例によって例の如く、あんまり頭は働いていないのですが(だから書けずにいた次第…)
取りあえず今の自分に可能な範囲で、【朝露の少女編】の始まりの回となります。
尚、ユイちゃんからアスナとユウキの呼び方について、今のところの予定は後書きにて。
最近のボクは、毎朝の起床アラームを7時40分にセットしている。
なんでそんな中途半端な時間かって言うと、単に今まで適当なタイムスケジュールで過ごして来ちゃってたから、人と一緒に過ごすためには習慣づけた方がいいのかな?って思ったからで、起きる時間そのもは何時でもよかったから。
ボクはベッドから起き上がって、隣で寝ているアスナの下までソッと近づいていくと、その幸せそうな寝顔を見つめてから外を見る。
今のボクたち二人がいるのは、第22階層にある小さなログハウスで、アインクラッドでは最も人口の少ないフロアの一つ。
大部分が森と湖で占められていて、モンスターの出現しないフィールド。小さな村ぐらいの規模しかない主街区と難易度の低かった迷宮区とかが理由になって、攻略を目指して先へ先へ行きたがっているプレイヤーたちには全く記憶に残ってなさそうな場所。
だけど風景はスゴく良くて、ゲームを攻略してSAOを終わらせるより、アインクラッドで日常を楽しんで生きてる人達にとっては、現実世界に帰還できた後でも一番覚え続けてるフロアなのかも知れない。・・・・・・そんな場所。
その場所に立てられた小さな木の家の中で、ボクは隣のベッドで眠るアスナの大人っぽい美人顔にも見えるし、可愛らしい美少女顔にも見えてくる無防備な寝顔を見つめて優しい気持ちにさせられながら、こう思ったんだ。
(――――なんで、こんな事になったんだっけ・・・・・・?)
・・・・・・って。
いや、ふざけてる訳でも冗談でもなく、ホントにね!?
なんでボク、こんな場所でアスナと二人っきりで夫婦みたいな生活送っちゃってるのかな!?
SAOだと女の子プレイヤー同士で結婚できないシステムになってるのに、事実上の新婚さんみたいな状況になっちゃってるんだけど!!
い、いや待て落ち着くんだボク。まだ慌てるような時間じゃないよ木綿季ちゃん!
落ち着いて考えるためにも、今まで起きてきたことを思い出してみよう!
――グラディールさんが殺人ギルドの一員だったことが分かって、復讐殺人のため襲いかかってきたのを退けた後、ボクはアスナと一緒にヒースクリフ団長から一時的な休暇を許してもらって自由な時間を手に入れていた。
その後、アスナが「誰も私たちのことを知らない場所で少しだけゆっくりしたい・・・」って言い出して、セルムブルグにある凄く高いマイホームを売って購入資金にするとまで言い出したから勿体なさ過ぎて慌てて止めて、妥協案として手持ちのレアアイテムを全て売り払って、エギルさんとキリトに借金までしてローンで購入したのが、今の僕たちがいるこのお家。
アスナが「22層の南西エリアに良い所があるの」とか「森と湖がいっぱいで遊ぶところには困らない」とか「ログキャビンが幾つか売りに出てたから二人で引っ越そう」とか。キラキラ輝く大きな瞳でジッと見ながら言ってくる言葉に、ボクはただただ首を振って言われたとおり許可するだけになっていってアイテムも売っちゃって―――。
・・・・・・あれ? ボク、もしかしてダメな男の人の典型パターンになっちゃってないかな・・・? しかも自分で退路まで断っちゃうパターンの。
いや、いいんだけどね? 今更遅いしイヤでもないし、手遅れだし。
――ただ自分の将来がちょっとだけ心配になっただけで・・・。
う~ん、木綿季ちゃんの身体って意外と、社会人としてはダメな大人になっちゃうタイプだったのかな?
まぁ、生きていられて将来があっただけでもボクの場合は幸運なんだけどねぇ。
「・・・ん? ユウキ・・・?」
「わっ!?」
アスナの顔を見ながら、心の中では過去回想してたボクは身動きして瞼を開けたアスナの目覚めたばかりの綺麗な顔と至近距離で見つめ合う羽目になっちゃって、慌てて自分のベッドまで飛び退る!
「お、おはよーアスナ! 今日もいい天気だよね! アインクラッドは毎日いい天気だけどね! さぁ、今日はどこに遊びに行こっか!?」
「おはよう。・・・今日も相変わらずユウキは元気だね・・・ふぁ」
「あは、あはは・・・そうかな? アハハハハ~」
あ、危なかったー・・・ギリギリセーフ。
なにがギリギリで危なかったのか自分でも全く、よく分からないけど何だかスゴく危なかった気がするよ・・・。
アスナが起きてから、料理はアスナが食器はボクが担当して二人で朝食の準備をして、目玉焼きと黒パンとサラダにコーヒーの朝ご飯を食べ終えて、二人で分担して一秒でテーブルを片付け終わると。
「さて! それじゃあユウキの期待通り、今日はどこに遊びに行こっか?」
「う~ん、それなんだよねぇ・・・」
両手をパチンと打ち合わせて、完全に目覚めて覚醒したアスナから身も蓋もないけどゲーム中のオンラインゲーマーらしい言い方の発言されて、ボクはその場しのぎで言っちゃってただけの事に賛成されちゃった訳だけども。
それとは関係ない別の理由で、ボクはアスナからの問いかけに即答することが出来なくて考え込まざるを得なくなっちゃってた。
団長さんから許可をもらって、この家に引っ越してきてから既に6日。
リアルの時間感覚で言うと、そんなに経っている訳じゃないし、普通のMMOだったら4時間ぐらいでゲーム内時間の1日は終わるの多いから、それと比べればアインクラッド内で過ごす1日分の時間は短いはずがないんだけれども。
・・・・・・ただ、引っ越してきてから毎日毎日、朝起きてから日が暮れて夜眠るまで、ほぼず~~っと遊びっぱなしで過ごしていると、流石に遊びのネタも尽きてくる。
元々あんまし詳しく知ってるフロアって訳じゃないし、ネトゲ情報サイトの《MMOトゥデイ》もデスゲームになってからは見られなくなってるし。
なんか面白そうな遊ぶ場所情報は、まだこのフロアに残ってたかなー? ・・・って、あ。
「ん? なにユウキ、良い場所を思いついたの?」
「うん。実は面白そうな所があったんだよね~♪」
ボクはそう言ってニヤリと笑みを浮かべながら、ここに来る前に教えてもあった情報を思い出しつつ、左手を振って可視モードになってるマップを呼び出すと、印を付けてもらってたその場所を自分の指でも指し示す。
「ここなんでけどね? 昨日、ア・・・ごほんごほん。
あ――ある村で聞いた情報なんだけどね? この辺の森の深くなってるところに・・・・・・出るんだってさ・・・」
もったいぶった口調で言いながら、アルゴさんから教えてもらった確かな情報をアスナに向かって開陳する。
教えてもらう時に、『結婚祝いのご祝儀でタダにしといてやるヨ♪』と、イヤーな笑顔で言われたことは伝えないままボクの記憶の小箱にしまい込んで出てこなくして、アインクラッド1の情報屋が教えてくれた確かな情報を手柄顔でアスナに向かって教えてあげるんだ。
「は? な、何が?」
「・・・一週間くらい前、ウッドクラフトのプレイヤーが木材を取りに来たらしいんだ。
夢中で集めてる内に暗くなっちゃって・・・・・・ちょっと離れた木の陰からチラリと、白いソレが見えたらしいんだよ・・・・・・」
出来るだけ、おどろおどろしい言い方になるよう意識しながら。
出来るだけ、普段の木綿季ちゃんらしい元気な感じが出ないよう小声で話しながら。
「モンスターかと思って慌てたけど、どうやらそうじゃない。
人間の・・・それも、小さな女の子に見えたんだってさ・・・。
長い、長い黒髪に、白い服を着て、ゆっくりゆっくり木立を歩いて行く女の子・・・」
「そ、それって・・・・・・ま、まさか・・・」
――いや、しかし意外と言えば意外だったし、ソレっぽいと言えばソレッぽい特徴だったけど、アルゴさんが言うんだから間違いはないだろうと思う。
「うん、そうだよ。――人間の、女の子の・・・・・・」
思いっきり勿体ぶって、ソレ系の話が好きな人用の溜めと間合いを見計らって、ボクはその名前を口にする。
「―――――幽霊だよ」
まさかアスナが、『怪談好き』の女の子だったなんて、アルゴさんから教えてもらうまでボクも知らなかった情報だよ。女の子らしいと言えばらしいんだけどね?
うん、でも可愛い可愛い♪ こんな情報を、今話題の心霊スポットの場所と一緒に無料で教えてくれたんだから、イヤな笑顔の一つや二つぐらい許しちゃおうって気になれるよね☆
ボクはアスナが喜んでくれて、楽しんでくれるんだったら、それでいいんだから―――
その結果。
「・・・・・・騙されたぁ・・・・・・」
しくしく泣きながら、僕はアスナを肩車しながら森の中を歩かされる刑に処されながら、心霊スポットに向かわされる羽目になっちゃいました・・・・・・。
つ、釣りをしているNPCじゃないオジサンさん達の視線がい、痛い・・・。
やっぱりタダより高い物はなかったです・・・。
「フンだっ! 自業自得よ。人が嫌がるものの話を喜々として話して、私が怖がる姿を見物しようとした悪い子には当然の罰なの!」
「ううぅ・・・・・・なんとなく理不尽な気がする立場だよぉ・・・・・・」
「ほら、早く走って走って。進路は北北東、到着するまでは降りてあげないんだからね。それとも明日も同じ事やらされてもいいの!?」
「ううぅ~・・・・・・はぁーい・・・・・・ガンバって走りますぅ・・・しくしく」
こうして『幽霊嫌い』な女の子に、オカルト話を喜々として話して怖がらせるのを楽しんだ悪い子への罰として、相手より小っちゃな女の子が年上の女の子を肩車しながら、川で釣りをしていたプレイヤーさん達から微笑ましい物でも見られるような視線に晒されて見世物気分を味あわされつつ、幽霊が出たっていう場所まで行く方針そのものは了承されちゃっていたのだった。
その理由はと言えば。
「ゆ、幽霊なんてゲームのデジタル世界に出るわけないんだから! そんなの居ないってことを証明するために私たちは現場に赴くのよ!
これは心霊スポット巡りの遊びじゃないわ! 科学によってオカルトなんて非科学的な存在の非実在を証明するために行う、科学的な実験なのよ!!」
「アスナ・・・・・・もうその言い方が既にフラグくさ――むぎゅっ!?」
そんなアスナの言い訳に対して、言い訳だと言うことさえ許されない罪人の僕には、言い訳する権利すら当たられずにお仕置き執行が待っております。
・・・・・・うう、速く走って早く着きたい・・・。
人目に晒されながらが恥ずかしいっていうのもあるんだけど、それ以上にその、え~と・・・・・・あ、アスナの太股が顔の両側に当たっている状態と、視界の左右から覗いてる体勢って言うのは中の人になってる今野悠樹くん的にとても宜しくない状況なんだよね。
紺野木綿季ちゃんの身体に生まれ変わって結構経つし、普段はそれほど気にならなくなってたんだけど・・・・・・意識してる綺麗な女の子と密着状態になっちゃうと流石に前世の自分を思い出さざるを得ません。
出発してからずっと、目線を前だけに固定するよう意識して、唇も突き出した表情のままで変わらないよう無表情のままで、頬っぺたが赤くなってることに気付かれないよう苦労しつつ全力疾走。
この性的拷問を一秒でも早く終わらせたいから、早く着こう! 早く到着してしまおう!
・・・・・・ただし、帰りも罰の続きって事でやらされたらとか考えると、スゴ~クやる気が出なくなっちゃって困ってもいるんだけれどね・・・・・・。
そして、なんとか到着。
「ふ、ふ~ん。こ、ここ、ここがウワサの場所なのね・・・」
アスナが怖さからか、少しだけへっぴり腰になった姿勢で僕の肩から降りて、実体化させたレイピアを持って歩み出し、ボクはようやくゴニョゴニョした気持ちの問題から解放されて文字通り肩の荷が下りた心地で後に続いてる。
「だ、大丈夫よ。幽霊なんてい、居るわけないんだから・・・。
もし仮にあり得ない話だけど、そんな非科学的なものが存在してたとしても出てくるのは夜だけのはず。昼間の今なら大丈夫よ、大丈夫だから・・・」
本当に怖そうな足取りと言い回しで、少しずつ少しず~つ森の奥深くへとはいっていこうとしていくアスナ。
その姿を見ながらボクは、ふと思ってしまう事があった。
・・・・・・今更過ぎる話なんだけど、デジタルなゲーム世界に幽霊なんて居るはずない場合に、僕たち転生憑依者と呼ばれてる人達って、どういう扱いになるんだろう・・・?
幽霊と言えば幽霊だし、輪廻転生と言えば輪廻転生でもあるし。
入院中もテレビとかで、脊髄や心臓移植手術をした人たちの中には、臓器を提供してくれたドナーの記憶を一部だけ覚えてる人の話は偶に聞くことがあったけど、あれはあくまで相手の終わってしまった人生の一部だけを、途中で終わらず繋げてもらった人達の中に少しだけ残しておけただけ。
最初から相手の人生全部を、自分の物にしちゃった訳じゃない。
生まれてきたときから紺野木綿季として、今野悠樹が生きてきてしまったボクの人生は、あるいは強制的に途中下車させられたことを恨みに思って化けて出た幽霊さん達よりも、ずっとずっと性質の悪い存在なのかも知れない。
木綿季ちゃんはボクのせいで、途中下車させられる権利さえ与えられずに、生まれることも無いまま死んでしまった一番の被害者だったのかも知れない。
そう考えると、幽霊の話には色々思うところがあるボクだけど、それでも今のボクが人生を途中下車させられたところで紺野木綿季ちゃんが改めて紺野木綿季としての人生を死ぬまで生きれるようになる訳じゃない。
人の人生は、一人に一つだけ。
人の生命は、一生に一度きり。
一番最初で始めることも出来ずに終わってしまった人たちも、辞めたくなかったのに途中で無理やり人生を降ろされちゃった人たちでも、不本意だからってやり直しはきかない。いくら理不尽でも正しい在り方に戻してくれる奇跡は、滅多に起こってくれるわけじゃない。
ボクみたいな存在は多分、幸運中の超幸運で第二の人生を許してもらえただけのラッキーボーイかラッキーガールなんだとボク自身は信じてる。
だからボクは、この命と身体と木綿季ちゃんの人生に感謝して大事にしながら、大切に生きようと思ってる。
生まれることが出来なくて、見れるはずだった景色や色んな人たちの生き方を見れなくなった彼女の代わりに、ボクが見ておこうと思う。
いつか彼女に伝えられる日が来るかも知れない。来ないのかも知れない。
彼女が彼女として生まれて、この場所に今立っていたときには別のことを思って、別の選択肢があったのかもしれない。
でもそれはボクの知らない紺野木綿季の人生で、ユウキの物語で起こる出来事なんだろうね・・・・・・。
ボクには自分の物語を生きることしか出来ないから、取りあえずは生きてみる。
ソレしか出来ないのが自分に与えられた人生なんだと、今のボクは知っているから―――
「ね、ねぇユウキ・・・・・・ちょ、ちょちょ、ちょっと・・・・・・っ」
「――ん? どうかしたアスナ? 何かあったのかな?」
「あ、アレ・・・・・・あそこの、アレっ!!」
そんな風に、自分の思考に浸り過ぎちゃってたボクの意識を、アスナの青ざめた声が呼び戻してきて、ボクは現実のって言うかバーチャルリアリティで造られたゲームの死が現実の死に直結してる世界に呼び戻される。
いけないいけない、いつもの癖で人の生き死にに関することは深く考え過ぎちゃって、他のこととか話が意識から外れちゃうのはボクの悪い癖だ。
アスナに失礼だったね、怒らせちゃったかな? 今度は意図的じゃないけど無自覚に無視しちゃってた罪滅ぼしとして、ちゃんと相手が指さしてる方向を見るけど・・・・・・なにも無いし、なにも見えない。
「・・・なにも見えないけど、何かあったのアスナって、痛い!? 痛いよ!? 髪の毛引っ張らないで! ちょっと!?」
「ひ、ひぃぃぃぃッ!? ちょ、ちょちょちょちょっと降ろして! 早く降ろして! レイピアが上手く抜けないんだってばーっ!?」
「降りてる! もう降りてるよ!? 森に到着したときから降りてるからね!?
お願いだから落ち着いてアスナ! ボクの髪の毛を掻き回そうとしないで! せめて自分の髪でやってってば痛い痛い痛いーっ!?」
バッドステータスじゃない混乱に陥っちゃったアスナによって、生きてる人だけ味わえる痛みを思いっきり味あわされちゃうボク!
痛いのは死んでない証拠だって昔言ってた人が居たっていうけど、やっぱり痛いのはイヤだよ!?
あと、死ぬ寸前の時の方が感覚なくなってて痛くなかったよ! 初めて痛み出したときの方が痛すぎる日が続いて死にたくなっちゃった事もあったからね!?
道徳話としての死は、現実の生き死にの参考にならないとボクは思う!
だから辞めようアスナ! いくら痛みを味あわされても現実の死を体験したことあるボクには生の喜びを感じれるようにはなれないからホントに辞めて!?
痛い痛い痛い! ハゲる! ハゲちゃうよーっ!?
「とうっ!」
というボクの心の悲鳴と苦情を聞き届けてくれたのか、アスナは妙に格好良い掛け声一閃、勢いよくジャンプして遠ざかってからレイピアを引き抜いて、ボクを前面に押し出したフォーメーションを瞬時に組むと、意識を集中させたのか鋭い目つきになって正面にある一部分を睨み付ける。
たぶん索敵スキルを使って標的をフォーカスして、隠蔽スキルとかを使ってたとしても見破れるようにしたんだと思う。
ボクやキリトと同じ攻略組プレイヤーで、しかも最強ギルド《KBG》の副団長でもある《閃光》が、だいぶ前に攻略終わった22階の低層フロアでやるような対応じゃ無いと思うんだけど・・・・・・それだけ怖い物でも見つけちゃったんだろうねぇ。
一体なにを見たんだか・・・・・・って、いぃっ!?
「う、ウソ・・・ホントにいたぁっ!?」
そして見る。ボクも見つける。見つけてしまう。
アスナと同じ物を見つけて、アスナと同じように体と心をビクンと引き攣らせて、膠着しちゃうのを避けられなくなっちゃうほどに・・・!!
――それは白い女の子だった。
風に揺られて、ゆっくりと動いているのは植物でも岩でもない、普通の布。
白いシンプルなワンピースを着て、黒く長い髪をした女の子が、顔の影で表情を隠しながら、こんな場所で、こんな世界で何もせず、ただ立ち尽くすように何処かを見上げたまま、虚ろな視線をボクたちの方へと向け直してきて―――っ
「ひ、ひぃぃぃぃっ!? 祟られるー! 貞子に祟られちゃうーっ!?」
見つめられた瞬間にアスナが(微妙にヒドいことを言いながら)耳を塞いで目を閉じて座り込んでしまう、災害の時とかには一番やっちゃいけない姿勢をとってボクの後ろに隠れてしまったため、逆にボク自身は目の前の脅威かも知れない存在から目も身体の向きも動かせなくなってしまって、仕方なく前を向いたまま相手を見つめていたんだけど―――その結果として。
ふら―――ドサリ。
・・・・・・目眩を起こしたみたいに身体がフラッと揺れた後、お空を見上げながら背中から倒れていって、仰向けの体勢で地面の上でグッタリとなって動かなくなり。
それから警戒して様子見しているボクたちの前で倒れたまま動くことなく。
1秒、2秒、3秒経っても微動だにしないままで・・・・・・って、コレ普通に急患なんじゃないのかな!?
「ちょ! アスナあれ幽霊なんかじゃないよ! 助けなくちゃ! ほら、早く立って走って! 森の広場で引きこもってないで現実を見て!!」
「ちょ、ちょっとユウキ!? 置いてかないでよ・・・・・・、っもう!!」
何かしたいと思った時には身体が動いちゃう、木綿季ちゃんの身体の特性と、今すぐ助けるために走り出したい今野悠樹だったボクの心が完全一致して迷うことなく走り出して、結果的に置いてけぼりにしちゃったアスナが僕を呼び止める声が聞こえたけど、一度走り出したユウキの身体は止まらないし止められない!
仕方なくだけどボクの後ろから付いてくるため走り出してくれて、大した距離もなかったから倒れた女の子の側にすぐに到着するっ。
「・・・・・・やっぱり、幽霊なんかじゃない。プレイヤーの・・・はずだよね?」
気絶して倒れたらしい女の子のもとまで辿り着いてから、念のためトラップの可能性も考えて身体をすぐには抱え上げずに、指先で軽く触れてから反応がないことを確認した後、彼女の小さな身体を両手で抱き起こしてあげた。
彼女は意識が戻らないままで、瞼は閉じられていて、両手は力なくダランと投げ出された姿勢で動くこともない。もちろんワンピースは白いだけで、向こう側が透けて見える半透明になんかもなっていない。
「だ、大丈夫そうなの? その子・・・」
「う~ん・・・どうなんだろう・・・? この世界だとリアルの医療知識は役立たないし・・・」
アスナに聞かれて、僕は即答できずに反応にちょっと困っちゃう。
倒れた女の子を見て即座に駆けつけてはみたけど、SAOの中で現実の医療や健康状態の確認方法はほとんど役に立てない。
息をして心臓に酸素を送っているのは、リアルで眠ったまま起きない肉体であって、ゲーム内の僕たちはリアルの肉体の結果論として、同じ行動を再現させてもらっているだけでしかない。
アバターの脈拍なんか測っても、なんの意味もないだろうしなー・・・。
「でも、ポリゴン片になって消滅しないってことは大丈夫なんだと思う。
・・・・・・ただ、プレイヤーなのにカーソルが出なくて、年齢制限が13歳以上のナーブギアなのに10歳より年下でログインしてて、麻痺とか毒以外ならHP1でも動けるSAO内で攻撃も受けてないのに今さっきまで動いてた子が倒れて意識失ったままってだけで―――」
「それ本当に大丈夫なの!? なんだか物スッゴく危なすぎる危険な状態としか思えない条件満たしすぎてるんだけど!!」
「いや、ボクに言われても・・・・・・」
アスナの尤もすぎる指摘にジト汗を浮かべながら、両眉を寄せて考え込む表情になることしか出来なくなっちゃうボク。
だって、見たまんまの状態を伝えただけなんだもん、GMでもネットセキュリティ会社の人間でもない一般人には分かんないよ~・・・。
カーソルが出ないのは、何らかの改造ツールを使ってるハッカーだからかもしれないし、今時のネットだと小学生でもスゴいウィルス造ってた事例もあるし、小学生がネトゲにはまってるネット中毒だったこともリアルであったの知ってるし、年齢制限なんて家庭用のCERO:Zでさえ守ってるゲーマーさん達がどれぐらいいるか分かったもんじゃない世の中だし・・・・・・。
正直、今さっき挙げた条件だけじゃ何の判断基準にもならないのが、現代日本ネット社会の弊害だとボクは思う。
「と、とりあえず放っておく訳にはいかないから、うちまで連れて帰りましょう。目を覚ませば色々わかるかも知れないし」
「うん、そうだね。ボクが触っても何も起きなかったし、最悪でも女の子プレイヤー同士なら肉体接触でハラスメントコードに抵触する恐れもない。それから後は――」
「うん、分かってる。そっちは私が担当するから、ユウキは彼女をお願い」
以心伝心、皆まで言わずともお互いの考えていることが分かり合ってるボクたち二人は、互いのやるべきことと出来ることを理解し合って、ボクが白い女の子をソッと持ち上げて運んであげて運んであげながら、アスナは右手を振ってウィンドウを開くと手早く操作し始める。
ボクが触れた時点でクエストログ窓が更新されることもなければ、異性じゃなくてもNPCを所定の場所から大きく移動させた後にも吹っ飛ばされなかった以上は、この女の子はNPCじゃないことは確かで、残りはプレイヤーだけってことになるけど・・・・・・それにしては妙なところが多すぎる。
怪しんでる訳じゃない。疑ってる訳でもない。
もし何かの裏があったとしても、彼女は被害者で加害者では絶対にないっていう確信がボクにはあるし、たとえ間違ってたとしても責任を負う覚悟は出来てもいる。
ただ、それらとは関係なしにボクたちはこういう件には素人で、紺野木綿季ちゃんの身体は今野悠樹よりもずっとネット関連に強い才能を持ってはいても一人で出来ることには限界がある。間違いだって起こすだろう。
だからこそ!
こういう時にするべき、たった一つだけ確実な人助けの方法は―――ッ!!
『『助けて!! キリト――――っ!!(く――――ッん!!!)』』
・・・・・・人命救助のときには、一人でやらずに人を呼びましょう。
なんか常識外れで変なことが起きた時には、とりあえずキリトを呼んでおくと何とかなりやすい。
それが入院患者だったボクの、ちょっと情けないけど経験則なんだよね・・・・・・。
―――これが、ボクとアスナにとって『生まれるはずだったAI』なのに『生まれることを許されなかった女の子』《ユイちゃん》と出会うことになる出来事の始まり。
短くて楽しくて、最期はとても悲しい形でしか終わることの出来ない、夏休みの間だけ田舎で過ごした女の子との思い出みたいなイベントの始まりだったことを、今のボクとアスナはまだ知らない・・・・・・。
つづく
*ユイちゃんから、ユウキとアスナの呼び方(予定)
アスナ「ママ」
ユウキ「お姉ちゃん」
アスナが怖い顔しちゃったので、ユウキだけ改名。
ユウキ「お母さん」
……漢字だと「お義母さん」にもなれてしまい、複雑な家庭環境な気がしたけど幼い子供相手だから、まぁいーかと受け入れ予定。
二人のママがいる子供は、たしかに複雑なご家庭です…(微苦笑)