作:ハッピースター

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この物語はフィクションです。
登場する人物、建造物などは全て架空のものです。
そして雑です。それでもよろしければご覧ください。


第一話「春雨」

僕の彼女は、自分のことは雨女だと言っていた。確かに何かイベント、冠婚葬祭がある時は必ず雨だった。

今日は葬式だった。もちろん彼女もいた。

まるで死を笑うかのような晴天だった。彼女は、もういない。

 

彼女と出会ったのは1年程前だった。その日も雨が降っていた。

高校からの帰り道、村雨を凌ぐため閉まった店の雨よけに逃げた。

慌てていたことと、その人の背が小さかったこともあり、先客がいたことに気が付かなかった。

「雨、激しいですね」

隣からの透き通るような、それでいて申し訳なさそうな声でその存在に気付いた。雨雫に濡れ艶のある長い黒髪に端正な顔たち、どことなく深く優しく温かい瞳を持ったその少女はこちらも向かずに話しかけてきた。よく見ると同じ制服を着ている学年色は青、一つ上の先輩だ。

「そうですね」

少しぎこちなく返事するとそこで会話が途切れてしまう。

『あのっ』

かぶってしまった。あっとまたも2人でかぶってしまう。

「先輩からどうぞ」

「うん。ありがとう」

先輩に譲るのは、先輩だからではなく俺がそういう人だからだ。

「やっぱり、うちの後輩だよね。たしか、サッカー部の……」

「帰宅部です。二年三組、坂井凛空です。先輩は?」

「私は白久御木。三年四組だよ。図書委員やってるから図書室来てね」

そこまで話すとまた二人とも黙り込んでしまった。

「ところで、坂井君の話は?」

「先輩と同じです。うちの先輩ですよねって話です」

「そう……」

またも沈黙がこの空間を覆う。

『あのっ』

まただ。俺はなんて間の悪い男なんだ。

そんなことを考えていると、隣からクスッっと笑い声が聞こえてくる。

「ふふ、私たち気が合うのね」

先輩の笑顔とともにその台詞が出てきた。その時の先輩はすごく輝いて見えた。

「あ、雨止みましたね」

恥ずかしくなって先輩の顔から視線を外すと、もう空は青く晴れ渡っていた。しかし俺の心は少し曇っていた。まだ少し先輩と話していたい。

「じゃあね、学校でよろしくね」

「あ、はい」

そう言って先輩は小走りで去って行ってしまった。

俺はその後もその場で突っ立っていたがすぐに帰路についた。

正直、一目惚れだったと思う。

 

次に彼女に会ったのは、否、会いに行ったのはだいたい一週間後だった。

図書委員に所属していると言っていたことを思い出す。別に読書は嫌いじゃない。事実、割と文庫もラノベも沢山持っていた。

ただ、図書室の雰囲気が苦手だった。静かで真面目ちゃんの多いイメージだ。

しかし実際は違った。もとより、この学校の図書室にきたのは初めてだったが、そこは図書室と呼称するには余りにも広い、規模の大きすぎるものだった。ここでは話をしていても遠くなら全く聞こえないだろう。

入口すぐ横の受付には、暇なのかうたた寝している委員の生徒がいた。先輩はその場にいなかったので来た意味がなくなったのだが、どうせならと書物を物色していた。

文庫本、古書、歴史書、漫画、ラノベ、中には魔導書なんてのもあった。一際奥に進むと資料室があった。気になって入ってみると、そこは資料室とは言い難い、まるで休憩室のような空間が広がっていた。

奥で委員の生徒らしき人が棚の整理をしていた。その横を通り過ぎようとした時、その人の乗っていた脚立がぐらつき、倒れてきた。乗っていた人が危ないと思い、どうにか受け止めて助けた。

「……いたた、大丈夫ですか」

「ありがとうございます」

それは、聞き覚えのある透き通るような声だった。

「白久先輩?」

「ん?坂井君!」

しばしの沈黙が続いた。先に話を切り出してきたのは先輩だった。

「あの、このままだとちょっと恥ずかしいな」

そう言われ、今の様子を確認すると、俺は先輩をお姫様抱っこしたまましゃがんでいた。そうすると、もちろん顔も近い訳で。

「ああ、すいません!すぐ降ろします!」

立ち上がった先輩は服に着いたほこりやらをぱっぱと払い、こほんと咳払いをしてから話し始めた。

「さっきは受け止めてくれてありがとう。でもまさか坂井君だとは思わなかったよ」

「俺もです。まさか先輩だとは思いませんでした」

それから、少し世間話をして先輩が仕事の続きをすると言ったので、俺は手伝いますと言って整理を始めた。

その後は特に何を話すでもなく、淡々と作業をしていた。帰り際に、少し気になっていた魔導書を借りていこうとした。

「坂井君もそれ読んでみるの?」

いつの間にかいなくなっていた受付の生徒に代わって、そこに座った先輩は俺にこう言って、続けた。

「私も気になってそれ読んでみたんだ。まあ内容は言わないけどね」

俺は貸出のサインをし、先輩に挨拶をしてから図書室を後にした。

家に帰ってから、借りた本を読んだのだが中身はさっぱりだった。ただ、一つだけ分かったことがある。この本は異世界のものであるということだ。

よく分からなかったので、また一週間後に先輩に会いに行くついでに返した。

 

六月中旬ころ、五月雨が傘に当たる音を煩わしく思いながら学校への道。後ろからの声は雨にかき消られ俺の耳には届いていなかった。

「……君!坂井君!」

声の主が近づいたことでやっとその声が耳に届く。白久先輩の声だ。

「先輩?どうかしましたか、大声なんて出して」

「何度も声をかけたよ」

「そうなんですか。すいません、雨の音がうるさくて聞こえませんでした。それでどうしたんですか?」

「放課後図書室の資料室に来てくれる?」

「分かりました。放課後に資料室ですね」

「それじゃ、委員会あるからまたあとでね」

そう言って、先輩は小走りで去って行った。

内心、俺は少し期待していた。何かあるのではないかと。

しかし実際はただの思い上がりで。

 

「あ、坂井君。来てくれてありがとう。じゃあこっち、この棚の整理お願いね」

「整理……ですか。わ、わかりました」

しばらく棚を片付けてから、先輩に声をかける。

「それにしても、どうして俺なんですか?他の図書委員の人に頼めばいいのに」

「実は、うちの委員会男の子いないんだ。だから坂井君に頼んだの」

「なるほど、だったらまた呼んでください。いつでも助っ人に駆け付けますよ」

「ありがと」

先輩の眩しい笑顔は、誰もを魅了させるものだった。

作業を終え、一息ついてから先輩が口を開く。

「やっと終わったー。坂井君ありがとう。本当に助かったよ」

「これくらいなんてことないですよ。また呼んでください。もうこんな時間か。俺は失礼しますね。さよなら」

「じゃあね」

図書室を出るまで気づかなかったが、外は随分と暗くなっていた。校舎の電気も所々消えていた。

五月雨は、まだ止まない。




どうもハッピースターです。
新作ですが、今までと少し雰囲気が違います。
たまにはこういうのも書きたいのです。
何か誤字や誤植などがありましたら、ご指摘いただけると幸いです。
それでは
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