置いていった袋の中を見て、フィリスがアッと驚いたのは、もはや言うまでもないだろう。

歩くたびにチャラチャラと音がなる袋を見つめながら、フィリスが一歩、また一歩と家へと向かっていると。

 

「ここは…ウィズ魔道具店?」

 

ふとフィリスの視界に入ったのは、小さな魔道具店であった。

 

「魔道具かぁ、もしかしたら錬金術で作ったような道具もあったりするのかな?」

 

時刻は十五時半と言ったところだろうか。

少しくらいなら寄り道してもいいだろうと思ったフィリスは、扉を開け魔道具店の中へと入っていく。

店の中に入ると、中には様々な液体が入った瓶や、綺麗な装飾を施された箱などが整然と棚に並べられていた。

丁寧に掃除されているであろう店内は、フィリスが今まで訪れた店の中でも、一、二を争う程の綺麗さを誇っていた。

美しく照り輝く水晶、可愛らしさが感じられるチョーカー、星型のビーズのような物が入った瓶など、実に多種多様な道具が陳列されており、床には二十歳位の女性が倒れ伏していた。

カウンターの上には埃一つ乗っておらず、この店の者がいかに丁寧な仕事ぶりをしているかを物語って………。

 

「ぁあ……いらっしゃいませぇ………」

 

「うわぁっ⁉︎ビックリした……って、大丈夫ですか⁉︎」

 

床で倒れ伏していた女性はか細い声でフィリスを出迎え、今の今までその存在に気づいていなかったフィリスは驚くのも束の間、弱々しい彼女を心配そうに気遣った。

青白い肌をした死にかけのようなその女性はというと。

 

「だ…大丈夫ですよ……もう一ヶ月もの間マトモな食事をしてないだけですから…………」

 

「重症じゃないですか⁉︎ちょ、ちょっと待っててください‼︎」

 

フィリスは店を飛び出し、露店まで突っ走って行った。

 

*****

 

「お、美味しい‼︎美味しいです‼︎砂糖水以外の食事って久しぶりです‼︎」

 

フィリスが慌てて買ってきたパンを口いっぱいに頬張りながら、女性は悲しい事を言ってくる。

その様子を涙ぐみながらフィリスが眺めていると、パンを食べ終わった女性はフィリスに向き直り、礼を言った。

 

「ありがとうございました。あ、私はこの店の店主のウィズと申します。えと、お名前を伺っても?」

 

「はい、私はフィリスって言います。冒険者をやってて、職業はプリーストです」

 

互いに自己紹介をしあうと、ウィズはある事を提案してきた。

 

「そうだ、パンを奢ってくれたお礼に、この店の品を一つ持って行きませんか?」

 

「え、いいんですか?」

 

フィリスの言葉にコクと頷くウィズ。

それを確認したフィリスは、興味深げに店内を見回した。

そして、ふと視界に入った様々な薬品が置かれている棚の前に立つ。

 

「これは何ですか?」

 

フィリスは近くにあった小さなポーションの瓶を手に取った。

 

「あっ、それは強い衝撃を与えると爆発するポーションなので気を付けて下さいね」

 

「えっ、そうなんですか」

 

フィリスはそっとポーションを棚に戻す。

その後フィリスは隣にあった瓶を手に取り、

 

「それは蓋を開けると爆発するので…」

 

すぐさまその瓶を戻した。

 

「あ、これなんてどうですか?キラキラしててスゴく綺麗ですよ」

 

「えと、温めると爆発が起きます」

 

 

……………。

 

 

長い沈黙が続いた。

フィリスは手にしていたポーションを棚に戻すと、天井を仰いで。

 

「ここって…爆薬専門なんですか?」

 

「ちちち違いますよ!そこの棚は爆発シリーズが並んでいるだけですよ!」

 

どうしてこんな危険なものを普通に陳列しているのだろうか。

フィリスはウィズが飢えていた理由が何となく分かった気がした。

 

「えと……じゃ、じゃあこっちの棚なら何か良い道具があるのかも!」

 

「あの、さっきのポーションも良いものだと思って取り寄せてるんですけど……」

 

何とか気を取り直し再び店内を物色しだしたフィリスだったが、ウィズは少々落ち込んだ様子を見せた。

 

「こ、これはどんな道具なんですか?」

 

「それはライティング魔法のスクロールですね。暗いところで読むと明かりが灯るんですよ」

 

「へぇー、良い道具じゃないですか」

 

どうやらこの商品は中々に素晴らしい物らしい。

今後もしかしたら夜に冒険というのもあるかも知れない。

そうなった時、明かりを確保できるだけで大分心強いものだ。

この道具を貰って帰ろうかとフィリスは考えていた。

 

「これがあれば、暗い夜道でも安心で…暗い夜道?」

 

「フィリスさん?どうかしたんですか?」

 

「暗い所でどうやって読むんですか?」

 

「…………………………あ」

 

その反応にウィズが飢えてた理由をハッキリと確信したフィリス。

 

「あの、ウィズさんって商才ないんじゃないですか?」

 

「えっ⁉︎そうなんですか⁉︎」

 

やはり自覚がなかったのか、悲しみの声を上げるウィズ。

 

「でも確かに、働けば働くほど赤字が積み重なっていっているような……、あ、あの、私って本当に商才ないんでしょうか?」

 

「いや、そんな事聞かれても…」

 

フィリスはウィズの質問には明確には答えず、曖昧な返しをしながら再度物品を見て回る。

度々気になる物を見つけてはウィズに見せてその運用方法を聞くものの、いずれもが例外なくどうしようもない効果を持っており、落胆するという事を繰り返すフィリス。

そんな無駄な事を続けていると、気づけば次第に窓から差し込む光が赤色に染まっていた。

 

「あ、もうこんな時間…、えと、それじゃあウィズさん、私そろそろ帰りますね」

 

「えっ⁉︎まだ何の道具を持っていくか決まってませんよね?」

 

「あの、その、どれも要りません…」

 

「そ、そんな……」

 

フィリスの言葉に酷くショックを受けるウィズ。

しかし彼女の店に置いてある品々は、どれもがどれも下らない性能を誇っているのである。

正直タダだとしても要らない。

それどころか、物によってはその身が危険に晒されることとなるだろう。

ここは断るしかない、いやむしろ断らなければいけないと、フィリスはこの短いやり取りの中で感じ取っていた。

 

「す、すいません。でもタダで貰うわけにもいきませんしね」

 

「じゃあ買ってくれるんですか?」

 

「ごめんなさい」

 

「(´・ω・`)」

 

ウィズの僅かな期待を込めた問いかけに即答で応じるフィリス。

 

「でもパンのお礼は是非ともしたいですし……そうだ!もし何かお困りな事がありましたら、その時は力になります。金銭面以外で、ですけどね」

 

ウィズは良い事を閃いたと言わんばかりに手をポンと叩き、そんな提案をしてきた。

 

「うーん、そうですね。じゃあ、その時はよろしくお願いしますね、ウィズさん」

 

フィリスはその好意を素直に受け止めた。

が、それと同時に一つの懸念事項を思い出した。

 

「あ、でもウィズさん。その……私が助けを求めた時には既に餓死とかしちゃたりしてませんか?」

 

「餓死はしませんけど…確かに食べていけてるかは分からないですね…」

 

_______多分マトモに食べていけないんだろうなぁ。

 

フィリスは密かに、今後もちょくちょく食べ物を恵みに来ようと思った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ウィズの店を出た後、フィリスは再び家へ向かってその帰路を辿っていった。

 

最初、この世界に来た頃は色々とバタバタとしており、分からない事だらけで不安だったが、今こうして落ち着いて見てみると、フィリスは改めてこの街の美しさを感じていた。

太陽が傾き赤みを帯びた空は、フィリスの元いた世界と同じ様に美しく燃え上がっている。

夕陽に照らされた家々は眩く輝き、丁寧に舗装された街路は建物の長い影を写していた。

人気の少ない道を歩くと、その足音が周囲に反響して心地よい響きを奏でる。

正面からさす眩い光に目を細めながらも、フィリスは街の景観を楽しんでいた。

この鮮やかに彩られた光景の中で、フィリスは今日一日の出来事を振り返る。

 

錬金術の成功、ダクネスの依頼の達成、ウィズとの出会い。

 

いずれもがフィリスにとって良い経験であり、素晴らしい思い出となった。

良い一日だったなとフィリスが感慨に浸っていると、気づけばそこは既に家の目の前だった。

 

「リア姉もう帰って来てるかな?ダクネスさんから貰った報酬を見せたらきっと驚くだろうなぁ」

 

 

そんな事を誰にともなく呟きながら、フィリスが扉を開けようとドアノブに手をかけた瞬間。

 

 

「フィ…リス…ちゃん?」

 

突然横から弱々しい声が聞こえて来た。

声のした方に顔を向けるや否や、フィリスは驚愕に目を見開いた。

 

 

チャリーン

 

 

フィリスは手にしていたダクネスからの報酬を落としてしまった。

 

が、そんな事には目もくれずただ目の前に佇む人物を眺める。

 

「リ…リア姉……?」

 

全身から血の気が引くのを感じているフィリスの数メートル先。

 

 

 

頭から流血し、全身傷だらけのリアーネが、そこには居た。




リアーネに一体何があったのやら。
次回はリアーネsideをお届けします(願望)

小悪魔のいたずら…魔法の道具の一種。いかにも悪魔っぽい外見をしている。もはや小悪魔ではない。

不幸の瓶詰め…魔法の道具の一種。その名の通り不幸を瓶に詰めている(物理)。小悪魔のいたずらよりも性能は劣るものの、作りやすい道具である。

中和剤…様々な道具を作る際によく用いられるもの。錬金術で作成し、その種類も多岐に渡る。ゲームでは、よく高品質になるように作り、それを他の道具の材料にする事でその道具の品質を上げたりなどをしている。まぁ、ようは使いこなせば超便利なのである。
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