旅路の終わりは、夢の始まり   作:ひきがやもとまち

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諸事情あってアニメ第二期と原作7巻の内容を確認できない状況下で書き上げていた『原作1巻版3話』の初稿版です。「ゾンビ騎士の碑」は確認後に書き直した改稿版にあたるものですね。
原作ユウキを見れない中で書いたため自己満作品になってしまいボツにしたのですが、折角なので投稿しておきます。

原作を意識した改稿後と異なり原作を自分好みに改造(改悪?)した内容になっているため、少しだけシリアス寄りになってます。


原作1巻版3話【プロトタイプ】

【ユウキ から1vs1デュエルを申し込まれました。受諾しますか?】

 

「勝負方式は《初撃決着モード》でいいよね? 手っ取り早いし、どっちが上か見ている人にも分かり易い」

 

 顔面蒼白になったグラディールさんの視界に映し出されるよう、僕は右手をゆっくり操作して半透明のシステムメッセージを出現させた。

 

「勝負を受けたのは君だ。まさか逃げたりはしないだろう? 大きな口を叩いたからには、負けたときにどうなるかを覚悟の上で証明してもらうよ?」

「ガキィ・・・・・・ガキィ、ガキィ、ガキィガキガキガキガキガキィィィィッ!!!!!!」

 

 怒りと屈辱から来る震えでプルプルしながら指で【Yes】のボタンを押し、オプション設定で言われた通りのデュエル方式を選択する彼。

 

 ボクは不敵に「にやり」と笑ってみせるけど、内心ではちょっとどころじゃなく呆れていた。

 

 普通デュエルは友達同士の腕試しとして行われる。そういうときの勝負方式は一般的に、挑戦を受けた側と申し込んだ側との間で話し合い、双方が納得できる条件のもと合意を得てから決められるものだ。

 

 まぁ、本来なら攻撃しても意味が無い圏内で戦い合うためには相手が受けてくれなきゃ無理な訳だし当然なんだけど。だからこそ眠ってるプレイヤーに無理矢理押させて一方的に殺したりなんて殺人プレイが横行していた時期があったりするんだけども。

 

 でも、今回の場合グラディールさんは挑戦を申し込まれた側のプレイヤーなのに、申し込んできた側の提示したルール設定にアッサリ乗ってしまった。

 ゲームはルールを作った側が圧倒的に有利なのは子供でも知ってる当たり前の発想だ。だから今、ボクたちは茅場昭彦の作り出したSAOに閉じ込められ出られなくなっていて。GMのカーディナルから許してもらえる範囲内でルールの目を掻い潜るのに明け暮れている。

 

 彼の選択はSAOを支配するシステムに挑戦状を叩きつけるようなものだった。

 承知の上なのか、あるいはSAOじゃなくてボク相手なら勝てると思っただけなのか・・・。

 

(・・・まぁ、きっと後者なんだろうなぁ・・・・・・)

 

 顔には出さずに心の中で《彼》を思い出しながらため息を吐いてたら、視界に映し出されたメッセージに【グラディールが1vs1デュエルを受諾しました】って表示されて六十秒のカウントダウン開始。

 ボクはもう一度笑って、もう一度心の中でため息。・・・いくら何でも差があり過ぎるよ、グラディールさん・・・

 

「ご覧くださいアスナ様! 私以外に護衛が務まる者など居ないことを証明しますぞ!」

 

 ボクが一応、アスナに向けて「いいよね?」を確認する視線を送って頷き返してくれたお返事に、なぜだかグラディールさんが元気よく返してる。・・・ストーカーっぽさが半端ない勘違いぶりだった。本当にアレなんだね、この人って・・・。

 

 街のど真ん中で行われる一対一のデュエルとあって、即座に大勢のギャラリーが押しかけてくる。

 

「ソロのユウキとKoBメンバーがデュエルだとよ!」

 

 そんな感じで大きな歓声を上げながら騒ぎ出す人たちの言葉が、ボクにはちょっとだけ癇に障る。

 

 今回のデュエルで選ばせた《初撃決着モード》は、最初に強攻撃をヒットさせるか、相手のHPを半減させた方が勝ちとなるルールだ。どちらかが死ぬまで殺し合う本格的なデュエル・・・決闘方式じゃない。敗者は出来ても、人死にが出る恐れは無い。

 

 ―――だからって、ゲームオーバーが本当の死に直結しているゲームでプレイヤー同士が剣と敵意を向け合う決闘を見世物にしなくたっていいじゃないか!

 

 ボクは本気で心の底からそう思い、怒りを抑え込むのにいつも通り苦労する。

 そしてまた思う。

 ・・・彼なら、こんなバカなことは絶対しない、って。

 

 誰よりもストイックに剣一本でSAOを生き抜こうとしている《ビーター》は、命懸けになるかもしれない世界で半端な気持ちのまま他人同士のデュエルを見物して愉しむような真似は絶対にしない。

 

 

【DUEL!!】

 

 

 ボクたち二人の丁度中間当たりに浮かんで表示されていた文字が弾けて消えて、最後に残った一桁の数字も消去されて仕合が始まり、グラディールさんが動き出す。

 

「ツェェイッ!!!」

 

 得物の装飾剣を光らせてスードスキルを発動。突進系の上段ダッシュ技《アバランシュ》

 彼の攻撃開始から一瞬遅れてボクも動き始める。

 

「・・・よっと」

 

 ソードスキルを使おうとしている風に見せかけた構えを崩して“後ろに飛ぶ”。

 

「な・・・にぃぃぃぃっ!?」

 

 驚愕に歪むグラディールさんの顔。システムアシストで現実の自分には絶対不可能な早さと力で斬りかかれるSAO最大の売り《ソードスキル》。

 ゲームだからこそ出来るリアルではあり得ない必殺剣。それが持つゲームだからこそ生じる致命的欠陥。

 一度発動させてしまったシステムは使い終わるか一定条件を満たすまでキャンセルすることが出来ない。

 そういうルールだ。この世界《アインクラッド》がプレイヤーたちに力を貸してくれる代わりに課している縛り。SAOから脱出するために戦っているボクたちは、システムの力に頼らないと生き残ることさえ難しい。

 

(キリトだったら別かもしれないけどね!!)

 

 ボクは最強馬鹿でソード馬鹿の親友のことを思い出しながら自動的に動くことしか出来ない相手を、システムで強化された視力も使ってジックリ観察して使うべきソードスキルを選択する。

 

「《ノヴァ・アセンション》!!!」

 

 技発動後の硬直時間が長いけど威力は絶大な連続攻撃系ソードスキルを発動させて、苦悶に顔を歪ませながらボクが来るのを待ってることしか出来ないグラディールさんの装飾剣に、何度も何度も自分が持つ剣の刃を叩き込む!

 

 パァァァァッン!!!!

 

 現在、確認されている中でも最大級の威力を持つスードスキルで連続攻撃食らわされたら、プレイヤーメイドでお金かけまくって作らせたらしい無駄な飾りが多すぎる装飾剣なんて一溜まりもない。

 

 アッサリと耐久限界を超えて砕け散り、ポリゴンの粒子となってカーディナルに帰って行ってしまいましたとさ。

 

「き、汚ぇ・・・」

 

 誰かがつぶやくのが聞こえたけど、正直知ったこっちゃない。

 たかだかストーカーが自己顕示欲を満たしたいためだけに受けた勝負を本気でやる義理はない。見栄を張るためだけに行われる勝負モドキで必死になれるほど絶剣の剣は安くない。

 

「認めない・・・このような敗北を、俺は絶対に負けたなどと認めてなどやるものか! 殺してやる! 貴様絶対に殺してやる・・・・・・っ!!!」

 

 ボクの前では武器を失ったグラディールさんが、激情のあまり青白い顔を真っ青にしながら震える手でメニュー画面を開き、新しい別の武器を取り出そうとする。

 

 ――守るべき対象のある人が、武器を持ったままの敵に後ろを見せながら壊れた武器の代わりを取り出すために震える指先でゆっくりと・・・・・・。

 

「はぁ」

 

 ボクはため息を吐きながらゆっくりと彼に近づいて。

 

「こんな小細工で勝ったと思うなよ! まだ勝負は終わっていな―――ひぃっ!?」

 

 武器を取り出し終わるのを待ってから、相手の振り向きざまに剣を一銭。首筋に刃を当てて動きを制止させて視線で縫い止める。

 

「勘違いしちゃいけないよ、グラディールさん。まだ勝負は終わっていない。決着の条件は互いに満たしていない以上、まだデュエルは継続している。

 負けたと思ったのはキミだけだ、ボクはまだ勝ったつもりになんてなってない。キミが武器を替えてデュエルを続けさせてくれるなら、ボクは喜んで卑怯者としてストーカーのキミを成敗するだけだよ」

「・・・・・・」

「最初に言っておいたよね? これはボクが君を試すためのデュエルだって。キミがアスナの護衛役として相応しいかどうかを試すための・・・ね。

 護衛対象をほったらかしにしたまま意地の張り合いに興じて、あまつさえ武器を壊された後まで卑怯者を相手に向かっていこうとする剣士に誰かを守るための役割が相応しいと、キミは本気で思っているのかな?」

 

 あ、と複数の場所から誰かがつぶやくのが聞こえた。

 そう、これは初めから決闘なんかじゃなかった。そういうシステムでしか街中で戦えないからデュエルしただけで、本来の目的は“腕試し”のまま変わっていない。

 ただ、倒すための力を試したんじゃなくて、守るための力と覚悟があるかどうかを試す試験用に評価基準を変更していただけのもの。

 

 敵を倒すことと、敵から守り抜くことは似ているようで全く違ってる。

 誰かを守るために振るわれる剣は、守る対象に自分の見栄やプライドは含まれてちゃダメなものだから―――。

 

「キミが本当に、自分はアスナの護衛役として相応しいと断言するならボクの挑発は無視するべきだったんだ。護衛対象に少しでも危険が迫るような場所からは急いで連れ出して逃げ出すのが正しい護衛役のあり方だ。

 優先順位の最上位にあるのが常に護衛対象の赤の他人で、自分はその人を守るためなら囮役だろうと道化役だろうと喜んで引き受けて名誉にしなきゃいけないのが護衛役なんだから当然のことだよ。

 キミはデュエルを受けた時点で護衛役としては失格だったんだ。どんなに強くても、敵を倒しまくれても。守りたい人を守り切れななかった守るための剣はナマクラでしかないんだから・・・・・・」

「・・・・・・・・・~~~~~~~っっっ!!!!」

 

 いろいろな感情で満ち満ちて、青から赤へ、赤から黄色へドス黒へと七変化を繰り返すグラディールさんの顔色。たぶん、リアル以上に変化が激しくなってるんだと思う。脳と直接つながってる世界だと変なところで現実の自分を超えちゃってて嫌だよね。

 

「・・・そこまでです、二人とも。この勝負は血盟騎士団副団長の名と権限の下、双方共にルール違反により無効とさせてもらいます。よろしいですね?」

「了承です。無益な争いを調停する秩序の諸語者、血盟騎士団に感謝を」

 

 彼が何か言い返す前に格好つけてボクが言ったことで既成事実は成立された。今更彼が何を喚いても取り戻せるものはなにもない。むしろ今の時点で守れたものまで失ってしまう羽目になる。

 

 ボクはアスナに目配せして、彼女も了解とばかりに頷き返してくれる。

 

「グラディール、血盟騎士団副団長として命じます。本日を以て、私の護衛役を解任します」

「・・・・・・なん・・・なんだと・・・・・・この――――」

「ただし、これはあなたの能力面に対して疑いを持ったが故の決定ではありません。あなたの特性と護衛役という任務内容そのものが不適切な組み合わせだったと判断したからです。

 私はギルドの副リーダーとして優れた人材に適切な役割と役職を割り振らなければならない義務と責任を負っています。個人的な好悪の念だけを根拠として優れた団員の能力を無駄遣いする訳にはいかないのです。

 どうかあなたにも、誇りある血盟騎士団の一員として義務と責任を全うしてくれることを強く所望いたします」

 

 凜々しくて騎士らしいアスナの対応に周囲のギャラリーからは拍手喝采。口笛まで吹き出す始末だ。さっきまで場の主役だったボクとグラディールさんなんか完全にサブキャラの「お姫様に仕える騎士A、B」にされちゃってるね。狙い通りだから別にいいんだけどさ。

 

「・・・・・・承知致し・・・まし・・・・・・た・・・・・・」

「重ねて言いますが、今回のデュエルは変則的なものであり、相手方の方に著しく問題行為が目立った決闘モドキに過ぎませんでした。あなたの能力を客観的に評価する類いのものではありません。あまり気に病まれないように」

「・・・・・・は。お心遣い、ありがたく・・・」

「いずれ彼女には血盟騎士団のギルドマスター・ヒースクリフ団長から直々に何らかの処罰が下されるよう、私の方からも口添えするつもりで居ます。くれぐれも早まった真似だけは慎んでくださいね?

 これはギルドのサブリーダーとして、野良プレイヤーとギルドメンバーとを秤にかける訳にはいかない立場から来るお願いです。どうか理解してください」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ」

 

 長い時間、沈黙してからやっと返事を出したグラディールさん。いろいろな感情を押し殺しているせいなのか完全に表情を殺して感情のないみたいな顔をしたまま背中を見せて去って行く。

 そこからは何も言わない、何も言えない。何も言わなければ何も失わずに帰っていけて、何か言ってしまえば失うものが多すぎる。そんな敗走。

 

 やがて、自分がさっき出てきたばかりのゲートに着くと。

 

「転移・・・グランザム」

 

 とつぶやいて青い光に包まれながら消えていっちゃった。・・・ボク以外、誰も見送ってないけどね! みんなメリーじゃなくて、アスナに首ったけになってるからアウト・オブ眼中だったんだけどね!

 

 そして、しばらくはギャラリーたちによる「アスナ様!アスナ様!」コールが鳴り響いて、引き攣った作り笑顔のアスナが役割上の愛想笑いでファンサービスして上げてるシーンが続きます。

 

 

 やがて、皆の輪が解散されてアスナがボクの方へと歩いてきてから。

 

 

 

 

「・・・・・・とりあえず加速度百Gで殴るけど、いいわよね?」

「なんでさっ!?」

 

 ボク頑張ったのに! いろいろ守ったのに! アスナの立場とか評判とかグラディールさんの最低限度の社会的地位とかいろいろと守る為に戦ったのに!

 なのに、どうしてレイピア振りかぶった《閃光》に殴られようとしてるのさ! 訳わかんないし!

 

 

「自分のせいでもないのに増えてしまった色々な渾名の数々・・・・・・その実態を発端として思い知りなさい、ユウキ!」

「理不尽だぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 ほらね? 守るために戦ったら名誉とかプライドとか全部なくなっちゃうでしょ?

 そういうもんです、守るために戦うヒーローなんて。

 

 

 

「ていっ! 悪い子成敗!!」

 

 ガツンッ!

 

「・・・・・・きゅ~・・・・・・(; ̄O ̄)」


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