旅路の終わりは、夢の始まり   作:ひきがやもとまち

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初期設定の都合上、主人公が死ぬシーンから始まります。
あと、主人公はやや胸糞思想の持ち主です。

あらすじにあるように、主人公はユウキ本人ではなく別人です。なので、始まった時点でアスナと面識はなく、これからも互いの記憶については知る事はありません。別の並行世界で起きてるSAOだと解釈してください。

注:病気の方は読まないで下さい。作者の悪意により胸糞な部分が多発してますから。
今話は重い始まりですが、次話からは比較的に明るくなります。


プロローグ「少年の旅路が終わり、少女として夢が始まる」

 その日、僕は久しぶりに目を覚ました。

 何日ぶりの事かな? ううん、何週間ぶりかもしれないし一ヶ月以上寝たままだったのかも知れない。

 でもまぁ、数ヶ月から数年って事はないだろうからなぁ。現実的に考えて、数週間が限度だと思う。

 だってそんなに長い時間、僕の身体はもう保たない。今の時点で、体中に取り付けられてる機械が辛うじて呼吸だけでもさせてくれてる状態。これ以上長く続いたら、たぶん僕の正気の方が先に壊れる。

 できればそうなる前に終わって欲しい。

 

 回復を信じて祈ってくれてるお母さんたちには悪いけど、僕は心の底からそう願ってる。そう願ってやまない。

 

 苦しいのは嫌だけど、耐えられる。

 痛いのは辛いけど、我慢できる。

 

 でも、僕が僕で無くなっていくのは嫌だ。僕が消えて無くなっていくのが嫌だ。

 僕の身体が別物になり、心の底まで汚染し尽くされ、ただただ生きるために生きてる生き物になるなんて絶対に嫌だ。

 そんな生きるためだけのバケモノになるくらいなら、人として死なせて欲しい。人として終わらせて欲しい。普通に生きて、普通に死んだ人間として、普通に死なせて欲しい。

 人間でなくなってまで生き続ける人生なんて望んでいない。求めていない。限りある命を終わらせないために別の生き物になるなんて、僕には絶対耐えられない。

 

 だから切実に死を願う。

 人としての死を、一人の人間としての死を、限りある命の終わりとしての死を、僕が生きた人生の果てにたどり着いた死を。

 たいして長くもなかったけれど、僕が歩み続けてきた旅路の終わりとしての死を。

 

 意味はいらないから、死を。

 生きてきたことの意味を無くさないために、死を。

 死ぬことに意味なんて無いと思うけど、死を拒絶することで生の意味を奪ってしまうくらいならば死を。

 生の意味を無くさないために、意味のない死を。

 

 それが僕の最期の願い。最期の希望。最期のお願い。

 

 だからこれは、たぶん慈悲だ。

 神様か誰か知らないけれど、誰かがきっと僕の願いを叶えてくれたんだと、そう信じたい。

 それまで静かに一定のリズムを刻んでいたコンピューターの発信音が急に騒がしくなった。

 CPUの外側が見えるガラス窓にも、慌て出す大勢の大人たちが見える。

 定期的にやってくる看護師さん以外が開けるのは大分ぶりだろう集中治療室の扉が開いて、大勢に白衣さんたちが恐い顔して押し寄せてくる。

 布団が取り払われて、僕の胸には箱型の機械、CAD? ACD? ・・・だかなんだか言う名前の機械が押し当てられて、僕の身体がビクって痙攣したように飛び跳ねる。

 

 別に痛くはない。痛覚は大分前に失ってるし、意識そのものも白濁してきてる。

 もともと長くない身体が更に寿命縮めたのだから、そりゃもう何したって今更過ぎる。

 彼らが僕の名前を大声で呼んでいるけれど、それらを僕は聞いていない。聞こえてないんじゃなくて、聞いていない。聞く意味がない。

 

これから死ぬ人間に、お世話にはなっていても禄に話したことすらない人たちから労りの声をかけられたって困るだけだ。冥土の土産が知らない人たちからの言葉なんて、誰に見せびらかせばいいって言うのさ?

 

 見送られるなら誰でも良い、大好きな人たちに。

 名前なんて知らなくて良い。年齢も性別も関係ない。生まれや育ちなんてガワの問題だ。

 国籍や民族なんて、有無を言わさずに産み落とされた側にとっては何の関係があるの?

 

 誰でも良い。誰だって良い。

 僕が最期を看取って欲しいと思える人がいたら、それが僕にとっての最愛の人だ。人生の最期を、旅路の終わりを見届けて欲しい人だ。そんな人に出会えなかったことだけが、僕の人生における唯一の心残り。

 

 ああーーでも、もう遅い。時間がない。時間が尽きる。尽き懸けてる。

 

 意識が遠のく。意識が消える。思考が消えて、声と世界と景色が真っ黒に染まり、真っ黒すらも消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時はーー意外と恐くなかった事だけは、素直に嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして僕の旅路は終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ここは?」

「うん、ドコなんだろうねー?」

 

 ドコまでも続いてそうな線路と草原。それでいて、空は一面岩だらけ。

 線路はふたつあるけれど、車両はどこまで行っても見えてきそうにない。

 果てなく続く線路の先は、ドコまでも真っ直ぐ続いてる。

 どこかに続いているとしたら、案外地球の外側まで行けるのかもね。

 

「スゴいねぇ、列車が走れる線路なんて始めてみたよ。

 ボクずっと病室にいたからさ~」

「へー、奇遇だね。僕もだよ。

 せっかくだし、君が見たものと僕が見てきた物を、一緒に話し合わってみないかな?

 たぶん、お互い知らないことが多くて面白いと思うんだ。

 少なくとも、病室の中でも色々と違ってる部分はあるよ?」

「あはははっ。良いね君、面白い。

 うん、だったらそこに座ってお話ししよう。ちょうどテーブルとイスが二脚あるからさ」

「よっし、OK。エスコートは任せてよ!」

「うん、期待しないで期待してる♪」

 

 その後、僕たちは時間を忘れて語り合った。

 長い黒髪とハスッパな口調の女の子は、見た目からして中世かどこかの時代からきたタイムトラベラーを思わせたけど、本人からはケラケラ笑って

 

「違う違う!

 あー、お腹痛い。・・・う、くっくっく・・・」

 

 と、本当に身体をくの時に折って笑い転げられちゃった。

 すっごく可愛くて魅力的な子に笑われてしまい、無性に自分が気恥ずかしくなかったけれども、それでも彼女との会話はスゴく楽しかった。

 たぶん、今まで生きてきた中で出会ってきた誰よりも、会話をしていて楽しむことができた。ずっとこの時間が続いて欲しいと切に願った。願ってしまった。

 

 だから、夢は終わる。夢が醒める。

 夢は見るべき物であり、信じるべき物。

 夢を見ているのに、それが夢だと断じてしまえば、夢は終わりだ。その先はない。

 だから終わった。夢のような時間は、夢だと自覚した瞬間に終わりを迎えた。

 

「あー、迎えの汽車が来ちゃったみたいだね。

 ごめん、ボクもう行かなきゃ。向こうでボクを待ってる人がいるらしいんだ」

「そうなんだ。残念だなぁ。

 その待ってる人って、君と同じで女の人?」

「らしいよ? そして聞いて驚け!なんと女神様なんだってさ!」

「スゴいじゃないか!」

「でも、ズボラな人らしくてねぇ。知り合いの家に居候してたら追い出されて、今じゃオンボロ教会で廃墟生活してるんだって」

「スゴく酷いじゃないか・・・」

「あははは! だねー。もう少し計画性を持って欲しいよねー」

 

 バカにしている気配が微塵もない口調で女神様?の悪口を言う彼女。

 健康的な笑顔がとってもまぶしい。生命力にあふれた、とっても可愛い女の子だと思う。

 

「そう言えばさ、そっちの世界にも剣や魔法があるんだって!

 くー、燃えるよねー! 剣一本でダンジョンに潜るのは間違っているだろうか!」

「剣と魔法かぁー。良いなぁ、楽しそうで。

 そっちに行っても君はまた最強剣士を目指すのかな?」

 

 病室から外で楽しそうに遊んでる子供たちを見て過ごしてきた僕としては、当然の質問。

 これに彼女は「うーん」と大きく首を捻ってから一度頷いて、

 

「最強の剣士はもう良いかな。剣でいくら強くなっても勝てない相手に負けたわけだし。ボク一人の力だけだと、自分の夢さえ叶えられなかったしね」

「ああ・・・なるほど。確かにそうだね」

 

 剣では決して勝てない相手。

 強さなんて意味のない、絶対的な最強チートなラスボスキャラ。

 病には決して、剣では適わない。病気で苦しんでる人を救うのに、最強の聖剣なんてナマクラ以下だ。何の役にも立ちゃしない。

 

「だからさ、ボクは今度の旅路では英雄になりたいんだ。

 誰にも勝てない強いモンスターを倒す英雄じゃなくて、一人でも苦しんでる人を救って、癒してあげられる英雄に。

 最後の瞬間に「この人の腕の中で旅を終えられて、本当に良かった」って思わせられるような、そんな英雄に。

 大勢の人たちから感謝されなくても良いから、たった一人の泣いている女の子のために頑張れる英雄に。ボクは成りたいって、本気でそう思ってる」 

「素敵だね」

 

 心底から思ったから、僕はそう言った。

 

 大勢の人たちから英雄と呼ばれるのは簡単だ。少数の方じゃなくて、大勢の人たちの方を選べばいい。多数決が全てじゃないと僕は思うけど、大勢の人たちから感謝される英雄になりたいなら、そうするしかない。

 

 たった一人のために皆を犠牲にするのは魔王だから。

 大勢のために涙を呑んで一人を切り捨てるのが勇者だから。

 英雄は称号。

 勇者に感謝してる人たちは勇者を英雄と呼ぶだろうし、魔王に感謝してる人たちは魔王を英雄と呼ぶだろう。

 この場合の違いはたった一つ。

 勇者に感謝してるのが救ってもらった大勢で、魔王に感謝してるのが救ってもらった一人だけ。

 

 ただ、それだけの違い。

 差ですらなく、違いでしかない問題。

 幼稚な言葉遊びで、多くの人が無視してる問題。

 誰も気にしない問題。みんな当然のことだと言って割り切る問題。

 

 だからこそ、彼女は僕から見て本当の英雄に映ったんだと思う。

 人々のために巨悪を倒す英雄じゃなくて、一人を救えればそれで良いと、悪を倒すより苦しんでる人の救済を優先する英雄に。

 

「羨ましいなぁ。

 僕もそれくらい言えるほど、強くなりたいよ」

「君でもなれるよ。なろうと思って諦めなければ、なりたい人にはきっとなれる。

 どうせなれないからって諦めて、ずっと何もしてこなかったボクなのに、「あなたみたいに強くなりたい」って言ってくれた人がいたんだから。

 君にだって誰かがきっと現れて、そう言ってくれる。そう言って貰えたときに君はきっとこう思う。「自分は生きてて良かった、すごく嬉しい」って」

 

 それこそ、彼女自身が誰よりそう思ってるんじゃないかなって思えるほど、彼女は幸せそうな笑顔で僕にそう言いきった。

 

「そうかな?」

「そうさ」

「そっか・・・そうだと良いな。

 そうなるようにしたいし、そう思える日が来るのなら、辛い日々なんてどうでも良くなるんだろうなぁ」

 

 僕も、そして彼女もおそらく、ダメだったから此処に居るんだろうけど、此処に行き着くまでの時間を一人で賄えられたなんて思うほど、僕も彼女も奢ってない。

 

 苦しかったけど、感謝してる。

 辛かったけど、ありがとうって言いたい。

 死にたいって思い続けてたし、それが間違っていたとは今も思ってはいないけれど。

 それでも僕は、僕を今まで生き続けさせてくれたことに感謝してる。

 今まで生き続けさせてくれた人たち全てに、ありがとうって言いたい。

 

 あの時死んでいればなんて、その時死ななかったからこそ言える言葉。

 その時に死んでいれば、今頃きっと別の後悔に苦しみ悩んでる。

 

「うん、きっとそうだよ!

 だから君も「自分の願い」を諦めたりしなければ、諦めずにぶつかり続ければ、応えてくれる人がきっと現れる。どっちも諦めずに諦めさせずに付き合い続けてさえいれば、絶対に誰かが会いに来てくれる。

 一人だと叶わない願いだからね。誰かがいてくれないとどうしようもない。

 だから君もーー人と関わることを諦めないで」

 

 彼女が願いを込めた声と言葉で僕に伝えてくる。

 たぶん、それが彼女自身が願いを込めた人への想い。

 僕を通して誰かに、誰かたちへ語りかけてる。願いを込めてる。

 

 もう届かない言葉。二度と届けられない声。

 永久の別れの後にも願い続ける、誰かの幸せ。

 

 ああ・・・確かに。僕にも納得できた。

 

 これだけ想えるほど感謝できるのなら、人との出会いを諦めないのは間違いなく正しいと。

 

 

 

 

 

 徐々に世界が崩れ始めた。

 終わりの時が来たんだろう。

 終わりから始まりへ至るための道の終わり。

 

 

 

 人生にIFは無い。生き方にもIFは無い。人生も生き方も、今ある現在が全てで全部。

 可能性は可能性。0ではないけど0じゃなければ出来るというなら、確率論なんか生まれていない。

 不可能じゃない事は、可能であることを意味しない。

 出来ないことは絶対に出来ない。

 死者は蘇らない。死んだ人間が現世に戻って人生を一からやり直したのなら、それは新たな別世界の誕生だ。世界線、もしくは平行世界。そう言う類の現象でしかない。

 

 だからきっと彼女がこれから行く世界もまた本来のその世界とは違う別の異世界。僕がこれから行く場所も、たぶん同じようなもの。ここはその中間地点。

 

 あるいは、終わりから始まりへと至る時だけ通れる「始まりのための場所」。

 此処に来るには終わらなければいけないし、ここ以外の場所では此処で出会った人と会うことは決して出来ない。

 それが僕にはわかる。理屈抜きでわかってしまう。わかることが不思議なのに、間違っているとは全然思わないって言うことは、たぶんそう言うこと。

 

 だから、僕たちの出会いは最初で最後。最初が最後。もう会えない。会えるとしたら、また終わって始まる時にだけ。

 

 だからこそ、僕たちはこう言い合う。

 

「「それじゃあまたね、名前も知らない誰かさん!

  次会ったときには、ちゃんと名前を教えてね!」」

 

 二度と会えない人と交わした再会の約束。

 会えないことが分かっているからこそ交わす、また会う約束。

 絶対に守れない約束を、絶対に守るために交わし合い、誓い合う。

 

 絶対に、生きてまた会おうねって。

 

 やがて世界が滲み出す。

 歪むのではなく、グニャグニャしてくる。

 僕たちの姿が輪郭を失い、ボヤケては変わっていく。

 変質していく。変体していく。

 

 それでも記憶だけは持ち越せることを僕たちはなぜか知っているから、敢えて言葉だけを伝えあう。

 

 きっと、意味のない一言。

 きっと、何の役にも立たない一言。

 彼女が英雄になるための役には立たないだろうし、僕が新たな人生を生きていくのにも役立たない。

 

 だけど、言う。

 だから、言う。

 意味がないからこそ、言う。

 意味のない言葉に意味を持たせたいから、言う。

 

 思いは言葉にしないと意味がないから。

 意味を与えられた言葉は、相手に伝えて分かってもらうよう努力しないと自己満足で終わっちゃうから。

 僕たちが互いに会えなくなっても互いの記憶が残るのなら、此処で言った言葉はちゃんと相手に伝わるから。

 

 伝わった言葉は、相手の胸に残るから。

 互いの言葉は互いの口を通じて、誰かに伝わり続けるはずだから。

 

 バトンは途切れない。言葉のリレーは終わらない。

 伝わり続ける限り、僕たちの旅は終わらない。

 

 その人が死んでも、その人が残した物まで消える訳じゃないから。たとえ誰も彼もが名前を忘れてしまっても、その人の影響はずっと残り続けて、誰かの役に立ち続ける。

 

 僕の人生が終わっても、僕の旅路が終わらないように。

 今野悠樹の旅が終わってからも、紺野木綿季の旅が始まったように。

 

 だから今、「ボク」は此処にいる。この世界にいる。

 世界初のVRMMORPG《ソードアート・オンライン》

 その舞台、空に浮かぶ巨大な石と鉄の城《アインクラッド》の第一層。

 

 

 この場所でボクは、女剣士の片手剣使い《ユウキ》として、今日も生きている。

 

つづく

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