分かりやすいよう、付け足した部分との間に「――」を引いておきました。
予想より時間が空きすぎたため、次の話に進めるつもりだったのですが、文字数的にちょうどいい当たりで切れた為こういう形にしてみた次第。
「これは・・・・・・すごいな・・・・・・」
「そう・・・だね・・・・・・」
俺とアスナとは、眼前で繰り広げられている風景を前にして、呆然と呟きを交わし合うことしかできなくなっていた。
今いるのは《はじまりの街》にある東七区の教会で、軍に絡まれていたシスターっぽい服装をして眼鏡をかけた女性プレイヤー『サーシャ』と名乗ってくれた人が借りているホーム代わりの住居。
そこで今、俺たちの前で激しい戦闘が繰り広げられている――。
「ミナ、パンひとつ取って! ほら、余所見してるとこぼすよ!」
「あーっ、先生ー! ジンが《小目玉の目玉焼き》取ったー!」
「取ったんじゃない! トレードだ! かわりにニンジンやっただろー!」
「ずるい! だったらボクはスティールだ! クラウドの《紫芋ウィンナー》もらいっ!」
「ああっ!? 俺が最後に食べようと思って残してたのに! 裏切ったな! 父ちゃんだって朝ご飯の時だけは、オカズ横取りしなかったのにー!」
「へへーんだ! ボス戦ではラストアタックを決めた奴だけがレアアイテムを手にできるのがSAOなんだからしょうがないだろー!」
サーシャさんと一緒に襲われていた子たちも含めて二十人くらいの子供たちが、彼女が用意してくれた朝食を食べながら、盛大に騒ぎながらパクついたりジャレついたりし合っていた・・・・・・。
長大な長テーブルに所狭しと並べられた大皿に盛られた卵やソーセージ、野菜サラダなんかを二十数人の子供たちが思い思いのペースと食べ方で騒ぎながら消費しているのだ。
量だけは充分近くあるとは言え、やはりそこはSAO。
デスゲーム開始時に旅立ったときと同じように、《はじまりの街》で入手可能な低ランク食材を使った料理では、そこまで味は良いものにはなりづらい。
《逆襲の雌牛》クエスト報酬で得られるクリームとかあるなら別だろうけど、もう少し先の村で受けられるクエストだし、子供にあのイベントはちょっとな・・・・・・。
それでも尚、子供たちは盛大に騒ぎながら奪い合っている。
まるでクリスマスのご馳走を取り合う時みたいにハシャギながらパクついて、隣や正面に座った子と大声で叫び合いながら和気藹々と。
「おー、みんな楽しそうに食べてるね。いいなぁ~。
友達みんなで食べてると、それだけで美味しく思えることってあるもんね♪」
「・・・・・・ああ、それはあるわね。私もデスゲームが始まってから初めて食べて美味しいって思えたご飯は仲間と一緒だったなって、今思い出したわ。
―――牛さんのクエストで手に入るイベントアイテムが必要だって、誰かさんたちが教えてくれて知り合ったのが最初だったなぁ~って」
『『げほんっ!げほんっ!ゴッホン!?』』
そしてアスナの呟きで、ユウキと一緒にむせる俺・・・・・・いや、あの時は悪かったと思ってるから忘れろって!? もう2年近く前の話だろうが! いや悪かったけども! 正直あの流れで仲良くなったのは今思い出してもどうかって気持ちにならなくはないけど、結果的に上手くいったから今は良いのではと思わなくもないですアスナさん!!
「ふふ、皆さん仲が良いんですね。ここの子たちもそうなんですよ、毎日こんな感じで朝ご飯のときはもう戦争みたい。
・・・・・・ユイちゃんの具合も、もう大丈夫そうみたいですね」
そんな状態になってた俺たち加害者2人に、空気を読んで助け船を出してくれたのかは微妙だったが、サーシャさんが丁度良いタイミングで話題を振ってくれる。
その言葉で、アスナの表情にサッと影が差す。
昨日の《軍》とのイザコザが終わった直後に、謎の発作――だと思うナニカの原因で倒れて気を失ってしまったユイは、軍の幹部であるコーバッツからの提案によって安静にした方が良いからと、俺たちは昨日から今日まで《はじまりの街》に留まって一夜を明かすことになっていた。
幸いユイは、倒れてから数分で目を覚まして意識もハッキリしていたが、そもそも倒れた原因と理由が分からない以上は大丈夫なのかどうかさえ判断しようがない。
「短いスパンで連続して起こる発作かも知れないから様子を見た方が良いと思う」
という真面目な顔をしたユウキからの提案もあったという事情もある。
俺たちとしても、今さら一晩ぐらい最初のスタート地点にある街で過ごす分には問題なかったものの、軍と揉めたばかりという事情もあったので宿泊場所の選定だけは気を遣う必要があった。
なにしろユイが倒れたのが、《軍》と揉めた直後だったのだから、奴らがナニカ関わってるかどうかは別としても、また意趣返しに襲ってこられて戦闘になった際に巻き込まれてノックバックで脳震盪でも起こす理由になったらイヤすぎる。
その結果、軍から助けた女性のサーシャさんから熱心に誘ってくれたから、という理由もできたため俺たち3人のパーティとユイの4人は《はじまりの街》東七区にある教会の一室を借りて今朝まで過ごしてた訳だったが・・・・・・状況的には昨日から大して変化したわけでもない。それがアスナの顔に影が落ちた理由でもある。
「昨晩ゆっくりと休ませてもらったおかげで、この通り元気にパンを食べれてます。ただ・・・・・・」
俺は一緒のテーブルに座って、子供たちが食べてるのと同じパンを頬張っている小さな女の子の黒い頭を見下ろしながら説明して、どう事情を語ったものかと頭を悩ませる。なんとも説明の仕方が難しい状況なのを自覚させられながら。
「差し出がましいことかもしれませんが、今までにも昨日みたいなことが・・・?」
「・・・・・・実は、それも分からないんです。この子、二十二層の森の中で迷子になっていて、記憶までなくしてたみたいで。
昨日の一件で目を覚ました後、ちょっとだけ記憶が戻ってきたらしいんですけど、それでも・・・」
「まぁ、それは・・・・・・こんな小さな子が・・・」
「はい・・・それで《はじまりの街》に、この子のことを知ってる人がいるんじゃないかと思ってきたところで、サーシャさんが軍と揉めてる場面に遭遇したんです。
だから逆に言っちゃうと、ユイが本当に迷子なのかどうかさえ、私たちには分からないままになっていて」
「う、う~ん・・・それは・・・・・・」
流石に、そこまでヒドい状況だったとは想像していなかったらしいサーシャさんまでもが蒼白な顔色になってユイの顔を見つめ直す。
当の本人は嬉しそうに笑顔を浮かべながら、ユウキとアスナに自分が食べている途中だったパンを、一緒に食べようと差し出してる愛らしい姿を見せてはいたものの・・・・・・状況は今言ったとおり全く良くなっていない。あるいは俺たち的には悪化したと言っていいかもしれない程に。
アスナは先程サーシャさんに敢えて伝えることなく、希望を残したいような言い方をしていたが、ユイが昨日のことの後で思い出した記憶の中に《はじまりの街》に来たことがある覚えはなかったらしい。
しかも保護者と暮らしていたという記憶すら、全く思い出せないままと来ている。
こうなると俺たちみたいな素人で、しかも赤の他人の立場では完全に手の打ちようがなくなるしかない。
記憶障害や幼児退行といった症状の原因も不明。おまけに記憶喪失のままでは、『記憶を失った迷子の女の子』なのか『記憶を失ったから帰り道も忘れて迷子になった』のか。
そもそも『自分が帰る場所を忘れた迷子か否か』さえ、記憶を忘れてしまった状態では自分で判別することすらできやしないって事になるしかない。完全に八方塞がりだった。
せめて最後に使った伝手のほうで効果があればいいのだが・・・・・・細いワラでもないよりマシなのは一応は事実な訳だし・・・。
「サーシャさんは、この街の子供たちと一緒に暮らしてきてたんですよね? だったら何か心当たりとかありませんか?」
「・・・残念ですけど、《はじまりの街》で暮らしてた子じゃないと思います。
ゲーム開始の日に何らかの理由でログインしていた子供たちのほとんどは、心に深い傷を負わされました。私そういう子たちを放っておけなくなって、この教会で一緒に暮らし始めたんです。
それからは毎日1エリアずつ建物を見て回って、困ってる子供がいたら声をかけるよう心がけてきました。二年間ずっとです。
ですので、ユイちゃんみたいな小さな子がいたなら、私も子供たちも、どこかで絶対に気づけてたはずです。
子供たちには子供たちなりのネットワークみたいなのがありますし、それも聞いたことがないっていうことは多分・・・・・・」
しっかりとした受け答えに「いないと思う」とする理由説明には根拠があって、希望にすがりたい願望があったらしいアスナでさえ、『そうですか・・・』と受け入れるしかないようだった。
『覚えてない』『思い出せない』と言うことは、『本人が覚えてないだけ』という可能性があることも現してはいる。彼女としては、そこに縋りたい想いがあったんだろうが・・・・・・サーシャさんの善意は図らずもアスナにとって絶望的な否定を与えられた形になってしまったのは皮肉な結果だった。
こうなると、残る希望は本当に細いワラしかない―――そう思っていた時のことだ。
――――トン、トン、トン。
教会入り口の方から扉を叩き、館内に来客があったことを告げるノックの音が響き渡る。
「失礼する。アインンクラッド解放軍、コーバッツ中佐である。
昨日の一件における返礼として、《黒の剣士》――殿より求められた情報を調べた上で持参した、です」
そして、最後に残ってた細いワラが到着する。
本当に、無いよりはマシな細すぎるワラな奴の気しかしないワラではあったけれども。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「まず結論から先に伝えるが、人事や書類整理を担当している係の者に確認させたところ、《軍》のメンバー内でリアル、VR問わず妻子持ちの者はいないようだ」
「・・・・・・そうか」
「また、《黒鉄宮》の内部で子供がらみの報告が入ったという記録も確認できなかった。過去ログまで戻って調べさせたため間違いないとみてよいだろう」
コーバッツさんから最後に残ったワラとして依頼していた内容を聞かされたキリトは、依頼してた結果を聞かされてから、微妙な表情をして顔をうつむかせる。
手持ち無沙汰になっちゃってたアスナとボクの二人は、なんとなく周囲や後ろを振り向いて遠巻きにコッチを見てる教会の子供たちの光景に肩をすくめてから姿勢を正して座り直し。
キリトが細いワラとして縋ってコーバッツさんに調べてもらった情報っていうのが、今のお話。
なにしろ上層フロアにも聞こえてきてる、超巨大ギルド《軍》の構成メンバーは千人以上で、今も《はじまりの街》に残ってるプレイヤーの総数は二千人弱ぐらい。
話半分の数だったとしても、《軍》に所属してる人たちだけで人口の半数近くは占めちゃってる計算になる。
普通に考えるなら、ユイちゃんが一人きりでログインした訳じゃなくて、《はじまりの街》にお父さんかお母さんと一緒に暮らしてた場合には、《軍》のメンバーの誰かの家族って考えるのが一番ありえそうで妥当な考え方ではあったんだよね。
その可能性はキリトにも最初から分かってはいたんだけど、なんと言っても彼らはその・・・・・・こーいう人たち。
素直に聞いても、正直に教えてくれそうになかったっていうのが一番の理由だったみたい。昨日の一件もあることだしね、一般プレイヤーは《軍》には極力近づかない方がいいっていう不文律をキリト的には無視できなかった訳らしいだけど・・・・・・幹部にコネがあるなら調べてもらった方が楽だし確実なのは当然の流れ。
という訳でコーバッツさんにお願いして、《軍》内部のユイちゃんに関係ありそうなメンバーの洗い出しを依頼してた結果を届けてもらったわけなんだけど・・・・・・その成果は見ての通りって感じになるんだよね・・・。
「それと念のため係の者にも確認させたのだが、《黒鉄宮》の牢獄エリアに収監されている犯罪者プレイヤーの中にも、条件に該当する人物はいなかったと報告を受けている」
「・・・・・・そっか。そっちはなんか、良かったんだろうけど、微妙な気分だな・・・」
そして残ってた最後の確認作業に関する情報も聞かされて、残念がってるようなホッとしてるみたいな、すごく曖昧で微妙な表情をしながら俯いてる姿が印象的だった。
コーバッツさんに確認を依頼してた、もう一つの情報がソレ。
あんまり考えたくないけど――犯罪者プレイヤーとして《軍》の治安活動の中で親だけが捕まった時にハグレちゃった可能性。・・・それについて囚人達に確認してもらうことだったんだ。
犯罪者プレイヤーっていうと悪いイメージがあるかもしれないけど、最初から本格的な犯罪者だった人は、世間で思われてるよりずっと少なくて、大半の人達は仕事がなくて飢えのあまり犯罪に走ってしまって、それが段々と悪化して凶悪犯へと墜ちていく・・・・・・そういう人が世界中には今もたくさんいる現実がある。
軍が熱心に行ってるフィールド上での過激な犯罪防止活動の中で、そういうオレンジプレイヤーとして捕まりそうになったところで、娘のユイちゃんだけでも逃がそうとして事故に遭って記憶を失った・・・・・・そういう可能性もあるにはあったんだ。
大分前に2階層で出会った《強化詐欺》をやってたネズハさんや、《レジェンド・ブレイブス》の人達みたいに『見捨てて行けないから』って理由で犯罪に手を染めちゃってる人たちだっている。
・・・・・・色々だよ。良い悪いだけで別けれちゃうほど簡単な分野じゃないことぐらい、僕みたいな子供だって分かること。
どっちつかずなキリトの反応の理由は、多分そーいうことだと思う。
ユイちゃんのお父さん達が犯罪者じゃなく、犯罪者として苦しんでる人を閉じ込めちゃってる人でもなかったのは嬉しいんだけど、手掛かり無しだったのは嬉しくない。そんな感じ。
・・・・・・しょーじき、昨日の道すがら見かけた『一日に何個か落ちてくる一個5コルの食材アイテム』を拾って売って生計立ててるらしい《はじまりの街》の生活水準で、子供まで養ってる余裕ありそうには思えなかったしね・・・。
「はぁ・・・《軍》の方でも候補者なしってことは、さすがに《はじまりの街》にいるプレイヤーの中に、ユイの家族はいないって考えるのが妥当なんだろうな」
「そう・・・だね。街の中のことについてはサーシャさんの話は信用できるし、黒鉄宮の中や《軍》についてはコーバックさんに嘘を吐く理由も意味もない・・・・・・ウラの取りようもない分野だし、多分いるとしても別の街か、どこか違う場所にいるって考えていいと思う・・・」
総評としてのキリトからの結論を聞かされて、アスナは目に見えて落ち込みながら小さく溜息をつく。・・・その仕草が見ているボクにも辛さを感じさせられる。
僕に対して――正確には、『紺野木綿季ちゃん』の肉体をもった僕に対して初対面のときから親身になって優しく接してくれてた彼女は、母性が強いっていうのもあるけど、それ以上に『子供』っていう存在に対して極端に強い念いを抱いている。そんな印象がある。
その姿は、なんとなく子供の頃にお母さんが語ってくれたお話に出てくる『イエス様』を連想させられて・・・・・・ちょっとだけ辛い、かな。
「アスナ、大丈夫だよ。これは君のせいなんかじゃないんだから、だから大丈夫。大丈夫」
「・・・ユウキ・・・うん。そう、だね・・・・・・そう思わなくちゃダメだよね・・・」
背中をポンポンと叩いてあげて、簡単なフォローの言葉しかかけてあげられなかった僕に儚そうな笑顔だけど、それでも一応微笑みを返してくれながらアスナは僕の言葉に応えてくれる。
・・・紺野木綿季ちゃんのお母さんは敬虔なクリスチャンで、この世界にウィルス感染した状態で生まれ変わった僕と、そしてお姉ちゃんに、よくイエス様の話をしてくれてた。
『イエス様は私たちに耐えることのできない苦しみをお与えにはならない』って。
それがボクには、少しだけ不安だった。
『聖書じゃなくてお母さん自身の言葉で話して欲しい』――そう思った訳じゃない。
それは前世の僕自身には、あんまり良い思い出がない人達の話だったからで、木綿季ちゃんの身体が感じてたらしい少しの不満と、僕が感じてたちょっとの不安。それがない交ぜになって今のアスナに妙にかぶって見えるように感じられてたから・・・。
お母さんの言うとおり、イエス様は『私たちに耐えられない苦しみを与えない』かもしれないけど・・・・・・でも・・・イエス自身は、全ての人の罪を背負って、肩代わりして十字架に掛けられて、そして―――死んでしまった人。
アスナには・・・そしてキリトには、少しだけそーいう所がある気が僕にはしてる。
自分が感じる辛さよりも、他人が辛いと感じてる姿を見てる方が辛くって、それを助けられないのはもっと辛くって・・・・・・まるで助けられないのは『自分のせいだ・・・』って責めて自罰しちゃうような・・・そんな印象。
「ユイちゃんのことで泣いてあげれるアスナは凄く優しい女の子だと思うけど・・・・・・人のために泣いてるアスナや、泣くのを我慢して笑って見せてるだけのアスナを見せられるボクだって結構辛いんだからね? そこのところは分かっておいて欲しいかな、って」
「ユウキ・・・。ん――ごめんね?」
「うん、なら良し。ダイジョーV! アハッ♪」
空元気と承知で笑って、アスナも釣られてか合わせてか笑ってくれて、そんなボクたち2人を見て「あははっ」ってユイちゃんも心から楽しそうに笑って笑顔を見せてくれる。
遠目に見てるだけなら変な人達に見えるかな、とも思ったんだけど――コーバックさんの見た目印象が怖すぎたからかな? 教会にいる子供たちからは『よく分からないけど安全っぽい』って解釈されたらしくって、さっきよりワイワイガヤガヤと賑やかさを取り戻す切っ掛けになってくれたみたいだから・・・・・・結果オーライ、かな?
「ふむ・・・・・・状況がよく見えんのだが・・・」
そんな和気藹々としてムードを取り戻してきた教会の中で取り残されたみたいに、ムッツリ顔で腕組みして小首をかしげるコーバッツさん。
そう言えば《軍》内部の情報を確認してもらうときに変な隠蔽とかされないため、敢えて詳しい情報を教えてなかったから1人だけ状況わかんないまま協力してもらってたんだよね、この人って・・・借りを返してもらうってことで了承してくれたから、それでいーかと。
でもまぁ、彼からの情報のおかげでユイちゃんの家族が《はじまりの街》には、いそーにないってことは確定した訳だし、明日か今日中には街を出て行って戻ってくる予定もないのがボクたちだし。
今からなら少しぐらい事情を教えちゃっても、別に問題ないっていう判断もあったんだと思う。
「できれば事情を聞かせてもらおう。・・・です。軍による街の治安維持に関して市民の協力は義務である。・・・ですが、権利でもありますです」
「・・・・・・ん? ああ、そー言えば詳しい事情は話さなかったんだったな。実は探してる人達がいて、その人達の身内らしいのが、この子なんだが―――」
曖昧にボカシタ部分を交えながら、ユイちゃんの事情をコーバッツさんにも一部だけだけど説明してあげることにしたみたい。
これも正直《軍》との関わり合いでユイちゃんが何かに巻き込まれる危険があるのかないのか、内部の事情に詳しくないボクたちには判断が難しいところなんだけど、アインクラッド最大の超巨大ギルドがもってる人数と行動半径はうらやましい部分があるし、上層フロアばかりが生活空間のボクたち攻略組にとって下層フロアを主な拠点にしてる彼らの方がソッチの方は頼りになるかもしれない。
まぁ、どっちにしろ《はじまりの街》からは出て行く前提だからこそ、言っても大丈夫だろうなって感じで言っただけだと思うんだけど――――意外にも重要な情報を聞かされることになる。
「ふむ、成る程。そういう事情があったのか・・・・・・だが、そういう事情なら心当たりがない訳ではない」
『『『――っ!? 本当に!?(か!?なの!?)』』』
顎に片手を当てながら言われた呟きに思わず食い気味に飛びつくボクたち!
一番当てにしてなかった人から重要そうな情報がもたらされるなんて!(失礼だと思うけど今までが今までだから仕方がないよね!)
親切はしておくものだと今までで一番思った瞬間だった! よかった! あの時この人達を見捨てることなく《ブルーアイズ》に挑んでいって本当に良かった!
アスナのミニスカートの下が見られちゃったのは気にならなくもなかったけど・・・・・・でも、この人達が見ちゃった訳じゃないから今は良し! 許せるよ!(注:裁かないとは言ってないよ)
「厳密には、私が知っている相手という訳ではないのだがな。実は今日、貴官らのもとを訪れた目的の一つには、それがあったのだ。・・・ですよ。
実は貴官らの腕を見込んで、頼みたい話があるのだ。本来なら組織内で処置すべき機密事項に属することなのだが、些か我らにも事情があ―――」
テーブルの上に身を乗り出したボクたちに向かって、声を潜めて話し始めるコーバッツさん。
密かな秘密の話を始めようとしてくれている、それがハッキリと分かる仕草と一緒に「フッ」とした笑みを浮かべながら教えてくれた軍内部の秘密情報。それは―――!!
トン、トン。
・・・・・・それは何かについて話し始めようとしてた瞬間に、玄関の方からノックの音が・・・。
「・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
そして、ビミョ~~な空気と一緒に沈黙に包まれた場になっちゃっいましたとさ。
・・・・・・間が・・・悪いなぁー・・・なんかボクたち絡みの出来事って、こーいう展開多い気がするんだけど、気のせいなのかなぁー・・・。
「・・・・・・どうぞ」
「・・・すまん。ちょっと行ってくる」
一応荒事にも対応できるようサーシャさんにボクたち皆で付いていって、コーバッツさんだけお留守番&話も一時中断。
下手に出て行って勘違いを招いちゃっても困るギルドに所属しちゃってる人だし、一人か二人だけ残っても場が保たないかもだし、コレが一番の配置かなって。
んで、玄関まで出て行って、お客さんを出迎えたボクたち全員の視界に映ってたのは―――銀髪の綺麗な女の人だった。
「はじめまして、ユリエールです。ギルド《ALF》に所属してます」
「・・・ALF・・・? えっと・・・失礼ですが、どこに拠点を置く・・・」
「あ、失礼。今では《アインクラッド解放軍》の略称と呼ぶのが分かりやすいのでしたね。この正式名称はどうも苦手で・・・・・・」
ポニーテールの長い銀髪で、鋭く整った顔立ちに空色の瞳。
ゆったりとしたズボンを履いて、右腰にはショートソードに左腰には黒革のウィップという武装に合わせてか、鎧は少し軽めの金属鎧だけどデザインそのものは軍――《アインクラッド解放軍》のユニフォームとして知られてる服装に準じてる格好。
キャラエデュット可能なRPGらしいシステムとして、SAOでは髪型や髪の色や目の色なんかも全部自由にカスタマイズできるようになってて、ゲーム開始直後はファンタジー世界観らしいカラフルな色彩で満たされていたプレイヤーたちの姿格好だったけど・・・・・・『禁止されてないから可能なこと』は、自由度とは必ずしも一致しないのが現実ってヤツでもある訳で。
“あの日”にデスゲームが始まって以来、体つきや顔立ちなんかはリアルの自分たちそのまんまな状態に戻されちゃって、髪の色や目の色や髪型だけは自由にしていいままっていう半端なシステムが続いちゃってるのが現行のアインクラッドのプレイヤー達だからね。
正直、これだけ西洋人っぽい見た目設定にして似合う人ってほとんどいないと思う。ひょっとしたらリアルでも本当に日本在住の外人さんかハーフなのかもしれない。
・・・・・・いや、そういう部分も目を引くには引くんだけど、今はそれより気になっちゃう事として・・・・・・
「なんか、こう・・・・・・イケないお仕事で働いてる女性従業員さんみたい・・・」
「ユイちゃん、お客さんとのお話はパパが聞いてくれるみたいだから、ちょっとコッチいらっしゃい」
「え? なんでママ? キレーな女の人のお客さんだよ?」
「いいから。綺麗な人だけどユイちゃんには、まだ早いからね? 大きくなってから憧れなきゃヒドい目にあっちゃうかもしれないんだから」
「あー・・・そう言えば昔アスナ、リズちゃんに影響されたっぽいチェリーピンクの髪色にしてた事あったけど、あの時―――ご、ごめんアスナ! 今のはボクが悪かったから! 悪気があって言ったわけじゃないから許ヘブシッ!?」
「・・・・・・・・・・・・」
綺麗ではあるし、格好良い装備の人でもあったんだけども・・・・・・似合いすぎてて装備的に、そーいうキャラクターっぽく見えてしまう容姿をもったアインクラッド解放軍所属の女性プレイヤー、ユリエールさん。
彼女とは、こうして出会うことになってそれで――
「――コホン。お三方が昨日、街で狼藉を働いていた《軍》の跳ねっ返りどもを懲らしめてくださった方々なのですね?
その一件ではお世話になりました。実は、その強さを見込んであなた方にお願いしたいことがあるのです。実は・・・・・・」
「・・・・・・む? 何やら聞き覚えのあるような声がしたが、軍から私宛に緊急連絡でも来ていた―――あ!? き、貴公はまさか!?」
「え? ――あ! あなたはキバオウの側近の一人・・・・・・なぜここにいるのです!? さては昨日の一件で仕返しに来たというわけですね!」
「なにを言う! 貴公こそ、シンカー殿の一件でキバオウ総帥が犯人と決めつけて報復のため助力を求めに来たのではないのか!? 恐るべき女狐め! 元を正せば貴様らの一派が・・・!」
「貴方こそ何を言うんです! 盗人猛々しいにも程がある! 元々はあなた方が勝手なことを始めなければ・・・!」
「貴公たちがッ!!」
「貴方たちがッ!!」
『『あ・な・た・た・ち・がァァァァァァァァァァッ!!!!!
(き・こ・う・た・ち・がァァァァァァァァァァッ!!!!!)』』
・・・・・・ものすっごい、同じ組織に属してる幹部らしい人達同士での罵り合いが始まっちゃった教会の中。
挙げ句、この状況の中。
「だいじょうぶだよ、ママたち。この人達、どっちともウソついてないよ」
「「えぇ~・・・・・・」」
ユイちゃんから告げられちゃった、純粋な子供だからこその邪気がない、残酷で優しいお言葉・・・・・・。
この状況下でその評価って・・・・・・どうすればいいんだろう? ボクたちの取るべき今後の行動って・・・。
まだ子供に属してる年齢のはずなのに、なんかスッゴク穢れた大人になっちゃってるような気分にさせられながら・・・・・・ボクたちにとっての忘れられない一日は、こうして始まっていた。
だからこそ、今はまったく分からなかったんだ。
後になってから・・・・・・こんなやり取りから始まってた一日の始まりも、『いつ終わるか分からない大事な一日』の一つだったんだって言う、当たり前の現実を。
つづく
注:【今作版での解釈設定】
ギルド『ALF』もしくは『MTD』の内部事情。
基本的には原作と同じだけど、それぞれが内部に細分化されて複数の派閥を内包してしまっているという解釈。
キバオウ派のALFは、軍事バカが多くて多数派だが、統制が取れてない。
シンカー派のMTDも、一枚岩とは言えず、キバオウの後釜を狙ってるだけの者もいる。
また、今作版オリ設定として、サーシャたちを襲ってた恐喝者たちは、所属的には《シンカー派》それだけ混沌としてた状態という解釈。
だからキバオウ派を追い出すだけじゃなく、組織全体を一旦解散する必要があったという流れ。