旅路の終わりは、夢の始まり   作:ひきがやもとまち

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前話の最後の台詞に対するフォロー及び後半はギャグ回&最初の原作崩壊回です。

なお、作者のネトゲ知識はにわかレベルですので、その点は予めご理解してお読み頂きたい。


2話「ベーターは廃人を意味しない」

「「「・・・・・・・・・」」」

 

 トールバーナの噴水広場に集まった総勢四十四人以上の冒険者たちが沈黙に包まれた。

 いや、言葉遊びはやめよう。ボクが黙らせたんだ。

 言ってはいけない一言を言ったことで、ボス攻略のために集まった現時点での凄腕プレイヤーたち誰もが言うべき言葉を失っている。問題発言を最初にしたキバオウさんも例外じゃない。

 でも、ボクが後悔することはないだろう。

 たぶん、きっと一生忘れられないだろうけど、決して後悔だけはしない。するもんか。

 だって、この言葉はボクがボクの意思で発した糾弾だ。この不条理に対するボクからの怒りだ。絶対に言ったことを後悔なんてしてやらない。

 

「ゆ、ユウキ君・・・今の発言はちょっとその・・・過激すぎるんじゃないかな・・・?」

 

 青髪騎士のディアベルさんが髪色だけじゃなくて、顔色まで青くしながらボクに陳謝を求めて静かに訴えてくる。

 だからボクは応じない。決して応じない。ここで応じてしまったら、彼らの犠牲が無駄になる。絶対に応じてなんかやるもんか。

 

「分かってます。でも、撤回しません。ボクは間違ったことは言ってませんから」

「しかし・・・これでは・・・」

 

 困ったように周囲を見渡すディアベルさん。

 気持ちは分かる。確かに周囲には戸惑いが広がっているし、隣のキリトも知り合ったばかりのアスナさんも、前の方に座ってる黒人でデカい人も含めて誰もが戸惑ってる。

 

 だからボクは許せない。この状況が、この理不尽が、この不条理が。

 ボクたち全員を狂わせた狂気のデスゲームを、ボクは決して許さない。

 

「キバオウさん、一つ聞かせてください。

 ・・・なんで今なんですか?」

「・・・なんやと?」

「だから!」

 

 極力声を抑えたボクの質問に、キバオウさんは全く訳が分かりませんと言ったような顔で不思議そうに問い返してくる。

 それがボクにはひどくイライラ感じてしまい、思わず強めな声で怒鳴ってしまう。

 

「なんで今この場で! 第1回層初のボス攻略会議の本番直前に! 攻略メンバーの心がようやく一つになって、恐怖を恐れながらでもボスに挑もうとしているその時に!

 どうして死んでいった人たちの為に戦うあなたが、覚悟を持って《はじまりの町》に残る八千人の未来を勝ち取ろうとしている人たちに、不安の種を植え付けたりするんですか!」

「・・・・・・!!」

 

 キバオウさんの目が大きく見開かれて、顔が驚愕に染まる。「なぜそれを・・・?」とか言いそうな雰囲気だけど、そんな事は知らない。興味もない。

 ボクが興味があるのは、いつでもどこでもこっきりただ一つだけ。

 

「なんで、勝った後じゃダメなんですか!? どうして、生き残った後じゃダメだったんですか!? なんでどうして、みんなで勝って生き残って勝利して、デスゲームから現実へと帰還した後に「あの時お前がああしていれば・・・!」って、帰還記念パーティーのテーブルで語り合えるその時まで待っていられなかったんですかぁぁっ!!」

「・・・・・・!!!」

 

 今度こそ、キバオウさんは愕然とした表情でボクの叫び声を受け止めた。

 

 当然、彼だって分かっているはずなんだ。今の自分が言っちゃいけないことを言ってるって事は。今が言うタイミングなんかじゃないって事くらい、この場にいられる凄腕たちなら誰だって分かってる。

 だって彼らは“それ”を見てきたはずだから。

 人が死ぬ光景を、モンスターに誰かが殺されて消えゆく光景を、ここがゲームではなく紛れもない現実なんだって言う認識を共有できる機会を得られたからこそ、今ここに居られてる。

 得られずに終わった人たちはここに居ない。今頃みんな、お空の上にいる。得る機会そのものを得る機会すら無かった人たち八千人のために戦おうとしているボクらに彼らは含まれない。

 

 つまりは、彼も見てきた。あるいは、見捨ててきたりしたのかもしれない。

 それだけ悲惨な現実を見てきた。見せられ続けてきた。平和な世に生きる、平凡な日本人の若者が。

 戦ったことも倒したことも、殺したことも殺されたことも、ゲームの中でしか疑似体験してこれなかった普通の人たちが無理矢理に実体験し続けてきた。させられ続けてきた。

 

 ーー正直、今この場で一番まともな人間は彼だと、ボクは思う。

 人が死んで泣いたり怒ったり喚いたり当たり散らしたり。どれも人として当然のことをボクたちは誰も、やったことがない。その時点で人として異常。精神がまともな状態にない。あるいは無理矢理、麻痺させている。

 

 だからボクの怒りは彼にじゃない。

 きっと、天国とは違う遠くのお空の上からボクたちを見下ろして楽しんでる、茅場昭彦の大バカ野郎に対して、ボクは堪えようのないほど明確な怒りをもって、ぶつけていた。

 

「あんた・・・」

 

 なんだか目が潤んできてるメイスヘアーのおじさん顔にちょっとだけ引きつつ、ボクは笑顔で締めくくる。

 

「勝ちましょう、キバオウさん。勝って帰って帰還して、再会したときに思い切りベータテスターをブン殴ってやりましょう。きっと痛覚のない今よりずっと痛い。

 今この場で装備とお金出させてもゲーム内で責任とらせるだけですし、なにより直ぐに稼げます。ここは所詮ゲームの中ですから。現実とは違うし、現実には及ばない。どこまで行っても、ゲームシステムに死を追加しただけのゲームです。現実世界をゲームで作り上げる事なんて神様にだってできません。

 だから、たかがゲームなんかで人を傷つけて自分も傷つけるようなことを言わないで。ね?」

「・・・・・・(こくり)」

 

 ーー良かった! ああ、良かった、助かったぁ!

 あっぶなぁ! マジ危なかったわ今の! もう少しで殺されるんじゃないかと冷や冷やもんだったわ!

 

 ・・・もうね。この身体の大きすぎる欠陥はどうにかならないもんかと日頃から思ってますよ、うん。

 言いたいことを言わない、我慢するっていう行為に対してスゴい抵抗感を感じてしまう。自制が効き辛くて、「今言っておかなきゃ損だ」って気持ちに支配されちゃう。

 記憶と心はボクの物なのに身体だけは紺野木綿季の物だからなのか、相反する行動を迫られたときには常に暴走してしまう。

 

 引きこもりがちで暗い思考に囚われがちな今野悠樹と、明るく天真爛漫で前へ進みたいと願う紺野木綿季。極端すぎる二人の人間のふたつの思考がうまく噛み合ってくれない。共存してるし共栄しているけれども同化はしていない。

 今野悠樹の記憶を継承しただけで所有権を完全に譲った訳じゃない紺野木綿季の身体。人格を形成する記憶は独占してるけど、入れ物である紺野木綿季の身体が言うことを聞いてくれない今野悠樹の人格。

 古いお酒を新しい皮袋に。つまりボクと彼女の心と身体は、うまく行っている割にうまい結果をもたらしてくれない。たいていの場合、ちぐはぐな印象を与えて相手を混乱させてしまう。

 

 ーーこの状況、実は今生のボクにとって日常風景だったりします・・・。

 

「あー・・・今更だが、オレも発言していいか?

 オレの名前はエギルって言うんだが・・・キバオウさん、アンタが言いたいことはつまり、元ベータテスターが面倒を見なかったからビギナーが沢山死んだ、その責任をとって謝罪・賠償しろ、と言うことでいいんだよな?」

「・・・ああ、そや。・・・そう言うつもりやった」

 

 ・・・“言うつもり”やった?

 あれ? 過去形な上に、なんか曖昧な表現?

 

「アンタはそう言うがキバオウさん。金やアイテムはともかく、情報はあったと思うぞ。

 ーーこのガイドブックだが、アンタももらっただろ? ホルンやメダイの道具屋で無料配布してるからな。コレのおかげでオレ達はここまで来れたし、アンタもそうだったはずだ。そして、こいつに載ってる情報を提供していたのはーー」

「元ベータテスターたちやろ。とっくの昔に知っとったわそんくらい」

「・・・・・・」

 

 唖然として黙り込むデカい黒人のエギルさん。どうやら本気でキバオウさんがろくな知識もなく空気読めない発言をするKYだと信じ込んでいたみたい。

 ちょっと考えれば分かることだと思うんだどけどなー。

 

「伊達に正式サービス開始時から居る一万人の中の一人やないんやで? ワイだって立派な重度のネトゲ中毒患者で廃人プレイヤーや。MMOで情報がいかに重要かなんて、言われんでも良う分かっとる。当然、手に入れた情報も検証済み。その過程で情報の更新速度の異常さに気付かんマヌケが廃人に居るかい」

「・・・・・・」

「ましてや今はデスゲーム。ゲームオーバーで即死確定。おまけにWIKIも他の攻略サイトも見れんし、通知も来ん。課金もできん。事前に攻略情報見んでネトゲやったら確実に差が付けられてまう。そんな不便きわまる世界で唯一手に入る攻略情報が無料・・・。

 誰だって疑うやろ普通なら。信憑性も確かめんで信じ込み、デストラップだったりしたらどうする気や? 垢ハックされる可能性も0やないんやで? 何がなんだかわからん世界で信じる情報なら、信憑性を検証するのは最優先事項やろ」

「・・・い、いやまぁ確かにそうなんだが・・・

 ーーなら、そこまでわかっていながらアンタはなんで、こんな事をやったんだ?」

「・・・分からんのか? ・・・分かっとったからワイはやった。それだけや・・・」

「・・・?」

 

 不思議そうな顔して黙り込むエギルさん。キリトも同じで、アスナは単に何言ってるのか分かってないっぽい。うん、やっぱり初心者だこの人。

 

「誰もが元ベータテスターの助けを借りてここに居る。なら、この場の全員が元ベータテスターである可能性があり、全員がその可能性を否定する術を持っとらん。

 今この場で元ベータテスターを糾弾しても誰一人名乗り出る奴は居らんやろうし、ボス攻略直前にパーティー解散なんて主催者が許さん。

 かと言って戦力は欲しい、ここまで来れる実力者を手放したがるはずがない。あんさんみたいなお人好しも一人くらいは居るやろうし、ガイドブックについてはこの場の誰もが知っとる以上、確実に説得材料として使ってくる。なあなあのまま会議は終わり、誰も責任は追及されん。

 ーーそう言う小汚い計算でワイはこの場を利用した。利用しようとしたんや。・・・ハハ、最低やろ? 元ベータテスターよりも尚質悪いで」

『・・・・・・・・・』

 

 その場の誰もが黙り込む。一言も発言する人がいない。

 誰もが黙り込む中にキバオウさんの空虚な笑い声だけが木霊し続ける。

 やがて沈黙に耐えかねたのか、ディアベルさんがキバオウさんに散々ためらった末に声をかける。

 

「そこまでしてキバオウさん。君はどうして元ベータテスターを糾弾したかったんだ? そこまで憎かったのか? 元ベータテスターたちが。力も知識もあるのに責任を果たそうとしない、無責任なベータテスターたちがそんなにも・・・」

「ちゃう、そうやない。そんなんはただの口実や。ワイが本当に糾弾したかったんは、ベータテスターでも他の誰かでもない。この理不尽すぎる現実そのもや。それ以外はどうでもええ。このクサクサした気持ちを吐き出すために、ワイはこの場とベータテスターをダシに使った。・・・本当に、ただそれだけのショッボイ理由なんや」

「何故そんなにまでして・・・」

「・・・・・・ダチやったんや・・・」

 

 押し出すようにしてキバオウさんが呟く。・・・涙混じりのくしゃくしゃな顔で。

 

「前のゲームからずっと一緒にパーティー組んで、所属ギルドも同じやった。SAOどころかVR発表以前から相棒やってた親友やぞ? リアルでこそおうた事ないが、お互いネットの自分が本当の自分と信じて貫く、ガチな廃人やったんやで? 

 最近ではゲームのために仕事や学校辞めようかと、本気で語り合ってたくらいや」

「いや、さすがにそれは思い止まった方がいいような気が・・・まだ人生、先長いんだし・・・」

 

 あ、ディアベルさんがガチでドン引きしてる。周りの人たちの中にも何人かそうしてる人が居るけど、時折混じって頷いてる人たちはなに? 同類? 廃人ギルドの方々?

 

 ーーマジ引くわー・・・。

 

「なのに何や、この現実は。ほんのちょっと油断しただけでゲームオーバー、死んだら消えてのうなって形見すら残っとらん。あるのはシステムデータの塊だけ、ゲームの終わりで消えてのうなる数字の羅列や。こんなんあっても現実に帰るんが辛ろうなるだけやないか。

 挙げ句が、仇討ちに剣振るって倒したところで「ぴぎー」だの一声鳴いて消えて終わり。一定時間たつと同じモンスターがポップして別の奴に襲いかかる。連中はカーディナルが掌握しとるからデータの引継が可能やけど、ワイらにはない。奴らは消えても残って、ワイらが消えたら誰かの記憶にしか残らん。割に合わないにも程があるやろ・・・!

 一体アイツは何のために死んだんや? 誰に為に死んだんや? なんでアイツが死ななあかんかったんや!

 こんな理不尽、何処にどうぶつければええのか、誰か知ってるんやったら教えてくれ!

 なぁ? ワイはこの怒りをどうしたらええ? どうしたらアイツに報いてやれる? どうしたらアイツをこれ以上悲しませないで済む?

 ーー誰でもええから、ワイに答えを教えてくれ・・・」

『・・・・・・・・・』

 

 再び沈黙。むしろ、さっきよりもずっと重い沈黙。

 うん、ボクの発言から始まった状況だけど、今すごく後悔してます。後悔しないと言っておきながら、さっそく後悔しております。

 だって! こんな展開になるなんて思ってなかったし! 想像できなかったし!

 王道過ぎてオンラインで見れると思ってなかったんだもん! 絶対オフラインでしかあり得ないと思っていた展開が今目の前に!

 

 ・・・これ、マジでどうすんの?

 

 

 誰もが空気読んで視線を逸らすか彷徨わせるかしている中、青髪騎士こと勇者ディアベルさんがキバオウさんの肩にそっと手を置いて、

 

「キバオウさん。良かったらオレのパーティーに来ないか? ちょうど前衛が火力不足で困っていたんだ。君のような勇気あるアタッカーが居てくれると心強い」

「ディアベルはん・・・あんた・・・」

「君の気持ちは良く分かる・・・などと軽々しく言うつもりはない。君の抱える痛みと苦しみは君だけの物だ。君にしか分からないし理解できない。何も知らない他人が知ったような口を利いて良いものでは決してない。

 ーーだけど、生き残った者が辛くて苦しんでる時に肩を貸すくらいの事はさせてくれてもいいんじゃないか? 俺の狭い肩幅でも君一人分くらいなら担いでみせるぜ?」

「ディアベルはん・・・」

「君の背負う重荷は肩代わりできない。してあげられない。

 でも、重荷を背負った君の隣で剣を振るうくらいなら俺でもできる。伊達に騎士は名乗っていない」

「ディアベルはん・・・!」

「俺と来い、キバオウ! 二人で一緒にSAOをクリアして、みんなをデスゲームと言う名の牢獄から解放するんだ! オレ達ならそれができる!

 二人で力を合わせて、みんなの未来を取り戻すんだ!」

「ディアベルはん・・・いや、ディアベル!

 ワイ、あんさんに一生ついてくわ!」

 

 ガシッ!

 熱く握りしめられた拳と拳。

 固い絆と熱き血潮で結ばれた漢と漢。

 今この時この瞬間に、二人の英雄の物語が始まったんだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あれ? ボクたち完全に蚊帳の外になってない?

 おっかしいな~、ボクの発言から始まった議論だったよねこれ?

 なのに、なんで? なんでこうなるの? 何がどうなったら、こんな事が起き得るの!?

 誰か教えてドラエもーん!」

「諦めろユウキ。この世界に答えを教えてくれる攻略サイトはない」

「そうね。良いモノ見れたし、別にいんじゃない?」

 

 腐ってる人発見。

 ネトゲは嵌まると危険です、人としての道を踏み外します。

 ゲームもネトゲも程々にね!

 

つづく

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