なにぶんにも忘れてたものですから、途中から前後の文脈でおかしくなってる部分があるかもしれませんが、どうかある程度はお許しの程を。本気で思い出せない部分が多すぎましたのでね…。
先日新たに開通した七十五層の主街区で、古代ローマ風の造りをした街《コリニア》。
その場所の転移門前に聳え立ってるコロシアムで、キリトと団長さんとのデュエルは大々的におこなわれた。
見物料とって、座席を用意して、露店が並んで、食べ物も売って。
読んで字の如く、剣闘士奴隷同士の決闘を見世物にしていた古代ローマのコロシアムらしい戦いを、現代ゲーム版にアレンジした戦闘が開催された訳なんだけれども。
「団長の剣技は未知のところがあるし、こないだみたいな真似したら許さないからね!」
この前の戦いで死にかけた実感が残ってるらしいアスナが、本気の心配顔と怒り顔が半々な感じの表情で注意すると、キリトは「にやり」と笑って彼女の肩を叩きながらこう言った。
「俺よりヒースクリフの心配をしろよ」
――で。
「順当通りに負けて、今ここでこうして新しい上司となった私に正座を命じられている心境は如何かしら? キリト君」
「・・・ぐっ・・・。は、反省していなくもないことはないです・・・・・・」
【アインクラッド】現最強と謳われているヒースクリフさんと戦い終わったキリトにイベント報酬として与えられたもの。それは反省のための正座。
・・・イヤすぎるイベント戦闘の結末だなぁ~、本当に・・・。
キリトの姿に前世の記憶を刺激させられて、悪いことしてお母さんに見つかった時の黒歴史で頭が痛くなってきそうだからお願いやめてセフィロス、ガガガガ・・・・・・。
「い、いやでもなアスナ? 言い訳に聞こえるかもしれないけど俺の言い分も聞いてもらいたい部分はあるんだよ。
一瞬だけなんだけど、ヒースクリフの奴は焦りを見せて、俺はその隙を見逃さずにスターバースト・ストリームを叩き込んで、この一撃が当たれば勝ちだと確信してたんだ。
――なのに、あのとき世界がブレたように感じられて、ほんの一瞬、俺の身体を含む全ての時間が停止したような気にさせられたんだ・・・。何があったのかは分からないし、錯覚かもしれないけど、それでもあの一瞬前まで俺は勝利する寸前までいっていたのは断言できる――」
「言い訳だと自分でも思ってることを他人に言わない! 男の子でしょ!?」
「・・・・・・・・・・・・はい・・・・・・心の底からゴメンナサイ・・・」
う、うわ~・・・。アスナの超ド正論にキリト完敗。さすがにこれは言い訳できない・・・。
「だいたい未知って言うのはそういうモノなの! 敵がどんな手札を隠し持っているか分からないからこそ未知なの!
自分の知ってることだけを正しいと盲進して賭けに乗って負けちゃったんだから、たとえそれがルール違反の勝ち方だったとしても、負けた後に言ったんじゃ言い訳にしかならないのは当たり前のことでしょうが!!
そういう事が起きるかもしれないから、情報不足の相手との戦いは避けるのがボス戦でのセオリーでしょ! 忘れたとは言わせないわよ! ボス戦ラストアタック常連の攻略組プレイヤー《黒の剣士》キリト君!!」
「・・・・・・すまない、アスナ・・・。本当にすまなかった、俺が悪かったからもう許してくれ・・・っ。これ以上は俺の身体よりもアバターよりも先に、心とかプライドが折れ砕け散って二度と立ち直れなくなってしまいそうだから・・・頼む・・・っ!!」
血の滲むような声でキリトが絞り出すように言った、正座から土下座へランクダウンしての嘆願。・・・これはプライドが傷つく内に入らないのかな・・・? 男の子じゃなくなったボクにとって、男の子のプライドは時々不思議かもしれない・・・。
「ま、まぁアスナ。すんだことは今更どうしようもないんだし、そのくらいで許してあげてもいいんじゃないかな? キリトも反省してるだろうし、二度と同じミスするような性格もしてない人なんだし大丈夫だよきっと」
いい加減、見るのが辛くなってきたから割って入るボク。記憶のフラッシュバックが辛すぎました・・・思わず内股状態になってきちゃったから本気で許して欲しかったんだよね。ボク的にも、お漏らししそうになる前に。
「一度のミスが人生最後にミスに直結しちゃうかもしれないのがデスゲームじゃないの! だからこそ私はこんなに怒ってるの! そのことが分からないの!? 二人とも!!」
「「・・・ご、ごめんなさい・・・」」
今度はキリトと一緒にボクも正座&土下座。相手が本気で心配してくれてることが伝わってくる分、悪いことしちゃったと自覚してる方にとってはガチで辛すぎるこの状況。
本当になんとかして欲しいと思いながらも、その後十分近くボクたち二人のパーティーはお母さん相手に全滅寸前状態を続けることになるのでした。まる。
「それにしてもさぁー、キリト」
ようやくお母さんからのお説教イベントが終わって、痛くはないけど痛いような気がしてしまう足の痺れの幻痛にアバターの意識を慣らせるため、近くにおいてあった樽に座ってブラブラと足を揺らしていたボクは、似たようなことしてるキリトに向かって話しかけることにしていた。
「最後の“アレ”は不味かったんじゃないの? 《スターバースト・ストリーム》、だったっけ? たぶん二刀流スキルで使える中だと最高レベルのソード・スキルなんだと思うけど、アレはあのとき使うべきじゃなかったとボクは思うよ?」
「?? なんでだよ? 確かに団長に勝てなかったのは事実なのは認めるが、さっきアスナに言ったことは嘘じゃない。俺はあのとき確かに団長に勝ったと確信できるだけの瞬間をモノにしていたんだ」
少しだけムキになって反論してくるキリト。
普段は自己評価低い人だけど、こと勝ち負けに関することには別人みたいに固執するところが彼にはあって、アスナからは『最強バカ』って苦笑交じりに褒められるぐらいに負けず嫌いな性格が彼のアンビバレンツな魅力だとボクは思ってる。
でも今話しているのは、そういう事じゃなくて。
「いや、その事についてはボクも分かってる。見えてたからね。だから問題はその後だよ」
アッサリと言い切って、キリトとアスナの二人をちょっとだけ驚かせてしまうボク。
でも、これは事実だ。
紺野木綿季ちゃんの肉体能力によるものなのか、それともVRゲームとの相性によるものなのか、それはボクにはよく分からないことだけど、少なくともあの一瞬、ボクの身体の動体視力はキリトの剣が団長に勝利する寸前だったことを見抜いていた。
何十分の一秒以下の時間に過ぎなかったけど、彼の剣が相手の十字盾を上回る一瞬を、木綿季ちゃんの眼は見逃すことなく捉えてたんだ。だからそのこと自体をボクは問題だと思っていない。
むしろ問題だったのは、その前。キリトが団長さんの隙を見逃さずに決着をつけるための手段として、ソード・スキル《スターバースト・ストリーム》を選んでしまったこと。
アレは文句のつけようがないほど悪手だったようにボクには感じられて仕方がなかったんだ。
「キリトはあのとき、団長さんに勝つためソード・スキルを使っちゃったけど、アレが一番良くなかったとボクは思うよ?」
「なんでだよ? ソード・スキルこそがSAO最大の売りなんだから、それを使って勝とうとするのは当然だろ?」
キリトは本気で「何を言われているのか分からない」そんな風な顔で聞き返してくる。
それは彼が、SAOを本当に心の底から好きだっていう証拠。
現実世界と違って、剣一本だけでどこまでも上がっていくことができる、剣と戦闘の世界《ソードアート・オンライン》の根幹を成しているのがソード・スキル。
なら、キリトにとって自分だけのソード・スキルはたぶん、彼自身そのものに近いレベルで大事思われたものなんだとボクは思う。
それこそ自分が本気を出す時、この世界に生きる《黒の剣士》キリトが全力で誰かと戦う時にだけ持ち出すような、内向的で本心をあまり人に見せたがらない彼にとっての自分そのもの・・・そんな印象がキリトにはある。
けど。
「ソード・スキルはどこまで行ってもゲームシステムの一つでしかないんだよ、キリト。最初から上限が決められていて、それ以上の強さにはどんなに頑張って努力しても絶対に至ることができない。
“どこまで上っていけるかは最初から決められちゃってる剣”それが、ソードスキルだから、それ以上は絶対にたどり着くことができないんだよ、絶対にね。
二刀流がゲームシステムとして用意されてたスキルでしかない以上、二刀流に勝てる性能を持ったスキルが最初から用意されてた場合に、二刀流で挑んだキリトは負けて相手が勝つ。これは絶対の結末なんだよ。
なぜならそれが、《この世界のルール》なんだから」
「・・・・・・っ!!!!」
キリトの表情が激しく歪む。VRの再現性能の限界を超えてそうなレベルで心の底から辛そうに、認めたくない現実を突きつけられた幼い子供みたいに傷ついた表情のまま沈黙する。
・・・傷つけちゃったボクには本来、そんな資格はないんだけど・・・それでもボクはキリトに伝えておかなくちゃいけない結論の部分を言ってない。だからまだ口を閉じるわけにはいかないんだ、絶対にね・・・。
「・・・だからね、キリト。キミがこの勝負にだけは絶対に負けられない!絶対勝ちたい!ってときの勝負にソードスキルを使うのは良くなかったんだ。アレはキミの力じゃないんだから・・・」
「・・・俺の力じゃない・・・? 二刀流が・・・か? だがアレは俺以外で使える奴が発見されてないユニークスキルの・・・」
「そこじゃないよ、キリト。あのスキルは茅場昭彦が用意して、プレイヤーの誰かに与えるつもり予定でいたものを与えられただけの力なんだ。
この世界の神様から恵んでもらった力を使って、この世界の神様を倒して、世界から脱出しようとするのは間違ってるし矛盾しているよ。分かるでしょ・・・?」
「・・・!!! そ、それは・・・」
キリトの目が泳ぐのがはっきり見えていた。
ボクはそんな彼の素直が羨ましくて眩しくって、ああ、本当に根はいい人なんだよなーって心の底からつくづく思いしれて嬉しくなってきちゃう。
「キリトはこの世界が好きすぎて、時々SAOのルールに自分から縛られにいきたがる悪癖があるって、ボクは前から感じてた。それが今回はうまく噛み合わなくて悪い結果になっちゃった結果なんだとボクは思ってる。
・・・でもね、キリト。ボクは思うんだ・・・キミが本当に勝ちたいと思える敵に向かっていく時には、キミの剣でぶつかっていって欲しいって・・・。
キリトが最後の戦いまで前を向いて真っ直ぐ敵に斬りかかっていけるように、色んな人たちがキミを想ってくれた結実としてキリト自身が練り上げてきた剣技。
システム上のソードスキルじゃない。君自身が色んな人との出会いの中で作り上げたキリトオリジナルの剣技で、負けられない戦いに挑んでドカーン!ってぶつかってさ。
たとえ負けてもその敵の喉元までは絶対迫ってみせるって気持ちで勝負して欲しいなって・・・ボクはそう思っているんだよ、キリト・・・・・・」
「ユウキ・・・・・・」
真面目くさった顔で、大真面目に臭い台詞をいってる自覚のあるボクは軽く照れて、キリトも一緒にそっぽを向いて頬をかく。
「むぅ~・・・」
そして不機嫌になるお母さ――もとい、アスナさま。どないせいっちゅうんじゃい。
まぁ、そんなこんなでボクとキリトが血盟騎士団に入団することが確定しちゃった団長さんとキリトとの決闘の日は終わりを迎えたんだけども。
そして、翌日。
入団したばかりの血盟騎士団本部に行く前の衣装合わせにいった時のこと。
ボクとキリトは真新しい血盟騎士団の制服に身を包んで、おいてあった長椅子に隣り合って座っていたんだけれども。
「「派手だった・・・思ってた以上に派手になりすぎるカラーリングだった・・・。
プレイヤーメイドと違って替えの利かない、ボスドロップ品のレア防具の色だけ派手バージョンは辛すぎる・・・。
やっぱりデスゲームと化した《SAO》はクソゲーだぜ(よ)・・・・・・」」
「あなたたち・・・・・・シリアスムードを一日以上継続することって一度だけでいいから出来るようになれないものなの・・・?」
・・・まっくろクロ助から、まっしろアカ助にジョブチェンジしたボクたち二人は、装備を変えると見た目のグラフィックまで変わっちゃうSAOのシステムに絶望しながら、両手で顔を覆って恥ずかしさに必死に耐え忍んでいたのでした。
「ううう・・・こんな恥ずかしい色した格好しちゃったんじゃ、もうお嫁に行けないぃぃ・・・。
キリトぉぉ・・・もう、二刀流でも何でもいいから早く茅場昭彦倒して、この恥ずかしい服から解放してぇぇぇ・・・・・・」
「・・・安心しろ、ユウキ。俺も今、そう決意していたところだ。俺は必ず茅場昭彦を倒してSAOをクリアして、紅白のお正月カラーから黒一色の装備に帰還してみせると・・・!!」
「目的変わってるじゃない、あなた達。あと、さり気なく私のことまでディスってるじゃないのよ、あなた達。
なんだったら、あなた達の願いを今ここで叶えてあげてもいいのよ? 血盟騎士団副団長としてね。
・・・実はこの前のストーカー騒ぎのとき以来、お仕置き用に開発していた身体に傷一つ付けることなく服をビリビリに切り刻む武器破壊ならぬ防具破壊のオリジナルソードスキルを練習したくてしたくて仕方がなくて・・・・・・」
「「我らが偉大なる指導者にして尊敬すべき上司である血盟騎士団副団長アスナ様!!
今日からまじめに働きますので、よろしくお願いしまっす!!!」」
明日からの恥ずかしい日々よりも、今を死なずに生き延びることが先決。社会的生命の死でも、死は死なのです。
デスゲームと化したSAOの日常は、今日もキビシイ。
つづく