童貞のまま30歳になったらTSして本物の魔法使いになりました 作:いつのせキノン
KK・ウルフくんに連れられ、騎士団訓練所なるところへやって来た。
騎士団とは帝都コーラルの王族直属の組織で、帝都内の警らやモンスター討伐を請け負ってるとか何とか。警察と自衛隊みたいな組織なんだと思う。
詰め所を通じて帝都の城壁を抜けるとすぐ、平らに整地された広場がある。ちらほらと中世ヨーロッパを思わせる鎧を来た集団がいて、人形相手に槍を突いていたり、対人組手をしていたり……いかにも訓練してますって感じだ。
そして、その大半がオレの方を向いてる、気がする。妙に視線が多くてむず痒いんだけど。
「……何か緊張してきた……」
「訓練兵に見られているからか?」
一歩先を歩くウルフくんがたずねてきた。この子は同道と歩いてて注目され慣れてるらしい。
「あんまり注目されるのは慣れてないんで……ヘマしたらどうしようって」
「これからは一生注目の的だろう」
「えぇ……困ります……」
「よく自分を見直せばわかるだろうに」
自分を、見直す?
自分の容姿を思い返してみる。
完璧なプロポーション、整った顔立ち、輝く金の瞳に、黒地に銀のメッシュが入ったサラサラのロングヘア。
……あっ、コスプレ……。
「う、うぅ……」
「何故そこで赤くなって泣きそうになるんだ……?」
「今、すっごい恥ずかしいっす……っ」
「……慣れろ」
「ごっ、ご無体なぁっ!?」
「では説明を始める。目標はそこに並ぶ木の的だ。制限時間は俺の手元の砂時計の砂が落ちきるまで。または、的を五つ破壊した時点で終了とする。使用できるのは原則魔法のみ。的以外を破壊しない程度に全力で取り組んでほしい。他に質問は?」
「いえ、特には」
広々とした場所に立つと、否応なしに周りの様子が気になる。後ろの方にウルフくんがいるが、他に人は近寄ってこない。遠巻きにオレを眺める視線がたくさんだ。ちょっとムズムズするけど、そこは気合でなんとかする。
視界には等間隔に五つの木製の人形っぽいものが並べられている。あれを時間内にどう壊すかで魔法がどの程度か見る、らしい。
「ま、手加減する必要はないよな」
こういう場に立つと、嫌でも全力でやらなくちゃと身体に力が篭もる。固くなりすぎるのがオレの悪いクセだ。
「では、始めてくれ」
ウルフくんが手元の砂時計をひっくり返して台に乗せた。大方五分程度ってところかな。
さて、どうしようか。今までの魔法と言えばオレを中心に炎を出してえいやと吹き飛ばすのが主だった。おかげで地図に焦土が増えたと思う。反省はしてる、後悔はしてない。
取り敢えず弾丸みたいに飛ばすことはできたのを確認してるから、他の型を試してみたいところだ。
例えば、相手の足元をいきなり発火させてみたりとか。あとは炎の腕とか作ってみたりとか。炎の遠隔操作とか格好良いよな。
やるか。
訓練が始まってすぐ、ミズチは全く動かなかった。
何やらぶつくさと僕には聞き取れない声で一人呟いて考え事をしてるらしい。
「……ミズチ。何か問題でも?」
「んぁ? や、何でもないですよ。取り敢えず、やります」
ひらひらと手を振り問題ないとアピール。何をしてるのやら……。
「よーし、それじゃあ五発同時打ち上げだ」
それから彼女はおもむろに空へ手をかざした。同時に、それぞれの指先に白い炎が灯る。間違いない、ミズチの魔法だ。
しかし、まだ本領は発揮されていないように見える。あんなロウソク程度の火では、彼女が語った出来事は起こり得ない。
「せーのっ、」
次の瞬間、合図と共に腕を振り下ろしながら手を握りしめた。
――刹那、ズドンッと重々しい地響きが鳴り渡り、衝撃波が熱風となって吹き荒れる。
「……は……?」
轟音と共に、火柱の渦が天高くそびえ立っていた。
目標である木製の人形があった場所は地面が抉れ、土すらも黒く燃え上がり、今なお火の手を上げている。
それが五箇所……全く同時に、だ。
あの威力、爆薬やそういった類の物を遥かに上回っている。地面ごと吹き飛ばすなど想像がつくはずがない。
荒れ狂う風も、まるで嵐が来たかの様に強くなっている。それだけの熱量を生み出す炎、過去に記録されてきた魔法の中でも間違いなくトップクラス……!!
「おー、上手く行った。ぶっつけ本番でもやればできるモンだなぁ」
が、あのミズチは何と気楽なことか!!
彼女は自分の力がとんでもないものだという自覚が全くない。あれだけの魔法を使っておきながら何故そんなにケロッとしてるんだ……普通の魔法使いならぶっ倒れるレベルだと言うのに……。
常識のなさもそうだが、変な輩にいいように利用される未来しか見えない!!
「すごいな……」
「魔女だ……炎の魔女だ……」
「……熱いし、暑い……何なんだ、あの女は……」
遠巻きに眺めていた訓練兵たちが呆然と呟く言葉が聞こえる。
異質どころの騒ぎじゃない。間違いなく、伝説になる程の力の持ち主が現れたんだ。
「んーもうちょい出力上げられそうだったんだよなぁ。やっぱり精密さばっかに気を取られたのがいけない」
少し納得してなさそうなミズチが、僕の方に戻ってきながらそんなことを言った。
「……また更に強くなるのか……」
「え? あぁ、多分、できるんじゃないかなと。感覚的にはまだ余裕ありましたけど、あれ以上は流石に被害が大きくなるかもと思いまして」
あれで生半可? 冗談だと思いたい。
が、ミズチが嘘をついているとは思えない。彼女は思ってることがすぐに表情に出る。図星だったり嘘だったり、誤魔化そうとする時は必ず目が泳ぐ。
外交官について行っている内に相手の表情を探るスキルまで身に着けたがゆえ、彼女が嘘を付ける人物とは思えなかった。
それさえ演技だったとしたら……それこそ、彼女は誰も手も付けられない存在に違いない。
「……それ程の魔法ならすぐにでも声が掛かるだろう。資金の前借りもできるはずだ」
「おー、よし。じゃあ後は寝床だなっ」
「それについても手配するよう伝えておく」
「えっ、いいんです?」
「構わない。寧ろ、そうせねば上から何とどやされるかたまったものじゃないのでね」
「ははぁ……至れり尽くせり、有難い……。あーあ、前の職場もそのくらい待遇良ければいいのになぁ……」
前の職場?
「以前は別の所に勤めていたのか?」
「あーまぁ、はい、一応は……無断欠勤……あとが怖いなぁ……」
頬を引き攣らせて若干青ざめた表情をするミズチ。
僕としては何か未練らしいものを抱えてるみたいに見えたけど……流石に野暮かと思って何も言わないでおく。
取り敢えず、今後の彼女の動向はある程度の方向性が見えてきた。住む場所も役職も大体は僕の予想通りに行くはず。
後は上が彼女をどう扱うか、だ。王族派閥に関しては大丈夫だとは思うけど、問題は貴族派閥だ。立場的に後ろ盾のないミズチを自分のところに引き込みたい輩は多い。
帝王不在の今、国の方針が傾くのは非常にマズい。モンスターの活発化も問題視されている中、国が内側から崩壊すれば、目も当てられない状況になる。
「……ミズチ」
「? まだ何か?」
「いや……問題は起こさないように気を付けてくれ、と忠告だ」
「まるでトラブルメーカーみたいな扱いなんですが!?」
現にそうだから忠告してるんじゃないか!!
時間は多分お昼くらい。太陽も真上に来たらしく、快晴の青空だ。
「……腹減った」
何だろう、この身体になってから燃費が悪くなった気がする。
「そうか、もう昼時か。よし、食堂に案内しよう」
とウルフくん。食堂か……学生時代以来か?
勤め先は持ち込みか外食だったけど、結局行きがけにコンビニ寄って買い込んで、仕事しながら食ってたからなぁ……。
「せっかくだしラーメン食べたい……」
「……腹が減ったのはわかったが……らー、めん? とは何だ?」
……ラーメンをご存じない……?
「もしかして、ラーメンという存在がない……!?」
「初めて聞いたな、そんな食べ物は」
そんな……オレのソウルフード……。膝から崩れ落ちそうだ……。
「……そんなに落ち込む程なのか……?」
「落ち込むも何もっ、オレ……私が一番好きな食べ物でしてねっ!! 一週間が辛くても、今日はラーメン食べるぞって意気込むとやる気が出てくるくらいには好きで……はぁ……、」
そのラーメンがない? 冗談だと言ってくれよぅ……。
「はぁぁ……」
「あー……異国の食べ物なんだろうな。貴方の故郷であったような。特徴を言えば探してくれるかもしれないぞ?」
「ほ、ホントか!? あっ、失礼、ホントですか!?」
「探し当てる保証はないけど……まぁ貴方程の魔法使いなら充分探してくれるんじゃないか?」
おお……希望はまだ残ってるかもしれない!!
「……というか、そう無理に敬語を使わなくてもいいんじゃないか? そう窮屈にされるとこちらも困る。僕は敬語という存在は知っているが、使い方に関してはイマイチわからないんだ。相手を謙譲するとか何とかあったが……結局紛らわしかった。貴方も楽に喋ると良い」
「はぇ、ぁ、……良いので? いや、確かにウルフさんの方が年下だろう……でしょうけど、会って初日っていうのは……」
「構わない。僕としてもない方が気楽だ。それに古語を使うのは恐らく君だけ、あろうがなかろうが支障はないだろう」
「……そう、です……か。いや、なら、有難い。うん、ありがとう。こっちとしてもその方が楽だ」
気を使わせたのかもしれない。圧倒的年下の子だろうに、何て出来た子だ。後で年齢聞いておこう。
「良かった。取り敢えず、らーめんとやらは無いが騎士団専用の食堂がある。今日はそこで済ませてくれ。その後、適当な宿場まで案内する」
「はいよ、頼む」
騎士団専用、とある通り、騎士団訓練所に併設される形で大きな食堂があった。社員食堂や学食みたいなイメージと同じだ。
中には訓練所で見たような人が大勢いる。訓練兵だからか、皆若い。多分十三とか十四歳くらいの年齢だ。
そして、その大半がオレを見てる。やっぱり珍しいのかな、オレみたいな見た目の女ってのは。
「……読めねぇ」
取り敢えず今はそれらの視線を努めてシャットアウト。
食堂入り口横の看板に今日のメニューっぽい物が書き込まれた黒板があるんだけど、案の定読めない。早く字も覚えないとだな。
「ウルフくんウルフくん。これメニュー、だよね? 全然読めないんだけど。この……オーソッナ? って何?」
「日替わりのセットの一つだ。今日は、麦パンと豆スープに猪肉のステーキ、あとはサラダか」
ステーキ……しかも猪か。食ったことないな。
「じゃあそれで」
「いいのか? 他にもセットはあるが……」
「いやぁ、猪食ったことないんだよね。一回くらい冒険してみたいなって」
「そ、そうか……。食堂で出すほどだし味も悪い訳じゃないから冒険と言えるかは微妙だが……まぁいいか」
ステーキだ。質素でもステーキだ。肉の塊だ。
そう言えばいつ以来だろうな、ステーキなんか食うの。飲み会も疲れてほとんど食べないで終わってたし、焼肉屋に言っても箸が進まなかった。
やっぱり環境の所為か? 正直大して仲良くもない同僚と行ったって楽しくなかったし。
ま、どうせしばらくは何も考えなくていいし、のんびり味わうとしよう。
◆
「炎の魔女、とな?」
帝都コーラルの中央には王城が
コーラル城と名付けられた王城には、古くから代々続く血族が国の王として君臨しており、帝王として名を馳せていた。
今、王城の玉座の間では定例報告会が開かれており、玉座に向けて
彼女が
「はい。昨夜から頻繁に起こっていた西方での爆発。それと関係する者が帝都内で確認されました」
「それが炎の魔女だというのか」
「はい。今朝、西門から帝都へ入ったことを確認しております。現在は騎士の一人が傍に付いておられます」
「そのきしは?」
「ケント・K・ウルフ。外交官補佐兼任の通訳者です」
「おお、あやつか……かおはしってるぞ。して、その炎の魔女とやらはどれほどつよい?」
少し舌足らずな少女は興味津々と言った様子でたずねる。
対して、黒装束の女はしばし躊躇ったように溜めてから口を開いた。
「……記録されてきた魔法使いの中でも、最強でしょう」
「ほう。史上最高の魔法使いとよばれるぬしが、そういうのか」
「……はい。炎の魔法使いは多々いましたが、彼女は別格です。大魔法をいとも容易く行使し、それでいて多量の魔力を保有する……数万年に一人の逸材です」
黒装束の女の声は少し悔しさが滲んでいた。
ただ聞くだけではいつも通り。しかし、玉座に座る少女はそれを聞き破り、悪戯を思い付いた子供そのままの笑みを浮かべた。
「のう、“アマテラス”。ぬしよりつよーい魔法使いがでてきて、くやしいか?」
「っ」
ビクッ、と黒装束の女の肩が震えた。
「こたえよ、“アマテラス”」
「は、はい…………悔しい、です」
「そうよな、そうよなぁ。ぬし、じつはプライドがたかいと、そのようなうわさがようきこえてくる。まけずぎらい、そうなんじゃろ?」
ニタニタと、少女は笑う。実にサディスティックな笑みだ。
そんな少女の問いに、女は小さく震えながら肯定する。
「ふふ……よか、よか。すなおがよいぞ、“アマテラス”。ワタシはすなおなぬしがすきじゃ」
「……ありがとう、ございます……」
「ん。さて、“アマテラス”よ。さっそくその炎の魔女をみたい。せいほうからのたびびとときいたが、うわさがほんとうであればさいこうのちからとなる。いまのうちにひきこみたい」
「……承知致しました。すぐに謁見の手続きを行って参ります」
「うむ、頼んだぞ」
少女の言葉に、より一層深く頭を垂れた女は、やがて蜃気楼のように薄くなって消えた。
「いやはや、たのしみじゃぁ。たのしみじゃのう」
大きな玉座の上、地面に届かない足をフラフラと揺らし、少女ら満面の笑みを浮かべていた。
TSロリverのDTTS魔法使い、見たい?
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とても見たい
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どちらかと言えば見たい
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どちらかと言えば興味ない
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興味ない