童貞のまま30歳になったらTSして本物の魔法使いになりました   作:いつのせキノン

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過ぎ行く時間

 

 風呂から上がり、着替えがないことに気付いた。

 

 いや、あるにはある。

 

 バスローブが。

 

「……まぁいっか」

 

 初めて着るんだけども、これって下着とか何も着けないで羽織るものだったっけ?

 まぁ穿けって言われても無いものは無いからノーパンになるんだけどな。

 

 自分の身体に悶々としたままバスタオルで身体を拭き、手近にあったバスローブを羽織った。

 中々良い生地みたいで着心地も悪くない。この時代、大量生産できるので訳でもないだろうに、職人はよくもまぁこんな立派なのを作るもんだ。

 

 あとは髪を乾かさないと。洗うのは良かったけど、乾かすってなると相当大変だ。

 ドライヤーなんて文明の利器があるはずもなし。タオルで地道にやるしかないか……。

 

 しかし、落ち着かない。足元がスースーする。ノーパン良くない。

 

「下着とか、買った方がいいのかなぁ……」

 

 女性物の下着……。

 超えちゃいえない一線を超える……気がしなくもない。

 でも、胸が重い。こんなものぶら下げてよくもまぁ日常を過ごせるもんだと思う。ブラジャーとかあると楽なのかもしれない。

 

 いや待てよ。そもそもこの時代にブラジャーなんてあるのか? あれって意外と作るの大変そうだよな……。

 

 有ったと仮定して、着けるべきか、着けないべきか……。

 でも着けてて突然体が男に戻ったら……ただの変態なんだよなぁ。まだ捕まりたくないぞ、オレ……。

 

 ないものねだりも程々に、長い髪をタオルで拭きながら寝室のベッドに座る。

 特にBGMがあるわけでもなく、本当に静かだ。窓から日の光が射し込んで、ぬくぬくと暖かい。

 

「……ねむい……」

 

 ぼんやりしてると段々眠くなってきた。疲れが出たんだろうか。

 まぁ別に大してやることもないし、寝ていいか。疲れたし、ゆっくり休みたい。

 幸いベッドは柔らかいし布団も良さげなやつだ。存分に休ませてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼寝して、夕飯はめっちゃ豪華なステーキに舌鼓を打って嬉しさに悶絶し、満足感からふっかふかのベッドで泥のように眠った、翌日。

 

 りん、りん、とベルの音がした。

 

「……んふー……ぁ……?」

 

 ……朝か。朝……飯食って、会社……スーツ……。

 

「……あれ?」

 

 ホテル…………って違う。家じゃない。

 

「……流石に夢じゃなかったか……」

 

 ですよね、現実ですよね。喜ぶべきか悲しむべきか。まぁ如何ともできない以上は流れに任せる他ないんだけど……。

 起き上がってしばしボーっとしているとまたベルが鳴った。来客らしい。

 眠気が取れないままよろよろベッドから立ち上がって出入口へ向かい、豪華な扉を開けた。

 

「……あー、おはようございます……」

「おはよう、ミズチ。また敬語か?」

 

 扉の隙間から外を見たらウルフくんがいた。朝早いのにシャキッとしてるねぇ……。

 

「んぁ……どーしたのさ。まだ結構朝早くない?」

「いや、皆これが普通だが……。まぁいい。朝食を食べたらすぐ出かけるから準備をしてほしいんだ。王城へ行く」

 

 うぇーいきなりか……。

 

 ……ん?

 

「えっ、今なんて!?」

「? 王城へ行く、と」

「マジで!?」

「その“まじ”という言葉はよくわからないが、嘘か本当かで言えば本当だ。帝と謁見する」

「うっそだろお前……」

 

 いきなりハードル高すぎない? 一般人が突然大統領とか天皇と会うようなモンだよ? いいの?

 

「待って待って急過ぎない? オレ作法とか礼儀とか全然わかんないよ? 不敬罪とかならない? 死刑なの? 馬鹿なの? 死ぬの?」

「落ち着け、大丈夫だ。よっぽどバカな行動さえしなければお咎めもない。向こうもそれは承知のハズだ」

「いつの間にオレの個人情報筒抜けになってんの……」

 

 やだこわい。

 

「いいから早く支度をした方がいい。遅刻はそれこそ厄介ごとの種になる」

「あーっ、そう言えばそうじゃん!! もー!!」

「朝食は食べるか?」

「食べる!! ちょっと着替えてくるから待ってて!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝っぱらから騒がしいな、と僕は頬杖をついてテーブルの上に並ぶ朝食を観察していた。

 紅茶にブレッド、ビーンズにスープ。ここら辺では一般的な、しかし格式高い貴族をもてなすための朝食だ。

 

「くっそー、スーツ早くクリーニングに出したいなぁ!!」

「ああ、やっと来た――――ぶふっ!?」

「? どうしたよ急に吹き出して」

「どうしたもこうしたもあるか!?」

 

 バタバタと、見た目の高貴さからは想像できやしない慌ただしさでやって来たミズチは、スーツとやらの白いシャツのボタンを止めながら歩いてきていた。おかげで胸元が開けて見えそうで……見えない。

 

「いいからさっさと服をちゃんと着ろ!!」

「今着てる」

「ここに来る前に着ろって意味だよ……」

 

 ボタンを止めながら対面の椅子に腰をかけるミズチ。やはり貴族らしくない態度、しかしながらマナーは意外と心得ているのか、ナイフとフォークを問題なく使ってる。

 

「……朝食も旨いのはすげぇ嬉しいんだけどさ、箸欲しいんだよな」

 

 ……ハシ?

 

「……橋? なぜ?」

「あー、箸なんて知らないよな。2本の棒で食べ物を挟んだりするんだよ。慣れるとフォークとかよりずっと使いやすいんだ、個人的には」

「ふぅん……異文化という訳か。今度調べてみるとしよう。いい資料があれば作成を頼めるかもしれない」

「へぇぇ、そうなったらいいなぁ」

 

 棒2本作るだけなんだけどな、と言いながらミズチは食事を進める。本当に、不思議な女性だ。

 

 

 

 朝食を食べ終わり身支度を確認したらすぐに出発だ。

 訪れるのは王城で、しかも帝との謁見だ。遅刻するよりずっとマシというもの。

 

 ホテル前には既に馬車が待機しており、客車には帝王家の象徴である紋章が描かれている。王族直々のお出迎えという訳だ。

 朝っぱらにもかかわらず、遠目からの野次馬は多い。どんな客人がいるのか興味を惹かれているのだろう。

 

 それで、だ。

 

「……君はいつまで隠れてるんだ?」

 

 僕は玄関から出る直前、脇の柱に身を隠そうとしている彼女に冷たい視線を投げやった。

 

「いやいや、何だよあの野次馬。オレそんなに注目される問題起こした? 起こしてないよね?」

「起こしてはないが、既に注目はされるだろうよ。なにせ王族所有の馬車が迎えに来てるんだから、臣民は気になる他ない。というか、昨日から注目の的だったじゃないか」

「あれは周りに気を配る余裕がなかっただけで……。ぬぅ、お忍び用の装飾ないやつで来てくれればいいのに……」

 

 彼女はどうやら注目されることがあまり好きじゃないらしい。その容姿ではどうかと思うんだけど……。

 

「いいから行くとしよう。あまり時間を食うわけにもいかない」

「む、うぅ……わかったよぅ……。って、何でオレの後ろにいるの?」

「それを言うかい? 貴族的な扱いをするように言われてるんだ。僕は従者の立ち位置で、主人より先に表へ出るなんざ常識外れもいいところだ。レディ・ファーストというものだよ」

「くっそぉ、いらん気遣いとマナーしてくれやがって……っ!!」

 

 覚悟を決めたのか、大股に歩き出した。ヤケになってる、という方が正しいのかもしれない。

 レディらしい歩き方をしてくれ、と小さく言えば若干歩幅を縮めたけれど、やっぱりどこか雄々しさが見え隠れする。まぁスカートじゃなくてスラックスを穿いているというのもあるんだろうが……。

 

 視線を振り払うように、慣れなそうに馬車に乗り込んだ。やはり、どうも貴族や王族らしさがなかった。普通ならそういった習慣が身についているだろうに、本当にちぐはぐだ。

 

 

 

 馬車に揺られる間、彼女は非常に落ち着きがなかった。常にそわそわしていて、手を握ったり開いたり、座り直したり、窓の外を何度も確認したり。

 

「……緊張してるのか?」

「ん、む、あ、うん。いや、するでしょ普通」

 

 非常に、歯切れが、悪い。確かに動きもどこか固いので緊張してるのだろう。

 

「……そう言えば、王様に言葉って通じるのか?」

「いや、恐らくは無理だろう。陛下はまだ幼い。それに古語を好き好んで覚えるような人は片手で数えるくらいか、あとは研究者だけだろう」

「幼い……若い、ってわけではない?」

「ああ。……そうか、貴方は知らないか。現在帝国を指揮するのは王女だ。それも、まだ齢10歳程度のね」

「10歳の王様だって……?」

 

 さっきまで不安そうな表情ばかり浮かべていた彼女は、今度は驚愕の表情でこっちを凝視してきた。

 

「しかも、女の子?」

「そうだ。それでいてよく頭が切れる。まさに、王として生まれてきたと言われても過言ではない程に聡明だ。巷では建国以来最高とも囁かれていたりするけど……」

 

 事実、現帝王が姿を眩ませて以降、陛下が玉座についてからの帝国内のあらゆる業績が伸びしろを示している。

 何よりもその原点は、史上最高の魔法使いを見つけ出した功績にあると言われているが。

 

「10歳で王様……どういうスペックしてんだ……」

「そう思うのも無理はない。僕だって最初は信じられなかったし、一抹の不安さえあった。今思えば杞憂だったんだけどね」

「へぇぇ……っていうか、オレがこれから謁見するってのは、その、王女様、なんだよな……?」

「そうとも。だが、年下だからと言って変な態度は取らないでくれ。王族だし、しかも露骨な態度はすぐ見破られる。陛下の観察眼は本物だ」

 

 それに、と付け加える。

 

「……恐らく、“アマテラス”様も共にいるだろう。僕としては、そっちの方が怖いけどね」

「あまてらす……、」

 

 僕の言葉に反応した彼女は、不思議そうに、何度も、史上最高の魔法使いと呼ばれる彼女の名前を反芻した。

 

「……聞いたことあるような名前だな。何だっけ、日本の神様とかだよな……」

「貴方は“アマテラス”様を知っているのかい?」

「へ? あ、いや、その魔法使いって人のことはからっきしだけど……。似たような言葉を聞いたことがあってさ。詳しくは全然わからないんだけど」

 

 そう言って、何かを考えこむ彼女。

 “アマテラス”様の名前は、本名を知る者はいない。恐らく、陛下のみが知っているのだろう。

 帝国に繁栄をもたらした魔法使い……その多くは謎のまま。しかし、誰一人としてその正体を知ろうとはしない。

 いや、正体を突き止めようとしている者が存在はするだろう。

 ただ、誰も彼女について知ることができないでいるのだ。

 彼女の存在は煙のようなもので、決して掴むことができない。

 

 けれど、ミズチの言葉にふと引っかかるものがあった。

 ミズチの出身は未だに不明だけど、古語を使う以上、彼女の謎はそのまま“アマテラス”様の謎に繋がるという確信がある。

 古語の起源というのは帝国が建国されるよりも前にあったと言われているし、かつ、魔法使いと呼ばれる存在が確認され始めたのも同じ時代だった。

 

 この時代、古語しか話せない人間というのは珍しい。それどころか、何か摩訶不思議な出来事の前兆じゃないかとまことしやかに噂されるくらいだ。

 ともすれば、目の前にいる彼女が、魔法使いや歴史を紐解くヒント、鍵になるのかもしれない。

 

「……ダメだ、全然わからん……」

 

 ……頭から煙を出しそうなほどに何かを考えて目をぐるぐる回す様子を見て、それはないかもな、と、少し思い直した。

 

「ともかくだ。通訳として僕も共にいる。下手な態度さえとらなければお咎めもないし、とにかく落ち着いて対処してくれればいい。真実を話せば、誰も文句は言わないからな」

「王様前に嘘こく余裕なんか一般人が持ち合わせてるワケないでしょーが」

 

 一般人のカテゴライズ定義を深く考え直してほしいと思う。

 

 下らない話をしているうちに、馬車はいよいよコーラル城の正門を拝める位置にまでやってきた。

 ミズチはという、今度は石のように固まってしまっている。先ほどよりも緊張感が増してしまったらしい。

 こんな様子で謁見なんてできるのか……非常に不安だ。

 

 ガタガタと、舗装された道とは言え小刻みに揺れる馬車が、門の目の前で止まった。

 馬車の外からは衛兵らのやり取りが小さく聞こえてくる。

 

 やがて、扉がノックされて、僕の一声で外から開けられた。

 入ってきたのは、文官の男。ひょろりと背が高く、顔の堀りが深い。

 ……彼は、確か、議会幹部の一人だったはず……。

 

「……kIhAdyAgIrOUhAmImAEtEkIUkI?」

「hIU、tAEdOsE」

「……hEmE、tAIkI。dOhInAkArO」

 

 僕と彼女を一瞥し、すぐに出て行った。

 彼女ほどの美貌を見て微塵も顔を動かさなかったのは、やはり彼が噂通りの人物であるからか。

 

「あー、ウルフくん。今の方は?」

「議会幹部の一人、エセルバート・チョードリー氏。議会というのは、この国の政治を担当する役人たちだ。陛下の次に偉い立場、とでも言えばわかりやすいか?」

「ほっ!? そんなに偉いの……!?」

「間違いない。有名人だからな。かくいう僕もなぜそれ程の人物が検問の真似事をしてるのか不思議でしょうがないんだけど……」

 

 まぁ、十中八九、ミズチのことなんだろうけど……。

 

「……考えても仕方ない。貴方がよっぽど重要人物だと思われているということだ。気を強く持ってほしい」

「うそだろぉ……」

「っ……、」

 

 励ましたはずなんだが、彼女は泣きそうな表情で、対面に座る僕の方に顔を近づけてきた。

 若干涙ぐんで、鼻頭が赤い。それと、なんか、匂いがする……。

 

 思わず、のけ反った。

 

「ちっ、近いっ!! いいからっ!! シャキっとしてくれ!! 成人してるんだろう!?」

「ぐぅっ!? ソイツを言われると心がツラい……っ」

 

 無理矢理肩を掴んで押し戻し、事なきを得る。本当に、いちいち心臓に悪い。今も動悸が激しくて、体温が高くなっている。……“アマテラス”様の時と似ているような、けれど……。

 

 彼女はと言えば、演技っぽく胸のあたりを押さえてさめざめと泣き真似をしていた。思い当たる節でもあるのか。

 

 そうこうしているうちに馬車が止まった。いよいよ、玄関口に着いたのだ。

 

「……よし、行こう。指示は逐一僕から伝えるから……くれぐれも、だ」

「お、おう。頑張る、うん、頑張る……」

 

 面接より緊張するぅ、と、小言を零す彼女に呆れながら、馬車の扉を開け放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

TSロリverのDTTS魔法使い、見たい?

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