ロクでなし教師の異世界生活 作:アカイソラ
『ヤッチマッタあああああああああああ!?』
そう、真っ先に、あいつを抱きしめた時点でそう思った。
いやだって、あって早々抱きつくとか絶対ありえないだろ。しかもここは学校で、普通に廊下には生徒までいるんだぞ? いやもう、人生終わった。新しい人生が終わりました今。
現在あれから約一時間が経過。その一時間のうちに何があったか、というとーー説教と後処理である。
まあまずはセリカが来た。そんで現状確認するなり俺をセラから引き剥がして説教を三十分ほど受けた。当然セラは止めようと努力するがそれが逆効果だったみたいでセラも受けることになる。そしてその後言い渡されたのが『土足で入り込んだために汚くなった廊下の全体掃除』である。
全く、どっちの世界においても容赦がねえ。あっちの世界の場合はイクスティンクション・レイとかいうマジやばい魔術使ってたから多少マシにしろこの学校は結構面積広いがゆえに掃除範囲も広い。この範囲を巻き添えを食らったセラと俺とで一日で? 無理だろ。
「そ、その、グレン君……?」
「……なんだよ」
つい昔みたいな態度をとってしまう。
『やっぱセラ相手だとこうなるよなあ』
慣れというのは時間が過ぎようと案外取れないものだ。
こいつとの会話なんて大抵無愛想に答えていたからその癖がついてしまって自然とこういう返しになる。
「その、さっきはなんであんなことを? ずっと会いたかったって、昨日あったよね? 私達」
こいつにあってから連鎖的に頭に流れ込んできた記憶には確かに会話している記憶がある。その主な内容が『明日のお昼』の話と書類やってくれよという昔とたいして変わらない記憶だったりする。
「何でもない、忘れてくれ」
今はこういうしかない。
俺が別の世界のグレン=レーダスなんて誰が信じる? 少なくとも俺に相手がそうだって言っても信じない自信の方が圧倒的に上だ。今そう言ってもセラを混乱させるだけである。何よりも。
『もう一回、もう一回やり直せるんだぞ? それを台無しにしてどうする』
少なくともセラと関わった記憶の中にあっちのような血みどろなものはなかったがもしそれが、1%以下の確立でもあったなら今度こそは守る。あっちでなしえなかったセラだけを守る正義の存在として在れるのだ。それを手放す理由なんてない。
「でもよかった。今日来なかったらお弁当どうしようって思ってて」
その言葉に過剰に反応する。
弁当? セラが? ってことは手作り? まじで?
「やっぱり間違いじゃなかったのか……」
「ん? 何が?」
「何でもねえ」
昨日の会話、俺が今月やばいって言ったらじゃあ明日は私が作ってくるね、なんて返しが来た記憶がさっきの『明日のお昼』の話の内容である。
「つっても、もう二時なんだけどな……」
手首についた時計を見れば既に二時が残り半分に差し掛かろうとしていた。昼を取るのが通常十二時と考えるならとっくに時間オーバーである。ついでに言うならいま弁当なんて食ったらまたセリカに何か言われそうだし、食べられるはずが……
ぐう〜。
「……まじか」
そういえば朝から何も食ってないのを思い出す。
タイミングよすぎね? いやいまだからこそか?
「ふふ、グレン君のお腹は素直だね」
「……うっせ」
「ちょうど十分休憩だし、中庭いこ? 私一回職員室戻ってお弁当持ってくるね」
「いやお前十分で飯が食い終わるわけ」
「少しくらいサボっても大丈夫だよ。私も確かグレン君もお昼は授業ないからこんなことしてるんだし、ばれたらばれたで二人で怒られよ?」
俺の知ってるセラって自分からサボるっていったか? いいや言わなかったと思う。世界が違うから多少は性格も変わってるのか?
だが、その案には謎の魅力があって、俺は頬を指で掻いて、セラから顔を逸らした後、しぶしぶ頷くのだった。
走っている時は気づかなかったが、いまの校庭には桃色の花びらが舞っていた。桜というこれは春を象徴するものらしい。あっちの世界にはこんな木は存在しないからこれが初めてなのだがやはり体は初めてじゃないのかそれがあることにもはや疑問が浮かんでこない。
「この体が記憶したものに触れるとそれを思い出すのか」
またはある程度の距離で視認したものか、だ。
実際ケータイに関しては触れてそれがそういうものだということを知ったし、今となってはどうやって使うかもわかっている。家に帰ったらとりあえずそこらへんのものに触ってそれがどういうものかを知るのがこの世界で生きるためにもっとも得やすい情報だろう。
「お待たせ」
職員室に弁当を取りに行っていたセラが駆け足で俺のそばに駆け寄ってくる。そして視線を下に移せば青い風呂敷に包まれた箱状のものが一つ、存在している。
「待ってねえよ。大体、職員室からここまでそんなかかんねえだろ」
俺はまだ行ってないが記憶を辿るにこの学校の西棟にあたる場所の二階。俺がセラを抱きしめてしまった場所から二つほど教室を超えた先がまさしくそこで、駆け足でここに来たならば多分三分もかかりはしない距離だ。
「むう、そんなこと言わなくてもいいのに」
不満げに頬を膨らませるセラに、俺はまた目を背ける。
それを見て、さっきまでの表情はどこに行ったといわんばかりにきれいに微笑んで俺よりも先にベンチに座る。
「さ、グレン君。早く」
自らの横をとんとんと手でたたく。
俺は数秒叩かれたところを見て、何かを決心した後ゆっくりと腰を下ろす。
俺が座るころにはすでに風呂敷は解かれ、そこから出てきたのは藍色の弁当箱である。二段弁当とかではなくシンプルな正方形のものだ。
セラがそれを開けばそれはもうド定番と言わんばかりのおかずが半分ほどと白米で埋められたまさしく弁当というべきものがそこにあった。
卵焼きにウィンナー、から揚げに肉団子。横のほうにはポテトサラダとミニトマトが添えられており、色合いよく揃えられていた。
喉を鳴らす。最後にセラの手料理を食ったのはセラの故郷の料理を食ったのが最後だ。ぶきっちょに見えてすんごい料理上手なのはあの時で知っている。ならこれらがおいしいのも必然である。
「どうぞ」
絶えず笑顔を向けて俺に弁当を差し出してくるセラ。それを躊躇いもなくとるのが少なくともこのセラの中にある俺なのだろうが、俺はそうもいかなかった。
本当なら今すぐ食いたい。差し出されたそれを両手でとって躊躇なく食いたい。が、そうできなかった。
幸福に感じてしまうこの時間は、本当に許されるのか? あっちの世界の連中が今俺が死んだと知って何を思っているかなんて考えるだけでぞっとする。特にセリカはジャティスを殺そうとすることだろう。今頃血眼になって探しているかもしれない。そんな中こんなにも満ち足りていいのかと思ってしまうのも事実だ。
「はい」
が、いつの間にかセラは差し出していたはずの弁当を自らに引き寄せて、あろうことかから揚げをつまんでこちらに差し出してきている。
……は?
「いやおい待て!? それは流石に!」
「食べないグレン君が悪いんだもん。はい、あーん」
「いやだから、むぐう!?」
俺の言葉なんていざ知らず、何のためらいなく校内に直接送られた唐揚げ。箸はすぐ抜かれて俺の口はそれに流れるようにしてから揚げを嚙んだ。
「……うまい」
「よかった」
弁当だから冷めてしまってるのはしょうがないにしても、それはとてもおいしく感じれる。
サクサクとした触感の中にある肉の柔らかさ、当然味付けはしっかりとされており文句なしのうまさを誇っていた。
「まだあるからどんどん食べてね? はい」
「いや自分で食えるっての!? だからやめーーむぐう!?」
そのあと、結局セラの手によって俺はその弁当を完食する羽目になったのは言うまでもない。
そしてそんな風景を窓から見守る影がそこら中に存在する。その一室、グレンが担当するクラスの会話というと。
「先生たち、やっぱり夫婦だよね」
「ああ、もはや公認だな。写真とっとこ」
「あ、その写真後で送ってくれよ。これを材料にまたいじれるぜ、げへへ」
「先生方に報告はしないんだね……」
「なんで言わないといけないんだよ、むしろ言わずにいじる材料にするのがこの学校暗黙のルールじゃね?」
「怖いなあ!? グレン先生とセラ先生すんごいかわいそうだなあ!?」
「そんなことをせずにまじめに勉強したらどうですか? さっきのところ君全然わかってなかったんじゃないですか?」
「いま、前の授業のことを復習やらなんやらするのとグレン先生とセラ先生を観察するの、どっちが面白いよ?」
「確実に先生方ですね」
「即答でまざっていったああああああああ!?」
「あれ、ばれてないと思ってるのかな?」
「たぶん思ってないと思う。じゃなかったら中庭なんてわかりやすいところで食べないよ」
「だよなあ、くそう。学校の女神セラ先生の手作り料理をあーんで食べるなんて夢の中の夢を平然と……!」
なんて会話があったことを二人は知らない。
グレン=レーダス
2ー5クラス担任。セラがいるからろくでなしにならなそうになっちゃう作者苦悩のお一人ついでにキャラ崩壊しそうまじでNO.1
そういう描写してないが食べさせられてることに関してはまんざらでもないご様子
セラ=シルヴァース
説教くさいよりもお姉さん面強化なこの作品の女神的存在かつヒロイン、ついでにキャラ崩壊しそうのNO.2
グレンにあーんで食べさせるのを結構楽しんでいたり、ついでにそれをまんざらでもなく食べてくれるグレンに嬉しさを感じてたりする
2ー5生徒陣
グレンの生徒。すんごいノリがいいのと二人を対象によくいじり倒すついでに自分たちもグレンにいじられる対象、って感じでかければいいなみたいな生徒達