前の話と繋げて再投稿でも良かったのですが、文字数が多くなり過ぎたので読みやすいよう、【16・5話】という形を取らせていただいた次第。
どーにも最近、体力不足とかで端折る機会が多くなってて、我ながらイヤですな…。
「・・・その節は、お世話をおかけした。・・・です。
それと今回の一件では部下の不手際で、迷惑をかけた。――ました」
部下たちが助命を嘆願して喚き続けている徴税部隊の連中を引っ立てさせながら、相変わらず偉そうな態度と変な敬語モドキになってる喋り方でコーバックは、胸を逸らしながら一応とは言え自分たち《軍》の不手際について頭を下げてきていた。
・・・・・・アスナとユウキのいる方に向かってだけだったけどな。
彼女たちの斜め横に立ってる俺のことは、むしろ目線を合わせるのを避けてるような素振りまで見せながら、いない者としてカウントしつつ、それでも一応は礼儀を守る。・・・そんなスタンスで始まってたのが、《軍》に所属する精鋭部隊コーバッツ中佐とやらと俺たちとの久方ぶりに交わした再会時の会話内容だった。
74層のフロアボス《青い目の悪魔》と戦った時以来、代わり映えしてないヤツとの再会だったけど・・・・・・コイツどんだけ人に頭下げるの苦手なんだ? 上から目線で人に接するの慣れすぎるにも程があるだろうに・・・。
「《絶剣》――殿から連絡を受け、先日の一件での礼を返すのが軍としての節度と考え、お迎えのため皆さんを捜索している最中だった。のですが、とんだ身内の恥をさらしてしまい大変遺憾に思っている次第。――であります」
「・・・どういう事なんでしょう? この街の状況はいったい・・・説明して頂けると言うことで宜しいんですよね? コーバッツ中佐さん」
「無論だ。――です、《血盟騎士団》の副団長殿。その為に我々も諸君らを迎えに来たのだからな。・・・でした」
それでも尚、重要な情報源であることには変わりはないのが、現状におけるコーバックの存在だ。
アスナは厳しい視線で睨み付けたまま、抜き掛かっていた剣の切っ先を鞘に収めながらも実体化を解こうとまではしない態勢で、攻略組の有力ギルド《血盟騎士団》のサブリーダーとしてコーバックに接して情報を聞き出そうと考えたらしい。
威厳のある口調で接して、相手の方も俺たちよりは話しやすい相手みたいで、任せてしまった方が良さそうだと判断した俺とユウキは互いに状況を見守る方針を共有することに決めた訳だったが、
「あ、あなたは・・・たしか《軍》の! キバオウの側に控えていた・・・っ」
「・・・む?」
だが、この場にいる人間は俺たちと軍のコーバッツたちだけじゃない。最初に襲われ掛かっていた修道服っぽい服を着たメガネの女性が非難がましい声で、新たに登場してきた乱入者達を睨み付ける。
そんな彼女の反応は当然のものだと思うし、むしろ一番の当事者は彼女たちだったとも俺は思う。通路の奥でアスナ達に庇われながらも彼らのことを睨み付けている子供達の怒りも含めて俺にはコイツらを弁護してやる必要も理由も全く感じる気になれそうもなかった。
だが逆にコーバッツは、そういう問題が気にならないヤツだったらしい。あるいは、気づけないだけの鈍感すぎる野郎なのかも知れなかったが、とにかくも奴は普通に理由と事情を説明してくれるだけで萎縮する部分は何もなく。
「――ああ、君は東七区にある教会で、年少者プレイヤーたちの監督を自主的におこなって軍の運営を支援してくれている民間協力者だったな。たしか名前は《サーシャ》といったか」
「わ、私のことを知ってるの・・・? い、一体なんで・・・」
「驚くことでもない。我々アインクラッド解放軍にとってもプレイ開始時から《はじまりの街》にいるらしい子供プレイヤーたちは問題になっていた。治安維持にかかわる事柄だからな。
だが、どう対処したものか分からず手をこまねいていたのだが・・・・・・自主的に自腹を切って彼らの捜索と養育とをおこなってくれる《協力者》が現れてくれたとのことだったので、我らとしても助かっていたのだよ。軍の財布が傷む訳でもなかったしな。
税の支払い滞りを見逃すだけで、子供たちの問題が解決できるなら、組織全体にとっても得であると前リーダーのシンカー殿は考え、最後にはキバオウ総帥も納得されて、権限委譲の際の条件として特例をお認めになっていた。・・・・・・はずだったのだがな」
そこまで言ってから苦々しく言葉を切って、沈黙の砦に立てこもる道を選ぼうとしやがったので、
「で、結局は約束は履行できず、解決できてた子供たちの問題を、自分たちの手で再発させちまいそうになった、と」
「む!? ・・・・・・むぐぅ・・・」
俺は攻略組プレイヤーの常識として追撃をかけるとアッサリ黙り込んで、はい撃沈と。
半端な真面目さと理屈っぽさでバランス悪い奴だな、相変わらず。
って言うかコイツ今、気になる名前を言ってたような気がしたんだが・・・・・・《軍》のリーダーになった奴ってもしかして――
「ところでコーバッツ。お前、自分たちのリーダーのことを“キバオウ”って言ってたけど・・・それはニックネームとかじゃなく、PC名なのか?
ひょっとして、メイスみたいな髪型してる、身長低めの戦士だったりするとか・・・」
「ほう? 《青い悪魔を倒した二刀流使い》も、我らが総帥キバオウ閣下の名前は知られていたのか。さすがはキバオウ閣下だ。人の器が一般プレイヤーの剣士如きとは格が違うな」
って、やっぱりアイツだったのかよ!? 何やってんだよ、あのモヤットボール頭は!
俺に向かって『自分なりにディアベルの遺志を継ぐ』とかって格好いいこと言っておきながら、やってることが体のいいカツアゲするチンピラ共の頭って、第一層で死んでいったアイツの遺志無駄にするのも程があるだろうが!! 何やってるんだ本当の本当に!!
「総帥のことを知っていると言うなら話は早い。実はその件で諸君らに頼みたいことがあるのだ。これは私の独断ではなく、キバオウ閣下からの願いでもあると受け取っていただいて構わない」
「・・・へぇー・・・一般プレイヤーとは格が違うはずの《軍》トップが、一般プレイヤー如きの俺なんかに頼まなきゃいけなくなること・・・ねぇ」
「むぅ!? ぐ、ぐぅぅ・・・・・・」
そして再びアッサリ追撃されて黙り込まされるコーバッツと、その手下で無言の部下たち。
なんていうかこう、コイツらは・・・・・・いちいち張り子の虎感を出してからじゃないと会話することが出来ない病にでもかかってるんじゃないかと・・・本気で少しだけ心配になって来ちまったぞ。主に頭の出来にたいしての話として。
そして、そんな俺たちのやり取りを見ていた側の反応として。
「す、すげぇ・・・すっげぇぞあの兄ちゃん! 軍の奴らを説教して、頭下げさせちまった!」
「いつも偉そうな軍の奴らが、あんな風に下手に出てる姿なんて初めて見たよ!」
「ちょっと何言ってるのよアンタたち! この人たちの話聞いてなかったの!? 本当に一番偉くてスゴいのは、このお姉ちゃんなのよ!
軍の人達が、このお姉ちゃんの前では借りてきた猫みたいに大人しくなっちゃったんだから、本当に格好良くて強くてスゴいのは、この綺麗で優しいお姉ちゃんなの! それ絶対!」
なんか子供たち同士で、子供たち同士らしい理由での高評価で論争が始まっちまってたっぽい。
まぁ、子供だからなぁ・・・どっちの方が強いとかスゴいとか偉いとか、そういうの気にする気持ちは分からなくはないんだが・・・。
俺たちとしては困ったように笑うしかない、下手なコメントしづらい状況が発生する中。
「みんなの・・・・・・みんなの、こころ…。
みんなに、ひろがってく、ココロ・・・・・・」
「え? ユイちゃん、どうかした? ねぇちょっと――」
周りの意識から外れて、いつの間にかユウキの近くまで移動していたらしいユイが、どこか譫言のような声音で呟きながら、小さな手を宙に向かって伸ばし――そして急に、
「あたし・・・・・・あたし・・・は・・・・・・ここに、いなかった・・・?
ずっと、ひとりで、くらいところにい・・・た・・・・・・?」
突然、何かを思い出したかのような、思い出した何かに恐怖するような表情を浮かべて、ナニカを意味する言葉をポツリポツリと呟くと・・・・・・スイッチが切れたみたいに気を失った。
「お、おいユイ!? 大丈夫か! オイ!?」
「ちょっ!? ユイちゃん! ユイちゃん! 何かあったの!? 返事して!」
「むぅ・・・」
慌てて俺たち駆けよって助け起こし、どうすればいいのか訳がわからず混乱する中!
唯一、状況を正確に把握して適切なアドバイスが出来たのは・・・・・・コイツだけだった!
「――事態はよく分からんが、とりあえず安静にできる場所まで運んで、休ませてやった方が良いのではないのか?
正直、気を失った子供に向かって叫んだところで、聞こえて理解できる知能などあるとは思えん年齢だからな」
「くっ! ・・・確かにその通りだけど、お前からの提案って言うのがなんかムカつく!」
一番空気が読めない男、コーバッツが結果論的に一番正しいものの見方が出来てしまった妙な状況!
かくして俺たち一行は、《軍》に襲われ掛かっていた女性のサーシャさんと、《軍》の一員で武断派幹部のコーバッツまで加わって、混沌とした面子になって子供たちが暮らしているって言う教会へと移動し、そこで今《はじまりの街》で起きている騒動の詳細を知ることになる。
それは、今回の事件の当事者の最後の一人との出会いを、同時に意味するものでもあった。
全てのプレイヤーが同じ場所から始まって、多くの出会いと別れを経験することになる予定だったはずの《はじまりの街》で、俺たちが二年越しにVRMMO《SAO》にとって本来の役割を果たしてもらうことになるなんて、出発する時には誰一人想像し得なかった異常な展開。
《出会い》が《別れの始まり》でもあるという現実を、俺たちが思い知ることになる事件は、まだ完全には始まりの時を迎えていない―――
つづく