ロクでなし教師の異世界生活   作:アカイソラ

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こうして、グレン=レーダスは再び始める

「はあ……はあ……っ! ……クソが……ッ!」

 

荒い息を吐きながら舌打ちをして正面にいた人間を彼は睨む。

壁際にまで追い込まれ、挙句右腕は重症、それを左手で抑え込むグレンに容赦なくマスケット銃を零距離で突きつける人工精霊。

正に絶体絶命、彼がいかにどのような行動を取ろうとも一瞬速く人工精霊の弾丸がグレンを貫く。

 

誰がどうみようとそれは、詰み(チェックメイト)だった。

 

「惜しいな。けれど僕の勝ちは勝ちだ。魔導師として完全に力を出し切った君を、とうとう僕の正義が凌駕した! 僕の正義は君の敗北をもって証明された!」

 

グレンの目の前にいる男、ジャティス=ロウファンは狂気じみた笑みを浮かべていた。

どうしてもいま、この状況で喜ばずにいられなかった。なにせその男の中には『愚者(グレン)の正義』を上回る事しかなかったからだ。

自分が認めた最大の存在を倒せた時の高揚は、もはや止められるものではない。

一体、一体どれほどこの瞬間を待ち望んでいたか、それは本人にしか知りえない。

 

「相変わらずガタガタうるせえ……殺るならさっさと殺れ」

 

「ああ、もちろんだ。安心してくれ、グレン。君は苦しませずに一瞬で殺す。それがかつて僕の正義を打ち破った唯一無二の存在に対する最大の敬意と礼儀だ」

 

「……ありがとよ、地獄に落ちろ」

 

なぜ、この時こんなにも憎んだ存在に礼を言ったのか、それも知るのもグレン自身だけだ。

 

「あの世で……セラによろしく伝えてくれ」

 

ああ、やっと、やっとだ。

やっとまた、お前(セラ)に逢える。

なぜかその時、グレンの中に恐怖はない。彼が目を瞑るのを合図に男は指を鳴らす。

それに合わせ、偽りの天使六体は一斉に引き金を引いた。

 

 

ある男の話をしよう。

その男は、憧れた。正義という名を冠された魔術師に、大いに憧れた。それは子供だったからか、はたまた彼の本質がそうだったのか、それは彼自身わかりはしない。

だが、いざそれを目指した先にあったのは、彼の思い描いたような優しい世界ではなかった。

自らの目的のために魔術を行使し、いとも容易く人を殺すその姿の、一体どこに正義があるだろうか。彼の望んだ『正義の魔法使い』は、それとはどうしても重ならない。

ひどく絶望する。自分が望んでいたものはこんな血みどろな世界であったことにひどく絶望する。

だが、そんな彼の夢を、肯定する存在がいた。

彼がそれを否定しようとも肯定してくれる存在が、確かにいた。

 

だからこそ、彼は彼女の事をーー好きになったのだと、そう思う。

全部ではない、自分の手の届く範囲でいい。()()()()()()()()()()()()と、彼が強く思うほどに、彼女の存在はより大きくなっていく。

 

だが、世界はそう甘くはなかった。

 

そこにあったのは、彼に対する全否定だった。

血だまりに落ちるその体、綺麗な白髪にはそれに合わない真紅の液体が付着して、かくいうその本人は苦しさを押さえ込んでただただ笑っている。それはもう、最後であることの証のように。

 

「……懐かしいな……帰りたい……叶うなら……」

 

そこから先紡がれる彼女の言葉に、どれほどの思いが込められていたのかを、(グレン)は知らない。

なぜ自分を庇って逝ってしまうのだろうか。こんな結末は……

 

果たして、正義か!?

 

 

「あああああああああ!?」

 

なんで、なんで最後まで、俺はセラの夢をみる!?

なんでだ!? ……なんで()()()()()()()()()

 

「なんで、死んでねえ……?」

 

それは、違和感でしかなかった。

確かに、俺は死んだはずだ。確かにジャティスの人工精霊によって殺されたはずだ。なのになんで生きている。

指は動く。頬をつねっても痛覚は正常に起動する。足を思いっきり振り下ろせば白いベッドに跳ね返る。

 

「まずここ、どこだ?」

 

俺はまず、現状把握から始めた。

自分がいる部屋、それを見渡せし感じたのは、明らかに自分の部屋ではないこと。だって俺の部屋は本にまみれたなんの面白みのない部屋のはずだ。だがこの部屋にはそんなものが見当たらない。

確かに書架ならある。だがただ一つだけ、部屋の隅に置かれた小さなものだけだ。しかも見る限りだとどれ一つとして魔術と関係ない。ついでその横に置かれた机、その上には何かわからないリング状の足を利用して自立する無駄にでかい板とその前に置かれた無数の文字の羅列で埋め尽くされた板、さらにはその横には大きな黒い塊一つ。さらに天井には真っ白な円盤のようなものが取り付けられている。

そして今自分の下にある一人用にしては少し大きいような気がする純白のベッド。自らの横には何か糸のようなもので繋がれた少し厚みのある正面は黒く、それ以外は白一色の板だけだ。

 

「こんなもん、なかったよな」

 

少なくとも机の上にあるものと自らの横に存在するこれらのものは知る限り存在しない。まずどうやって使うんだこれ、そもそも何かに使うものなのか?

 

「なんだこれ、ここだけ凹んで、って、うぇ!?」

 

正面の下にあった凹みを押した途端、それは光を灯し、何かを映し出す。

そこに映し出されたのは知りえない文字、のはずなのだが普通に読めた文字。そして『セリカ:不在着信』が何度も連なっている。

 

「怖いわ!」

 

などと叫んでみるがそれに返される言葉はない。

ちくしょう、このケータイとかいう機械め……ん?

 

「なんで俺はこれの名前を知ってるんだ?」

 

初めて見るもののはずだ。過去の記憶をたどるもこんなものは見たことがない。のになんで名前がわかる? それに使い方も触った途端理解できた気がしたのだ。

 

「この文字を横にすんのか……?」

 

体になされるがままに『セリカ:不在着信』の文字を指で払うように動かすと、次はセリカの文字が上に、その下には七つほどの円が映し出され、奇妙な音楽が静かな部屋に鳴り響く。

数秒待たずして音楽が途絶え、今度はなんだ? と思えば。

 

『おいグレン! お前何してる!?』

 

「セリカ!?」

 

『今何時だと思っている!? まさか寝坊か!?』

 

「何時って……そんなことよりもジャティスはどうした!? 白猫は!? 他の奴らはどうなった!?」

 

『ジャティス? 白猫? お前、何言ってるんだ?』

 

「だから、あのイカれ野郎が白猫を殺してないかって聞いてるんだよ! それになんで俺が生きてる!?」

 

『……大丈夫か? 疲れてるんじゃないか? 今日は休むか?』

 

「疲れてねえ! それよりも早く教えろ!」

 

『自覚がないだけかもしれんな。今日は休め、私から言っておくから』

 

どこか呆れたように通話が切れ、騒がしい時間が過ぎ、また静寂に包まれる。

なんでだ? なんでジャティスの野郎のことを知らない? 白猫のことも、何よりも俺が死んだことがなかったことになっている?

 

「たく、なんなんだよこれは……ッ!」

 

状況がおかしい、本当にこれは現実か? 何かの間違いじゃなく? ただひとときの現実に似た夢じゃないのか?

 

「いったい何が起きて今になってんだよ……」

 

状況がつかめない。それに俺は今から何をすればいい?

窓から映る景色なんて明らかに別世界だとしか言えないような風景だ。なんせでかい鉄の塊が道を走ってる。こんな光景見たことがない。

 

……別世界?

 

「嘘だろ……」

 

まさか、まさかだ。

()()()()()()()()()()()()()()

だが、仮にそうだとしたら、今、この状況に全て説明がつく。

もし仮に、この世界があちらほど争いのない世界だとしたら? もし仮に、魔術がない代わりにあちらよりも進歩しているとすれば?

 

確かめよう。魔術は、俺の絶望の象徴が、ここに存在するのかを。

 

「《雷精よ・紫電 以って・撃ち倒せ》」

 

完成系ではないから出力が大幅に減少した『ショック・ボルト』が、()()()()()

自分の手を見る。そこには何も感じない。再び前に、同じ詠唱を唱えてみるがやはり起動しない。

 

「魔術のない世界に、きちまったってのか?」

 

にわかには信じがたい、だがそれ以外では考えられない。

もし、本当にそうだとすれば、俺はこれから何をすればいい?

この世界で、この何も理解できない世界で、どう生きていけばいい?

いったい何を生きる理由に生きればいい?

 

額に手を当ててそれを考えていると、ケータイが音を鳴らす。

なんだ? またセリカか? 今度はなんだ? 一応確認しようと再びケータイを握ればそこには

 

『白犬:大丈夫?』

 

ただ、それだけが書いてあった。

 

「セラ? セラなのか!?」

 

答えはない。だが、俺という存在が白犬と呼ぶにはあいつ以外存在しない。していいはずがない。

本当に、本当にあいつが生きているのだとすれば。

 

「待ってろよ、すぐ行く!」

 

 

体に任せるままに、俺は全力疾走していた。

幸いにもこの体はあちら同様にある程度の無茶は通用するらしい。疲れを感じないその体を酷使して、ただひたすらに走り続ける。

あいつがどこにいるかなんて知らない、むしろ今どこに向かっているのかも知れない。けど、きっと、この体は、全部知っている。

今何をして、どこにたどり着けばいいのかを、その先にいる存在の居場所も全部、知っている。

走るにつれ見えてきた大きな建物。アルザーノ帝国魔術学院より小さいが、それは確かに、同じ部類の建物だと、俺はなぜか知っている。

その門をくぐって、建物に入って、階段を駆け上がって、廊下を走り回る。

 

「はあ、はあ……一体……どこに!?」

 

さすがに走りすぎたのか息が切れ始め、額に浮かび出る汗を腕で拭いつつ再び走り始めようとした、その瞬間(とき)

 

「グレン君?」

 

聞こえた。確かに、聞こえた。

一年と少し前をもってもう二度と聞けなくなったあいつの声が、俺の脳に残り続けたあいつの声が。

 

「セ……ラ……?」

 

「どうしたの? 今日は休みってさっきセリカ先生が……て、ええ!?」

 

いつの間にか、俺はセラを抱きしめていた。

暖かい、生きている。こいつは死んでない。

 

「ずっと、ずっと」

 

お前に会いたかったんだ。

 




グレン=レーダス
本作主人公、多分原作より丸くなるついでに崩壊しかねないキャラNO.1
ジャティスに殺されたと思ったら現代日本に転生してセラと出会う

セラ=シルヴァース
本作のヒロイン。ほんわかお姉さん
グレンと同時期に入ってきた教師。グレンと彼女の痴話喧嘩はもはや夫婦喧嘩として学校全域に認められているレベル

セリカ=アルフォネア
グレンの義姉。基本的に親が多忙でグレンと二人きりの生活が続いたためグレンの世話はほとんどセリカがやっていた。当然原作同様に母親面のグレンのこと褒められるとデレデレマン
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