童貞のまま30歳になったらTSして本物の魔法使いになりました   作:いつのせキノン

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すごい魔法の使い方?

 

 溝口守は美少女魔法使いになった。

 動かしようのなくなった現実に飲まれ、彼女は呆然と森の中の道を歩いていた。

 

 夜の帳はすっかり落ちて、月と星の明かりが暗闇を照らす。

 今歩いている場所は頻繁に人の往来があるらしく、土は剥き出しだが或る程度平らに整備されている。

 しかし知っての通り今は夜。人の通りは皆無であり、彼女以外に道を行く影はない。

 

「……腹減った……眠い……」

 

 道の真ん中、暗闇を自分の炎で照らしながら歩く。

 この魔法、便利ではあるが使えば使うほど疲れるし空腹感が増してくる。やはり便利な分タダでは使わせてくれないのだろう。

 早急に飯がほしい。そしてぐっすり寝たい。何も知らない場所だし、会社のことなんて忘れた。とにかく疲れたのでたらふく食って寝たい。ただひたすらにそれだけがしたい。

 

 気付けば白い炎も最初に比べて小さくなってきてしまっている。空腹で倒れるのも時間の問題だろう。

 

 そんなことを思いながら歩いていると、ふと道の先に明かりが見えた。

 

「…………ん?」

 

 それが人為的なモノとわかる。

 道の脇、焚き火でもしているのだろう。ともすれば人がいるに違いない。

 

「や、やった……何か食べ物、分けてもらおう……」

 

 安堵すれば余計に空腹感が強まり、眠気も襲ってくる。

 早く早く、と自然に歩みを速め、軽い駆け足で明かりへと向かった。

 

「すいませーん。何か食べものをいただけ……ま、せん……か……」

 

 茂みを掻き分け抜けてみると、確かに焚き火があった。それを囲む人影たちもいた。

 その見てくれは、一言で言うなら“汚い”。土や埃、染みに塗れた麻布の上下。男共は皆々髪もボサボサで無精髭も伸びっぱなし。清潔感はゼロだ。

 

「…………あれ……?」

 

 彼らは一斉に彼女の方を振り向いていた。各々が手に剣や槍、弓を持ちながら。

 

「えっ、と…………お取り込み中で……?」

 

 恐る恐る聞いてみるが、彼らからの返答は無言のみ。

 しばし沈黙が落ちて気不味い雰囲気が空気に染みていった。

 

 不意に男たちはある一方に視線をやった。

 釣られて彼女もその視線を追うと、焚き火に一番近い位置に一人、大柄な人影があった。

 またオークかと身構えたが、大丈夫、人間だった。何が大丈夫なのかは聞かないでほしい。

 

 その男はこの集団のリーダーであるように見えた。

 彼らの視線を受け、大男は一度(ひとたび)彼女を見て、口を開く。

 

「nArIOwA」

 

 バッと一斉に男たちが振り向いた。あまりの揃いように思わず肩を震わせる。

 

「あの……腹が減ってて、ですね……食べ物を――」

 

「「「「「kAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!」」」」」

「わああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁごめんなさああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいッッ!?」

 

 刹那、男どもが得物を振り上げ襲ってきたではないか!!

 

「おっ、オオオオレが何したってんだよ!? せめて話くらいさせてくれよぉぉっ!!」

 

 バタバタバタと駆け出して、追われ逃れて夜の道。

 気性の荒い男どもに追いかけられて、再び森の中を逃げ回る。今日だけで二回も同じ目に遭うとは、相当に運がない。

 

「っ、……か、囲まれた……っ!!」

 

 逃げども逃げども撒けることはなく、寧ろ周りをぐるりと囲まれジリジリと包囲網を狭められていられる。この先の展開は輪姦一択だ。

 

「クソッ、毎度毎度貞操の危機とかどうなってんだ!?」

 

 信じたくない現実を吐き捨て、己の白い炎を燃やす。

 全身を巡る血が煮え滾るように熱く、夜の闇を煌々と照らす程に燃え上がる。

 

「手加減とか知らねぇからな、保険でもかけてろって話だ!!」

 

 刹那、炎が膨れ上がる。

 轟々と上昇気流が吹き上がり、目もくらむ程の光が辺りを覆ったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………せ、正当防衛だかんな……」

 

 またも焦土のど真ん中に佇んでいた彼女は、空腹を訴えるお腹を押さえて乾いた笑みを浮かべていた。いや、笑みと言うよりは顔が引き攣っている、というのが正しい。

 

 案の定、彼女の服以外が全て燃え尽きた。流石の魔法だ。

 しかしそれよりも、いよいよ餓死が見えてきそうだ。これじゃ社畜と何も変わらない。

 

「……あいつらのいたとこ、食べ物とかあるかな……」

 

 ふらふらと千鳥足で何となく頭に入っている地図を確認しながら歩き、何とか焚き火のあった場所に辿り着いた。

 パチパチと薪が燃える音だけが周囲に響き渡り、それ以外の音は一切合切聞こえなかった。

 

 しばし周囲を見回していると、馬車の残骸らしきものを見つける。中を覗くとそこには木箱が大量に置いてあり、中を開けると様々な物が乱暴に詰め込まれていた。

 

「……貨幣っぽいな。こっちは服で、これは……陶器? 食べ物はないのか、食べ物は」

 

 まるで空き巣体験をしているようだ。というか完全にただの空き巣だ。物悲しさに押し潰されそうになる。

 いやしかし、これも生き残るため。明らかに時代錯誤な襲われ方をしたのだから、こうなるのも因果応報というやつだ。多分、きっと……違うかもしれないけど。

 

 そのまま幾つかの箱を漁り五つ目に手を付けると、中から一抱え程の麻袋が出てきた。振ってみると小粒の何かが大量に入っているらしい音がする。

 何だろう、と中身を開けて手に救ってみると、小さな黒っぽい粒が出てきた。軽く匂いを嗅げば甘い匂いがする。

 

「あぁ、ドライフルーツか!!」

 

 一粒齧ればたちまちレーズンのような甘さが口いっぱいに広がる。疲れた身体には最高の味だ。堪らずどんどん手が動く。

 うまいうまい、と一掬い程のレーズンを食べて、一先ず満足。水は他にあった樽の中に入っていた物を飲むことができた。

 

「はぁー助かった……。そういえばあいつら、盗賊か何かだったんかな?」

 

 食事も一段落し物思いに更ける。思い起こすのはお世辞にも綺麗とは言えなかった彼ら男どものこと、見てくれからして盗賊のように見えたが……。

 

「……っていうか、オークとかいるんだよな。完全にファンタジーじゃん。俺も魔法使えるし」

 

 人差し指を伸ばして意識を指先に集中させれば、あっという間に白い炎が灯る。

 

「……冷静に考えてみると完全に異世界だよな……こんな現象元の世界にはなかったし」

 

 ゆらゆらと揺れる炎をぼーっと眺め呟く。

 ここが異世界だとするなら、溝口守がいたあの世界はどうなったのだろうか。死んだのか、それとも存在しなかったことになっているのか。

 

「……あっちが夢でこっちが現実だったとか? はは、ないわ、それはない」

 

 だとしたら随分と長い夢を見ていたものだと思う。夢ならもっとマシな仕事に就けよ、と言いたくなる。

 

「はぁぁ……帰りたい……なぁ……。帰りたい……のか……?」

 

 本当に? と自問自答。あの白黒の毎日に戻りたいのか? そんなに良い生活だっただろうか。人間的で文化的な、充実した人生だっただろうか。

 

 友達は、少なからずいた。休みに飲みに言って愚痴を言い合い腹の底から笑った。

 父や母や姉もいた。滅多に会えなかったが、たまには会いたいなと思うくらいには家族に飢えていた。

 

「……わっかんねぇなぁ……」

 

 ぐちゃぐちゃと思考がかき混ぜられてゆく。正解なのか不正解なのか、それは神のみぞ知る。

 結局答えは出ないまま悶々と考え続けて時間が経ち、その内うだうだと考えるのも嫌になってきた。

 

「……帰れる手段ができたら考えよう。その時帰りたいか帰りたくないかで」

 

 取り敢えず、保留にしておく。仕方ないのだ、優柔不断だとはよく言われてきた。社畜を辞めれなかったのもその所為だし。

 

「……ちょっと寝るか」

 

 思考を切り上げ一度全てを忘れることにした。

 現状やるべきことはこのサバイバルを生き抜くこと。野宿にも玄海があるため急ぎ集落や町を見つけるべきだろう。

 都会があるのか農村があるのかは不明だが、とにかく衣食住が確保できないことには安心して暮らせないのだ。彼女自身、サバイバル訓練中なんて一度もやったことがない上にキャンプの経験もないのだから。

 

 馬車の中に移り、ハコを並べてベッド代わりに。適当な麻布らを敷き詰めてボロ布をまとえば簡易布団だ。

 ドライフルーツの入った袋を枕代わりにして横になると、一気に眠気がやってきた。体もそうだが、精神的に疲れていたらしい。

 そのまま睡魔に身を任せ、彼女は初めての野宿の中眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――へっくしっ!! …………ぁ?」

 

 寒い。

 

「…………朝か……。うぅっ、寒い……」

 

 まさか自分のくしゃみで起きるとは思わなかった。

 

 隙間から太陽の光が差し込み、何時かはわからないが朝らしい。

 

 外に出て見ると周辺にうっすら霧がかかっていた。そりゃあ寒いはずだよな、と一人呟き、それからはたと思い至る。

 

 そうだ、魔法がある。

 

「おぉ、あったけぇ……」

 

 全身に炎を灯すとポカポカと暖かい。これは暖房いらずだな、と満足する。

 

 その後は水で顔を洗い、ドライフルーツを食べで朝食とする。朝食後には人のいるところへ行く手掛りがなにかないものかとば者などの中を漁った。

 収穫は地図らしきものだ。随分と使い古され黄ばんでいるが、使えなくはないらしい。

 地図は大陸の一部が描かれ、左端は縦一直線に山らしき図が。そのすぐ右側、真ん中あたりには大きな印。さらに右へ行けば薄っすら青い箇所があり、見る限りは海か巨大な湖のようだ。

 馬車の外に出て木の隙間から山の方向を探せば、背後に山脈が見えた。ぐるりと周囲を見渡しても他に山はなく、恐らくは地図の山だろう。そうであってほしい。

 地図と睨めっこをしてしばらく、大体の予想は山脈と大きな街のような印の間のどこかと見た。つまり、山脈を背中に歩けば街につくか、もしくは延々と歩いて海岸線に出るだろう。

 

「よしっ、じゃあ出発するか」

 

 バックパックを拝借し、持てるだけの物資を重くなり過ぎない程度に詰め込み準備完了。

 地図を見る限り街らしきマークまではそう遠くないように見える。最悪一日あれば充分に辿り着けるだろうと楽観視しているが、そこはそこだ。ダメだったら野宿をすればいい。

 

「……取り敢えず、早くシャワーだけでも浴びたいなぁ……」

 

 臭うかな、と袖あたりの臭いを嗅ぐが自分ではわからない。

 まぁいっか、と気分を切り替え、町へ向かって歩き出したのであった。

 

 

 

 

 

 

TSロリverのDTTS魔法使い、見たい?

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