ほんのちょっとだけ格好いい転生憑依ユウキが最後ら辺で見られます。
「ふんふんふ~ん♪」
午前九時。ボクは鼻歌を歌いながらアスナを待っていた。場所は七十四層にある主街区ゲート広場のゲート前だよ。
待ち合わせ時間は過ぎちゃってるけど、ボクはぜんぜん気にならない!
「まだかなまだかな~♪ 学研のアスナはまだかな~♪」
鼻歌だけじゃ飽き足らなくて、ついには本当に歌い出しちゃうほど楽しくて嬉しい女の子と時間決めての待ち合わせ! 男の子だったら誰もが夢見るデートイベントです! 元男の子のボクでも張り切っちゃうよー! 「ごめーん、待った~?」「んーん、今きたとこだよ~♪」とか、やってみたいよね一度くらいは! だって男の子なんだもの!元だけど!
「!! そうだ! キリトにも今日のこと伝えておこうっと。もしかしたら迷宮区で会えるかもだしね。えーと、メッセージ入力はっと」
ソロで今もビーターしているキリトは、はっきり言っちゃって根無し草。家はあるけど寝るぐらいしか使ってないから、会いに行ってもほとんど会えない。フレンド登録してあるから生きてることはわかってるし、マップでフレンド追跡すれば現在地もわかるんだけど偶然近くにいるのはほとんどない。むしろ、ダンジョンの中でばったり!が一番多いパターンなぐらいだ。
だからダンジョンに入るときに思い出したらメッセージ打つ癖を付けてある。キリトが困っていて助けて欲しいときにボクが近くにいられたら絶対助けにいきたいし、ボクが困っていてボク一人じゃどうにも出来ない問題だったらキリトの力が絶対必要になると思ってる。
パソコン関係と機械関係はボクもそれなりだけど、キリトには絶対敵う気しないからねー。
「よっし、メッセージの送信完了っと。あとはアスナを待つだけかな~。
きっと君は来ない~♪ 一人きりのクリスマスイブ♪ って、あれ? 選曲間違えちゃったかな? えーと、ほかにも確か待ち合わせ系の名曲が・・・」
「きゃあああ!?」
「ふえ?」
一段落して落ち着いてたら、背後から悲鳴。振り向けばそこにアスナがいた。
ーーー地上1メートルくらいの高さにある中空から、ボクに向かって吹っ飛ばされながら・・・・・・
「え? え? えぇぇっ!?」
なに!? なにが起きたの!? 何があったの!? 空から飛んでくるアスナの身に、いったい何があったの親方さん!?
いや、アホなネタ考えてる場合じゃない! これはギャルゲーだったら選択肢が表示されてるイベントだ! 避けるか受け止めるかが正解のイベントで、間違っても立ち止まったまま正面衝突されて二人まとめて地面を転がりドサクサで胸を揉んだりしたらダメなイベントで・・・あれ? ラブコメだとそっちが正しい対応だったんだっけ? ふつう滅茶苦茶嫌われそうな気がする選択肢なはずだと思ったんだけど、ラブコメ展開の場合はむしろ正解でーーーーー
「よ、避けてーーー!!!」
「!! わかったよアスナ! てやっ!」
あ。・・・飛び退いちゃった。考え事しているときにアスナの声で命じられたから、つい条件反射的行動で・・・って、言い訳している場合じゃなかった! アスナが!
ズザザザザザザァァッ!!!!
・・・顔面スライディングしちゃってるね。ちょっとだけ間に合いませんでした。
「ご、ごごごごめんアスナ! 大丈夫!? 本当は受け止めるつもりだったんだよ!? わざとじゃないんだよ!?
ただ、ボクの身体ってジッとしてられないって言うか、動き回れるのが楽しいって言うか、つまりはそう言うアレなんだよ!」
どれだよ!? 自分で自分の言葉に内心ツッコミを入れながら、必死にアスナに事情をわかってもらおうと説明するボク! 気分は1時間以上デートに遅れてやってきたダメな彼氏だ! 一時間以上前から待ってたって、これじゃあ待ちぼうけさせたのと相手にとっては変わんないね!?
「・・・・・・」
ゆっくりした動作で立ち上がりながら埃を払う仕草をして(ゲームだから汚れないけど、怒ってますアピールには使えるんだよね・・・)アスナはボクの顔を見てニッコリ。
「気にしなくていいよ、ユウキ。私はぜんっぜん気にしてなんかいないから(にっこり)」
絶対ウソついてるときの言葉と笑顔だコレーーーーーっ!?
どうするの!? どうするのボク!? どうするの!? アイフルって《アインクラッド》にあったっけ!?
「ア、アスナ様! 勝手なことをされては困ります!」
「わひゃっ!?」
今度はすぐ後ろの背後から男の人の声。振り返ればそこに頬がこけて不健康そうな、グラディールさんのゾンビっぽい顔。悪いけどハッキリ言っちゃうね? ーーボクが前世今生ともに病院慣れしてなかったら泣き出してた自信があるホラーな画だったよ。
「さあ、アスナ様、私がきたからにはもう安心です。ギルド本部まで戻りましょう。団長も首を長くして待っておられます」
「嫌よ! 今日は活動日じゃないんだから!」
そして、そんなボクにはアウト・オブ眼中なゾンビナイト・グラディールさん。さすがにこれだけ失礼なことされるとボクもカチンとくるものはある。アスナの部下として真面目に働いてるからって、プー太郎が我慢して気を使ってあげられる範囲にも限度があるんだよ?
一度くらいちゃんと注意して上げた方がいいかもと、ボクが考えて右足を踏み出しかけたその瞬間。アスナからの意外すぎる一言で足が止まった。
「ーーーだいたい、アンタなんで朝から家の前に張り込んでるのよ!?」
・・・え? 今ナンテイッタノカナ?
「ふふ、どうせこんなこともあろうと思いまして、私一ヶ月前からずっとセルムブルグで早朝より監視の任務についておりました」
なっ!? なんだってーーーっ!? ま、まさかまさかバカなことが!?
「そ・・・それ、団長の指示じゃないわよね・・・?」
「私の任務はアスナ様の護衛です! それには当然ご自宅の監視も・・・・・・」
「含まれないわよバカ!!」
ーー確定。この人は間違いなく、“アレ”だ。“アレ”で間違いない。
「聞き分けのないことをおっしゃらないでください・・・さあ、本部に戻りますよーーー」
アスナに一歩近づくグラディールさんと、怯えたように一歩退くアスナ。
そして、その間に空いた隙間に滑り込むようにして割り込むボク。
「・・・・・・」
ジッと相手の目を、責める視線で睨みつけるボク。
相手は、そんなボクを鼻で嗤う。
「なんだ、また貴様か絶剣。お前のように名ばかりで実を伴っていない半端者がこの俺の行く手を遮れると本気で思ってでもいるのか? 呆れた奴だ。身の程をわきまえるのだな」
「・・・グラディールさん。ボクは今、ようやくわかったよ。薄々とは感じてたけど、あなたは本当にアスナの・・・・・・」
「ほう? ようやく理解できたわけだな。その通り、俺こそがアスナ様の護衛役に誰よりも相応しい男、グラディー・・・・・・」
「ストーカーだったんだね!?」
「違うわっ!?」
ボクの糾弾にグラディールさん(ストーカー、または愛の戦士でも可)は青白い顔を真っ赤にしながら怒鳴り声で返してくる! この反応はやっぱりだ! 後ろめたい事実の図星を指されて驚き慌てて誤魔化そうとしているときの過剰反応だ!
「私は断じてストーカーなどではない! 絶対にない! 私は誇りある血盟騎士団の一員であり、アスナ様の護衛役という名誉ある役目を与えられている攻略組プレイヤー・グラディール・・・・・・」
「その通りよユウキ! その人は私のことをストーキングしていた変態ストーカーよ!」
「いや、違いますってアスナ様!? 誤解です! ・・・おいコラそこのモブ剣士ども! 人のことを指さしながら「うわ~、キモーイ」って顔をするんじゃない! リアルを思い出して死にたくなるし殺したくなるだろうが!!」
犯罪者予備軍が周りで見物している人たちまで威嚇しだした。もうこれは間違いようがないほどの黒だ。ちくそぅ・・・今までイライラすることはあったけどギルド勤めの社会人とプー太郎な傭兵助っ人ソロプレイヤーで立場の違いから配慮して上げてたのにぃー。裏切ったな! ボクの気持ちを裏切ったキミのことはもう、許してあげないからねグラディールさん!
「ええい! 黙れ黙れ黙れ野次馬どもめが!! アスナ様! このように低俗な輩がさえずりあう場所はあなた様に相応しくありません! 危険です! はやく安全なギルド本部の建物へ参りましょう! さぁ、早く!」
「・・・今のあなたがいる場所以上に危険な場所って《アインクラッド》内にあるとは思えないんだけど・・・?」
「またそんな身勝手なお言葉を! 団長も心配しておられます! さぁ、私と一緒にギルド本部へーーーー」
「まぁまぁ、落ち着いてよアスナ。グラディールさんも」
ボクは敢えてにこやかな作り笑顔を浮かべて二人の間に割って入っていく。本当は腸が煮えくり返りそうなんだけど、人って本気で怒ったときには笑顔になるってよく聞くからさ。笑顔はもともと威嚇の意思表示だよ☆
「ねぇ、グラディールさん。ここには一杯の人たちの視線もあるし、今をときめく血盟騎士団の団員同士が言い争っているところを視られるのは外聞が悪いと思うんだ。
だから悪いんだけど、今日のところはアスナの護衛はボクに任せて帰ってもらうわけにはいかないのかな? もちろん、後できちんと血盟騎士団の本部にはお詫びと誤りにいくことを約束するからさ」
「・・・承伏しかねる提案だな。私がアスナ様を護衛するよう言いつけられたのはヒースクリフ団長であり、団員が上からの許可なく勝手に役目を放棄することは許されない。
どうしてもと言うのであれば、五十五回層にあるギルド本部まで行って団長に直談判してくるといい。団長の命令さえあるならば、私はいつでもアスナ様の護衛を相応しいと認められた者に譲る覚悟は出来ているのだからな」
「ユウキが一人でそんなとこまで行ってたら、それこそアンタの思う壺じゃない! 女の子と二人きりになって、何する気なのよアンタ!?」
「ですから、そう言う誤解を解きたいと言っているのですアスナ様!」
「だからって! ーーユウキ?」
ポンと、アスナの肩を叩いてから前に出て。ボクはさっきと違ってにこやかな作り笑いを浮かべるのはやめて、ごく自然体で身体をユラユラさせながらグラディールさんに近づいていく。
「ーーつまり、こういうことだよね? グラディールさん」
“間合い”に入ったことを感覚で確認して、話し始める。
「ボクたちがこれ以上どうお願いしても、今すぐアスナの護衛役を譲るつもりはないってことなんだよね?」
「血盟騎士団の団員に二言はない。団長の許可さえ持ってくれるなら今すぐ役目を譲ると言った言葉も、上からの許可なく役目を放棄することは許されないとした発言も、どちらも共に嘘偽りなき本心であると確約してやろう」
「そっか。じゃあ、仕方がないね」
ニッコリ笑って、握り拳をひとつ。
「戦おっか?」
「ーーはぁ?」
思いもかけないことを言われたみたいな間抜け面を晒したグラディールさんの顔面に、ボクは素手のままで悪人成敗パンチでノックバック! 戦闘慣れしてない人ならともかく、最前線がホーム近くにある攻略組にとっては「びっくりさせられた」以上の意味はまったくない。無意味な攻撃モドキだ。そして、意味がないからこそ後付けで意味を付与することだって出来る。
「貴様! いきなり何をする!?」
悲鳴を上げて吹き飛ばされてったグラディールさんが、起き上がりざまに激しく睨みつけてくるけど、今日は萎縮して上げない。ボクは怒ってるんだからね?
「別に驚くことじゃないでしょ? アスナの『護衛』なんだから、アスナに近づく悪い虫から卑怯な不意打ちされるぐらいの覚悟はしていて当然だ。HPが最後の1桁になってもアスナを守り続けてみせるんだってね」
「う・・・ぐ・・・」
「ね? そうなんでしょ? アスナの護衛役にもっとも相応しいと自認しているグラディールさん?」
ボクは相手の返事を待たずに剣を抜き放つ。ここが圏内である以上は戦えないし、ダメージも与えられない。
でも、デュエルは別だ。圏内である街のど真ん中だろうとも、この人を全力で懲らしめてあげられる!!
「さぁ、剣を取って。ボクと一対一で勝負しよう。デュエルの挑戦だ。受けてくれるよね? 誇り高い血盟騎士団の団員で、アスナの護衛役っていう名誉を与えられてるグラディールさん」
「ユウキ!? そ、それは・・・」
アスナがボクを気遣って声を上げてくれる。
嬉しいけど、アスナ。これは必要な人との軋轢と摩擦だから、しょうがないんだよ?
「アスナ、ぶつからなきゃ伝わらない気持ちだってあるし、ぶつけてあげなきゃ伝わらない相手だっているんだよ。
たとえば、『お前のせいで自分はこんなに嫌な思いしてんだぞコノヤロー!』とかね?」
「!!!!」
自分以外の人と言葉だけで分かり合うのは難しい。
言葉で想いが伝わったとしても、伝わった相手が嫌だと言って拒絶してきたら、伝えた人は相手の拒絶をわかってあげることが出来るのかな?
どこまで行っても人は一人で生きていて、どことも誰ともつながることは一生できない。
だからこそ憧れるんだと思う。人と繋がれた未来の自分に。人とわかり会える可能性に。
そしてきっと、だからこそ絶望するんだと思う。繋がろうとして拒絶された痛みと寂しさに。繋がれたと思った気持ちが独り相撲だったときの恥ずかしさと、行き場のない自己責任に。
でも、だからこそボクはその先で作ることが出来るのが『人との繋がり』なんだと思ってる。
独り相撲だと知って恥ずかしくて投げ出したくなって、それでも続けて何度も何度も恥をかいても諦めきれずに人との関係と繋がりを求め続けた結果として出来るのが『一人で生きてる人同士の繋がり』。二人で一人。
一つになったわけじゃない。一人一人が一人きりのままで、一人の人と繋がりあえた関係性。それが本当の意味での信頼で友情。
その過程で人とぶつかることがあるのは仕方がない。人を拒絶してる人と、人と繋がり合いたい人。違うものを信じている者同士、互いの思いをぶつけ合わなきゃ自分の方が正しいに決まってるで始まって終わっちゃうに決まっているから。
「ふ、ふざけるな!! 貴様のような雑魚プレイヤーが私に敵うものかぁ!! わ、私は栄光ある血盟騎士団の・・・・・・」
「剣を抜けグラディール。強さは言葉で語り、信じてもらうものじゃない。実力で示して信じさせるものだ。それが出来なきゃキミが雑魚だ。アスナの護衛は務まらない。
キミが自分こそ相応しいと豪語して見せた言葉の覚悟と実力を、ここでボク相手に証明して見せろぉっ!!」
つづく