あ! やせいのダイナソーがとびだしてきた! 作:いぶりがっこ
「マァーッスル!!」
あ! やせいのダイナソーが とびだしてきた!
三階の入口をドワオとばかりに突き破ると、たちまち室内から熱気がむわっ、と伝わって来た。
木製の支柱の温かみを活かした室内に、ロープの代わりに荒縄を回した簡素なリング。
突如、亜熱帯の密林にでも迷い込んでしまったかのような違和感に、ダイナソーがゆっくりと周囲を見回す。
「チャゲ! チャゲ! ハ! ハ! ハ!」
あ! やせいのバルキーたちが とびだしてきた!
不意に辺り一面から一斉に合いの手が上がった。
観客席に姿を見せたバルキーの群れが、竹や椰子の殻を元にした思い思いの民族楽器を手に、軽快なリズムを紡ぎ始める。
エキゾチックな原初のビートに、ダイナソーの尻尾もご機嫌気味に揺れる。
「むう?
なんだこのマイマッスルを刺激するアジアンテイストは……?」
「スリバチやま一帯のバルキー族に伝わる歌謡だな。
伝統芸能としての評価も高く、三年前に『ジョウト北部の伝えたい新しい歌』として
ポケモン無形文化遺産にも登録されていたハズだ」
テリーが短く解説し、気持ち険しく吊り上げた眉をリングに向ける。
「この音楽は、スリバチやまに闘技場を築いた伝説の王子を称える歌として知られている。
古流のサワムラー式キックボクシングの立ち合いには必須と言われる闘争の歌謡だ」
「サワムラー式……、ムエタイか」
テリーの言葉を口中で反芻しながら、ダイナソーがロープを潜る。
立ち技最強格闘技、ムエタイ。
さしもの恐竜王もその名を嘲りはしなかった。
対のコーナーでこちらに背を向けて佇むボロボロの外套のポケモン――。
ミチミチとマットを踏み締める爪先と、外套の下から僅かに覗く脹脛の盛り上がり。
只者では無い。
流派や体格を超えた只ならぬ強者の気配が、無言の背中からひしひしと伝わってくる。
「大丈夫じゃ、安心せいダイナソー」
遅れて駆け付けたスグルが、ボソボソとダイナソーに耳打ちをする。
「見ろ。
いかに立ち技最強と噂されるムエタイとは言え、サワムラーはせいぜいが中量級ポケモンじゃ。
ヤツがどれほどの蹴り技を持っていたとしても、お前さんのパワーの敵では無いわい」
お気楽なスグルの言葉に対し、傍らのテリーもまた静かに頷いた。
今さら言うまでも無い事だが、格闘技の世界において階級の差は絶対である。
立ち技最強の名は、あくまでも同程度の体格の選手同士立ち合う前提での看板なのだ。
路上の喧嘩ともなれば、みっちりと技を磨いて来たベテランバルキーが、体格だけが取り柄の素人ガビゴンに遅れを取る事も珍しくは無い。
そしてムエタイは、サワムラー種の骨格、体格、身体能力を前提に完成された格闘技である。
体格の異なるヘビー級のポケモンたちがマスターするには、多大な困難が伴う。
その辺りの事情もムエタイが理論上最強などと揶揄される一因となっているのであった。
だが、それゆえにテリーは一抹の不安が過るのを感じずにはいられなかった。
総合格闘技団体である
あのボロの外套のナックモエは、体格の差を跳ね返し、ここまでの天才、異端児を差し置いてなお、団体の副将を任せられる程の実力を秘めていると言う事なのだろうか?
何かを忘れているような気がした。
肺腑にマタドガスでも充満したかのような息苦しさを覚える。
はたして、地獄耳の黒マントはオーロラビジョンの中でニヤリと不気味に微笑んだ。
「ふふ、随分とつれない事を言うではないか?
お前たちだいもんじスープレックスとも関わりの深い旧知に対して、なあ?」
「何だと、どう言う意味だ?」
「……数年前、対レスリングの技術を身につけるため、
グレンタウンの
彼はDMSの客分として長らく技術交流を行った後、更なる強敵を求め、
バルキー武術発祥の地であるジョウトちほうへと旅立っていった」
「な……! なぜお前が『ヤツ』の事を知っている!?」
「フフ……、ここまで言えば、もう見当は付くであろうが」
あ! やせいのサワムラーが とびだしてきた!
バッ、と対面の選手が鮮やかに外套を脱ぎ捨てた。
鍛え抜かれた鋼のような肉体が露わとなり、トレードマークの黄色のトランクス、額に巻いた日の丸ハチマキが風に揺れる。
「な、なんじゃとォ! お前はまさか!」
「そ、そんな、バカな……!」
だいもんじスープレックスの面々が愕然と眼を見張る中、いよいよ得意満面の黒マントが、力強くマイクを握り直す。
「あらためて紹介させてもらおう。
獣神タワー3階を守る副将は、長きに渡るジョウトちほうからの武者修行から帰って来た、
サワムラー式キックボクシングの瞬英『ハリケーンアッパー』のジョーだッ!!」
黒マントの紹介に合わせ、ジョーが静かに拳を上げると、周囲のバルキーたちがたちまち一斉に囃し立てた。
その場の雰囲気に取り残されたダイナソーが、魂の抜けたようになってしまったセコンドたちに視線を向ける。
「テリー、こちらにも分かるように説明してもらおうか。
あのナックモエが一体どうしたと言うのだ」
「……ハリケーンアッパーのジョー。
かつてイワヤマトンネル深層にあるルンピニースタジアムで名を馳せた、
カントーちほう最強の若きムエタイ王者、だった。
黒マントの言う通り、技術交流のためにウチの道場に顔を出していた時期もある」
「だ、だが、当時のアイツは時代遅れとも言える程に高潔なかくとうポケモンだったんじゃ。
今さら獣神武闘会の軍門に下るなど考えられん!?」
「…………」
バルキーたちの盛り上がりに対しても、かつての盟友たちの動揺に対しても、噂のジョーは無反応であった。
ただ、眼前の敵であるダイナソーを値踏みするかのように冷徹な瞳を向ける。
「フン、気に入らん目をすル雄ポケモンだな。
だが、誰が相手であろうと関係ない。
私の前に立ちはだかる者は、ゼツメツあるのみよ!」
ダイナソーの台詞を皮切りに、両者が一歩中央に歩み寄り、たちまちに戦いの気配が満ちる。
「ちょ、ちょっと待ってよ二人とも!?」
たまらずテリーJrがリングに飛び出し、今ややる気マンマンのダイナソーの前に諸手を広げて立ちはだかった。
「ダイナソー! こんなのは何かの間違いだよ。
ハリケーンアッパーのジョーはクリーンファイトが信条のナックモエなんだ。
二人が闘う必要なんて無いんだ!」
「下がっていろジュニア。
言っただろう、私はあくまでやせいのダイナソー。
事と次第によっては、トレーナーの命令を聞かない事もある」
「そ、そんな……。
ジョー! お前も一体どうしちゃったって言うのさ!
冷静なアンタの事だ、これも獣神武闘会打倒の布石なんだろう?
頼む、YESと言ってくれよう!?」
「…………」
振り向きざま、Jrが今度は背面のジョーに向けて叫んだ。
その悲痛な少年の声を受けても、相対するジョーは無言であった。
口で返答する代わりに、ジョーはサワムラー種にしては意外なほどに逞しい右腕をぐるんと回し、半身をとって腰を捻じり始めた。
「ガオッ!?」
やせいのダイナソーの かみつく こうげき!
「えっ!? う、うわあああああッ!?」
間一髪、恐竜王の反応が間に合った。
ダイナソーはJrのズボンの尻目掛けて嚙み付くや否や、後方、リングサイドのテリーへ向けて力一杯に放り投げた。
「ハリケーンアッパーッッ」
てきのサワムラーの かぜおこし!
「グッ、ヌオオオオ!?」
直後、ゴングと同時にジョーが動いた。
コークスクリュー気味のブローが地面スレスレから天空へ向けて走り抜け、生じた真空刃が竜巻となってダイナソーの背中をズタズタに引き裂いていく。
二、三歩、わずかによろめき、ダイナソーが忌々しげに後背を振り向いた。
「グムム……、見事なふいうち、と言いたい所だが、
本物の
「…………」
「フン、YOUのような素人に言った所で詮無き事か」
無言でアップライトに体を揺するナックモエに対し、ダイナソーも高らかと諸手を上げる。
打楽器を叩くバルキーたちのリズムが加速し、会場がいよいよヒートアップしていく。
不安げなJrを抱え上げ、テリーが真剣な瞳でリングを見上げる。
「ジュニアよ、もはやサイドンは投げられた。
ここから先はもう、ダイナソーのヤツに任せるしかない」
「そんな、ジョー、どうして……」
リングを見上げるJrの声が、熱狂の中に掻き消えて行く。
ギャラリーの盛り上がりとは裏腹に、リング上では、じわり、じわりと緊張が高鳴り、両者の距離が縮まって行く。
「はりゃああああ」
「ウヌ!」
てきのサワムラーの まわしげり!
パァン! と乾いた音が空気を震わせた。
インドぞうをも悶絶させると言う本場のミドルキックが、ダイナソーに牙を剥いた。
ビリビリと走る右腕の痺れに、ダイナソーは強敵の匂いを嗅ぎ分ける。
遥か6500万年前のディノニクスの時代から、このような小兵の歴史は連綿と続いていた。
瞬発力をそのまま打撃に乗せる
筋肉に刻み込まれたテコンドーポケモンの兄弟然り。
この無敵の肉体に数多の傷を残してくれた『ヤツ』のような存在然り……。
ダイナソーの筋肉はその脅威を、決して過小評価したりはしない。
ぞわりとした筋肉の震えをやりすごし、改めて正面の敵と向かい合う。
どっしりと構えるムエタイのスタイルには、記憶に残る彼らのような軽量級の回転力はない。
だが、その分一撃は重く、一撃必倒の彼奴の執念が未だ右腕に熱を引く。
「そうらァ! ハリケンアッパー!」
てきのサワムラーの かぜおこし!
守勢に回ったダイナソー目掛け、再び真空の刃が襲い掛かった。
かろうじて横っ飛びで避けると、衝撃波で後背のポストカバーがズタズタに引き裂かる。
「フン!」
ダイナソーが不満げに鼻を鳴らす。
強力な蹴り技、プラス飛び道具による金城鉄壁の戦法。
だが、ダイナソーとてただ投げを打つだけが取り柄のポケモンレスラーではない。
その程度の単純なスポーツマンでは、暗器が舞い兵器が唸り超常現象が荒れ狂い覇王翔吼拳を使わざるをえないESAKAの夏を乗り切る事など叶わない。
じりじりとした微妙な距離での地味な打撃戦は、むしろ恐竜王にとっての本領とすら言えた。
「しッ」
てきのサワムラーの にどげり!
再び強烈な右のミドル、継いで正面からの前蹴り。
全体重を乗せたハンマーのような連撃に、ダイナソーの体が泳ぐ。
「ハリケーン――」
「ガオッ!!」
やせいのダイナソーの ドラゴンテイル!
「うおっ!?」
再び追撃に踏み込みかけたジョーに対し、ダイナソーが腰を廻して反撃を仕掛けた。
丸太のように太い尾が予想以上に伸び放たれ、ジョーの間合いの外から横殴りに叩きつける。
かろうじて防御の間に合ったジョーであったが、遠心力をまともに受けて僅かに体を泳がせた。
「ぐうっ」
「ヌッハハ!
見事な立ち合い……、と言いたい所だが、YOUの慎重なファイトスタイルは、
プロレスラーに組み付かれる恐怖の顕れではないのかァー!?」
「く……、おおっ!」
よろめく敵を追って恐竜王が牙を剥く。
この窮地に対し、ジョーは意外にも自分から前へと踏み込んだ。
逃げ切れないならば、敢えて自ら虎穴に飛び込む。
首相撲に裏打ちされる自信が生んだ冒険である。
てきのサワムラーの インファイト!
肘
膝
膝
膝
更に膝
「ウム!」
「はりゃああーっ はお! はあっ!」
組みかかりながら打撃を打ち込み、的を絞らせずに相手を崩す。
体勢を崩した恐竜王の脇を取り、更に執拗な打撃を加える。
鼻先が触れ合おうかと言う至近でなお、テクニックとキャリアで闘いをコントロールできる。
ムエタイ四百年の歴史が、シンプルな体格差による蹂躙を許さない。
「グムム……、なるほど、首相撲、侮れん……、が!」
やせいのダイナソーの こらえる!
「――!」
七度目の膝。
打ち込んだ瞬間、ジョーは即座に違和感に気付いた。
体重を乗せた太い膝が、重厚な大型ゴムタイヤにでも弾かれるような感触。
敵の打撃の呼吸を読み切り、ダイナソーが完全なタイミングで自慢の腹筋を固め直したのだ。
打ち込んで行ったジョー自身が、かえって己の技の反動でバランスを崩してしまう。
ただちに恐竜王の全身が巌の如くズシリと重みを増す。
「ガオッ」
腰を落とし小癪な膝を封じ、いよいよダイナソーがクラッチにいった。
いかなムエタイとは言え、こうなってはスーパーヘビー級の相手を崩すのは至難である。
僅かに緊張を増したジョーの表情を見て取り、ダイナソーが大口を開ける。
噛み付きが迫る。
「しゃああああッ!」
即座にジョーが再び動いた。
てきのサワムラーの けたぐり!
「何発打とうと、我が腹筋の敵では――」
ゴギャッ
「ハグォ……ッ!?」
きゅうしょに あたった!
直後、ダイナソーが珍妙な奇声を上げた。
逞しい肉体がガクガクと痙攣し、どっ、と背中にニョロボンのごとき脂汗が溢れ出す。
女々しくも内股気味に崩れ落ちる恐竜王の姿に、思わず観衆が驚愕する。
「き、金的、ローブロー……!」
「ジョーのヤツ、なんちゅう事をしやがるんじゃあ!?」
セコンド陣がぞくりと戦慄する。
ジョーは腹筋への膝蹴りが無理筋とみるや、たちまち股間へと狙いをシフト。
いや、むしろここまでの崩しや膝地獄の全てが、この金的蹴りへの布石と見ても良いだろう。
無敵の筋肉で守護できないダイナソーの数少ない急所の一つ。
かろうじて将来的なゼツメツは避けられたようであるが、この試合中の復帰は困難であった。
「うおおおおっ! 爆烈――」」
「ぬぐおっ!」
てきのサワムラーの みだれづき!
ジョーの追撃は苛烈を極めた。
高速のフックの連打に紛れた一瞬の目潰し。
絶え間ない激痛に加え視界を奪われたダイナソーに対し、更に高らかと諸手を掲げていく。
「はりゃあああっ!!」
てきのサワムラーの かわらわり!
すさまじいモンゴリアンチョップが両の首筋に炸裂した。
不死身の体を持つハズのダイナソーの全身が、じゅうまんボルトの直撃でも受けたかのようにビクンと跳ね上がる。
「くかっ!? くかか……」
「頸動脈をついた。
どんなにタフな雄ポケモンでも息が詰まるところだ」
冷静に対主のダメージを推し量りながら、ジョーがゆるりと立ち位置を変える。
おおかみポケモンは猟犬と違い、息の根を止めるまで相手に噛み付いていたりはしない。
一旦獲物と距離を置き、わるあがきを避け、相手の出血量を確認した上で、悠々と急所を仕留めに行くのだ。
「スラッシュキィーック!!」
てきのサワムラーの とびげり!
後背に回り込むと同時に、強烈なサイドキックがダイナソーの背骨に炸裂した。
前のめりに泳いだダイナソーの頭部が、強かにポストに衝突する。
先ほどのアッパーでカバーが千切れとんでいた、剥き出しの鉄柱に、である。
「くっわああ――――っ!!」
てきのサワムラーの たたきつける こうげき!
てきのサワムラーの たたきつける こうげき!
てきのサワムラーの たたきつける こうげき!
てきのサワムラーの たたきつける こうげき!
てきのサワムラーの たたきつける こうげき!
てきのサワムラーの たたきつける こうげき!
ダイナソーの首根っこを捕らえたジョーの攻撃が、いよいよ苛烈さを増していく。
ガヅン、ガヅンと頭部を叩く鈍い金属音が響き渡る。
バルキーたちの戦いの歌は、いつしかすっかり止んでしまっていた。
情け容赦の無いジョーの攻め口に、会場がすっかり呑まれてしまっていたのである。
「ジョ……、ジョーじゃない……。
あそこに居るのは、僕の知っているジョーじゃない!!」
「ジョオオーッ お前は一体どうしちまったと言うんじゃあっ!?
急所蹴りに
お前は死んでもそんな卑怯な技を使うポケモンじゃないハズだーっ!!」
(なんという容赦の無い攻撃だ。
闘争心溢れるバルキーたちがドン引きするのも分かる。
あんなのはナックモエの戦い方ではない、あれではまるで――)
――
「はいいいいっ!」
てきのサワムラーの けたぐり!
闘いはいよいよ、凄惨な
コーナーに崩れ落ちたダイナソーの後頭部めがけ、痛烈なストンピングを浴びせていく。
ナックモエの逞しい蹴り足が入る度に、恐竜王の体が、ビクン、ビクンと痙攣する。
「ええい、いい加減にせんかい、ジョー!
それ以上やってはダイナソーがゼツメツしてしまうわい!」
「フフフ、ずいぶんと動揺しているようだが、
お前たちDMSがこの試合を止めたいのならば手段は一つ、だろう?」
「チクショウ! わかっとるわいそんな事はっ!!」
黒マントの嘲笑に地団太を踏み、すぐさまスグルは、テリーの肩のタオルへと手をかけた。
だが、タオルを投げ入れようとした瞬間、不意にテリーの太い手がそれを阻んだ。
「ぐおっ、何をするんじゃテリー!?
すぐにでも試合を止めてやらんと、このままでは……」
「いや、少しダイナソーの様子を見てみろ」
「な、何だと……?」
テリーに促され、怪訝な表情のスグルがリングを覗き込む。
同時にリング上のジョーも異変に気付いた。
足蹴にしたダイナソーの頭部が小刻みに痙攣を繰り返す。
それに合わせてその巨体が、とりわけ自慢の腹筋を中心に大きく震え……、笑っている?
「……グ、ぐふ、グワアァーッハッハッハッハッハッハハハァ――――ッ!!」
「なッ!?」
ギョロリ、と恐竜王の不敵な瞳が、突如頭上のジョーを捉えた。
思いもよらぬ敵の反応に、一瞬、ジョーの追撃の足が止まる。
「ガオ!
どうしたジョーとやら、もっと気合を入れて攻め立てるのだ!
このキング・オブ・ダイナソーをゼツメツさせる、千載一遇のチャンスではないか!?」
「こ、こいつ……!?」
「不死身で行くぞォーッ!」
突如、山が動いた。
ジョーが動揺した一瞬の隙を突いて、ダイナソーがガバチョと体を起こした。
思わずたたらを踏んで後退したナックモエの眼前で、恐竜王が動じた風もなく首を鳴らす。
「お前……。
あれだけの攻撃が効いていないと言うのか?」
「ガオ! 当たり前だ!
この私を何ポケモンだと思っている?
この恐竜の王の中の王たる私をゼツメツさせたければ、YOUももっと本気を出せいッ!」
「本気を、だと……?」
訝し気な瞳を向けるジョーに対し、ダイナソーは少しばかり真剣な表情で鼻息を吐き出した。
「前の階のヤマザキ、思えばヤツはマイマッスルを震わせるほどに強かった。
凶器も、毒も、爆薬も……、ヤツは全ての攻撃を生き延びる手段と断じ、
その解禁に何一つためらいも後ろめたさも持っていなかったからな。
生存競争と言う現実に対し、あやつだけがただ一人、正真正銘ひたむきなポケモンであった」
「……まるで、お前は違う、とでも言いたげだな?」
「フン、その口ぶり。
YOU自身は気付いていないのであろうが、長年に渡り鍛え抜かれた筋肉は正直よ。
YOUに悪玉は務まらん!
どれほど賢いオツムで取り繕うと、
全ての攻撃がちぐはぐで、どこか本能的に委縮してしまっている。
筋肉に愛されてもいない打撃など、何万発浴びたところでマイマッスルは沈みはせぬわッ」
「世迷言を」
「ええい強情な!
筋肉の叫びに耳を傾けるのだ、ハリケーンアッパーのジョーよ!
己の生態を知らぬポケモンなど、たやすくゼツメツしてしまうのだぞォーッ!!」
やせいのダイナソーの とっしん!
言うが早いか、風を巻いてダイナソーが走り出した。
すぐさまジョーもアップライトに構え直すが、わずかばかり反応が遅れた。
既に前蹴りで突き放せる間合いではない。
高らかと掲げられたダイナソーの諸手、問題は投げか、打撃か?
(いずれにせよ、警戒すべきは両手)
瞬時に判断を下し、ジョーも自ずから前へと踏み込んだ。
これなら長い尾や蹴り足を繰り出す距離はない。
投げにせよ打撃にせよ噛み付きにせよ、先ずダイナソーの両手が動く。
その前に踏み込んで両肩を抑えれば、少なくとも首相撲で先手を取られる事はない。
「ガオッ!」
「!?」
だが、ダイナソーの次の動作はジョーの予想の裏を掻いた。
その大きな巨体を縮め、迫り来るジョーの両手を掻い潜り、次の瞬間、正面の顎先目がけて高らかと跳ね上がった。
「ガアオォオーゥッ!!」
やせいのダイナソーの とびひざげり!
「バ、バカな……!?」
鈍い音が鳴った。
120kgの重量が乗った太い膝をモロに浴び、ジョーの上体が思い切りのけぞる。
中量級 対 スーパーヘビー級。
如何なタフネスを誇るナックモエとは言え、物理的に耐えられる一撃ではない。
「ホアァーッ!」
再びダイナソーの口から奇声が響き渡った。
サイドに回り跳ね上がるジョー顎を捕らえ、その体を自らの膝目がけて思い切り振り落とす。
「喰らうがよいッ!
ド ラ ゴ ン バ ッ ク ブ リ ー カ ー !!」
やせいのダイナソーの たたきつける こうげき!
「ガハァッ!?」
ダイナソーの逞しい膝が、仰け反った背筋に深々と突き刺さった!
背骨が哭き、肺腑の酸素が一瞬で空になる。
呼吸困難となったジョーが大地に崩れ、もんどり打って地ベタを転がる。
快刀乱麻の如きダイナソーの連携に、一瞬にして観衆が沸き返る。
「や、やりおった!?
ハハ、ダイナソーのヤツ、あんな強力なニーを隠しておったのか!」
「あの淀みの無い動き。
膝で崩し、投げを放つ布石までがワンセットのコンビネーションなのか。
し、しかし、プロレスとムエタイを組み合わせた、まったく新しい格闘技……だと?」
渾身の逆転劇を前に緊張した空気が解け、わっ、と一斉に歓声が上がった。
会場が興奮に揺れる中、ダイナソーは肺腑の濁った空気を吐き出し、どこか悟ったような瞳をジョーへと向ける。
「……このドラゴンバックブリーカーはな、元は我々ダイナソーの編み出した技では無い。
とある元ムエタイ王者が危険な街でのストーリート・ファイトを生き残るために辿り着いた、
言わばまったく新しいコンビネーション・アーツよ」
「……ム、ムエタイ……?」
「どうだ、少しは骨身に染みたであろう?
YOUの筋肉が本調子であったならば、奇襲とは言え、
素人レスラーの膝くらいは簡単に回避できていたハズよ」
「……!」
「さあ、分かったならばもう一度這い上がれッ! 己のルーツを取り戻せェ!!
ハリケーンアッパーのジョー! YOUのマッスルが哭いているぞッ!!」
「……随分と、説教臭い肉食獣があったものだな」
短く吐き捨て、ジョーが震える五体を起こし始めた。
バルキーたちが一斉に、あっ、と驚愕の叫び声を上げる。
超ヘビー級ポケモンの本気の投げを浴びたのだ。
本来なら容易く立ち上がれるようなダメージではない。
そんなギャラリーのざわめきを意にも介さず、ジョーはロープにもたれるように立ち上がり、眼前のダイナソーに鋭い敵意を向けた。
「今のお前の言葉……。
そっくりそのまま返させてもらうぞ、ダイナソー」
「ムゥ、何の話だ?」
「なぜ、倒れた俺に追撃しない? 説教をする間にフォールに来ない?
お前はそれで、本当にやせいのポケモンのつもりなのか?」
「――!」
思わず恐竜王の息が止まった。
餓えたおおかみポケモンの嗅覚は、図らずもダイナソーの本質を衝いていた。
「今のお前は澄み切っておらず中途半端だ。
野獣そのもののストロングスタイルで挑んで来たかと思えば、
急にしみったれた昭和のプロレスを始めたりする。
そんな半端なギミックレスラーに倒されるほど、スリバチやま四百年は伊達では無いッ!」
「…………」
ゆらり、とジョーの体がロープを離れた。
そこが試合の最中である事を忘れたかのように、ジョーは自陣のコーナーへと叩頭し、緩やかに体を沈めて行く。
「な、なんだ?
ジョーのヤツ、一体なんの呪いを始めようと言うんじゃ?」
「ワ、ワイクルー……」
ポツリ、とテリーが呟く。
気を利かせたバルキーの一人が、手にしたピー・チャワーを吹き始めた。
エキゾチックなアジアの鼓笛に合わせ、ジョーの体が徐々にせり上がっていく。
てきのサワムラーの つるぎのまい!
静かな、それでいてどこか情熱的な旋律に誘われ、淀みない水のようにジョーの体が動く。
片足を持ち上げ体を畳み、大地を踏み締めリングを巡る。
場所も、観衆も、敵の存在すらも忘れたかのような真摯な姿に、多くの者が気付き始めた。
これは、神事だ。
「ワイクルー・ラムムアイ。
ワイクルーは師への感謝と礼節を、ラムムアイは戦神の加護を祈願する舞踊を示す。
スリバチやまでの過酷な修行を収めたバルキーたちは、
己だけのラムムアイを創始する事で、
「だ、だが、今は試合の真っ只中だぞ!?
あの恐竜王に背を向けるなど、ジョーのヤツは何を考えとるんじゃ!」
「ジョウトでの空白の年月の間に、どのような心境の変化があったのかは分からない。
だが今、おそらくジョーは身命を賭けて、かつての誇りを取り戻そうとしているのだ。
高潔なムエタイチャンプであった頃の、ハリケーンアッパーのジョーの魂を」
(……そしてダイナソー。
お前はアイツの挑戦に対し、どう返答するつもりだ)
ちらり、とテリーがダイナソーの背に視線を向ける。
このワイクルーは自分自身と同時に、敵であるダイナソーの本質をも試している。
ダイナソーがやせいの王者であるならば、この好機を逃してはならない。
傷ついた獲物に回復の暇を与えてはならない。
隙だらけの背中にすぐさま嚙み付くべきだ。
それこそがやせいの掟、弱肉強食の本質。
だが、もしも彼が、6500万年の本質よりも、リングに眠るという何かを求めたならば。
「…………」
しばしの沈黙の後、ダイナソーが動いた。
大きな両の掌を胸の前で重ね合わせ、背筋を伸ばしてスタンスを肩幅に取る。
短く呼気を吐き出し、そのまま膝を折ってまっすぐに体を沈める。
やせいのダイナソーの ビルドアップ!
伸身
屈伸
伸身
屈伸
伸身
屈伸
伸身
屈伸
伸身
屈伸
伸身
屈伸
伸身
屈伸
伸身
屈伸
周りの光景を忘れてしまったかのように、一心不乱に身を屈め、起こす。
忘我の世界に入り込んでしまった超雄ふたりの姿に、会場が困惑に包まれ始める。
「ダイナソーのヤツ、ここに来てスクワット、だと?
ジョーの精神統一に対し、更なるパンプアップを積んで対抗するつもりなのか」
「いや、違う。
おそらく、アレは……」
還ろうとしている。
老練なる恐竜プロレスの帝王ではなく。
この地上に残る野生の遺伝子の末裔でもなく。
スクワットはプロレスラーにとって粘り強い下半身を作るための基礎であり、同時に過酷なショープロレスの世界に耐えられるかを試す格好のジゴキの材料でもある。
空手における正拳突き、中国拳法における站椿にも等しいアイディンティティ。
還ろうとしているのだ。
およそ6500万年前、彼が恐竜王にも、プロレス王にもなる前の物語。
彼がまだ何者でも無かった、一介の練習生の時代へと。
やがて、ピー・チャワーの音色が止み、ジョーが緩やかに体を起こした。
同じくしてダイナソーも体を起こし、額の汗を拭う。
どちらからともなく両者が構えた。
痛いくらいの静寂が会場を包み込む。
「チャゲ! チャゲ! ハ! ハ! ハ!」
バルキーたちが、一斉に鬨の声を上げた。
ジョウト北部の伝えたい新しい歌を合図に、弾かれたように両雄が飛び出した。
リング中央、瞬く間に距離が詰まり、額がかち合い、剛腕が唸る。
「はりゃああああっ!」
やせいの サワムラーの きりさく こうげき!
全体重を乗せた強烈な肘打ちが、ダイナソーのこめかみを直撃する。
膝が槍なら肘は剣。
至近距離での打ち合いで、これに勝る痛打は無い。
「ガアオオオオッ!!」
やせいの ダイナソーの はたく こうげき!
頭を振るい、ダイナソーが渾身の闘魂注入にいった。
ベチン! と乾いた音を立て、ウェイト差をモロに浴びたジョーの首が哭く。
「オラオラァッ!」
やせいの サワムラーの はねる こうげき!
身を屈め、ジョーが必死で踏み止まった。
前に出ようとしたダイナソーの脳天に、前宙で加速させた黄金の踵を叩き込む。
「ガルルオォ!」
やせいの ダイナソーの たいあたり!
それでもダイナソーは止まらない。
渾身のショルダータックルを浴びせ、よろめく対主をコーナーへ追い込む。
「爆烈拳!」
やせいの サワムラーの れんぞくパンチ!
体を返しジョーが手数を放りに行った。
顎、こめかみ、更に顎。
強烈なベアナックルがダイナソーの顔面を的確に捕らえる。
「ガオオオーッ!」
やせいの ダイナソーの ずつき!
「オオ!」
やせいの サワムラーの ずつき!
「ガァルォッ」
やせいの ダイナソーの ひっかく こうげき!
「シャア!」
やせいの サワムラーの ローキック!
「ヌガ」
やせいの ダイナソーの かみつき!
「シャラァ――ッ」
やせいの サワムラーの にどげり!
爪
肘
牙
膝
頭
踵
尾
脚
掌
観客が沸く。
エキゾチックな東国の情歌が、男の闘いを未知なる領域へと引き上げていく。
止まらない。
止まらない!
腰を落とし、小細工抜き、セオリー抜きのドツキ合い。
男が二人、ただただひたすら相手の器を推し量るように拳をぶつけ合う。
「ダイナソー、よ、よくもまあやりおる。
ぐっ、と掴んで一投げできる間合いで、あくまで打撃屋の流儀に付き合うつもりか」
「いや、細かいテクニックを顧みないならば、体格差はそれだけで脅威となる。
この殴り合いは、必ずしもジョーにとって有利とは言えん」
熱に浮かされたようにテリーが叫んだ。
この闘いはもはや男比べ。
すでに解説を必要とする場面ではない。
「オラアァアァ―――ッ!」
やせいの サワムラーの カウンター!
それでも、両者の明暗を分けるものがあったとすれば、それは二人のルーツ、職業病。
その性質上、意外にも
闘いが判定にもつれる事が多いムエタイ戦士は、一方的に打たれる事を極端に嫌うのだ。
腹を蹴られたならば、同じ場所を即座に笑って蹴り返す。
胸を打たれれば胸を、足を打たれれば足を、頭を打たれれば頭を。
闘いがシンプルになるほどに、ジョーもまた闘技ムエタイそのものと化していく。
対し、ポケモンレスラーとは受ける生物、耐える生物。
己の肉体を誇示するために、時に相手のありとあらゆる危険な攻撃を受けにいってしまう。
相手の本気を出し切らせ、絶対の窮地、からの逆転。
常ならばそれも良いだろう。
だが、今宵の相手は本物の餓狼。
しかもダイナソーは爆発と転落のダメージも癒えぬ内からチャリで爆走し、危険な投げだの容赦ないコクーンだのを散々浴びてきたばかり。
この上、ハリケーンアッパーのジョーの真の姿を堪能した上で勝とうなど、余りに虫の良い。
「グオ!?」
ダイナソーの背を、剥き出しのコーナーポストが叩いた。
気が付いた時には、すでに袋小路へと辿り着いていた。
野生の本能が警鐘を鳴らす。
逃げ場の無いこの死地で、とんでもない大技が来る。
「スクリューアッパァアァァ――ッ!!」
やせいの サワムラーの ふきとばし!
果たして一際強烈なコークスクリューブローが、リング上に猛竜巻を作り出した。
「グ、グオオオオオオッッ!!??」
隕石以外のありとあらゆる自然を超越したハズのダイナソーも、この一撃には仰天した。
猛烈な暴風が筋肉を抑え込み、荒れ狂う真空の牙がガードの上から膾に刻み付ける。
「オオオオオオッ」
更に、あろう事かこの暴力の真っただ中に猛虎が飛び込んできた。
防御が弾ける、抗うに術がない。
「爆ッ!」
やせいの サワムラーの れんぞくパンチ!
「スラ!」
やせいの サワムラーの とびげり!
「ゴールデェンッ!」
やせいの サワムラーの はねる こうげき!
「タイガアァアァァァ――――ッッ!!」
やせいの サワムラーの とびひざげり!
立て続けに虎が牙を剥いた、ムエタイ脅威のフルコース。
嵐が止んだ。
恐竜王をコーナーに押さえ付けるものは、もはや何もない。
流されるままに体が泳ぎ、ゆらめき、ロープにもたれ込む。
何か。
何か、本当に何か、残されてはいなかっただろうか?
野生を捨て、筋細胞の震えに身を委ねた結果がここであるのか?
あるいは、ジョーのひたむきさを前に、己の輝きはくすみきってしまっていたのか?
いや。
何か、このリングの足元には、何かが眠っていたハズだ。
何かが残されていたはずだ。
揺れる視界。
観客たちの熱狂と興奮。
凶器。
固いロープ。
眩いばかりのスポットライト。
キャンパスの擦れる音。
松ヤニの匂い。
後は?
あと……、は……?
「キング! 負けちゃダメだァーっ!」
「!?」
やせいの ダイナソーの めざめるパワー!
突如ダイナソーの全身の筋細胞に、直列繋ぎで電流が走った。
ロープを背負った反動を利し、かみなりに弾かれたように恐竜王の体が飛び出していた。
「ダアァアアアア――ッッ」
やせいの ダイナソーの メガトンパンチ!
「ガッ!」
剥き出しになったジョーの脇腹に、すさまじい剛腕が突き刺さった。
肋骨が鳴き、虎の動きが一瞬止まる。
一呼吸。
今のダイナソーにとっては、十分すぎるほどの恩恵であった。
「ダイダロスアタァ――――ック!!」
やせいの ダイナソーの メガトンパンチ!
やせいの ダイナソーの メガトンパンチ!
やせいの ダイナソーの メガトンパンチ!
やせいの ダイナソーの メガトンパンチ!
やせいの ダイナソーの メガトンパンチ!
やせいの ダイナソーの メガトンパンチ!
鉄拳、合わせて七発
豪快なフルスイングからの強烈なラリアット。
ジョーの体が中空で半回転して、ずしゃりとマットに沈む。
一瞬、会場が静寂に包まれた。
誰もがダイナソーの敗北を予感した直後から、奇跡の逆転。
いや、その奇跡の逆転パワーに誰よりも驚いていたのは、他ならぬダイナソー自身であった。
(……今のは?)
呆然と、荒い吐息を吐き出して、眼下に倒れたジョーを見下ろす。
じくり、と鈍い痛みを感じて握りしめていた拳を開くと、掌の上には圧し折れた鋭い爪が突き立っていた。
「何をしておるダイナソー!
今の内にフォールするんじゃあ」
「……いや、その必要はない」
リングサイドのスグルの声を遮って、天を仰いだジョーが力なく呟く。
見上げた視界の先に、眩いばかりのスポットライトが突き刺さる。
「俺の……、負けだ」
ポツリ、とジョーが呟いた。
沈黙が理解へと変わり、やがてゴングの音と共に、少しずつ暖かな拍手の輪が広がり始めた。
「ジョー……」
ためらいがちにリングへと上がって来たJrに対し、ジョーはふっ、と微笑をこぼし、震える体を起こした。
「ふふ、心配かけたなジュニア。
安心しろ、俺は正気に戻った!」
「その口草。
やはりYOUは、てきのポケモンにさいみんじゅつか何かで操られていたようだな」
ダイナソーの断定に対し、ジョーは神妙な面持ちで一つ頷いた。
「俺は今日、卑劣なやり方で格闘会を牛耳る獣神武闘会との決着を付ける事で、
長きに渡るジョウトでの武者修行の旅を清算するつもりでいた。
だ、だが、アイツの目を見た途端……、ぐっ!?」
「ジョー、しっかりするんだ!」
「それ以上は喋るな。
マイマッスルのぜんりょくパンチを七度まで浴びたのだ。
しばらくはそのまま寝ていろ」
「ま、待て、ダイナソー。
あくまポケモン六騎士の総大将には、まだ、お前の知らない秘密が……」
朦朧とした瞳で、ダイナソーの背中に必死に手を伸ばす。
そんなジョーの姿に対し、ダイナソーはニヤリと不敵な横顔を見せて笑った。
「任せておけい!」
・
・
・
「デイィ――――ナァ―――タアァ―――イィムゥッ!!!!」
あ! やせいのダイナソーが とびだしてきた!
地獄の幕開けより、はや二時間。
とうとうダイナソーは、DMSとPMCの威信を賭けた、決勝の舞台へと辿り着いた。
「ムッ」
薄暗いポケモンタワーの最上階で、恐竜王の足が止まった。
「大悪党」の太い毛筆が刻まれた木目のフロアーに、部屋の四隅を支える金色の四天王。
太い木柱に漆塗りの梁を巡らした荘厳なる社。
極東の神秘。
東洋の大都会、ヤマブキシティ最高度のロイヤルスイートに似合わぬ豪奢な伽藍が、ダイナソーの眼前に広がっていた。
「ふっ、よくぞここまで勝ち上がって来たものだな。
地上最後の恐竜王よ」
場違いなマホガニーのデスクの上に、ドン、と革靴を預け、黒マントが不敵な笑みを向ける。
ふはっ、と鼻息を吐き出してダイナソーが太い指先を向ける。
「フン!
こうまで追い詰められたと言うのに随分と余裕があるではないか?
社長! 御託は無用だ、とっととモンスターボールを出せい!」
「
あ! やせいのゴルダックが とびだしてきた!
刹那、ダン、と男が机を蹴り上げ、黒マントを脱ぎ捨てながらダイナソーの前へと降り立った。
艶やかな青の繊毛が生える、筋肉質のスマートな肉体。
ブランドもののブラウンのスーツにシルバーの腕時計、つやつやと光沢を放つ黄色の嘴。
野生と紙一重の制服組の姿に、百戦錬磨のダイナソーも思わず息を呑む。
「ムゥ、YOU、その姿は……?」
「分かったであろう、獣神武闘会に6つ目のモンスターボールはない。
そう、私自身が社長であり、あくまポケモン六騎士最後の将なのだ!」
鋭い眼光をダイナソーに向けながら、男が器用な水かき捌きで、上等なネクタイを緩めて笑う。
「さあ、余興は終わりだ、ファイナルラウンドと行こうではないか?
古の王、キング・オブ・ダイナソーよ。
貴様はこのヤマブキシティの帝王、
ゴルダックの『
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団体対抗戦第10試合
キング・オブ・ダイナソー(DMS)〇-✖『ハリケーンアッパー』のジョー(PMC)
試合時間:38分27秒
フィニッシュホールド:ダイダロスアタック(ギブアップ)