あ! やせいのダイナソーがとびだしてきた! 作:いぶりがっこ
おつきみやま特別リングでの死闘から、三日目の夜を迎えた。
会場跡にほど近いポケモンセンターのロビーでは、深刻な顔をしただいもんじスープレックスのスタッフが向かい合い、今後の協議を行っていた。
いずれの顔にも、疲労の色が濃く浮かんでいる。
だが、どれほどに捜索の足を伸ばそうとも、あの日、おつきみやまの渓谷に消えたダイナソーの行方は陽として知れなかった。
「とうどう、これで三日目か。
こうまで探しても行方が掴めんとはな……」
「モランマの奴はリングの残骸から引き揚げられたと言うのに、
くそ、ヤツは一体、どこに消えてしまったと言うんじゃ?」
内心、焦れるような気持ちを抱いているのは、社長のテリーもまた同様であった。
「我々にとってもタイムリミットは近い。
タマムシ・シティ特設リングでの第8試合は明日の夕刻。
捜索の猶予は、すでに殆ど残されていない」
「そうは言ってもテリー、ウチの団体にマトモに闘えるポケモンなんぞ、もはや残っておらんぞ。
今からリザーバーを立てた所で、むざむざとやられに行くようなもんじゃ!」
「…………」
「ああ~、
せめてこんな時に、ジョーのヤツさえ残っていてくれたなら」
「やめてよ!? 二人とも!
ダイナソーがこんな大変な時に、次の試合の話なんて……!」
「ととっ、すまんのうジュニア。
お前さんの気持ちを考えておらんかったわい」
たちまち涙目で喰らい付いてきたJrに対し、スグルが慌てて頭を下げる。
(……ジョー、か)
ちらりと話題に浮かんだ懐かしい名前に、ふっ、と黄金期のジムでの練習風景を思い出した。
まだ見ぬ強敵に会いに、西の都へと旅立っていった、さすらいのかくとうポケモン。
彼も今、どこで何をしている事か。
軽く頭を振って、甘い残像を思考から追い出す。
今は郷愁に浸っている時では無い。
団体の長として一つの決断を下さねばならなかった。
「とにかく、これ以上ここに留まっていても仕方がない。
今後の捜索は残りのスタッフに任せ、我々は明朝、タマムシシティへ向けて出立するぞ」
「そんなッ!? 酷いよダディ!
行方不明のダイナソーを見捨てて行くって言うの?」
「違う、逆だぞジュニア。
これだけ捜索の手を伸ばしても見つからないのだ。
あるいは闘争心溢れる彼の事。
既にハナダ側へ抜け、一足先に次の会場を目指しているのかもしれん」
父の言葉に取り乱すJrに対し、テリーはまるで自分に言い聞かせるように訥々と語る。
「当日、我々が現地にいなければ、彼は
彼がどう動いても良いよう、万全の受け入れ態勢を整えておかねばならん」
「じゃ、じゃがテリー。
もしも当日、アイツが会場に姿を見せなかったら……?」
「共存共栄、そう言った彼の言葉を尊重するよ。
だいもんじスープレックスの代表として、ダイナソーにリザーバーを立てるつもりは無い」
「そうか……、ああ、そうじゃのう、それが良い」
「だけど……」
なおも不安そうな表情を見せるJrの両肩を、力強くテリーが叩く。
「ジュニアよ。
お前もポケモントレーナーの端くれならば、ポケモンをもっと信頼するんだ。
自分のポケモンすら信じられない男は、トレーナーとして大成できないぞ」
「信頼……」
父親の放った言霊を、少年はそっと口中で反芻する。
今はまだ、難しい事であるかもしれない。
だが時の流れは、少年の成長を待っていてはくれなかった。
・
・
・
シロガネやまは、ここカントーとジョウトちほうを東西に分かつ天下の険である。
その山麓を中心とした広大な自然には、数多の獰猛な希少種を含むポケモンたちが独自の生態系を築いており、それゆえに力ある一部のトレーナーしか入山を許されない。
峻厳な神々の頂にも程近い、鬱蒼と木々の生い茂る山裾の中、その『店』はある。
まるで人目を避けるかのように、丸太で組まれた手製のログハウス。
人が入るにはやや手狭な建物なのだが、この店のオーナーは人間では無い。
『はぐれポケモンたちの憩いの都 パオパオカフェ』(――と、ポケモン語で書いてある)
ここはパオパオカフェ。
人に捨てられ、あるいは自ら人里を離れたはぐれポケモンたちが、かつての文明の残り香を求めて今日もやって来る。
飼い犬に成り切れず、さりとて野生にも還り切れぬ半端者どもが肩を寄せ合う最後の城である。
ザッ、と、一陣の風が夏草を撫でた。
若木のようにしなやかで逞しい脚が、店の前で立ち止まった。
風を孕んだボロボロの外套の奥で、刃紋のように澄んだ瞳が店内を値踏みしていた。
やがて、キィ、とウェスタンドアが軋む音がした。
店内で酔いしれていた常連客が、ちらり、と入口に視線を向ける。
前述の通り、人間の立ち入る店では無い。
馴染みの負け犬ポケモンたちが入り浸るこの店で、外套の内から生気を漲らせる新参の存在は、明らかに異質であった。
一方、店の戸をくぐった新参の方も、店内の凝った雰囲気に思わず息を呑んだ。
ノイズまじりのレゲェを流す年代物のジュークボックスに、一体どこから拾い集めたものか、南洋の意匠を押し出す調度品。
上客の上背に合わせ、それぞれ高さを変えた円形のテーブル。
カウンターの奥にはジョウトでも珍しい、様々なきのみを醸造させた洋酒の瓶が並んでいる。
上等な店である。
そして店のグレードは、そのままこの店を預かる店主の格を示している。
果たして、カウンターの奥に居た店長は、この奇妙な来訪者に怖じる事無く、ボングリ製のシェーカー片手に微笑した。
ポケ当りの良い、紳士的な店主であった。
その物腰の柔らかさは、シロガネやまのやせいポケモンたちとの荒事を乗り越えて来た、溢れる自身の裏返しでもある。
「旅のお方ですな。
何をおだししましょう?」
「カポエラー……」
ざわり。
男の言葉にたちまち店内の空気が沸騰しはじめた。
「ゲゲッ!?」
「あ、あいつ、客じゃねえ!!」
招かれざる来訪者の登場に、店の隅で酔い潰れていたスリープまでもが起き上がり、遠巻きに男を包囲し始める。
なお店内のポケモンたちは文明社会に憧れを抱いているため、ここでは皆、特別な訓練を積んで人語を話している。
「そうか……。
君もまた、獣神武闘会に挑もうと言う
「『
シロガネやまに巣食う
「いいでしょう」
あ! やせいのカポエラーが とびだしてきた!
次の瞬間、マイヤの体が宙に舞っていた。
軽やかなムーンサルトでカウンターを飛び越え、店の中央にふわりと下り立った。
「最強武道ポケモン、カポエラー。
おあいてしましょう」
マイヤの落ち着き払った声に合わせ、殺気立っていた客たちがゆっくりと後ろに下がり始めた。
単にこの頼れる店主の腕前を信用していると言うだけではない。
自分たちの立ち位置が、彼の
「荒くれどもに愛されているな、マイヤ」
あ! やせいのサワムラーが とびだしてきた!
脱ぎ捨てられた外套の下から、上背の高い、均整の取れた打撃屋の肉体が露わとなった。
かくとうポケモン界随一とも謳われるキックの鬼、サワムラー種の若者である。
落ち着いた色の瞳に対し、内に燃える闘志を示すかのようなひのまるハチマキ。
明るい黄色のトランクスが、まるで二足のとらポケモンでも現れたかのような錯覚を見せる。
「ふっ、きみはムエタイですか」
サワムラーがアップライトに体を揺する。
目の前の挑戦者の堂に入った構えを見つめ、マイヤが感嘆の吐息をこぼした。
ムエタイ。
スリバチやま周辺のバルキー族に伝わる伝統武術である。
その歴史は400年とも500年とも言われ、スポーツと言うより、戦時における白兵戦の中で発展を遂げた戦闘技術と言える。
そのミドルキックの威力は、インドぞうをも一蹴りで悶絶させると言われている。
「ムエタイのケリも、大したものと聞きますが……」
言いながら、マイヤが上体を左右に大きく揺すり始めた。
ジンガ、と呼ばれるカポエラー種特有のステップである。
元々はポケモンコロッセオ時代の奴隷バルキーが始めた戦闘術がルーツにあると言われており、両腕を拘束された状態から繰り出される多彩な攻撃の数々は、当時のジョウト市民たちを大いに震撼たらしめたとの記録が残っている。
「はたして、どのていどですかな!?」
「!?」
やせいのカポエラーの でんこうせっか!
ややゆったりとしたジンガから、突如として鋭い蹴りが飛んで来た。
技自体のスピードでは無く、事前の動作との緩急を活かした蹴撃。
サワムラーも咄嗟にバックステップで回避を試みる。
「ハッ!」
やせいのカポエラーの まわしげり!
初太刀をかろうじて凌いだサワムラーの眼前に、なお淀みない連撃が迫る。
体幹の強さと一撃の重さを尊ぶムエタイを『静』の闘技とするならば、このカポエラは『動』
独特のリズムでフェイントをかけ、絶えず重心を変えながら、振り切ったスイングを次の動作に繋げて幻惑する。
「ふッ」
だが、この一撃すらもサワムラーは躱し切った。
大きなスウェイで上体をのけぞらせながら、なお強靭な下半身は揺らいでいない。
マイヤの連携に差し込むように、鋭い一刺しを打ち込みに行く。
「はりゃあああっ!!」
やせいのサワムラーの ローキック!
バチン! と乾いた音が店内に響いた。
咄嗟に片足を浮かせ防御姿勢をとったマイヤであるが、インドぞうをも削り殺すと言う丸太のような一撃に追い足が止まる。
やせいのサワムラーの インファイト!
一転攻勢、すかさずサワムラーが前に出た。
盤石さを持ち味とするムエタイにおいては珍しい積極さだが、ことカポエラー種相手となれば事情も異なる。
しなやかな足技を主な武器とするカポエラーにとって、距離を潰される事は何よりも苦しい。
足技を繰り出すための間合いが無くなり、持ち味であるジンガのリズムを狂わされる。
一方ムエタイは接近戦においても肘があり、膝があり、首相撲がある。
立ち技最強の名は伊達では無いのだ。
「はっ! はっ! はっ!」
拳。
拳。
拳。
膝。
肘。
掴。
拳。
脚。
脚。
サワムラーの若さ溢れるラッシュの前に、酔いどれポケモンたちがたちまち色めき立つ。
「あ、あの若僧、マイヤさんのケリをかわしやがっただけじゃなく、
ああも一方的に攻撃を仕掛けるなんて……!」
「ばかやろう、まだだ。
よく見てみろ、マイヤさんの動き」
やせいのカポエラーの みきり!
「すべてよけきっている! 紙一重で!」
酔っ払いカイロスの言う通り、マイヤもまた天才であった。
鼻先も触れ合おうかと言う重圧の中、なおもジンガを崩す事無く凌ぎに徹する。
独特の水面蹴りで相手の軸足を崩し、無理矢理足技のための間合いを作り出す。
「でええいっ! ビードル・ホーン!!」
やせいのカポエラーの とびはねる こうげき!
瞬間、マイヤが素晴らしい身体能力を発揮した。
縦方向に回転を加えながら大地を蹴り上げ、頭上から対主の脳天目掛け水車蹴りに行く。
この至近距離、しかも横方向への攻防に目が慣れて来た所での縦の一撃。
眼前のサワムラーからすれば、突如として敵が視界から消えたかのような錯覚を覚える。
回避は不可能である。
ガシィッ、と鈍い音が交錯した。
店内で一瞬、歓声が上がった。
……だが、
やせいのサワムラーの カウンター!
「ぐうぅっ」
一瞬の間を置いて体を泳がせたのは、意外にも仕掛けたマイヤの方であった。
歓声がたちまち悲鳴に変わる。
サワムラーの高い動体視力はこの奇襲にすら喰らい付き、頭上の敵に対し鮮やかなハイキックを打ち返していた。
マイヤの逞しい肩口から脇腹にかけて、じわりと痣が走り抜ける。
「クック……、すごい……、すごいねきみは。
私のビードル・ホーンをかわしただけでなく、ケリまで入れていくとは」
「…………」
「きみになら……、カポエラの真髄をお見せしましょう」
ゆらり、とマイヤがおもむろに倒立した。
まっすぐに天井に伸びる美しい脚、その逞しい後背筋を目の当たりにした瞬間、ぞくりとサワムラーの背に戦慄が走った。
「 ロ ー リ ン グ ・ フ ァ ン グ !! 」
やせいのカポエラーの こうそくスピン!
「うおっ!?」
そして、回転が始まった。
天地逆転からの高速スピンによって、マイヤの足が何本にもかげぶんしんして行く。
やせいのカポエラーの トリプルキック!
やせいのカポエラーの トリプルキック!
やせいのカポエラーの トリプルキック!
「……ッ」
地獄の逆羅刹から、カポエラーの逞しい脚が、思いもよらぬ角度で飛んで来る。
一説にかくとうポケモンの脚力は腕力の三倍、リーチに関しては言うまでも無い。
そして踵は二足歩行のポケモンにとって、肘や膝をも凌ぐ最硬の物質。
ポケモン最大の鈍器が最大の急所である頭部目掛けて矢継ぎ早で飛んで来る。
倒立姿勢での連続攻撃は、そのシュールな光景とは裏腹に、実に危険極まりない戦法なのだ。
「そらそらそら そらそらそら そらそらそらぁーっ!」
やせいのカポエラーの トリプルキック!
やせいのカポエラーの トリプルキック!
やせいのカポエラーの トリプルキック!
驚異の旋風脚がいよいよ暴風となってサワムラーを襲う。
理論上地上最強のムエタイは、この連続攻撃に対してもよく受けていた。
が、理論上最強はあくまでも理論上最強、実践値はまた違った所に落ち着くものである。
最強と謳われる人気キャラが、使用率の極端に低い弱キャラの暴れに遅れを取る。
そう言った光景が、黄金期のゲームセンターでは度々見られたものであった。
いわゆる一つのわからん殺しである。
「てええい!!」
やせいのカポエラーの トリプルキック!
「ガッ」
きゅうしょに あたった!
とうとう鉄壁の守りが突破され、インドぞうをも吹っ飛ばすと言う丸太の一蹴りが、サワムラーのドテッ腹に直撃した。
ボディがくの字に折れ、たちまち一直線にぶっ飛んでいく。
「やったぁ! マイヤさんの技がきまった!」
「見ろ、やつは柱に叩きつけられるぞ!」
店内にたちまち歓声が上がった。
会心の足応えを感じたマイヤもまた、これで決着が付いたと思った。
そこに唯一とも言うべき油断が生じた。
『サワムラーは、高火力紙装甲を地で行く、ばくちポケモン』
読者にも、サワムラーと言う個体にそのようなイメージを抱いている方が多いかもしれない。
だが、一度でもスリバチやまのラジャダムナンスタジアムで、本場のサワムラー式キックボクシングを目の当たりにしたならば、そんな誤解はたちまち消滅してしまう事だろう。
立ち技格闘技におけるナックモエ最大の武器は、打撃に対する異常なまでの
強靭な蹴りを生み出す脚は最高のサスペンションであり、首相撲を求められる柔軟な腹筋は、この上ないほどのアブソーバーなのだ。
果たして、サワムラーは空中でくるんとペルシアンのように体を返した。
膝を畳んで太い柱に垂直に着地し、その反動で絞り切った矢の如く一直線に飛び出した。
「スラッシュキィーック!!」
「な!?」
やせいのサワムラーの メガトンキック!
「ぐはっ!?」
きゅうしょに あたった!
「お……おお」
技を出し終えたマイヤの背面に、鈍器のようなすさまじい蹴りが直撃した。
悪夢のような光景を前に、酔っ払いたちが悲痛な叫び声を上げる。
「マ、マイヤさんッ!?」
「スラッシュキックだって!」
「まさか、まさかあいつ……、『ハリケーンアッパーのジョー』かッ!?」
周囲の動揺を気にも留めず、サワムラー……、ハリケーンアッパーのジョーは、向かい合うマイヤを静かに見下ろしていた。
会心の一蹴りであった事は間違いない。
けれど、シロガネやまの用心棒とまで呼ばれる男が、この一撃で終わってしまうものか……?
「ハリケーンアッパーのジョー……。
帰って来ていやがったのか、このカントーちほうに」
「くそ、テメェ、よくもマイヤさんを……」
カリスマのダウンにより、一瞬で店内の雰囲気が変わった。
ギラついた酔いどれたちが、酒瓶やホネこんぼうを片手にジョーの周りを取り囲む。
「お……、おやめなさい、お前たち……」
殺気だった空気を片手で制し、マイヤが痙攣する上体をかろうじて起こした。
「だ、だけどマイヤさん!」
「私とて、誇り高きかくとうポケモンの端くれ……。
汚い手の勝利より……、どうどうと闘った敗北を選ぶ!!」
やせいのカポエラーの まわしげり!
かくとうポケモンらしい決死の執念が、満身創痍のマイヤの体を突き動かした。
美しい、しかし今や見る影もないバックスピンキック。
「……見事な言葉だ、『靴鳳衛螺』のマイヤ。
では、こちらも同じかくとうポケモンとして、最高の技で応えよう!!」
「……ッ」
「 タ イ ガ ー キ ィ ー ッ ク !! 」
やせいのサワムラーの とびひざげり!
マイヤの蹴り足を潜り向けながら、とうとうサワムラーの代名詞が飛び出した。
天高く跳ね上がるような猛虎の牙が、マイヤの顎を的確に捉えた。
決着は付いた。
重苦しい沈黙に包まれる店内に、大の字となったマイヤの自嘲がこぼれる。
「ぐふうう……、強い……強いな、ハリケーンアッパーのジョー」
「マイヤ、貴方ほどのかくとうポケモンが、どうして獣神武闘会の用心棒などと……?」
……いや。
口に出しかけた言葉を、そっとつむぐ。
この雰囲気の良い店内を見れば、答えは明白ではないか。
金だ。
人類の社会において、いや、時にはポケモンの世界においてさえ、金銭は強く確かな武器だ。
人間社会に捨てられ、野生からも弾かれて行き場を無くした、はぐれポケモンたちにとっての唯一の理想郷・パオパオカフェ。
トレーナーの後ろ盾無き野良ポケモンが、このちっぽけな世界を守ろうと思ったならば、果たしてどれほどの金を積まねばならない事か……。
「ふっ、旅のお方、気を付けなさい……。
今のカントー地方は、獣神武闘会の、て、てん、か……」
「マ、マイヤさん!?」
「しっかりしてくれッ マイヤさ~~~~ん!」
ささやかな忠告を一つ残し、そこでマイヤはがくりと昏倒した。
たちまち酔いどれたちがジョーを押しのけ、偉大なる店主へとすがりつく。
ジョーは一瞬、手を伸ばし、しかし結局なにもできないまま、床に落ちた外套を拾い直した。
かくとうポケモンの世界において、勝者が敗者にかけられる言葉などあるハズがない。
「獣神武闘会……。
やはり、俺の手で決着を付けなければならないか」
店の外に出ると、闇の帳にぽっかりと浮かんだ満月が、ジョーの頭上を照らしていた。
はぐれポケモンたちの慟哭は、いつ果てるともなくシロガネやまにこだまし続けていた……。