旅路の終わりは、夢の始まり   作:ひきがやもとまち

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完全な状態ではなく、もっと先まで書く予定だった、あまり話が先に進めていない状態での投稿になってしまいましたが……執筆マシンが壊れてしまい、続きを書くのが難しい状況になってしまったため、今できてる分だけでも一先ず更新。
今作版での流れと設定を語ってる回。説明してないと分かり辛かったので。

*話数を書き間違えたままだったのでので直しました。


原作1巻版18話「朝靄と黄昏のギルド事情」

「なんて言うか・・・・・・スゴい状況だったな・・・」

「まぁ・・・そう、だね・・・」

「アハハハ・・・はぁ」

 

 疲れた声で俺が言った言葉に合わせるようにして、同じように引き攣った笑顔でアスナが控え目に頷きを返してくれて、ユウキでさえ誤魔化し笑いみたいな愛想笑いを浮かべようとして上手くいかず、途中で溜息に変わってしまう。

 

 サーシャさんが孤児院を運営している教会を出た俺たちは、引き受けることになった依頼を果たすため《黒鉄宮》を目指して久しぶりになる道で歩みを進めている。

 初冬という季節設定を感じられるようにするため、弱々しい陽光が街路樹の梢を透かして石畳に薄い影を作らせていた。

 行きかう人の数は《軍》の内部対立や、デスゲーム化してから新人プレイヤーが新たに集まってくる場所ではなくなっていることもあって極少なく、ただでさえ他の街より広く造られている町中の風景を寒々しい印象のものへと感じさせずにはいられない。

 

 ……もっとも、今の俺たちが『寒いギャグを友人に言われて反応に困っている時』みたいな状態になってるのは、街の寒々しい風景とまったく関係ない理由だった訳だが……

 

「スッゴい剣幕での言い合いだったもんねぇ・・・しょうじきボクも、失礼かなって思ったけど『うわ・・・』って言っちゃいそうになったぐらいだし」

「まぁな・・・アレは思わず俺も引かされたし、ドン引きもした。なんていうか、『怒った美人は怖い』ってのは真実なんだと改めて痛感させられたわ」

 

 森でアスナたちが拾ったという女の子《ユイ》の両親を探すため《はじまりの街》に来たはずの俺たち3人が、引きつった笑顔を浮かべて裏通りを進みながら《黒鉄宮》を目指してるのは、端的に言って教会にある孤児院で出会った《ムチ使い》の女性プレイヤー《ユリエール》さんから話を聞いて、彼女の依頼を受けることにしたからではあるのだが・・・・・・その時の状況がなぁ・・・。

 

「本当に、コーバッツさんとユリエールさんから話を聞かされてるときには、一体何回ケンカにならないかヒヤヒヤさせられたか分からなかった程だったものね。

 ユイちゃんは、人とあーいう風な話し方しちゃダメだからね? 人との会話は笑顔で話せた方が楽しいんだから」

「んっ! ユイも笑顔でお話ししてくれるのが好き。いつも笑顔のユウキママも大好き♪」

「うぐっ!? ゲホッ、ゴホッ!」

 

 俺と同じく、先程の時のことを思い出してたらしいアスナとユウキも同じような感想を呟き合って思いを共感しながら、教えてもらった目的地へと進む俺たち。

 ・・・なんかユウキだけ、驚いたみたいに変な咳してたみたいだけど何かあったのかな? まぁいいか。

 

 とにかくヒドい話し合い状態になっちまって、話し合いと言っていいのかさえ微妙な場面に幾度もなりかかった《軍》が抱えるようになった事情と、今陥っている重要な問題、その問題の解決依頼についての話を、要点だけ絞って思い出して頭の中で整合性を付けるとすると、だ。

 

 

 

 

 ――話の大本を辿るなら、《軍》こそ《アインクラッド解放軍》が今のギルド名に変わる前の母体となっていたギルドの初代リーダーだった《シンカー》さんが、《ギルドMTD》を結成した辺りまで遡ることになるらしい。

 

 シンカーは向こう側のリアルにいた時には、日本最大のネットゲーム総合情報サイト《MMOトゥディ》で管理者だった人物で、そんな彼がSAOが配信サービスが正式開始されてデスゲームが始まってしまった後、一つの理想を実現するための組織としてギルドを立ち上げることになる。

 

 それが《ギルドMTD》だった。

 掲げていた結成目的は、『情報や食料などの資源をなるべく多くのプレイヤーで均等に分かち合おう』というものだったらしい。

 

 その理想自体は間違っていないものだった――と俺的には思えるものだったけど、こんな状況になってもMMORPGの本質はプレイヤー間のリソースの奪い合いで、異常事態だからと言ってプレイヤー全員で一致協力して、ってのは不可能だってことぐらいは解ってもいる。

 そしてデスゲームという異常の極地と言っていいぐらいの状況になったことで、却ってそーいう連中が増えちまっているという現実も・・・。

 その辺りが《軍》の、あるいは《ギルドMTD》の理想と崩壊へと繋がっていく起点になっていたらしい。

 

 多人数でモンスター狩りをおこなって危険を極力減らして、安定した収入を得て均等に分配する――シンカーの実行した方法論は、最初うまくいっていたらしいけど、徐々に綻びが見え始める。

 

 ・・・なにしろ、こんな状況下で「他人の不幸を喜ぶ奴」や「アイテムを奪う奴」それどころか「人殺しまでする奴」が多くなり過ぎていったのがデスゲーム化してから《アインクラッド》が歩んできた歴史だったぐらいだからな・・・・・・得られたアイテムを秘匿する程度の小悪党が出てくるのは避けようがない。

 

 そんな状況下で『公平な分配』を主張してる側が違反者を罰しなかったら、マジメにやってる奴らが不公平感を抱くようになるのは当然の流れ。

 一方で違反者への罰則を粛清として与えて裁く奴も出てくることになるが、そんな行為を身勝手な理由でやってる奴らは罰されたところで反感を抱くだけだろうし、やったことはルール違反でも仕方ない理由があった人達――第二層攻略のときに出会った《レジェンド・ブレイブス》みたいな奴らだった時には、別の理由での反感を育ててしまうことになるかもしれない。

 

 そういった事が相次いで、当時のリーダーである《シンカー》は徐々に指示を失っていき、指導力も低下していく。

 ―――そんな状況の中、新たに台頭してきたのが《キバオウ》だった。

 

 

 

「多分その頃にあった出来事と、二十五階層の攻略時に出した大きな被害による影響が関わってたんでしょうね。

 確かにあのとき《軍》の行動は、褒められたものじゃなかったから……大人数で迷宮に入ったのに、アイテムを独り占めするため一人だけで先行しようとしたり、同じパーティのメンバーが分かれ道で意見が別れて隊を二派に別けちゃったりとか。もう大混乱。

 そのときに《軍》の内部で『クリアよりもまず組織強化』って感じに方針転換させて、実績を出したことで新たに台頭していったのがキバオウさんだったんだと思う。

 最近は前線から離れて久しいけど、元々はあの人も私たちと同じ最前線でクリアを目指してた攻略組の一人だったわけだし、二層目で《ブルバス・バウ》に雑然とした編成で挑んでいってた頃の反省を生かした訓練に励んだ結果だったんでしょうね、きっと」

「ちゃんと反省を生かして、同じ失敗をしなくなったのだけは良かったのにね~」

「多分ね。そうして挙げた成果でシンカーさんにも方針転換を納得させたんだと思う。

 数は多いけど弱小だった《ギルドMTD》の『手に入れた情報やアイテムを公平に分配するため』っていう方針を、私も知ってる『クリアを目指す集団』の《アインクラッド解放軍》へと変更させた。

 それで組織内強化に勤しんでたら内部に不満が出ちゃって、コーバッツさんたち少数精鋭で迷宮に挑んで失敗して、今の政権交代の危機状態になっている」

「……歴史を繰り返しちゃう理由になっちゃったんだね……」

 

 

 アスナの分析に基づく推測を聞かされ、最初は苦笑いしながらも嬉しそうに笑ってたユウキが、次に続く言葉でガックリと肩を落として項垂れている。

 相変わらずテンションの上がり下がりが激しい奴だったけど、今回ばかりはユウキの反応に共感できるものを強く感じているのは、俺もアスナも同じようなものではあった。

 

 何しろ、その結果としてユリエールさんから俺たちが頼まれた依頼に繋がっていく流れになっているからだ。

 内向けのプロパガンダとして強行した迷宮攻略に失敗したことで責任追及されるようになったキバオウたちの一派は、強硬手段に訴え出た。

 『話し合いでの解決』を持ちかけて誘き出したシンカーを、回廊結晶を使ってダンジョン奥深くに相手を放逐する《ポータルPK》と呼ばれるアインクラッド内での殺人手段で無き者にする非常手段に訴え出てしまったのだ。

 

 ギルドのリーダーには最終決定権として、率いてるギルド内の人事や会計なんかを決定できる権限が与えられている。

 その権限は基本的に、最上位のギルドマスターとサブマスターだけに与えられ、順序としては当然上位者の方が優先される。だが、ギルマスが死んでしまった場合は、その限りじゃない……そういう狙いによる犯行だ。

 

 ――ただ、ここで小さな布石が生きてくる形になってたのは、俺たちにとって完全に予想外な出来事だった訳だけども。

 

「しっかし、まさかキバオウの方からも同じ人物の救出を頼まれることになるとは、予想してない展開ではあったよな……」

「…本当にねぇ……部下の人達から押し切られて許可しちゃったけど、今になって後悔してるって言われても……」

「ま、まぁキバオウさんらしいって思えば前向き……かな…?」

 

 思わずジト目になっちまった俺の呟きに、アスナが同じような表情になって同意を返し、ユウキだけは何とか良い方にとらえようと努力して上手くいかずに困ったような苦笑い。

 コイツの何でもかんでも良い面を見て、できるだけ他人を恨まない方針には感心させられること多いけど、今回ばかりは普通に怒っていいと思うぞ? いやマジで心の底から本当に。

 しかも、『自分がやった人助け』の結果として、厄介事の後始末に巻き込まれちまってるコイツの場合は特に。

 

 

 

 …というのも、プロパガンダ目的での迷宮攻略に『全滅や隊長の死亡といった最悪の失敗』だけは避けられたキバオウ派の幹部たちの間でも、微妙な意見対立が新たに生じて問題になってるらしいんだよな。

 具体的には、コーバッツたち『失敗の責任者だが具体的な敗北経験がある実戦派』と、『今の体制強化をさらに推し進める精鋭主義派』という2グループ。

 それには迷宮攻略失敗の解釈に基づく違いで、『異分子はすべて排除して賛成者だけで統一された組織での強化を』とかいう独裁国家みたいなこと言い出す奴らと、内部強化だけでの攻略に限界を感じて『他の攻略組ギルドとの連携を』と主張するようになった連中で別れているっぽい。

 

 コーバッツらが属してるのは後者で、今回のシンカー放逐を容認するよう迫ったのが前者の奴ら。

 本質的にMMOはプレイヤー間でのリソースの奪い合いだが、一方でMMORPGは多人数で一緒に遊ぶことを前提としたジャンルでもあり、一方で俺もそうだけどネトゲーマーってのは自分と合わない他者と付き合うのが苦手なのが実情だ。

 

 結果としてネットの世界では、『自分の意見と同じ者だけ集まればいい』『賛成できない奴はお帰り下さい』とかのグループが多く出来やすい傾向があるのは、リアルの方ではよく知られる社会問題になってた話題の一つ。

 

 ……それがどうやら、今になってデスゲーム化したアインクラッド内でも《軍》の中で発生し始めやがったらしい…。

 そりゃプレイヤー全員で一致協力してクリア目指すが無理なのは解ってたけど、流石に現実の生き死にかかったデスゲーム内でまで再現するなよ本当に!?

 ユウキが助けた結果としてコーバッツから情報得られて分かったこととはいえ、正直わからないまま無事解決して終わった方が気が楽だったような気分にさせられたわ! こんな気分で解決役担う方の身にもなれ! まったく、アイツらは毎度毎度本当に…!!

 

「あははは……まぁ、その代わりに秘密裏って形でだけど、サブマスターから直々に依頼されたっていう流れだけは助かったけどね。

 私もキリト君もユウキも、所属としては他ギルドの《血盟騎士団》のメンバーで、大っぴらには他のギルド間の問題に介入するのは色々と問題になりそうな立場で、普段だったら情報の裏付け調査なんかも必要だった所だけど、マスターの副官とサブマスターから共同名義でのギルマス救援要請っていう流れだったら形式的に何の問題もなくなることが出来るから」

「まあな。もっとも、その代りユリエールさんとコーバッツが修羅場になりかける理由にもなった訳だが」

「あれはまぁ……お互いの立場的に仕方ないとしか…」

 

 アスナが気まずそうに眼を逸らし、ユウキに至っては明後日の方を向いたまま視線すら向けてこない対応。

 その反応の仕方が、俺たちだけで教会を出て黒鉄宮に向かって歩いている理由を、なにより雄弁に理由を現す表す原因になっていた出来事。

 

 なにしろユリエールさんからすれば、守るべきマスターを殺そうとした殺人未遂犯と同行する――とまでは行かなくても、同じ犯行グループの幹部ではある奴と一緒に行動する羽目になるのだ。

 そりゃ誰だって文句の一つや二つや三つぐらい言いたくもなるし、感情的になりやすくもある。

 挙句コーバッツの方は、頭ガチガチの鈍感さでキバオウさま絶対主義者ときてる。感情を逆撫でして余計な波風立てる原因にしかなれないのは火を見るより先に分かり切ってるほど最悪過ぎる組み合わせにしかなれようがない。

 

 という理由で役割分担して別行動という流れになった訳だった。

 今では《軍》の拠点になってしまってる黒鉄宮の中に解放されたって言う、新たな地下ダンジョンへの先導役としてユリエールには先に行って話を付けてきてもらい、コーバッツには昨日の奴みたいなのが報復にきたとき用の門番として教会入口に置き去りに。

 

 ビジュアル的に黒い甲冑姿の大男が、口を「へ」の字にひん曲げて腕組みしたまま仁王立ちしてる教会に、わざわざ近寄りたがる奴がいるとは思いにくいからな……本人も治安維持には熱心な《軍》メンバーのタイプらしいし、適材適所としておこう。…周囲から変な噂たてられかねない点だけは微妙だけど……緊急事態だから仕方なし。

 

「っと、話してる間に付いたみたいだな。ユリエールさんも待ってくれてるみたいだし、ユウキ。先に行って到着したこと告げて安心させてやってくれ。彼女けっこうキツイ精神状態になってるみたいだったから念のためにな」

「はいはーい、りょうか~い♪ それじゃあ行ってくるね~」

 

 

 忠犬ハチ公よろしく、目当ての人を見つけて元気よく走り出していくユウキと、首を左右に動かしてキョロキョロしていた銀髪の女性が呼びかけられた声に振り向いて、安堵している表情が遠目に分かり、俺とアスナはそろって苦笑した顔で頷きあう。

 

 さて、本当に来てくれるかどうかまで心配増やしちまった詫びも兼ねて、ダンジョン攻略頑張りますかね。

 ここからは久々に俺の――――《黒の剣士》として、俺のターンだ!!

 

 

 

つづく

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