前から使いたかったネタを使いたくなったんです!…ただそれだけなのが問題ですが…
第一層にある《はじまりの街》に降り立ったのは数ヶ月ぶりのことだった。
その場所で私、結城明日奈は転移門を出たところで立ち止まって、巨大な広場と町並みとをぐるりと見渡した瞬間。複雑な感慨を抱かされる自分を自覚させられる。
「ここに来るのも久しぶりだな・・・」
「私も・・・・・・」
ユイちゃんを背負ってあげてるキリト君が呟くのが聞こえてきて、私も彼に合わせるように小声で賛成する。
この街はアインクラッド最大の都市で、冒険に必要な機能は他のどの街よりも充実しているし、物価も安くて宿屋とかのNPCが経営する店舗だっていっぱいある。
どのみち転移門を使って別のフロアには一瞬で行けるようになっているのがSAOなんだし、効率だけを考えれば攻略組メンバーたちでさえ《はじまりの街》をベースタウンにする方が理に適ってもいる。
・・・・・・でも実際には、私が知ってる同レベルくらいのプレイヤーの中で《はじまりの街》に留まってる人は一人もいない。
その理由が、転移門を抜けて中央広場に降りたってみた瞬間に、イヤでも理解できる自分がいた。
この場所に立って、空を見上げた瞬間に―――否応もなく、“あの日”の事を思い出してしまっていたから・・・・・・。
空が突然、血の色みたいな黒さを宿した赤に染まって、顔のない漆黒のローブを纏った巨大な死神がデスゲームの開始と、遊びでしかなかったゲームとしてのSAOの終わりを宣言して、私たち巻き込まれた一万人のプレイヤーたちの人生が強制的に一変させられてしまった運命の日の記憶を・・・・・・誰だって皆、思い出したくはないと感じていたから・・・・・・。
だから私が知り合ったプレイヤーたちは誰もが《はじまりの街》から早く遠ざかりたがって、留まろうとする人は誰もいなかったんだと、ゲーム開始から2年経った今になって広場に再び戻ってきた瞬間に、私は彼らの気持ちを改めて痛感させられる気分になっていた・・・。
それは多分、今も街に留まっている人も同じなんだと思う。
今までは、どうして『あんな嫌な思いをさせられた場所に留まっているのか?』って不思議に思うことが多かったけど、久しぶりに帰ってきて彼らと同じ場所に立ってみると、その気持ちが少しだけ分かったような気がした。
確かに彼らは今も《はじまりの街》に留まり続けてはいるけれど、そうしてる理由は施設とか物価などの理由が大半で、あの日のことを思い出させられるのはイヤだと思う気持ちは多くの人達が共有してるものなんじゃないかなって・・・・・・そう思える自分になっていたから・・・。
「どう? ユイちゃん。見覚えのある建物とか、ある?」
私は感慨と共に蘇ってきた、“あの日のイヤな記憶”が一瞬だけ頭をよぎるのを自覚して、それを振り払うため実際に頭を左右に振ってみせる必要があったけど、その甲斐あって今の意識は別の話題に向けることができた。
そう。今の私は過去ばかりを思い出してばかりはいられない。前ばかり見て未来しか見なくなっていていい立場でもない。
今この時に、私はここにいる。やるべき事をするために、ここに戻って来たのが今の私なんだから。
今は自分の過去を思い出してイヤな気分に浸るよりも、ユイちゃんの失われた過去を取り戻す今の作業を優先しなくっちゃね。
「うー・・・・・・わかんない・・・」
「まあ、そうだよな。はじまりの街は恐ろしく広いし、この広場だけでも結構な面積がある。たしかに良い景色ではあるけど、あんまし良い思い出がある場所でもないしなぁ・・・」
「そうなんだよねー・・・ボクも時々、イヤな夢見て夜に飛び起きちゃうことあるけど、空から泥みたいなの湧いてきてホラーみたいな映像がドロドロって――アベッチ!?」
「教育的百Gパンチ指導!!」
バコーン!と。ユイちゃんの前で変なこと思い出させるようなこと言い出す悪い子が一緒にいるのが今だもんね! 私が純粋なユイちゃんを守ってあげなくちゃ!
まったく、デリカシーのない男の子と女の子は、これだから全くもう!
「ま、まぁ歩いてれば何か思い出すかも知れないし、とりあえず中央市場に行ってみようぜ。
この街で一番人が集まりやすいのは、あの場所なんだし、もしユイのこと知ってるヤツがいるとしたら、可能性は一番高いだろ?」
「う~ん、確かにそうだね。最新情報じゃないけど、他に候補を知らないし、今のこと知ってそうな人を探すためにもそこしかない。
という訳で、行くわよユウキ。そんな所で寝てないで早く来なさい」
「ううぅ・・・ふぁい・・・。・・・なんだか今日のアスナは教育ママっぽくて暴君な気がするよぅ・・・」
衝撃が抜けきってないのか、こめかみに手を当てて目を×印みたいにしちゃってる姿で、真似しちゃいけない方のお母さんなユウキが復帰してきて私たちパーティーの後列に並んで、ユイちゃんを背負ったキリト君が中央に立って、私が先頭。
いざという時には対応できるよう、一応の布陣だけはしながら進んでいくよう予め決めておいた編成がコレだったのだ。
SAOにおいて町中での戦闘はシステム的に不可能で、モンスターやPKからの攻撃を受けることはないし、決闘システムを悪用したPKだって三人パーティーで行動している限りは仕掛けようがない。それは分かっているけれど・・・・・・それでも油断できない理由が、今のこの街には存在するようになっていたから。
「ただアスナ、それとユウキも。一応すぐ武装できるように準備だけはしといてくれ。
街から出なけりゃ大丈夫だとは思うけど、この街は今はもう《軍》のテリトリーだからな。用心しておくに越したことはないさ」
「ん・・・。今日はユイちゃんもいるんだし、気を抜かない方がいいものね」
キリトくんと頷き合って、その対象への警戒を新たにし合う私たち二人。
日本国内でも最大級のネットゲーム情報サイトの管理者だったっていう男の人のもとで、三千人ぐらいのプレイヤーたちが集められ、ここからも見えるお城みたいな建物の《黒鉄宮》を占拠して、物資の集積とか獲得したアイテムの共同管理とか色々と配下のプレイヤー集団に指示を飛ばしたりしてるっていう、SAOでも最大規模の巨大ギルド。
私たちは最近まで知らなかったけど、巨大すぎてギルドシステムに認定されなかったから名前がなかったはずの彼らの組織に《軍》っていう渾名がつけられたんだけど、いつの間にか正式名称として採用されてたらしい事実を、この前のダンジョン攻略のときに聞くことになったのよね・・・・・・たしか名前は―――
「あー、《アインクラッド解放軍》の人達ね。
コーバッツ中佐さん、元気にしてるかな~?」
『『・・・・・・』』
・・・・・・うん、まぁ。ユウキが今言ってたとおりの名前が正式名称になったらしい人達なんだけれども。
なんとなく私たちが出会った時の印象だけだと、コミカルな人達っていうイメージしかなくて対応に困るんだけれど・・・あの時はユウキがいてくれたお陰で結果的にそうなったってだけだったし、アレな一部の人達を当てはめて《軍》っていう組織全体について考えるのは危険だもんね。警戒を強めておいた方が良いかもしれないわ。
なにしろ今日の私たちには、いつもの三人だけじゃなくてユイちゃんがいるんだから。
私たちが原因で起きちゃった厄介事に、ユイちゃんが巻き込まれるのだけは絶対に避けなきゃいけない事態。この街にお父さんかお母さんと一緒に住んでる可能性もあるんだから慎重にいかないと。
それにまぁ、《軍》は色々と悪い噂がある人達だけど、決して一般プレイヤーと敵対的な存在という訳じゃない。
それどころか、フィールドにおける犯罪行為の防止を最も熱心に推進している集団として血盟騎士団の幹部たちからも評されてる程。・・・すっごくイヤそうな表情しながらだったけどね。
なにしろ治安維持の方法の過激さが《軍》が恐れられてる一番の理由になってるぐらいだし・・・他にも狩り場を大人数で長時間独占するとかの迷惑行為とかで評判が悪くはあるけど、それらは別に違法行為ってほどではないし他のプレイヤーに危害を加えてる訳でもないから一番の理由はやっぱり過激な方法論にあるんだと私的には思っている。
そんな人達に、私たちがずっと一緒にい続けてあげられないユイちゃんと、ユイちゃんの家族が狙われるようなことだけは絶対に避けなきゃいけないなって、心の中で自制する決意をあらたにしていた私だったんだけど―――そうこうしてる途中で妙なことに気付かされ初めて、思わず小首をかしげてしまう。
「ねぇ、ユウキ。この街って今、プレイヤーが何人くらい住んでるんだっけ?」
「ん? え~と、たしか生き残ってるプレイヤーが六千人ぐらいで、その中で《アインクラッド解放軍》に入ってる人達を含めて3割くらいが住んでるって聞いたことあるから・・・・・・大体二千人ちょっとか少し少ないぐらい――になるのかなぁ? どう思うキリト?」
「そこまで言って俺に振るのかよ・・・・・・俺も別に詳しく知ってる訳じゃないけど、たぶん数字的には今ので合ってると思う――ああ、なるほど。そういう事か」
私の質問にユウキが答えを返そうとして、自信がなかったのか隣に並んで歩いていたキリト君にも確認を取ったところ、聞かれるまでに一拍あいたお陰なのかキリト君も私と同じ疑問に気付いたみたいで、ゲート広場から出て大通りに入ってから市場エリアへと続いている道すがら周囲をキョロキョロ見渡して、
「・・・住んでるヤツらの数と比べて、人が少な過ぎるな・・・。さっきからNPCしか見かけない。
マーケットの方に集まってるって言うなら分かるけど、それもないみたいだし・・・《はじまりの街》規模のタウン内で、この静けさはちょっと異常だな・・・」
「そうなんだよね・・・。二千人もの人が住んでいるはずの場所なのに、これじゃまるでゴーストタウンみたい・・・」
上層にある大規模な街で、プレイヤーたちが露店を開いてたり談笑してたりパーティー募集してたりと言った光景を見慣れている私たち攻略組にとって、景色の良いゲート広場はいつも人でゴッタ返しているイメージがあって、その基準で考えると《はじまりの街》の静けさは《軍》とか低層とか低レベルプレイヤーばかりだからとか、そういう理屈だけだと説明がつかないものに見えざるを得ない異様な状態に感じられたの。
もちろん上層の街だからって、どこでも人気が多いって訳じゃないけど、転移門があるお陰で距離的なメリット・デメリットが乏しいアインクラッドでは基本的にどこの街に生活の拠点を置いていても最前線のダンジョンまで行くまでの距離と時間はそんなに大した差は生じる心配がなく、結果として街ごとに攻略組プレイヤーの人口は結構バラついて住んでいるのが現在のSAOをプレイしている人達の生活スタイル。
その点で考えれば、攻略組が各街ごとに人数が別れているのに対して、はじまりの街は2000人が同じ一つの町中で今も暮らしているって事になる。街の広さを考慮しても、その人数差と静かすぎる街の風景はいくら何でも上層と違いすぎてるようにしか感じることができなかったから・・・・・・
そう思って、三人揃って不思議がっていた。丁度その時だった。
『貴方たち! “子供たち”を返してくださいッ!!』
「「「――ッ!?」」」
路地裏の方から聞こえてきた硬質な女の人の叫び声と、その言葉を聞かされた私たちは即座に反応して声の聞こえてきた方へと意識を集中させて音と声とを音声エンジンで拾わせ始める!
『おっ♪ 保母さんの登場だぜッ』
『よっ! 待ってました~☆』
『『『アッヒャッヒャッヒャッ~♪♪』』』
・・・・・・続いて聞こえてきた甲高くて下品な笑い声と、如何にも過ぎるスケベそうな男達の野卑た声・・・・・・。
これはもう、ハズレようがない。そう思った時には私の身体はとっくの昔に動いていたし、何の声もかけなかったけどキリト君もユウキも、ほぼ同時に私と一緒に走り出して女の人の声が聞こえた方に向かいだしていたッ。
順番は私が先頭で、次がユウキ。
最後に続いたキリト君が、背負ったままのユイちゃんに負担をかけないよう速度を緩めたのを一瞬だけチラッと振り返って確認すると、私とユウキの二人は逆に速度を速めて目的地に向かって全速力まで加速する!
キリト君がユイちゃんを守るため動きに縛りが課せられるなら、私たち二人が彼の二刀流の代わりになって対処しなきゃいけない! それがチームでありパーティーっていうものなんだから、これぐらいしなきゃ焦る気持ちを抑えて速度を抑えたキリト君にあわせる顔がないもんね!!
その甲斐あってか、私たち三人は意外と距離があった目的地までの、通り慣れていない道を短時間で走破して駆け込んだ先の路地で、一人の修道服みたいな服装をした女の人と、揃いの装備で身を固めた10人くらいの男性プレイヤー達が対峙し合って向かい合う、ぶつかり合う寸前の時点で到着することに成功できたみたい!
人がいないから、意外と遠くから声が響いてきてたらしい。その誤差で危うく間に合わなくなるところだったと思うと冷や汗が出るけど・・・でも間に合ったからには、もう間に合わないなんて事態にさせる気はないんだからね!
「ギン! ケイン! そこにいるの!?」
「先生! 先生・・・助けて・・・・・・っ」
「おいおい、人聞きの悪い言い方をしないで欲しいな。ちょっと、お前たち物知らずな子供に社会常識ってもんを教えてやっていただけだろう?」
「そうそう、これも《軍》の大事な任務なんだからな。すぐに家まで帰してやるって。もっとも、払う物を払ってくれた後の話だがね」
そんな会話内容が聞こえてくるけど・・・・・・やっぱり、この同じ装備の人達《軍》だったのね!
・・・でも、どういう事なの・・・!? こんな無法者の集団になってるなんて話は、血盟騎士団の幹部会だって聞いたことがない。
ヒースクリフ団長だって、ここまでの無法を『プレイヤーの自由』で放置しておける人じゃないし、第一これじゃあ《ラフィンコフィン》とかのPKギルドにとって新人育成の場所になっちゃってるに等しいじゃないの!
「サーシャ先生! 先生、助けて・・・!」
「ミナなのね!? お金なんていいから、全部渡してしまいなさい! さぁ早く!」
「渡したよっ! でも、それだけじゃダメだってコイツらが・・・」
「・・・・・・え?」
「あんたら、ずいぶんと税金を滞納してるからなァ~。
市民には納税の義務があるんだから、法律を破るのは良くねぇよなァ? んん?」
「そういう事さ。こんな端金だけじゃあ、貯まっているツケまで払ってもらったとは言えないな。足りない分の差し押さえとして、装備も置いていってもらおうか」
「そうそ♪ 身につけている武器も防具も、着ている服まで何から何までぜ~~んぶ、な?」
「悪く思わないでくれよ? 俺たちも辛いんだ。
だが《アインクラッド解放軍》に所属する以上は、《徴税部隊》としての任務は果たさなければならないのだよ。分かって欲しいな、アッヒャッヒャッ☆」
・・・・・・もう、ここまでの会話を聞かされた時点で、私の中でユイちゃんのためにかけていた自制のブレーキは音もなく外れてしまって、殺意にも似た憤りの感情が自分の身体を支配していくのを我慢できなくなってしまう・・・っ。
この人達は、修道服を着た女の人も、そして彼女が助けようとしている軍の部隊の向こう側にいるらしい子供達にまで着衣も全て解除しろって、そう命令していることが分かった瞬間。
私にとって最後のストッパーも存在すること自体、意味がなくなったことを犯人達自身の口から聞かされて、我知らず思わず口元に笑みが零れそうになってしまった自分を認識させられる・・・。
だって、もし。もしもユイちゃんが、この街に住んでいて、私たちの元へ来て出会うことがなかったとしたら・・・・・・彼女は今頃、この人達の前で同じ要求を命令される立場に立たされていて、そうなった時に私たちは多分いなかっただろうから―――
「ユウキ、それにキリト君。・・・・・・言っておくけど、止めても無駄だからね?」
「止めないし、止める気は俺にもないさ。ユイには俺が指一本触れさせないから、好きにやってしまって構わない」
「ボクもキリトに賛成かな。って言うか、仮に止めちゃったら多分、ボクが怒られそうなだけの気がするし・・・」
二人からの賛成と協力を約束してもらった私は、もはや何の遠慮もなく動く決意を固めることができた。
特にユウキは、雑そうに見える態度とは裏腹に、キリト君より強い怒りを感じてしまって、必死に抑えようとしてることが伝わってくる。
これは出会ったときから続いていた、この子の特徴みたいなもので、怒りとか憎しみとかの強い《負の感情》を刺激された時ほど、ユウキは態度や言動を柔らかくしようと意識する癖のようなものを持っているらしいのよね。
途中から何となく、そんな感じはしていたのだけれど、一緒の家で暮らすようになって一週間近くの間、四六時中ずっと一緒に過ごしてる中でハッキリと確信させられた少し変わった彼女の悪癖。
それが何に起因するものなのかは、今の私にはまだ分からないままだけど・・・・・・一つだけ分かった確かな事実として。
ユウキは・・・・・・態度が軽ければ軽い時ほど―――激しい怒りを感じて我慢している時だっていう事実だけ!!
「くっ・・・ゲスな真似を・・・! そこを退きなさい! さもないと――」
「さもないと、何だい? 保母先生♪
あんたが代わりに税金払ってくれるって事なのかな? それとも――な、なにッ!?」
ニヤニヤ笑いながら、たった一人だけの女の人が剣を抜こうとするのを立ち塞がって邪魔していた軍メンバーの何人かが、彼女の背後から飛び出してきて跳躍し、自分たちの背後に一瞬にして回ってしまった私とユウキの二人の動きに驚愕の叫び声を上げるのが、飛んでる間に遅れて聞こえてくる。
とはいえ、聞こえてくるだけで何の邪魔もしてくることはなかったから、私たちには何の問題にもならずに介入できて、後ろに庇ったインナー姿の幼い子供達の姿に傷ましさを感じさせられ、子供達に罪はないと知りながら笑顔を作るため努力するのが一番大変だったほどだった。
「――もう大丈夫だよ。君たちの装備は君たちの物なんだから、渡す必要なんてないわ」
「だね。弱い者イジメをする悪者から子供達を守るのが、気持ち的には《ナイト》の勤めってヤツだしね。後はボクたちに任せちゃってダイジョーブ」
『おい・・・オイオイオイッ!! なんなんだお前らは!? ああッ!?』
格好良く決めて、子供達が一瞬ポカンとなって動きが止まった後、慌てて外していた防具を身につけ始めた頃になってから軍のメンバー達がようやく反応。
ヤクザかチンピラみたいな口調で喚きながら、私たちに向かって大きく一歩踏み出してこようとする。
「我々《軍》の任務を妨害するのか!? 我々は《アインクラッド解放軍》に所属する《第13徴税部隊》のメンバーなのだぞ! それを知った上でやっているのか!?」
「知らないわよ、そんな頭悪そうな名前の部隊なんて」
「たしかに・・・・・・ラノベ作家志望の厨二病学生でも、もう少しはマシな名前が考えれると思うレベルだったね・・・」
「なっ!? なっ・・・! お、俺のセンスを馬鹿にするのか貴様ら!? 俺はネット小説でプロ作家を大勢輩出しているサイトで人気ナンバー11になったこともある男なのだぞ!?」
「まあ、待て。ブラッディー・オブ・ザ・シン伍長」
そう言いながら、気にしてる過去の出来事と一致しちゃったのか、感情的に激高しかけた部下っぽい人を制して押しとどめ、ひときわ重武装したリーダー格らしい偉そうな態度の男が前に出る。
・・・・・・って言うか最初の人、ホントにそんなPC名だったんだ・・・・・・。なんかもう、センスが既にもう・・・。
「あんたら見ない顔だけど、解放軍に楯突く意味が解ってんだろうな?
何なら本部でじっくり話聞いてやってもいいんだぜ? それとも《圏外》行くか圏外? おぉ!?」
「聞く必要はないし、行く気もないよ。どーせ言い訳と命乞いしか出来ないでしょ?
“キミたちには”、ね」
「んだとォッ!? 舐め腐って見下してんじゃねぇぞ、このクソガキぃッ!!」
そしてアッサリと、ユウキからの挑発に乗って激高して剣を振り上げて、威嚇するようにブロードソードを振り回し始めるリーダー格の人。
バイザーから見える細い目が凶暴な光を帯びはじめ、《圏外》という言葉を聞いた途端、背後の方で子供たちが小さく悲鳴を上げるのが耳に入り――私の中でさっきより激しい怒りがわき上がってくるのと同時に、相手の“ショボさ”が悪目立ちしてくるのを同時に感じさせられ微妙な気分にさせられもする。
・・・・・・何というか、明らかに《グラディール》よりも迫力や凶暴さが格段に下なのが示されてくるせいで、比較対象の評価がブレちゃって困るのよね・・・。
グラディールはあれで、ギルド本部内での人数差で脅そうなんてしたことなかったし、《圏内》での決闘にも乗ってきてたし、わざわざ『圏外に出よう』なんて分かりやすい脅し文句を言ってきたりする口先だけの犯罪者では一応はなかったんだなと、今あらためて『本当に口先だけの子悪党』と出会って初めて分かった。
だから正直困ってしまうしかない・・・・・・グラディールを高く評価するなんて絶対イヤなんだけど、この人見てると彼の方が敵としては格上だった気がしてきてスゴク困る・・・まったく!
なんでこう、装備が見栄え優先で、威嚇とか得意そうな重武装の剣士タイプの人ってこういうの多いのかしらね本当に!?
「クックック・・・・・・どうやら立場がようやく理解できたみてェだな。いいぜ、許してやるよ。もちろんタダでとはいかねぇがな。アンタらが頼むなら、ガキ共含めて見逃してやらないこともない。
アインクラッドでも100人といないS級美少女プレイヤー2人共が、このオレ様に泣いて謝ってお願いしてくるって言うんだったら、聞いてやらないこともないんだぜ? ベイビーちゃんよ~♪ ヘッヘッヘ」
しかも私が過去の嫌な思いさせられたゾンビ騎士のこと思い出して苦悩してただけの沈黙を、自分に都合良く解釈したっぽいこと言ってきて気持ち悪い提案までしてくる始末だし・・・・・・なんていうか、こう。この人達は何かもう本当に・・・っ。本当に・・・・・・!!
「なにしろ我々《アインクラッド解放軍》は、貴様ら一般プレイヤー解放のために戦ってやっているのだからな!
ならお前らが俺たちに協力するのは当然の義務ってものだし、オレたちの任務を妨害するってことは一般プレイヤー全員の解放を邪魔するのと同じこと!
俺の部下たちは、お前らみたいな一般プレイヤーと違って軟弱者じゃねぇんだからな! 痛い目見ないうちに降参しようって言うアンタは正しい選択だったと賞賛してやるぜ! アッハッハー!!!」
目の前まで来られて、そう高笑いまで聞かされて―――もういいやと思って、実体化させた剣の一突きで《百Gお仕置き百連コンボ》でも叩き込んであげようと、本気で実行しようとした―――その時だった。
「待て貴様ら!! そこで何を騒いでおるかッ!?」
アスナ達が飛び立っていった、今立っている場所の向こう側にある元来た道の方角から、怒鳴り声とともに複数の足音と鉄が擦れ合うような金属音が響いてきた時。
俺は振り向いて、相手の姿を確認したことで状況が甚だしく悪くなってしまったことを否応もなく理解させられていた!
「マズい! 新手の援軍か!?」
舌打ちして俺は、自分が今いる場所の位置の悪さと態勢と、新たにやってきた揃いの装備の《軍》の一団が相性悪すぎることに僅かながらとは言え焦りを感じずにはいられなかった!
ユイの安全を優先して、退路がない子供達が追い詰められていた通路奥の側には敢えて飛び込まないよう、元の位置で待機していたのだが、それが却って《軍》の援軍に俺だけ挟み撃ちされる立場になる理由になってしまった・・・ッ。
戦って負ける気はないが、ユイを背負いながらだと流石に戦えないし、かと言って背負ったままの状態で彼女が狙われないという保証もない!
おまけに、援軍として新たにやってきた連中・・・・・・かなり強い。見た目は同じでも、装備の質も素材も段違いな精鋭たちだッ。
SAOだと武具は必要パラメーターに応じて装備可能になるから、新たに来た奴らのステータスが元からいた連中とは比較にならないほど高いってことは装備を見ただけで分かってしまえる。
もちろんボス戦の常連プレイヤーである俺たちに及ぶ程じゃないが、攻略組プレイヤーの一角に食い込めるほどには高いレベルと装備とステータスを誇っている連中だった。
クソっ! まさか、こんな隠し球を《軍》が温存していたとは・・・!
どうする? アスナたちが突破してくるのを待って相手を任せるか!? それともユイだけでも安全圏まで移動させて隠れさせた後、俺だけ戻ってきて三人がかりで切り抜ければ―――って、アレ?
見た感じ同じのばっかで、顔見えないからキャラまでは分かんなかったけど・・・・・・コイツらってひょっとして、俺と前に会ったことある連中なんじゃ――
「あ、あなたは・・・貴方様はコーバッツ中佐殿!? どど、どうしてこのような卑しい場所に親衛隊長のあなたが・・・ッ!?」
「あんころもっち中尉だな!? 貴官こそ、この状況は何だ! この地区は前リーダーのシンカー殿とキバオウ総帥との間で免税の約定が取り交わされていたはず! それを貴様の階級で知らなかったとは言わせんぞ!」
「い、いえあの・・・これには色々と事情がその、えっと・・・・・・き、貴様ら! 見てないで助けろ! 俺は貴様らの上官なのだぞ!?」
「ええい! 言い訳は無用! 今のキバオウ閣下に、貴様らのような軟弱者な部下はいらん!
治安維持任務違反の罪により、犯罪者プレイヤーとして《黒鉄宮》の牢獄エリアに監禁する! 武装を解除して連行せよ!!」
『了解ッ!!』
「そ、そんな!? たた、助けてくださいコーバッツ中佐殿! ぴろしき大尉! デゥーク兎丸少佐殿! お願いですから助けて下さぁぁぁッい!?」
「ええい! うるさいうるさい! 俺たちのPC名を大声で叫ぶんじゃねぇ!」
「くそゥッ! アバターさえ! アバターさえエデュットした通りだったら、こんな事には・・・・・・許せん! 罪に相応しい罰を与えてやるから覚悟しておくがいい!!」
「それは八つ当たりでありまぁぁぁすッ!? ヒィィィィィッ!!」
・・・・・・そんな感じのバカ騒ぎの末、連れて行かれる女の人と子供達を襲おうとしてた軍の連中と、連行していく俺たちと面識あるっぽい《軍》の精鋭部隊のメンバー達。
あとまぁ・・・・・・一般的にの話として、20歳半ばを過ぎるとキラキラネームで、コテコテの美形キャラを使うのが気恥ずかしくなってきて、いい味出してるバイプレイヤー風のキャラを好むようになりやすいって言われている日本のMMOユーザーの傾向が、悪い方向に出やすかったのがデスゲーム化したSAOの一側面だったことを今更ながらに思い知らされてる俺なのだった。
何はともあれ。―――こんな展開を引き起こしそうなヤツは、俺の周囲には一人しか心当たりはいないんだよな・・・。
「ぶいッ☆」
「わー♪ ユウキママ、かわいー♡」
・・・・・・前に貸した借りを、キッチリ返させるため《軍》の拠点の《はじまりの街》に行くことが決まった時から連絡してやがったらしい。
助かるには助かったが――いつかこのイタズラ好きな黒い妖精には、仕返ししてやらなきゃ俺の気が収まらなくなってきたな本当に(ゴゴゴ・・・)
つづく
*『今話の展開の説明』
書き忘れました、一応の説明を追加です。
今作オリジナルの設定として、《軍》の暴走はキバオウが組織のコントロールに失敗しまくってヤラカシまくった結果だったという解釈をする予定でおります。
理由として、その方が彼の思想や能力的に整合性が取れると思ったからです。
3千人の巨大組織を管理運営する能力や知識が彼にあるとは思えませんし、傀儡にしていたシンカーの事務能力あってこその政権運営だったと推測してまして。
取りあえず、その当たりの説明も含めて次話を早目に書かせて頂きますね。
いま読み直したら今一バランスが悪い内容になっちまってましたので…。