正直どこで区切ればいいのか、よく分からない原作でのお話だったものですから・・・
多分ですが、前回よりかはマシな出来になっていると思っております。
「そんなわけで、ご面倒をおかけしますが、団長のお知恵を拝借できればと思いまして・・・」
「気にしなくていいよ、アスナ君。私も、ちょうど昼食にしようと思っていたところだ。
それに、彼の名高き《黒の剣士》キリト君にご馳走してもらえる機会など、早々あろうとも思えないしね」
しゃちほこばったアスナからの敬礼を受けたその人は朗らかに笑ってそう言って、彼女の両隣でちょっとだけ苦い顔をしている二人の内ボクの方へと意味深な笑顔を向けてきながらーーーー
「ーー何よりも、我らが期待の新人候補ユウキ君までもが同席しての頼み事なのだからな。夕方からの装備部との打ち合わせがある忙しい身の上であろうとも駆けつけない訳には行くまい。勧誘している相手には、恩を売っておいて損はしないものなのだから」
「ぐっ」
あ、足下見てくれちゃってますね、ヒースクリフさん・・・。ちょっとだけだけどキリトに向かって抜刀しかけたアスナの気持ちが分かった気にさせられましたよ・・・。
ーーー昨日の晩にボクたちの目の前で起きた事件の不思議現象について検証するには、ボクたちには知識がなさ過ぎていた。
ボクはMMOに関してはロールプレイが基本のライトユーザーだし、キリトはネット全般に関してもSAOに関しても超詳しいけどデスゲーム開始後は攻略系の知識しか収集してこなかったし、アスナに至っては強いだけでゲーム全般に関するほぼ全ての専門知識面においてズブの素人に近い。
・・・おまけとして妙に人間関係が狭いというか、偏りがあって客観的視点で見なきゃいけない時には向いてない知り合い以外には仲良しさんが少ない。
事件が起きた際に身内からの保証や確証は証拠能力がありません。これ常識。
ーーで、この人を呼ぶしかなかったというわけで・・・・・・。
「ま、前向きにコウリョした上で、ケントウさせてもらいます・・・・・・」
「うん、前向きな良い答えを期待しているよユウキ君。君がどんな答えを出すのか楽しみだ」
テノールの聞いた声で放たれる穏やかな脅迫! 剣を抜いて脅してくる人なら実力行使で排除できるけど、笑顔で脅しをかけてくる人を殴っちゃったら罠にかかってジ・エンド! これも事件の常識! 「俺が責任をとる」とか言って部下に犯人殴らせといて翌週には何事もなく普通に仕事してる刑事ドラマの刑事さんたちがうらやましい限りだよ~(ToT)
「・・・しかし」
団長さんは、キリトの案内でやってきた相談会会場を見渡して、その内装にちょっとだけ感心したみたいな視線を向けながら。
「ーー趣のある店を相談場所に選んだものだね。私もはじめて見るタイプなので、新鮮な気分だよ」
「・・・・・・・・・すみません・・・・・・」
さらに縮こまっちゃったアスナ。まぁ、気持ちは分かるけど。
ボクも団長のマネして店内を見渡してみてからーーーゲンナリした顔にさせられる。
なんて言うか、胡散臭い。アインクラッドは刀こそあるけど《日本刀》は存在してない。シャムシールとかと同じように《曲刀》にカテゴライズされている。
たぶん、オバロと似たような設定でファンタジー世界に存在している裏設定があるんだと思うけど、少なくともボクが知る限りSAOには日本的要素はほとんど存在していない。
再現することはできるけど、あくまで既存のものを組み合わせて『日本風っぽく』再現するのが限界で、それ以上をボクは見たことがない。
しかも、それでさえ大昔の日本を再現したもので日光江戸村に出てくるような『なんちゃって日本風』みたいな感じの物が大半を占めている。ーーそれなのに・・・・・・
「・・・なんで現代日本の下町にありそうなお蕎麦屋さん風・・・? ポスターまで貼ってあるし、なんだか昭和チックな気がするのは気のせいなのかな・・・」
もしくは『グリザイア』で情報屋していたアメリカ人のお蕎麦屋さんな店。ハッキリ言って違和感アリアリです。
「制作者の意図と、店主の趣味設定などはこの際一先ず置いておくとしてだーー本題に入ろうか。まずはキリト君からだ。君の推測を聞かせて欲しい。君は今回の《圏内殺人》の手口をどう見ているのかね?」
「・・・大まかに考えて三通りだな」
団長さんに話を振られたキリトが真面目な顔して話し出した推測は三つ。
1、正当なデュエルによるもの。
2、既知の手段の組み合わせによるシステム上の抜け道。
3、アンチクリミナルコードを無効化する未知のスキル、あるいはアイテムが存在していた場合・・・・・・
「「三つ目の可能性は除外してよい(外しちゃっていいよ、キリト)」」
ーー彼の話を聞き終えた瞬間、ボクとヒースクリフさんが同時に即座に言い切ったからキリトだけでなくアスナもびっくり仰天した顔になってしばらくフリーズしてしまう。
「・・・断言しますね、団長。ーーそれに、ユウキも」
二、三度瞬きしてからキリトが聞いてきたからボクと団長さんは当然とばかりに頷いて返す。
「想像したまえ。もしも君がこのゲームの開発者なら、そのようなスキルなり武器を設定するかね?」
「まあ・・・しないかな」
「何故そう思う?」
「・・・フェアじゃないから。認めるのはちょいと業腹だけど、SAOのルールは基本的にフェアネスを貫いてる。圏内殺人なんて、このゲームが認めているはずがない」
さっきまでのボクたちの答えを聞いて驚いてた時の顔とは対照的に、キリトは真面目な顔になって断言する口調で言い切って見せた。
そのときのアスナと団長さんが見せた反応もまた対照的で、「えー・・・」と物スッゴく不満ありげな表情なのに気を使って口にはしなかったらしいアスナと、ほとんど顔の位置を動かすことなく目の細さだけを変えてジッとキリトの目を見つめる力を強めたヒースクリフさん。
それは三人にとっての《SAO》が、どういう存在なのかと言うことを如実に表してるようにボクには感じられていた。
キリトにとって、やっぱりSAOはデスゲーム化した今でも特別なんだと思う。あるいはデスゲームになったから特別さが増したのかもしれない。
さっきの『認めるのはちょいと業腹だけど』って言う表現を使ったのは、彼にとってのSAOをどちら側においていいのか分からなくなっているからなのかもしれないね。
被害者側か、加害者側か。犠牲となった死者たちを悼む一般的な倫理観を尊重するふつうの中学生の側か。
あるいはゲームに耽溺して寝食を忘れて寝る間も惜しんで楽しんでいたゲームが『現実の世界と入れ替わってくれた』ことに喝采を叫びたい廃人ゲーマーの側に立っていいのか否か。
キリトにはどこか、現実感の濃淡が分かれすぎてるところがある。普段は人の事情に深く関わるのを嫌って距離を置きながら、一歩下がった位置からの付き合いに終始しているスタイルなのに、危険の度合いが高まれば高まるほど人にも、そしてバトルにも真剣味が増していく。普段は接したがらない人にも積極的に、楽しそうに話しかけていくことができるようになる。
死が迫れば迫るほどに、生きていることを実感させてくれる人。それがキリトだ。
戦場で直ぐ近くから彼を見てきた人なら誰もが感じたことのある感想・・・『戦ってる時と、そうでない時とでは別人みたいになる』。
死にそうになるほど本気を出して、命が失われかけてると感じたときほど全力で生きて、『死の恐怖がないと生きてる実感を持つことができない』。
ーーーもしかりにそうだとしたら、彼の生き方は『命の有り様』に反してる。
人の細胞は最初から死ぬことをプログラムされて生まれてくる。その確定されてるゴールから少しでも距離をとろうと無駄を承知で足掻き続けるのが人の一生で、人生だ。
初めから敗けが確定している負け戦・・・それを人は生きている限り続けなくちゃならない。順当通りに死んで負けるその日まで、絶対勝てない死に抗い続けるだけが本質的に人の一生で成さなきゃいけない唯一絶対のことのはずだ。
でも、キリトは違う。体が死から遠ざかれば遠ざかるほど、心が生きることから遠ざかる。
戦争関連の特番で、死の近くに居続けることで生の充実感を得る人が戦場帰りの帰還兵さんの中にたまにいるって聞いたことがあるけど、それと近いのかもしれない。平凡な日常の中で生きてく方がいいと分かってはいるのに、日常の中だと違和感がずっとついて回る。
周りの日常に満足して生きていける人たちとの間に、自分が思っていることとの違いを合わせようとして合わせられない。無理して我慢し続ける。
その結果として、戦場から日常に帰ってくるために死ぬ気で戦っていた戦場にまた戻ってきてしまう。死にたくないのに、死ぬのが怖いのに、死の危険性が身近にないと生きていることに充足感が得られない。
(・・・もしそうだとしたら悲しいなぁー・・・・・・)
一度死んだことのあるボクから見たらそう思える。そうとしか思えない。
蝋燭の火が消え去る寸前に、一瞬だけボッ!と強く光る灯りを見たときみたいな、綺麗だけど悲しい気持ちにさせられちゃう。
普通に生きてる人たちと、一緒に生きてくことが出来ない事になっちゃうから。
人を生かすために戦ってるキリトには、本人が気づいてないだけでいっぱいの人たちから好かれてるんだと思う。でも、その人たちは『生きてくことを手伝ってくれた』キリトが好きな人たちであって、キリトに『生きていて欲しい』と願っている人たちだ。
その人たちの想いに応えるのはキリトにとって嬉しいけど、息苦しくて辛い。
一緒に居続けることで幸福と不幸を同時に味わってる旦那さんと、幸せ一杯の奥さん。一方通行じゃないけど、お互いの持ってる相手への思いが違っているのは不幸にしか生まない。
病人として、仲間外れとして、みんなを輪の外から見てきたボクにはそれが見えていたから・・・・・・。
「・・・キ、・・・ウキ? ・・・・・・ユウキ!
「うえ? ーーーふべっ!?」
ちょっ、辛! 辛いよこれ!? ボクの口の中に何入れてきたのさアスナ!?
「会話中にボンヤリしながら上の空で聞き流すような悪い子にはお仕置きです。反省しなさい」
白~い目をして、右手でポンポン唐辛子をお手玉しているアスナ。・・・テーブル上にあった奴だね・・・。“お店から出た消滅しますからご注意を”って但し書きが記されてる奴・・・。
見ると、テーブルにはボクたちが注文した料理《アルゲートそば》が人数分並んでいて、食べられる準備が出来てた。
確かお店のことを聞いたときにキリトから「この店の店主はアインクラッドで一番やる気のないNPCだから料理が来るのがスゴく遅い」って聞かされたけど、その間中ずっとボクは考え事してたのかぁ~。そりゃ怒られるよね、普通なら。
「ふむ。どうやらユウキ君も『この料理』の芳香に呼び戻されて、アインクラッドという架空世界の現実に帰還してきたようだし、ったん話はおいて食事を満喫するとしよう。冷めてしまったのでは楽しみにしていたらしいユウキ君に申し訳が立たない」
「ぐ、ぐぬぬぅぅ・・・」
またしても揚げ足を取られてしまった・・・なんだか団長さんって、出会ったときからボクに対してだけやたらと攻撃的なんだよなぁー。・・・似たもの同士は憎み合うとか・・・? ーー無い無い、絶対ない。そんな事はあってはならなーい!
「それじゃあ、いただきます! ずるるるーーーっ!!!!」
「「「あ」」」
誤魔化すために《アルゲートそば》を一気食いしたボク。
大丈夫! イケる! 味も素っ気もない病院食と比べたらなんて事無い!
アインクラッドのNPCさんたちが作る料理は、いつだって美味しくてマズい物なんて滅多に出会わなーーーーーーーー・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
勢いのまま味にも気づかずに食べ終わるまで食べてから一時停止。
しばらくボクを見ていた団長さんも「・・・・・・」無言のまま、見た目だけは『ラーメンっぽいナニカ』をスープまで綺麗に飲み干して食べ終えてからしばらく器の底を凝視して。
「・・・・・・これはラーメンではない。断じて違う」
「うん、俺もそう思う」
団長さんが時間かけてる間に食べ終えてたらしいキリトも同意して、団長さんは一度口を開きかけたけど思いとどまり、ボクにも料理に対する感想を視線だけで求めてくる。
未だにショックから立ち直れてないボクは、うつむきながらだけど素直な気持ちを吐露しておく。
「・・・ボクはこれをラーメンと呼ぶのは、徹ゲーのお友としてインスタントラーメンを愛する全てのゲーム好きに対して失礼だと思うんだ・・・」
くす、と。どこかで誰かが一瞬だけ笑ったような気がして顔を上げると、団長さんがテーブルに割り箸をぱちんと音を立てて置いてる所とかち合った。
「では、この偽ラーメンの味の分に、ユウキ君の感想に対する私の賛同を含めた分だけキリト君の質問に答えるとしよう。
話を聞いていなかったらしいユウキ君は、後で保護者さんに頭を下げてお願いして経緯について教えてもらいなさい」
「ぐぐぐぅぅぅ・・・・・・」
き、今日は一方的にやられてばっかりだなボク・・・。厄日なのかな? アインクラッドで一番昼寝するのに向いてる日の次はボクの厄日とか、何それすごく嫌なんだけども?
「現時点の材料だけで、《何が起きたのか》を断定することはできない。だが、これだけは言える。いいかね・・・この事件に関して絶対確実と言えるのは、君らがその目で見、その耳で聞いた一時情報だけだ」
「・・・・・・? どういう意味だ・・・?」
「つまり、アインクラッドに於いて直接見聞きするものはすべて、コードに置換可能なデジタルデータである、ということだよ。そこに、幻聴幻覚の入り込む余地はない。逆に言えば、デジタルデータでないあらゆる情報には、常に幻や欺瞞である可能性が内包される。この殺人・・・《圏内事件》を追いかけるのならば、眼と耳、つまるところ己の脳がダイレクトに受け取ったデータだけを信じることだ」
そう言って、出されていた氷水に手を伸ばして飲み干してから「・・・そして、ここからがユウキ君の感想に賛同したが故の付け足し分だ」と前置きしてから。
「RPGに限った話ではないし、多くの場合AVGでもSLGでもそうのだが・・・・・・捜し物というのは『最初の場所』か『一番面倒くさい場所』にあるものだと相場が決まっているものだ」
「ぶっちゃけたな! 自分自身のゲーマー脳とゲーマー思考を!!」
「て言うか、この事件はゲームじゃなくて実際に起きてる事案なんですけど!? 現実とフィクションを一緒くたにしちゃダメですよ団長!!」
慌てる二人を後目にヒースクリフさんは落ち着き払ったもの。「ごちそうさま」と手を合わせて立ち上がってから二人を見下ろして微笑んで、『SA0』という世界に生きてる『住人たち』の真実について少しだけ話す。
「キリト君、アスナ君。勘違いしてはいけないよ? 普段の我々ゲーマーが現実とフィクションを分けて考えなくてはいけないのは、『フィクションではない、現実を生きている人たちの方が多い世界で生きているから』だ。そうでない人たちの方が圧倒的大多数派を占めているアインクラッドにおいては現実論とフィクションとの境目はカーディナルによるシステム管理ぐらいなものさ。
禁止されてることは出来ないが、そうでないことは本人の意思次第で現実の一部として実現するのは不可能ではない」
「「!!!」」
「そも、世界観というもの自体が一人一人微妙に異なっているのが当たり前なのだからな。それを社会に溶け込ませるため『社会という一個のルール』に併せて作り直させたのが一般社会に流布する常識論であり、一般認識だ。それを踏まえて考えてみれば、今回の事件の異なる側面が見えてくるのではないかな?」
「そ、それはどういう・・・・・・」
「ユウキ君の感想へ追加する分はここまでだ。・・・いや、少し語りすぎてしまったかな? どうにも、好きなことに関して語りすぎるゲーマーの性というのはゲームが現実になった後にも解消できないものだね。
まぁ、ここまで着たらついでだ。お釣りとして取っておくといいだろう。『今の話の意味はユウキ君に聞いてみたまえ』そうすれば分かることだろう。それじゃあ」
そう言って片手を上げて去っていく団長さんの背中をボクは見ていなかった。
必死に記憶を掘り返して、事件の始まりから今までを振り返ってみて、ようやく『当たり前のことを“無視しちゃってた”』ことに思い至れた。
「あ、そっか・・・。そう言えばここって、ゲームであっても遊びの世界じゃないんだった・・・」
「ユウキ?」
「どうしたんだよ、急に・・・。そんなのは当たり前だろ? 今さら思い出すほどのことなのか? ーーそれともそれが事件を解決する糸口につながっているナニカなのか?」
二人が聞いてきて、キリトは途中から真剣味を増した顔で強く聞き直してきたけど、ボクはその二つともに首を横に振る。
「ううん、そうじゃないんだけど・・・でも、ようやく分かったことならあるよ」
「??? なにがだ?」
「今の段階で事件を解決する必要性がないって事にさ」
驚いて口をあける二人とも。当然だよね、園内PKが可能だなんて情報が噂だけでも流れたら大変だし、二人とも忙しいから早く解決して前線に戻りたいだろうし。
ーーけどね?
「サスペンスドラマとかが原因で誤解されがちなんだけど、本当の事件関係者はあんなに少なくないのが普通なんだよね。
孤島の館で密室殺人にしたって、実行犯はともかく依頼した真犯人や動機の裏事情が館とも孤島ともぜんぜん関係のない赤の他人事である可能性はいくらでもありえるんだから、その場にいる身内だけで事件が始まって終われる幸運に恵まれるのは超少数例。
だいたいの場合は、もっとしょうもない形で始まって進んで終わる。それこそドラマなんてリアルの事件の中には実在していない。
結果から逆算すればドラマっぽく見えるだけで、個別のできごとは平々凡々な日常風景の積み重ねでしかないのが当たり前なんだよね」
「う・・・。また夢のないことを・・・」
「いやまぁ、殺人事件に夢なんて求めちゃいけないと言えばいけないんだけどね・・・」
「そして今回の事件の場合、ボクたちには滅茶苦茶厳しい条件付けが科されてる。時間も人手も情報源さえ限定されまくってる。挙げ句の果てには現実の事件を捜査するときのノウハウすらない。
『フィクションで得た知識だけがボクたちゲーマーのすべて』だ。これじゃあ現実論を事件に持ち込んだって意味はないと言われても仕方がないとボクは思う」
「う、うん・・・なんだか分かる話だったわ・・・。現実の受験とか思い出させられて少しだけ病みそうにもなったけど・・・」
「俺はそうでもなかったが・・・クラスの連中が口さがない事いってた記憶だけは思い出した・・・・・・」
「でも、逆に言えばゲーマーしかいない世界で起きた事件だったら、犯人もゲーマーの人間であってNPCじゃないことになる。当然だよね? SAOに支配されてるNPCに圏内でのプレイヤー殺害をする意志は与えられていないんだから。
NPCモンスターに殺されたら現実でも死ぬデスゲームの中で、NPCに殺す意志のない圏内で人を殺したいと思えるのは人間だけだ。
現実世界からはなれたデジタル世界にデータ化された体で冒険するしかない人間にシステムを越える力はない。原則としてはだけど・・・少なくともキリトたち以上のプレイヤーでもない限り《圏内で人は殺せない》と定めた茅場昭彦のルールを破ることは決してできないことになる」
「そうかもしれんが・・・仮にそうだったとして、それが事件にどう関係してくるんだ?」
「思い出してキリト。ボクたちは事件について何一つ『自分で調べて事実だと確認した情報は無い』んだよ?」
「「!?」」
「初めからボクたちはヨルコさんっていう、唯一の目撃者しか得られていない。彼女が教えてくれた情報を元にするしか事件を捜査する術を与えられてはいないんだよ。
彼女が言って、ボクたちが聞いて、それを元に調べて得られた情報だけで事件を頭の中に構築してる。教えられてない裏設定がある可能性を事件の始まりからずっと無視し続けてきちゃってる。唯一の承認である彼女の言葉を起点にして考えることが前提として成立しちゃってるんだよ。
これじゃあボクたちの知ってる範囲外で起きてることや、起きてた事柄なんかには教えてもらわない限りたどり着くことなんか絶対にできない。
最初から最後までサスペンスドラマの視聴者として脚本家から与えられる情報順に事件を推理していくしかなかったら、次の被害者が殺されるまで対応できないのは当然なんだよねー」
「・・・ヨルコさんを、疑えってことか・・・?」
「と言うより、彼女も『事件に関係している者として』容疑者の一人として見るべきなんだ。本来ならそれが正しいんだから。
被害者の知り合いで身内だからって理由だけで警察に疑われて泣いてる遺族はかわいそうだ。『だから犯人じゃない』なんて理屈は真犯人に利用されやすいだけだからね。
彼女を信じたいなら、まずは彼女の言葉も疑って調べてみて確証を得るため努力しないとダメだ。自分の主観で信じることと、信じている相手の主観は同じ物じゃないんだから」
「・・・でも、それだとどうするの? 確かめようにも時間が乏しすぎるわ・・・。このままだと私たちは前線に・・・・・・」
「大丈夫だよ、アスナ。今回の事件の場合は簡単だ。最初から最後まで重要人物なのに一言もセリフが出てきていない人がいるから。その人だけを疑えばいい」
「「・・・それは誰?」」
「《グリムロック》さん。ヨルコさんがやたらとプッシュしてくる上に、嘘ついてるようには微塵も感じられない良い人のイメージもってていいはずなのに、どう言うわけだか一瞬たりとも姿を現そうとしていない。
これだけ《黄金林檎》の身内だけでメインが固められてる事件なのに、たった一人だけイメージだけが先行して一人歩きさせられてる人物。
彼が犯人かどうかは別として、彼から話を聞かない限りはすべての情報を半信半疑で聞いてみて、自分たちの判断と計算式だけで組み立て直した方がいいとボクは思う。
だって、グリムロックさんに話を聞いて確認しないと本当か嘘か判別しようのない情報ばっかりしか集まってないんだもん」
「相手の言葉も自分の言葉もデジタルデータに変換されて、本当の本物なんて『自分がそうだ』と思えた物だけしかない。
自分が見聞きした相手の情報を脳に送って考えて、『本当だって信じた人と言葉だけが』アインクラッドに生きてるボクたち一人一人にとっての真実で現実なんだよ、きっとね・・・」
つづく