あ! やせいのダイナソーがとびだしてきた! 作:いぶりがっこ
『THE KING OF FIGHTERS XIV』に登場する新キャラクターです。
同シリーズは他のSNK作品群とはゆるいパラレルワールドと言った関係になっており、彼もまた同作の中で、本来なら鬼籍に入ってるハズの人や、明らかに若返っている人、果ては完全に時空を超えてやって来た人などと死闘を繰り広げる所となります。
本作の舞台であるカントーちほうも、初代ポケットモンスターをベースとしつつも、実態はテキトーなパラレルワールドとなっております。
あまり細かい設定に目くじら立てず、ザキさんがオロチ八傑集だった過去にでも想いを馳せながら、大らかな気持ちでお楽しみいただけると幸いです。
ポ ケ モ ン プ ロ レ ス !!
それはこのカントーちほうで根強い人気を誇る究極のエンターテイメントである。
眩いスポットライトの下で向かい合う雄と雄。
一度ゴングが打ち鳴らされれば、しち面倒な種族値も個体値もタイプ相性も関係ない。
必要なのは
筋肉モリモリマッチョポケモンたちの力と技が、今宵もまたリングの上で炸裂する。
だが、偉大なる四大ポケレス初代統一王者、カイリキー・ゴッチの逝去より、はや十年。
長い歴史と伝統を誇るポケモンプロレスも、黄昏の時代を迎えつつあった……。
「フハハハハ!
さあ行け『
「アボボボーッ」
てきのアーボックの まきつくこうげき!
黒マントの指示を向け、リング上のアーボックが即座に動いた。
その巨体でかくやと言う低空タックルから、相対するブーバーの足を取り、そのまま上体へ絡み付いては這い上がって行く。
その全身が筋肉とも謳われるヘビ科特有のボディで、ギリギリと全身を締め上げる。
『あーっとォ! は、早くも決まってしまったァ!?
悪暴苦の十八番、コブラツイスト!
これは獣神武闘会お得意の瞬殺コースかァッ!』
「つーか、まんまコブラじゃねえかッ!?」
「バカヤロー! マジメにやれェ―――ッッ!!」
「金返せェ―――!!」
アナウンサーの悲痛な声に、たちまちグレンタウン市民体育館が罵声の声へと溢れ返る。
彼らは皆、一角の目の肥えたポケレスファン。
このような塩試合を見届けるために、わざわざ離島くんだりまでやって来たワケではないのだ。
プロレスのリングには「相手の技から逃げない」と言う独特の美学がある。
自らの肉体で以って相手の全ての力を引き出し、その輝きの最高潮を全エネルギーで叩き潰す。
その意地の張り合いにロマンが生まれ、ドラマが生まれ、人々の胸に新たな感動が生まれる。
いわゆる一つの風車の理論である。
いかに試合巧者であろうとも、打撃の距離を潰し相手の持ち味を殺すマムシのやり口が、観客たちのリスペクトを受ける事は無いのだ。
「構わぬ、マムシ、アナコンダチョークだ!
そのまま一息に絞め堕とせーッ!!」
「アボボーッ」
アーボックのこうげきは つづいている
アウェーの空気を意にも介さず、一切の容赦もなくマムシが動いた。
そのゴムチューブのような太いボディで頸動脈を圧迫し、頭部への酸素供給を奪いにかかる。
半ばチアノーゼを引き起こし、とうとう片膝を突いたブーバーを地獄の寝技へと引き摺り込む。
「つーかアナコンダそのものじゃねえかッ!?」
「バカヤロー! マジメにやれェ―――ッッ!!」
「金返せェ―――!!」
再び観客の罵声が飛ぶ!
これが奴ら……、『獣神武闘会(ポケモンコロシアム)』のやり口だ。
表向きはタマムシシティの旧かくとうどうじょうを母体とするMMA系の総合格闘技団体を称しているが、その実態は斜陽のポケレス利権を攫いに来たハゲタカ企業に過ぎない。
奴らの手口は周到を極める。
まず、標的に対し現ナマのおうふくビンタで頬っ面を引っ叩いては引き抜きを繰り返す。
金で口説けぬ相手には、密かにやみうちを繰り返しその戦力を殺ぐ。
そうしてボロボロと歯の抜けた団体にトドメを刺すのが……、これだ!
一切容赦の無いセメントで塩漬けにして沈めてしまう。
この卑劣な攻勢により、現在では主だたるポケレス四大団体の内、三つのベルトが獣神武闘会へと流出していた。
「ブ、ブババ……」
今、リングに上がっているブーバー選手も、本来は老舗ポケモンプロレス団体
『だいもんじスープレックス』に所属する一介の練習生に過ぎない。
主力選手たちが相次いで謎のポケモンセンター送りとなってしまった為、リザーバーとして急遽リングに上がるハメになったのだ。
もしも彼がベストコンディションの状態だったならば、それでも善戦くらいは出来たであろう。
だが、今のブーバーは明らかに調整不足。
肉体を絞り切れていない、初めから勝機など存在しなかったのだ。
「ここまでか……、ポケモンたちよ、済まぬ!」
団体社長、テリー・ロヂャースが、とうとうリングにタオルを投げ入れた。
ポケレスファンたちの悲鳴が上がる中、けたたましくゴングが打ち鳴らされる。
『あぁ~っとォ! ここでとうとうゴングですッ!
試合時間はわずかに47秒!
DMS、後が無くなってしまいましたーッ』
悲鳴と怒号が鳴り渡る中、獣神武闘会社長の黒マントがリングへと上がり、これ見よがしにマイクを掲げる。
「フフフ……、
これがかつて『南洋のリザードン』とまで謳われただいもんじスープレックスの姿とは、
時間の流れとは残酷なものよのう?」
「くっ」
「どうだ?
こちらはこのまま、もう一戦やっても良いのだぞ?
もっともおたくの団体に、まだ戦えるポケモンレスラーが残っていればの話だがなァーッ」
黒マントのマイクパフォーマンスに、唇を噛み締めテリー社長が耐える。
悔しい気持ちはファンたちも同じであった。
戦前から彼我の戦力差は、いや、引いてはポケモンプロレスを取り巻く時代の流れは明白。
彼らは皆、ポケモンプロレスの死に水を取る悲愴な覚悟で今日の会場へと臨んでいたのだ。
「いるさ! ポケモンなら、ここにッ!」
その時、不意に力強い声が響いて来た。
観衆が一斉に花道へと視線を向けると、そこには一人、大きく息を乱した少年の姿があった。
「お前はジュニア、ジュニアじゃないか!?
練習にも顔を出さないで、こんな時間までどこに行っていたんだ?」
「ごめんよダディ。
だけどダディ、この対抗戦のメンバーが足りないって言ってたから、
ボクはずっと探してたんだ。
だいもんじスープレックスの総大将にふさわしい、最強のポケモンレスラーを!」
父、テリーに対し少年はそう言って、ポケットから薄汚れたモンスターボールを取り出した。
それを見た黒マントがローブの影でほくそ笑む。
何の変哲も無い純正のモンスターボール。
しかも手にしているのはジムバッチを一つも持たぬそこいらの子供である。
ポッポか? コラッタか? あるいはジャリガキ好みのさなぎポケモンか?
いずれにせよカモネギがカモとネギをしょって来たようなものに違いない。
「フ、フフ、良い度胸をしているなボーイ?
しかも父親想いと来ている。
宜しい、その勇気に敬意を表し、最終戦はこのまま連戦で行う事にしようではないか?」
「望む所だ! DMSの未来は僕が守って見せる」
「待てッ! 早まるなジュニア!?」
「キング! 君に決めたッ」
テリー必死の諌止も聞かず、ジュニアの手から放たれたボールがリング中央へと転がっていく。
たちまちパコンとボールが開き、ポケモンフラッシュと共に謎のシルエットが出現する。
鳴呼、伝統と栄光あるだいもんじスープレックスの歴史も今夜限りか?
心あるファンたちはリングを正視する事も叶わず、思わず瞳を逸らして涙した。
「デイィ――――ナァ―――タアァ―――イィムゥッ!!!!」
「 !? 」
あ! やせいのダイナソーが とびだしてきた!
思わず人々は己が目を疑った。
流暢な野生の雄叫びと共に飛び出してきたのは、トランセルでも無ければコクーンでも無い。
筋肉はダイナソーッ!
牙はダイナソーッッ!!
燃える瞳は原初のダイナソーッッッ!!!
見紛う事無きダイナソーの中のダイナソー。
筋骨隆々とした逞しき超雄が今、スポットライト下で高らかと咆哮を上げていた。
「バ、バカな……!
ワシの、ワシの知らない新種のポケモンじゃとォ!?」
カントーちほう一のポケモン学会の権威、オーキドはかせが驚嘆の声を上げた。
彼もまた三十年来のポケレスマニア。
死に水を取る覚悟ではるばるマサラタウンから会場に駆け付けていたのだ。
「ウー! ハー!」
かくとうポケモン使いのパイオニア、してんのうのシバも驚きの余り三戦する。
「あの鋭い爪、獰猛な牙、太く逞しいしっぽ……!
まさか、ドラゴンタイプのポケモン?
このカントーちほうに俺の知らないドラゴンポケモンが、まだ生息していたと言うのか?」
ポケモンリーグしてんのう最強とも目される、ドラゴンつかいのワタルが驚愕の声を漏らした。
ここカントーちほうにおいて、ドラゴンタイプのポケモンは伝説にも近しい稀少種である。
彼自身、手持ちがきょうあくポケモンやかせきポケモンばかりな件について、
「それでドラゴン使いを名乗るのは誇大表示にあたるのではないか」と協会から激しいバッシングを受けている最中であっただけに、今日の衝撃もまたひとしおであった。
「ドラゴン……、だとぉ?
こらあああああっ! そこのYOU!
たかが空想上の怪物と、太古の生存競争を生き延びたマイマッスルを一緒くたにするなッッ」
ダイナソーイヤーは地獄耳。
たちまち渦中のやせいポケモンが、客席に向かって怒声を吐き出した。
そもそも何故モンスターボールからやせいのポケモンが出て来るのか?
その疑問に答える者はいない。
「私の名はキング・オブ・ダイナソー!!
遡る事6500万年前、YOUたち人類の祖先がひ弱なねずみポケモンの仲間だった頃、
この弱肉強食の地上をマッスルで支配していたT-レックスの帝王なのだァ――ッッ!!」
その生気漲る雄ポケモンは、自らを『
リングサイドのテリーが何事か思い出したかのように、ハッ、と顔を上げる。
「T-レックスだと!?
そ、そう言えば聞いた事がある!
おつきみやまから発掘される数多のかせきの存在より、有史以前のカントーちほうでは、
彼のような大型肉食ポケモンたちが、我が物顔で地上を闊歩していたと推測されている。
だが、現在の遺伝子工学で復活したかせきポケモンは、DNAレベルではいずれも不完全。
真の意味でのダイナソーは、もはやこの地上には存在しないのでは無かったのか!?」
「ゲェーッ 恐竜のポケモン!?」
テリー・ロヂャースの完璧な解説により、興奮と混乱が会場に満ち溢れて行く。
太古より蘇った暴虐の帝王。
そんな荒唐無稽なお伽噺も、この超雄の異様なまでの存在感を前にしては認めざるを得ない。
ガルーラ種にも匹敵する屈強の体躯。
カイリキー種もかくやと言うほどの、はちきれんばかりの大胸筋。
強かなペルシアン種もニャースに退化してしまうのではないかと言うほどに寧猛な爪と牙。
そして何より、さも当然のようにしれっと人語を解する深い知性。
ハッタリでも無ければ単なる筋肉ポケモンでもない。
その肉体に刻まれた数多の傷痕は、天敵の存在や餓え乾きのみならず、降り注ぐ隕石や未知の病原菌、更には地獄の氷河期にすら一歩も退かずに闘い続けた、歴戦の雄ポケモンの風格が満ち溢れているではないか。
『アワワ……、な、何と言う事でありましょうか!?
団体対抗争戦DMS最後の大将は、現在に蘇りしきょうりゅうポケモン、
キング・オブ・ダイナソーだったのでありますッ!
当然ポケモンプロレス界初となる、ドラゴン/かくとうタイプのリングイン!
ここから一体、どのような試合展開を見せてくれるのでありましょうか?』
「ガルル」
会場を一呑みにしたダイナソーは満足げに目を細めると、低いうなり声をこぼして今日の獲物へと視線を移した。
「フハハ、どうした獣神武闘会とやら、大腿筋が震えておるではないか?
ポケレス界統一団体の栄光は、はやYOUたちの目の前にぶら下がっておるのだぞ!」
「うっ、ぐぐぐ……」
「ハァーハッハッハッ!
現代の軟弱なポケモンレスラー団体なんぞ、所詮はその程度のモノよ!
恥じ入る必要は無いのだッ
絶対的捕食者に恐れを抱かぬ鈍感なポケモンは、瞬く間にゼツメツしてしまうのでなぁー!」
「アボォーッ!!」
「待て! 逸るなマムシ!?」
恐竜王の挑発に激昂したマムシに対し、黒マントが制止の声を上げる。
だが アーボックは いうことをきいていない!
彼にもまたMMAの最先端を行くポケモンファイターとしての意地がある。
太古の時代にほぼほぼゼツメツしてしまったロートルポケモンに、今さら何が出来ようものか?
てきのアーボックの まきつくこうげき!
「イカン、ウチのブーバーをやったのと同じ手口だ」
「逃げてキング! それをもらっちゃダメだ!?」
「逃げろだと! 冗談を言うな少年ッ!!
このキング・オブ・ダイナソーに対し、尻尾を巻いて遁走しろと言うのかッ!?」
しかし やせいのダイナソーは いうことをきいていない!
あっ、と観客が驚く間も無く、たちまちマムシが棒立ちのダイナソー絡み付いて行く。
ゴング前の急襲、この形に入っては先ほどのブーバーの二の舞である。
「くっ、バカが、安い挑発に乗りおって。
もういい、レフェリー、早くゴングを鳴らせ」
「は、はいっ!?」
黒マントの恫喝にも近い指示を受け、遅まきながらにレフェリーがゴングを鳴らした。
明らかに卑劣な肩入れであるが、彼は断じてタマなし野郎ではない。
むしろ彼のズボンのポケットの中には、黒マントから貰ったきんのたまが二つも入っていた。
リング中央でモンジャラのように絡み合う二体のポケモンに、たちまち容赦ない罵声が飛ぶ。
だが、そんな加熱する会場の中心で、一方的に攻め立てているマムシのみが、冷たい汗が流れ落ちるのを感じていた、蛇のクセに。
「ア……? ボ……?」
岩。
岩であった。
一見筋肉ダンゴのような巨大はボディは、その実がんせきポケモンのように頑強で揺るぎない。
何と言う驚異的な体幹の強さか?
どれほどに万力を籠めて締め上げようとも、これでは巨岩にしがみついているだけに過ぎない。
こうかは いまひとつのようだ
「フハハ、どうしたと言うのだ?
ここから寝技に持ち込むがYOUの必勝パターンなのだろう?
遠慮せず、このダイナソーを一思いに絞め殺したらどうだ?」
「……ッ」
「YOUにその気がないのなら、
今度はこちらから
「アボッ!?」
次の瞬間、ズボリ、と蛇
そのままダイナソーは諸手を振った勢いで上体を揺すり、膝を曲げて深く腰を落としては、すぐさま元の直立姿勢に戻る。
「ワン! ツー! ワンツーガオガオ」
屈伸。
伸身。
屈伸。
伸身。
屈伸。
伸身。
屈伸。
伸身。
奇妙な光景であった。
太い上体を雁字搦めにされながら、恐竜王は屁とも思わんばかりに上下運動を繰り返す。
奇怪なる光景を前に会場に混乱が走り抜ける。
「スクワットッ!
それも
ポケモンの生態に詳しいオーキドはかせがようやく叫んだ。
「スクワットは下半身の筋力強化に効果的と言われており、
体幹の強さが求められるポケモンレスラーにとっては基礎とも言える練習法。
一方、過度の反復練習は膝関節および靭帯の損傷にも繋がるため、
サワムラーやエビワラーと言った、
フットワークを重視する
じゃ、じゃが、何だって彼はこのタイミングでトレーニングを……?」
と、その時、不思議な事が起こった。
ぼこん、と突如としてアーボックの全身が膨らんで……、いや、違う!
ダイナソーの逞しい大胸筋が、ブリッジワークを支える後背筋が、急所を守護する腹直筋がぼごんぼごんと膨張して、アーボック渾身のクラッチを内側から押し返し始めたのだ。
「そうか! パンプアップかッ」
テリー・ロヂャースがパチンと指を鳴らして叫ぶ。
「パンプアップ? 一体何の事じゃテリー」
「ヒンズースクワットとは言って見れば有酸素運動。
他のスクワットと異なり下半身強化としての効果は薄いが、
心肺機能の活性化を目的に準備運動として用いるポケモンも多い。
ましてやそれを、大型肉食獣特有の強心臓で行ったならば!」
「なるほどのう、大量の血液が一気に筋細胞へと流れ込み、
一時的に全身の筋肉が膨らみ始めたと言うワケか!
さすがはキング・オブ・ダイナソー、何と言うとんでもない肉体をしとるんじゃ」
「そ、そんな……!
インドぞうをも40秒で絞め落すマムシのクラッチを、
たかだか筋肉の盛り上がりだけで切ろうと言うのか!?」
「ガァオオオオオォッッ!!」
恐竜王の見せた肉体のポテンシャルに、会場がたちまち沸き返る。
未だかつて、このような方法でアーボックのスリーパーから逃れた者はいない。
観衆たちはまさしく未知のプロレスシーンを目の当りにしようとしていた。
「ヌハハッ 総合格闘技だとォ?
ぬるいッ! YOUのマッスルには総合力が足りておらぬわっ」
「ア、アボ~」
「そして後学のために教えておこう。
本物のコブラツイストとはな……、このように仕掛けるのだッッ!!」
やせいのダイナソーの まきつくこうげき!
あっ! と観客が驚く間にもダイナソーが動いた。
逞しい上腕二等筋でアーボックの首を抱え込み、さらに後ろ足で胴の中央辺りをホールドする。
「ガルルルオォッッ!!」
「~~~~~ッ!!??」
そして、締め上げる。
圧倒的野生に満ちたツイストを受け、声にならないマムシの悲鳴が、グレン体育館を震わせる。
「お、掟破りのコブラツイスト返しっ!?
何と言う……、あの古代の帝王は
淀みない鮮やかな動きを前に、テリーが感嘆の声を上げる。
冷静に観察するとデカイトカゲが大蛇に抱き付いているだけの珍妙な光景なのだが、ダイナソー迫真の咆哮は、そこに
「しかし、どう言う事だ?
コブラツイストとは、獲物に絡み付くコブラのイメージからその名が付けられた関節技。
何故に太古の肉食獣が、近代プロレスの賜物たる関節技を使えるんだ?」
「だが、事実は真逆なのだァーッ!!
そもそもこの技の原型は、6500万年前に我らの同胞が編み出したもの。
後年、幾つかのヘビ科爬虫類にコブラの名が与えられたのは、
人類のDNAに染み付いた、恐怖の記憶が為せる符合に過ぎん!」
「「「 な、なんだってーっ!? 」」」
ダイナソー渾身の解説によって、驚愕のプロレス史が紐解かれて行く。
我々人類が辿り着いた格闘技は、6500万年前にダイナソーによって蹂躙済みだったのだ。
「ええい! 何をしているマムシ!?
蛇の関節に関節技など効くものか!!」
とうとう激昂した黒マントが叫んだ。
会場中のプロレスファンたちが、もっともな話だと内心で同意した。
「ア、アボォ……」
だが、事実はそうでも無かったらしい。
確かに常識的に考えれば、大蛇の肉体に関節技など効くハズがない。
それゆえにマムシは生まれてこの方、関節技対策などした事が無かったのだ。
締め上げる事には慣れていても、締められる事には慣れていない。
ダイナソーのストロング過ぎるストロングスタイルが、近代の総合格闘技を完膚なきまでに打ち破った瞬間であった。
「正直な所、少しばかり失望したぞ。
所詮はYOUも、あの地獄の氷河期をぬくぬくと地面の底でやり過ごした、
ふぬけポケモンの仲間に過ぎなかったと言う事なのかァーっ?」
「ア……、ボ……」
「YOUのようなポケモンが、我ら誇り高きダイナソーの後裔などと片腹痛いっ!
惰弱な種は、この一撃でゼツメツさせてくれるーッ」
やせいのダイナソーの はねる こうげき!
「ダ、ダイナソーが跳んだァー!?」
観衆が一斉に叫んだ。
コブラからアイアンクローへとスイッチしたダイナソーは、エアプレーン・スピンの要領でブンブンとマムシを振り回し、次の瞬間、諸共に市民体育館の天井付近まで飛び上がっていた。
「何と言う瞬発力、何と言う全身のバネをしておるんじゃ!?
こ、これはもはや技としてのはねるの域を超えておるわい!」
「そうか! これが後世のとりポケモンたちの雛型なのか」
「テリー! そいつは一体どう言う事だ!?」
「現在のカントーちほうに生息するとりポケモンたちは、
全てが氷河期を生き延びた、きょうりゅうポケモンの末裔に連なると推測されている。
つまり、あの跳躍力こそが、そらをとぶと言うひでんわざの原型に違いない!」
「その通りッ!
だがッ この胸にマイマッスルと闘争本能がある限り、余計な翼など要らぬぅ!」
「アボオオォオォ!?」
遥か上空でダイナソーが体を返した。
ベクトルが下に変わり、眩いスポットライトを浴びた獣が二頭、錐揉みながら落下を始める。
「 ゼ ツ メ ツ ハ リ ケ ー ン 」
―― ドワオッ
リングが震え、ビリビリと会場全体が鳴動した。
大型ポケモン二体分の重量を頭部に浴びたマムシが、捻じれながら螺旋を描きマットに沈む。
一方、鮮やかな受け身からゆっくりと起き上がったダイナソーは、未だ痙攣する対主を丁寧に仰向けに引き伸ばし、その胸(?)の辺りに両手を当てて抑え込んだ。
「どうしたレフェリー? カウントが止まっているぞ。
それともYOUもゼツメツさせられたいのか?」
「ひっ、ひえええ! ワン!ツー!スリー!」
完全に委縮してしまったレフェリーが、未だかつてないスピードで3カウントを叩いた。
たちまちゴングが打ち鳴らされ、わっ、と会場に熱気が返ってくる。
「見たかッ!
このフィニッシュムーブはなあ、極寒のブリザードに閉ざされたリングの上で、
マンモスポケモン最後の雄とのデスマッチの果てに編み出したモノ!
あの一戦以来、マンモスポケモンはカントーちほうから姿を消し、
後裔には卑小なインドぞうをわずかに残すのみとなってしまった!
ゆえにこの必殺技の事を『ゼツメツハリケーン』と人は呼ぶのだァ!!」
「ゼツメツハリケーン、なんて恐ろしい必殺技なんだ……。
見てるこっちがゼツメツさせられるかと思ったぜ」
「やったぜ! さすがはキング・オブ・ダイナソー」
「と、とにかく今はタンカじゃ!
早くアーボックをポケモンセンターに搬送するんじゃ!」
いち早く我に返ったオーキドはかせの指示の下、タンカに乗せられたモンスターボールがポケモンセンターへと搬送されていく。
弱肉強食の掟を見下ろしながら、ダイナソーはマイクをひったくると黒マント目掛け叫んだ。
「ガオッ! 見たかッ!
これこそが恐竜時代の
日々をゼツメツの窮地と闘っているマイマッスルから言わせて貰えば、
現代のポケモン総合格闘技など、所詮はお遊戯に過ぎん!」
「ウヌ、言わせておけば……」
「ヌハハハ!
YOUもゼツメツしたくなかったら、次はもっとイキの良い餌を用意するのだなァ!
団体経営もまた弱肉強食の時代なのだ、頑張れっ!」
「クソ、勘違いするなよMr.ダイナソー!
貴様が倒したマムシなんぞは、我々『あくまポケモン六騎士』の中でも一番の雑魚!
真の勝負は一週間後『おつきみやま特別リング』を貴様の墓場に変えてくれるわッ!!」
ダイナソーの肉食的パフォーマンスに対し、捨て台詞を残し黒マントが会場を後にする。
再び興奮に包まれる会場の中心で、太古より蘇った恐竜王が再び勝利の雄叫びを上げる。
「1・2・3・ガオオオオオオオォオォォ――――ッッ!!」
『お聞きくださいこの野生ッ!!
ゼツメツの危機に瀕していたDMSに、今宵、新たなスターが誕生いたしました!
その名は恐竜王、キング・オブ・ダイナソー!!
プロレス界生き残りをかけた団体対抗サバイバルマッチは、
新たな局面を迎えようとしております。
来週もまた、この加熱するリングでお会いしましょう!
ドラマ『おらヤドランさなるだ』はこの後9:25からお送りいたします!』
かくて、ポケレス界最大の危機はひとまず去った。
かつて業界最大のベビー団体として名を馳せただいもんじスープレックスを救ったのは、皮肉にも生物史上最凶の
そして、過酷な大自然の前に消えたハズの絶対王者が帰還した事により、団体の威信を賭けた対抗戦は、文字通り血みどろの
史上最強の証明のため。
巨大隕石の襲来の前に無念の涙を飲んだ、こだいポケモンたちの魂の鎮魂のため。
闘え恐竜王!
無敵でいくぞッ キング・オブ・ダイナソー!!
「こらああああああああああああああぁ――――っ!!」
・
・
・
団体対抗戦第6試合
キング・オブ・ダイナソー(DMS)〇-✖『悪暴苦』のマムシ(PMC)
試合時間:3分47秒
フィニッシュホールド:ゼツメツハリケーン(フォール勝ち)
No.___
キング・オブ・ダイナソー
分類:きょうりゅうポケモン
高さ: 2.1m
重さ:118.0Kg
タイプ1:ドラゴン
タイプ2:かくとう
まきつく
はねる
かみつく
ひっかく
はるか たいこのじだいをいきのびていた
きょうりゅうポケモンのまつえい
ひょうがきのゼツメツからのがれるために
はちきれんばかりのマッスルをみにつけた