なお、今回の話に登場する原作で名前だけ出ていたイベント内容は完全に作者の妄想で補完させてもらいました。ギャグですので苦情はなしでお願いします。ツッコミはカモンです。
巨大な風車塔が立ち並ぶ、のどかな田舎町《トールバーナ》にも夜が訪れた。
ふつうのRPGと同じくSAOでも、昼夜で町を出歩くNPCの種類は微妙に変わる。朝は働いてた大工さんが、夜には酒場でビールを煽ってたりね。
で、当然のようにお店の客層が変わるからなのか、酒場や食堂で出すメニューにも一部変更が加えられたりする場合も少なからず存在してはいる。あんまりゲームには関係しないから気にしてる人少ないけどね。
そして夜になってから開かれた《第一層ボス攻略会議二次会兼勝利祈願兼勝利の前祝いパーティー(長いよ!)》が、噴水前広場近くのお店の庭先を借りて、ささやかながら行われていた。
・・・・・・はずだったんだけど・・・・・・
「ディアベル!」
「キバオウ!」
・・・・・・・・・。
「ディアベル!!」
「キバオウ!!」
・・・・・・・・・・・・。
「ディアベール!!!」
「キバオーウ!!!」
うぅぅるさぁっい!
気が散るわ! お酒じゃないけど、ビールっぽいジュースが不味くなるわ! 甘さ控えのはずが激甘味に早変わりしてるわ! ほとんど別物になっちゃってるよ!
「うう・・・どうしてこんな事に・・・」
頭を抱えながらボクが思い出すのは昼間のこと。
間違って事は言ってないつもりだけど、だからといって騒ぎを起こしちゃったのも間違いようのない事実。悪いと思ってるし反省もしてたから、ディアベルさんに二次会の誘いを受けたときには迷わず乗った。
中には迷惑に思う人もいるだろうけど、だからこそ積極的に自分から謝りにいって許してもらいたかった。
だって、デスゲームで初のボス戦だと、誰がいつ死んでも不思議はないから。
今日会えてた人が、明日にも会える保証がどこにもないから。
今謝っておかないと、明日謝れる保証なんて誰にもできないから。
だからボクは謝って回るつもりで二次会に参加した。楽しもうとか騒ごうとか言う気は・・・まぁ、なくもないけどちょっとだけだったのは確か。これ絶対。
ーーだと言うのに、始まってからずっとこの調子・・・・・・。
謝るどころか、誰もボクの方なんか見てもいないよ。みんなディアベルさんとキバオウさんのBLイベントに強制参加させられて、スキップ機能で飛ばしたそうにしているよ。
「ESC押したら飛ばせるようにしておいてよ、SAO・・・。
やっぱりデスゲームなんかクソゲーだ・・・」
たぶん、他の人たちも似たようなことを考えてるんだろうなと思って周りを見たら、目があって頷かれた。
無駄なところで以心伝心しあったボク達は、こうして仲直りしましたとさ。ちゃんちゃん。
「ーー私が、私でいるため。最初の町の宿屋に閉じこもって、ゆっくり腐っていくくらいなら最期の瞬間まで自分のままで居たい。
たとえ怪物に負けて死んでも、このゲームに・・・この世界には負けたくない。どうしても」
俺はアスナの覚悟とも自罰とも取れる発言を聞き、返答に窮していた。
クリームをネタにして明日のボス戦を前に緊張を解してやろうという熟練者の思い上がりが裏目にでた結果となった。
ーーやれやれ。慣れないことはするもんじゃないな。
やっぱりアイツと違って俺には、こういう役柄は似合わないみたいだ。
言葉に詰まって右手のパンを口に放り込み、咀嚼するフリをしながら時間を稼ぎ「・・・パーティメンバーには死なれたくないな。せめて明日はやめてくれ」とか言ってこの場を乗り切ろうと心に決めたとき、通路の奥からヨロヨロと誰かが歩いてくるのが視界に入ったので踏みとどまった。
「・・・誰? ・・・・・・ひょっとして、ゾンビだったりする?」
若干怯えを見せながらもアスナは、剣の鍔に震える右手を添えて、近寄ってくるヨロヨロ歩く何かに向かって問いかける。
ーーもしかしてオバケが苦手だったりするのか? さっきまでのとは、大分イメージが違うなぁ。
人は見かけによらないと言うが、どうやらSAOアバターでさえ適応している万能格言だったらしい。先人の偉大さを思い知った俺は彼女に倣って剣に手を伸ばし、未だに接近し続ける何かを警戒しつつも、SAOのルールを思い出す。
町中は戦闘可能圏外エリアだから、いきなり敵に襲われて戦闘になることはあり得ない。
だが一方で、町中で発生したイベントで選んだ選択肢がイベントダンジョン発動の条件である場合は多いのだ。圏外だから必ず安全と言い切れるほどには、俺たちベータテスターを含めたプレイヤーたちは、この世界について詳しくない。知らない事ばかりだし、知っていることが変わっている可能性も捨てきれない。
確証が得られるのは大分先になるだろうが・・・ともあれ。
「そこのお前。それ以上近づくようなら俺は敵と判断して切りかかるけど、それでもいいのかーー」
「・・・うっぷ。
水、水をください・・・。
どうかボクに、水を与えてくださいぃぃ・・・」
「「ユウキ!?(ユウキちゃん!?)」」
驚いたことにヨロヨロしてた奴はゾンビじゃなくて、青い顔して死にかけてるユウキだった。
事情はわからないが、とりあえず俺たちの横に座らせて介抱してやっていると、「う、う~ん・・・」と呻きながらも目を覚ます。
一息ついて落ち着いてから、感想を一言。
「・・・死ぬかと思ったよ。生きて帰れて本当に良かったぁ~」
満面の笑顔で祈りを捧げる彼女を前に、アスナは微妙にバツが悪そうにして見えた。
まぁ、先の発言の直後だからなぁ・・・。なんとも間の悪い奴。
「ああ~、あやうくディアベルさんとキバオウさんのBLイベントに強制参加させられて死ぬところだったよー。あれで死ぬとか、マジで嫌だ」
しかも理由が本気でしょうもなさすぎて、さらにアスナの身体がビクッと震える。
小刻みに震えて見えるけど・・・あれ? もしかしてこいつ、照れてたりするのか?
冷静で落ち着いた物静かなフェンサーに新たな一面があった事を知り、複雑な思いを抱きながらも俺は、アスナと同じくユウキにも同じアイテムと同じイベントを紹介してみることにした。
なに、ものは試しだ。クリームパン愛好家は何人いてもいいのだから。
「そ、それは大変だったな。口直しにクリームパン食べるか?
まぁクリームパンっていうのは俺命名で、本当はクエスト報酬で手に入れたクリーム塗っただけの、NPCベーカリーで安売りしてる普通の黒パンなんだけどな」
「・・・キリト・・・グロッキー状態の女の子にクリームパン薦めるって、君はいったいどんな画像を期待しているの・・・?
ーーもしかしなくても、ソッチ系の人だったりするのかな・・・?」
「誤解だ! 俺は別にグロ動画好きじゃないし、女の子に色々してる動画見て悦に入る特殊性癖の持ち主でもない!
俺を、希によくいる大きなお友達と一緒にするなーっ!」
相変わらず、こいつの俺に対する評価はひどいな! 昼間の出会いから、全然改善していない! 完全に変態紳士同盟の一員だと思い込まれてしまっている!
これはマズい! なんとしても誤解を解かなくては、俺の命に関わる!
主に、社会的生命的な意味合いで!
「いや、本当に美味いから! 食べたら分かるから!保証するから!
信じてくれ、ユウキ! 俺は絶対、食べ物に関しての嘘だけはつかない!」
「・・・いや、食べ物限定にされた時点で君に対する信頼度はガタ落ちなんだけどさ・・・。
まぁ、そんな事よりも。
それって、いっこ前の村で受けられるクエスト《逆襲の雌牛》の報酬でしょ? そんなに味って変わるもんなの?」
「なんだ、ユウキは知ってたのか。確かに《逆襲の雌牛》の報酬アイテムで合ってるぞ。
これさえあれば、1コルの黒パンが立派なご馳走に様変わりする神アイテムだ。
やるならコツ教えるけど、どうする?」
「本当に!? やったやった! 超うれしいよっ! これでお腹いっぱい甘いパンが食べられる!
愛してるよ、キリト君!」
ぴょんぴょん飛び跳ねるユウキの可愛らしい姿に満足しつつ、俺は至高の調味料たるクリーム壷を手に入れるための試練を思い出して、げんなりする。
あれは確かに初見プレイで何度もやりたいイベントじゃないからな・・・。内容知ってユウキがスルーするのも当然か。
「・・・? そんなに大変なイベントなの?
その・・・《逆襲の雌牛》って言うクエスト・・・」
興味を持ってくれたらしいアスナに俺は、クリームの良さを分かってもらうためにも、越えなければいけない山の高さについて熱弁を振るう。
すべては美味しい食事を手にするために! 味覚エンジンで制御された味気ない食卓に、彩りを加えるために!
「大変なんてもんじゃない。
いや、クリアに必要なステータス自体は大したことないんだ。あの村まで辿りつけるプレイヤーなら誰でも簡単にクリアができる程度だと断言できる。
ーーただ、クリア条件を満たすために必須なミニゲームが本当辛くてなぁ・・・。
皆あれで去っていくんだよ・・・クリーム、美味しいのに・・・」
「あれはねぇ・・・うん、ボクも挑戦したけど辛すぎた・・・」
思い出したのか、ユウキも嫌そうな顔でうんうん頷いている。
うむうむ。分かるぞユウキ、その気持ち。あれは本当に嫌な物だった・・・。
「・・・???」
経験者二人に挟まれた未経験者一人が困っているから、助け船を出してやるとしよう。
まずはそうだな。クエストの概要とバックボーンとなるストーリーについて説明するところから始めようか。
「《逆襲の雌牛》の重要キャラクターである雌牛とは、番である雄牛が同性であるはずの雄牛と交尾したことで捨てられたバツイチ牛のことで、このクエストの最終目標は雌牛に人工授精して妊娠させてやることなんだ」
「ぶっ!?」
思わずといった風に吹き出すアスナ。
分かる、分かるぞアスナ。アンタの気持ちはよーっく分かる。
実際俺も、あのイベント考えた開発スタッフは頭がおかしいと確信している程だからな。一般人でゲーム素人でもありそうなアスナには相当キツい現実だろう。
だが、事実だ。受け入れろ。
「酪農家のおっさんNPCからクエストを受注した後、村に一軒だけある品揃いの悪い道具屋で《逆襲の雌牛》専用アイテム《精液ストロー》を買って牛舎に行くとイベントが発生、ミニゲーム《雌牛に種付けせよ!》が始まるんだが・・・これが本当、精神的にキツくってなぁ・・・」
「アイテムストレージから取り出した《精液ストロー》を口にくわえて、雌牛のアレに注入器の先っちょをゆっくり挿入していくんだよね・・・。
変なところでリアル指向すぎて、思わずドン引きしたよボク・・・」
「しかもこれが、意外と難しい。プロがやっても成功率六割程度というリアル設定が活かされて、活かされすぎた、完全なるキチガイイベントだ。経験者かクリアのコツを知ってる奴からレクチャー受けた奴でもなければ、まず成功しない。
だから言ったろ? コツを教えてやろうかってーーぶっ」
顔面に何かが打ち付けられて世界が明滅。意識と視界が暗転した。
どうやら黒パンを投げつけられたらしい。
こんなモンでもSTRがバカ高い、高レベルプレイヤーが投げつければ凶器になるようだ。頭の中がグラグラ揺れている。
犯罪防止コード圏内の町中で武器による攻撃を食らっても、不可視の障壁に阻まれてダメージは受けないが、発光と衝撃とわずかなノックバックで精神的ダメージを負うことが判明した。
なるほど、これは使える。とりあえずは《圏内戦闘スキル》とでも名付けて、アルゴに売ろう。きっと高値で買い取ってくれるはずだ。
「最っ低!」
ぷんぷんと頭から湯気を上げて沸騰しながら、アスナが去っていくのを感じ取れた。
どうやら怒らせてしまったらしい。後で謝っておいた方がいいだろう。
ユウキが「キリト・・・君って奴は・・・」と、なにやら可哀想な物を見る目で見ていた気がするが、気のせいだ。うん、気のせいに違いない。
なにはともあれ、今この場の俺がしなければいけないことは・・・。
「ぐふっ」
死んでおけ、と言う神の意志に従うこと。
ただ、それだけだった・・・
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