旅路の終わりは、夢の始まり   作:ひきがやもとまち

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【朝露の少女】編エピローグ。これで完全に終了です。
良し悪しは別として、とりあえず終わらせる必要あったので。

この後は一旦止めて、作風の見直しとネタ探しをし直す予定。



原作1巻版21話「今作版:朝露の少女編エピローグ」

「カーディナル! いや、茅場昭彦ぉッ!!」

 

 ユイが光に包まれて消えた瞬間、俺は蹲って涙を流すアスナの傍らで思わず立ち上がって激高して怒鳴りつけたい衝動を押さえられなかった!

 

「そういつもいつも、思い通りになると思うなよッ!!」

「・・・キリト君・・・なにを・・・・・・き、キリト君ッ!?」

 

 驚き狼狽えているアスナを置いて、俺は先程シンカーたちが消えた場所――ユイがGMからの緊急アクセス用コンソールを偽装して設置してあると教えてくれた部屋へと駆け込むと、そのシステムアクセス可能な台座を探す!

 

 だが、そこには既に先客がいた。

 

「ユウキっ!!」

「キリトっ! ごめん! ボクのプログラミング能力だけだと間に合わなくて・・・ッ」

「――ッ!! 代われ! 俺がやるっ!!」

 

 俺より先にコンソールの台座にしがみ付くようにして必死に操作していたらしいユウキに代わって、俺は引ったくるように現実で見慣れたキーボードと酷似した形状の台に立ってキーを叩き出す!

 

 さっきから妙に静かだと思っていたユウキは、この作業をするため集中していたから途中で関わってこなかったんだろう。

 おそらくユイが、俺たちを助けるため炎を纏った大剣を呼び出すための操作をしたとき、パスワード入力を終えた状態で画面を開いたまま放置して出てきてしまったのを、ユウキが気付いてプログラムを再構築し始めていた・・・・・・っ。

 

 ユイは自分を助けるためユウキが作業してくれてるのを感知していたけど、無駄な努力だと思って割り切り、あの場で俺たちへの説明と謝罪をおこなうことに、残された時間の全てを費やす道を選んでくれた・・・!

 

 だが・・・! だが、まだ間に合う! 間に合うはずだ!

 ユイが起動した管理者権限は、カーディナルが管理していたボスモンスターを葬り去ることが出来ていた!

 それに対してカーディナルは彼女を『異分子』と認定して削除しようとした・・・・・・だとしたら本体であるカーディナルと『カーディナルの管理外にある存在』だと認定されたユイは今、互いに分離された状態にあるはずだった!

 

 もしユイが、カーディナル管理下にあるAIの一つでしかなかったなら、さっきのボスを彼女の権限で消去できる道理がない! 部分的にだろうと彼女に与えられた権限がカーディナルの管理する範囲と重なり合って相克しない限りは、いま俺たちの前で起きたような現象は起きれる訳がない!!

 

 なら別けれる!

 今ならまだ、彼女の権限がカーディナルの権限とは別に存在して、カーディナルの権限内に介入できる力を完全に取り上げられて切れてしまうまでの時間内でなら、彼女を構築していたプログラムだけを分離して俺のナーヴギアに移し替えることが可能なはず―――え?

 

「これは・・・? ――ひょっとして、コレなら!! うッ!?」

「キリト君!?」

「キリトっ!?」

「・・・・・・大丈夫だ」

 

 ・・・自分の人生の中で最高記録の速さを出し尽くしながらコマンド入力をおこなってたせいか、時間切れでコンソールがフラッシュして弾き飛ばされたときに下手な倒れ方をしちまったみたいで痛む頭を振りながら、駆け寄ってくる二人を安心させてやるため笑いながら手を振っておく。

 

 その際、一つの大きめの涙みたいな形をしたクリスタルを、二人の眼前で見せつけてやりながら。

 

「・・・? キリト君、それは・・・・・・?」

「ああ・・・。ユイが起動した管理者権限が切れる前に、ユイのプログラム本体をどうにかシステムから切り離してオブジェクト化したものさ。

 もっとも、ユウキが俺より先にプログラムの初期構築をおこなって協力してくれてたおかげで出来たことだが・・・・・・そのおかげで考えてた奴よりスゴイのが出来たかも知れない・・・。

 ――多分、もしかたら、きっと・・・・・・っ」

「・・・・・・??」

 

 言いながら俺は、戸惑うアスナの表情も時と場所と、先程までの出来事からすれば不謹慎だってことさえ忘れて、一人の機械好きな学生として―――それが実現できるかも知れない瞬間を、目を子供みたいにキラキラさせながら正面だけをただ見続けて、そして・・・!!

 

 

「――・・・・・・!! ユイちゃんッ!?」

「・・・・・・え? え、あれ? ま、ママ・・・たち?」

 

 

 消え去ったときと同様に、光の柱が立ち上って中から現れたユイは戸惑ったように自分自身と俺たちと、ユウキとアスナを交互に何度も何度も見返して―――やがて泣きそうな顔で二人を見つめて、三人一緒に泣き出すまでの時間は大してかからなっかたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、本当にユイちゃんとまた、ここに戻って来られたのね。なんだか夢見たい・・・」

「はい! ありがとうございます、アスナママっ。それにユウキママッ!」

「いや~、こんなに上手くいくなんて思ってなかったからボクも正直、嬉しい、かな?」

 

 はにかみながら、ユイちゃんを挟んで三人で手を取り合って、ボクたちは横を小川が流れている道を通りながら、もう何度目か分からないくらい言い合ってるけど、また同じ言葉を三人並んで言い合っちゃう。そんな気持ち。

 

 シンカーさんたちと、お別れのガーデンパーティーが終了して見送られながらゲートを通って二十二層に戻ってきていたボクたちは、森の中に買ったプレイヤーホームに帰る途中の森の中にいる真っ最中。

 最初は「良かったね」「嬉しいね」って、ただ三人ともニコニコ笑って言い合ってるだけで済んでた話だったんだけど、途中でアスナが「そう言えば・・・」って思い出したときみたいな言葉を言い出して。

 

 持ち出された話題が、考えてみたら当然の疑問。

 そもそも何で、ユイちゃんは消えることなく、『今のまんまの姿を保つことが出来てるか?』っていう初歩部分。

 

 

「要するにね、ユイちゃんの話を聞いてて途中でちょっとだけ思ったことがあったんだ。

 もし、その話が本当だったらユイちゃんは・・・・・・最初から何も変わってなかったんじゃないかなって」

「・・・何も? ユイちゃんが?」

「そ。な~んにも」

 

 

 小川が流れてる道ばたを軽い足取りで歩きながら、ボクは自分がおこなった――って言うより、『紺野木綿季ちゃん』の肉体に染みついてた技術を使ったユイちゃんを助けるための作業を、アスナから聞かれた質問に答えてあげながらスキップして進んでく。

 

「ユイちゃんの話だと、《デスゲーム》が始まったときからずっとボクとかアスナの存在は、彼女に今の精神状態を同じまま保っていくのに役立ってたって話だったでしょ?

 なら今のユイちゃんは、その時から今の優しくて賢くて、本当の人間と同じぐらいに良く出来たスゴイ性能のAIだったって事になって・・・・・・カーディナルにとってはずっと変わらず、“バグ”のままだったって事でもあるって、そう思ったんだ」

「・・・・・・むッ」

 

 明らかにボクの使った表現がお気に召さなかったらしいアスナから、表情と視線と声まで付けて「不機嫌ですアピール」で返されちゃったボク。

 いや悪気はないんだよ? ホントだよ? だからこそユイちゃんが森の中を飛んでるチョウチョとか鳥とか見つけて、少しだけ離れてってる今話してるんだからね?

 

 ―――だから顔の高さまで上げた拳だけは下ろしてください! 《お仕置き100Gパンチ》は安全圏内の街以外だと普通の打撃攻撃にしかならないからね!?

 血盟騎士団副団長のレベル87お仕置き打撃パンチは、冗談じゃすませてもらえない威力あるよ本当に!?

 

「え、え~っと・・・・・・コホン。だ、だからね?

 もしユイちゃんがカーディナルの制御下に置かれてるときと、内面的には何にも変わらないまま、最初からボクたちみたいなプレイヤーがいた時には興味を持って近づいてきちゃいたくなるAIだった場合には、彼女が途中でやってたことのほとんどって大した問題のないことだったから―――ひょっとして、“何もなかったことに出来るんじゃないかな?”って思いついてアクセス介入してて、だから、ね? うん」

「・・・・・・何にも無かったことに?」

「そそ! な~んにも無かったことに!!」

 

 力一杯頷いて見せて、ボクは無問題な結果に大賛成です!ってジェスチャーでも伝えまくって、子煩悩なお母さんタイプになりそうなアスナのお怒りを鎮めてもらうため最大限ヨイショしてご機嫌を取る!

 

 ・・・・・・なんかもう、女の子の性別で女の子のお尻に敷かれちゃってる旦那さんみたいな気分になってきちゃったんだけど・・・・・・子供が産まれた新婚さんの家庭って、こんなものなのかなぁ・・・?

 ボクと木綿季ちゃんのお姉ちゃんを産んでくれたお母さんとお父さんは、そんな風には見えなかったんだけど・・・・・・いや、そもそもボクはアスナのお嫁さんになってないし、ユイちゃんもボクたちが産んだ子供じゃないし、だいいち女の子同士だし・・・・・・いやまぁ今はそれは置いとくべき話なんだけれども。

 

「もしユイちゃんが、ボクたちプレイヤーと直接接触する禁止事項に抵触すること自体がダメで、彼女の存在そのものがカーディナルにとって排除すべき異端だったとしたら。

 もっと早くに何かしてきてても、おかしくなかったはずなんだ。

 ほら、ウィルスバスターとかのソフトって、起動したら自動的に検索可能なものは全部排除してくれるし、普段から入ってくるので防げるものは防いでくれるでしょ?

 でも、僕たちと出会ってから会話をして、ご飯を食べて、第一層のアイテム流通量少ない地域でも色々と消費したりしちゃってる。・・・・・・でも、特に誰からも何も言われることはなかった」

「ふむ・・・・・・まぁ、筋は通ってるわね。今のところはの話だけど」

 

 そんな風にアスナが腕組みしながら、ボクの方をテストの採点するときの先生みたい目で見下ろしてくる。・・・・・・なんでボク、MMORPGの中で歳が近い女の子からダメな生徒を見守る先生みたいな目で見られちゃってるのかな・・・。

 ひょっとしてアスナって、すごく厳しい教育ママみたいな人に育てられて慣れてるとか・・・? ううぅ、ボク前世でも今生でも職員室って苦手な場所のままなんだけどなぁ~・・・。こういうときには木綿季ちゃん自身が羨ましい。

 

 今回の件で見せたプログラミング能力とか、すっごい高い技術力もってる女の子として生きれるはずだった娘みたいだものね! きっと普通に産まれてたら今頃スッゴイ優等生で、職員室とかも平気で入れちゃってたりしたんだろーな~。いーなー、羨ましい。

 

「・・・それでね。もしユイちゃんがカーディナルから目を付けられたとしたら、やっぱり例のボスモンスターを消しちゃった一件にあると思うんだけど・・・・・・ただ、あの時でさえユイちゃんの行動そのものは多分、何にも起きてないのと同じような扱いだったんじゃないかなって、ボク的には思ったんだ」

「―――アレでさえ? あんなに強かったボスを倒しちゃったら流石に・・・」

 

 不審そうな目付きと表情で言ってくるアスナに、ボクは頭を振って否定して「そこじゃないよアスナ」って注意を促しておく。

 

「あのとき重要だったのは、カーディナルにとって『無視できない介入があった』って部分なんだ。

 モンスターのPOPや、NPCの台詞や反応、アイテムや通貨が一部地域だけで流通してる数・・・・・・そーいうのを調整するのがカーディナルの役割なんでしょ? なら、あの時ユイちゃんがやった事って、一体どんな影響をカーディナルに与えるのかな、って・・・」

「かな、って言われても・・・・・・それはまぁ、ダンジョンに一体しかいないボスモンスターを倒しちゃったことでしょうね」

「正解」

 

 ビシリ!って人差し指を立てながら、ボクは格好よさげに笑ってアスナの回答に合格点を出してあげる役に逆転してみる面白さ。

 実際問題《アインクラッド》では、一度倒されたボクモンスターだけは、他のザコモンスターたちと違って二度と再POPされることはなくなる仕様だから、九十層クラスの迷宮ボス並の存在で、しかも緊急時にGMが緊急アクセスするためのコンソールが隠されて設置されてる部屋を守ってたガーディアンとくれば大問題。

 そりゃカーディナルだって、ユイちゃんを管理運営を邪魔する危険なバグだって判断して削除しようとするのも分かるほど。

 

 けど・・・・・・

 

「ただ、それならやっぱりユイちゃん自身の存在そのものは、カーディナルにとってどうでも良かったんじゃないかな?

 だってあの時ユイちゃんは、ボスモンスターは消去したけど、助っ人の傭兵NPCじゃなかったし、ボクたちのパーティーに加入していたってわけでもない。

 ボスは消去されたけど、あのボスの経験値がボクたちに分配されたって事はなかったみたいだしね」

「え? そうなの? ――本当だわ、増えてない・・・アレ程の大物が倒されたのに・・・」

 

 ボクの言葉を聞いてステータス画面を開いたアスナは、自分が得られた経験値の欄に九十層のボスクラスを倒した分が加算されてないのを確認したみたいで、驚く声を上げている。

 別に残念そうって訳じゃなく、ただ驚いてるだけって印象の声が、ボクの中でも急速に彼女への好感度を上げさせちゃうんだけど・・・・・・うんまぁ、小さいお子様の前で見せていい姿じゃないもんね。我慢我慢。

 

 でも現実問題として、あのレベルのボスモンスターを倒した分の経験値が、ユイちゃんが加勢したボクたちパーティー全員に割り振られてた場合には、次のボス戦はきっと大分楽に勝てるようになるほどパワーアップしてたほどの変化があったと思う。

 そこまで変わってたなら、カーディナルだって彼女に自我があること自体を問題視したかも知れない。でも多分、そうじゃない。

 

「あの時の戦いの結果は、本当にただ『二度とPOPされない原則のボスモンスター』を『プレイヤー以外のAIが権限を使って消してしまったこと』っていう、ただそれだけが一番大事な問題だったんだと思う。

 だからそれをやったユイちゃんの存在事カーディナルは消そうとした。けど、カーディナルにとって重要だったのはユイちゃんが、そんな大きすぎる変化を与えちゃったって結果の方。原因の方は、ただ消えてくれればそれでいい」

「・・・・・・それで? そこまでは分かるけど、どうしたの・・・?」

「うん。だからね――」

 

 ここでボクは「ピンッ」と人差し指を弾くような仕草を見せながら、一番大事で重要な、ボクがやった誤魔化しの作業について、溜めに溜めた手品のタネ明かしを、大好きなアスナに向かって開陳してあげちゃうことにする!

 

 

「だからボクは―――自分が『GMだ』ってことにして、成りすまして、ユイちゃんっていうバグを自分の方で消去しておくから、外部メモリーのナーヴギアにドラッグして移動させちゃったんだ♪

 『ゴミ箱』に入れたのと同じことにして、本体の方にデータが残ってなければ、それでいーはずだと思ったから、後はバグって事故ってラグった結果だったってことにしてテキトーに、ね☆」

 

 

 ボク的には綺麗に片付けたやり方の、名探偵ユウキによる真相解明シーンなつもりだったんだけど、アスナ的には呆れたみたいな顔だけして、困ったやんちゃ坊主を見るときの視線でボクを見つめてくるだけで。

 

「スゴイです! ユウキママ!」

 

 純粋に褒めてくれるユイちゃんの無垢な優しさが・・・・・・地味に少しだけ痛かったのはナイショだよ。ママ的なプライドとして・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅー、まったく。・・・・・・・・・でも、ユウキ」

「ん~? なに、アスナ?」

「もしゲームをクリアして、この世界がなくなったときは・・・ユイちゃんはどうなるのかしら・・・?

 いえ、それ以前に今のまま私たちにホームに連れて帰ってしまうだけでも・・・・・・」

「そう・・・だね・・・・・・」

 

 帰りしな、遠くに帰るべき家が見えてきた辺りでアスナから告げられた深刻そうな声での問いかけに、ボクの方も同じように深刻な声と言葉で返すことしかできなくなる難題が、今のユイちゃんには残り続けたままになっていた・・・・・・。

 

「容量だけなら、ギリギリでだけど環境データの一環ってことにして、ボクのナーヴギアのローカルメモリに保存するよう移動させてあるし、いざという時はキリトの方でも一時的な保管場所としてなら預かってくれるって事でもあるんだけど・・・・・・」

「キリト君が・・・なんだか今回は色々とお世話になっちゃったわよね。

 ――いやまぁ、いつもなのかもしれないけど、最後もやっぱり忙しない終わり方になっちゃったし」

 

 少しだけ気まずそうな顔でアスナは、今は一緒に帰ってくることができなかった『黒の剣士』の猛ダッシュして帰ってく姿を想起したみたいで目をそらす。

 あの後、シンカーさんたちとの食事が終わって、さぁ帰ろうってなった瞬間。

 

 急にキリトの方にだけギルドホームから連絡が入って、『色々と仕事が増えたから早く帰還するように』って、ゴドフリーさんからメッセージが届けられる羽目になって、

 

『PS:このままだと遅れれば遅れるほど団長に仕事を増やされかねん』

 

 っていう追加のメッセージが届いた途端に、ユリエールさんを助けたときと同じぐらいの速度で走って行っちゃったもんなぁ、キリト・・・。

 ホントもう、こっちは休暇中に通常勤務中のキリトを巻き込んじゃって本気でゴメン・・・・・・次のときはなにか絶対おごるから。あとアスナの手料理は絶対お裾分けするから、ホントもう・・・・・・ごめんなさいでした。

 

「――オッホン。でも結局、ユイちゃんがカーディナルから危険視されて削除されちゃう危険が皆無になったってわけでもない。

 ボクたちだって、この《アインクラッド》の内側に囚われてる一人で、カーディナルに管理されてるPCでしかないって言っちゃえば、その通りの立場でもあるんだし。

 ホームの中で大人しく過ごしてる分には良いかもしれないけど、外に出たりとか、誰か他のプレイヤーと出会って会話したりとかするのは多分、出来るだけ避けた方が安全かもしれない・・・・・・」

「やっぱり・・・・・・そうなるのよね・・・それしか私たちには、まだ・・・・・・」

 

 アスナが俯きながら、「ギュッ」と拳を握りしめる姿を見せつけられて、ボクの心も「キュッ」って締め付けられるような痛みを感じさせられる。

 

 今までデスゲームっていうルール変更によって、誰のことも見えるだけで関わり合いに行くことが許されなかったユイちゃんだったけど・・・・・・そこから出れるようになった後も結局は家の中に閉じ込められたまま。

 見ているだけで助けに言ってあげることができない、豪勢な牢屋に閉じ込められる場所が変わっただけ。

 

 それは本当にボクたちが彼女を――ボクたちを「ママ」って呼んでくれる女の子を、助けることができたって言えるのかな・・・・・・?

 ユイちゃんの立場と環境と、そこから見える景色に伸ばした手が届かなかったときの気持ちを知っているボクには・・・・・・それが分からない。分かりたくも、ない・・・・・・そう思う。

 

 思う・・・・・・けど。

 

 

「大丈夫だよ、ユウキママ。アスナママ」

 

 

 ユイちゃんだけは、僕たち2人に向かって明るい笑顔で笑いかけながら断言する。

 一時だけ離れ離れになってた、さっきまでの辛そうな笑顔なんかじゃなく、本当に嬉しいんだって気持ちが伝わってくる笑い方でボクたちに向かって微笑みかけてくれながら。

 

 

「わたしは、あの家でママたちが帰ってくるのを、お待ちしています。

 たとえ、この世界が終わって、お二人がこの世界を立ち去るときが来ても、わたしは最後の瞬間までママたちと過ごした、ママたちの家で、ママたちの帰りを待ち続ける。――いえ、待ち続けたいんです。

 それが今のわたしの望み、わたしの願い。・・・・・・だってもう、あの家はわたし達の家だって、ママたちが言ってくれましたから」

 

 

 そう言って微笑んでくれるユイちゃんの笑顔は・・・・・・スゴく強くて、強すぎて、ボクたちには憧れることしかできないほど綺麗すぎる輝きに満ちているもの。

 それが見られるなら―――今回の件で、ボクは“彼”に感謝する気持ちを忘れるべきじゃないのかも知れないと思えるほどに。

 

(・・・・・・ボクが思いついたぐらいの、子供の言い訳じみた屁理屈だけでカーディナルが完全にだませたとは思えない。

 それが出来るのは彼しかいないのが、《SAO》っていう異世界だけど・・・・・・でも)

 

 

 ボクは数日ぶりのホームに帰る前に、高い高い空を見上げて季節の移り変わりを知る。

 青くて高い空の上に、ボクたちを見下ろしてくる直接は会ったことにない一人の男性の姿を幻視したような、そんな錯覚を感じさせられながら。

 

 

 

 

 ―――《グランザム》での借りは返したぞ、キリト君。

 これで君との決着に、水を差すものはなにも無い――――

 

 

 

つづく

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