旅路の終わりは、夢の始まり   作:ひきがやもとまち

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思ってたよりシリアス展開になっちゃいました。次回は少し砕けた感じに戻したいなぁ~。


5話「ユウキのデスゲームが始まった日」

「みんな・・・もう、俺から言うことはたった一つだ。

 ーー勝とうぜ!!」

『おおっ!!』

 

 ボス部屋の前で最後のミーティング(と言う名のディアベルさんによる覚悟の一声)が行われて、ボクたちはイヤでも覚悟を決めざるを得なくなった。

 

 それぞれがそれぞれに仲間と言葉を交わしてる。アスナとキリトも何かしら話し合っている。

 そんな中、ボクは一人で軽くストレッチ。

 確かにVRゲームで動かす身体はアバターで、データ上では数字の羅列に過ぎないけど脳と意識を電子回路でつないでいる以上は、どうしても生身の肉体を動かす時と同じ問題が付きまとう。

 要するに、緊張してると動きが鈍る。ストレッチで心と体をやわらげるのは重要だよ?

 

「・・・おまえは相変わらずブレないなぁ。こんな時くらいゲームの雰囲気に合わせようとか思わないもんか?」

「合わせれば勝率上がるんだったら合わせるけど?」

 

 あきれた口調でキリトが訊いてくるのにひねくれた返しをしてからボクは、指を立てて一本一本曲げていく。こうして感覚が無事に指先まで届いていることを確認する。

 

「まぁ、緊張したってしなくったって、負ければ死んで勝ったら生きて帰れるんだし、それで十分じゃない?

 考えるのは作戦立案の時まででいいよ。ここまで来たなら覚悟決めて行動した方が勝率上がる。悩んで迷ってウジウジしても何一つボスには届きゃしないしさ。

 だって、データの塊だもん。聞く耳持たないんじゃなくて、聞く機能がそもそも実装されてない」

「・・・いやまぁそうだけども。もう少し夢持ってゲームをプレイできないものかなぁ・・・」

 

 愚痴みたいな口調でキリトがぼやくと、アスナが小さく笑うのが見えた。

 昨日の夜の一件から少しだけ態度が軟化した彼女だけれど、まだまだ素顔を晒すほどには親しくなってない。好感度で言うところの“やや好き”あたりかな? 攻略狙いならこれから中盤に入った後が大変そう。頑張れ。

 

「実際のところ、ここでの勝ち負けで帰還不可能が確定するんだし覚悟決めるしかないんじゃない? どっちみち退路はないんだから。

 負けたら最後、後は無い。たとえ誰一人死なずに撤退しても、二度目の挑戦でボクたちがボスに勝てる可能性は万に一つもあり得ない」

『『『・・・え?』』』

 

 キリトに返した返答だったんだけど、どう言うわけか他の人たちまで食いついて来ちゃった。これはビックリ。意外だなぁ。

 

「どったのみんな? ボクなんか変なこと言った?」

「いやその・・・ユウキ君、君の先の言葉はどういう意味なのかな? 「この勝負で誰も死なずに撤退できても次はない」って言うのは・・・」

「?? なにか変だったかな?

 だってこれは《はじまりの街》で助けを待って、動かずにいる人たちに「デスゲームは決して攻略不可能じゃない」事を示す戦いなんでしょ? 一度でも負けちゃったら「攻略不能」のイメージが定着して二度と再起しようとしなくなるよ?」

「だ、だが俺たちがいる。ここに集っているみんなが誰も死なずにいれば、次もみんなで集まって挑むことができる。前回の敗戦におけるデータも役立つだろうし、そうすれば死者数0で勝つことだって可能だろう?」

「集まれるの? 只でさえ即席のレイドパーティで連携も満足に取れず、個々のスキルと経験に頼っているボクたちが一度負けてもなお今まで通りに一人のリーダーの元、一致団結して大事に当たれるって、本気で信じてるのディアベルさん?」

「・・・・・・」

「だよね。無理だよね。

 ボクたちは所詮ゲーマーだ。軍人でも騎士でもない。尊い理想のために命を懸けて、他人と手に手を取り合える期間は決して長くないんだ。無理矢理の継続はできない。ゲーマーほど自分勝手な人種もそうはいないんだから」

「・・・・・・」

「だから今しかない。今この時しかないんだ。

 みんなが一致団結してひとつの物事に当たり、打ち砕こうと団結できている今この時を逃したら、ボクたちは未来永劫バラバラになってしまう。偽りの団結でしかレイドが組めなくなってしまう。誰かをリーダーとして信頼できなくなってしまう」

「・・・・・・」

「だからお願い、ディアベルさん。ボクたちを導いて戦って。ボクたちを一つのレイドパーティに纏め上げて。

 一人一人の剣士としてじゃなく、《はじまりの街》にいる人たちを含む八千人のSAOプレイヤー、その中に所属している一人として皆のために皆を守って戦わせて。

 ここにいるみんなが君を頼ってる。君を信じて、命と下駄を預けてる。

 君は一人じゃない。ボクたちも一人じゃない。今この時だけボクたちはパーティだ。互いに命を預け合う仲間で戦友だ。そうして見せた君だからこそボクは信じるんだ。

 ーーボクの命は預けたよ、ディアベルさん。ちゃんと有効に使ってね?」

「・・・責任重大だな。

 でも分かった。引き受けたよ。君の命は俺が預かる。俺が使う。八千人のプレイヤーみんなの為に!」

「うん! 任せた!」

「ーーワイも! ワイも預けたで!ディアベルはん! この世の果てまで、ワイはあんさんと一緒や!」

「キバオウ!」

「ディアベル!」

 

 ーーまたこのパターンかよぉぉぉぉぉっ!!!!

 シリアス台無しじゃん! ボクちょっと良いこと言ったはずなのに、みんな白けちゃったじゃん! 誰もボクの言葉覚えてないじゃん!

 とんだ道化者だよぉぉぉぉっ!!!

 

「・・・ユウキ・・・ガンバ!」

 

 親指立ててサムズアップしないでキリト! 逆に辛くなるから! 却って辛いだけだから!

 半端な優しさは時に悪口よりもヒドいのだと知れ!

 

 

 

 

「よーし! 今度こそ行くぞみんな!

 抜刀! 攻撃、開始ぃーーっ!!」

『おおおおぉぉぉぉっ!!!』

 

 鬨の声と共に、みんなが武器を構えて一斉に駆け出す。

 狙うはボスの首ただ一つ! ・・・って、訳でもなくて班ごとに狙いと役割がそれぞれ異なる。

 ボスに突っ込むアタッカーのA隊。A隊を側面から支援するB隊。リーダーで全体を指揮統率するために前線の中盤当たりに居続けなきゃいけないディアベルさんを守る形で彼自身が率いているC隊と、決戦時における予備兵力のD隊。更にその後ろには、彼を守るためなら命を惜しみそうにないキバオウさんのE隊、遊撃隊も兼ねているらしい。

 それにポールアームで距離を置いて戦えるF隊とG隊の二つが最後尾を固めてる。

 

 ちなみにボクたちあぶれ組三人は、しんがりという名のぼっちです。これはまぁ仕方がない。

 なにしろ即席のレイドパーティだ。それぞれの特技や主張、バトルスタイルに至るまで何一つ把握し切れてない。こんな状態でボス戦に挑もうとするなら、個々のパーティーを率いるリーダーにある程度の判断と指揮を委ねて全体の状況把握に務めるしか、指揮官で総リーダーのディアベルさんに出来ることはない。

 みんなの経験と技能に賭けるしかないわけだ。ギャンブルだね。文字通りに命がけの。

 

 それでも彼はよくやっている。レイド戦はどうしても自分の周囲しか把握が難しく、デスゲームになって全体が更に見通しが悪くなった状況において正確な情報は、正しく生死を左右する。

 

 彼が伝えるのは指示そのものよりも、それが示唆する状況説明の方が各部隊にとってはありがたい。味方がどんな状態にあるのか声に出して知らせてもらえると、見えなくてもある程度は想像できるものだから。

 ここら辺はソロプレイだと上昇しづらい能力でステータスには関係しない、所謂プレイヤースキルと呼ばれる奴。

 ある意味レア中のレアスキルで、これを持ってるディアベルさんは本当にすごい。ボクが彼を信頼して下駄を預けられたのも、現時点でこのスキル持ちが彼以外にいないと判断したから。

 

「ーーと言っても、やっぱり外様は辛いよね。指揮系統に入れられない即席パーティのボクたちには前線へ参加許可が下りない。これじゃあ皆がやられてても加勢できないよ」

 

 それぞれがそれぞれの指揮と判断で動いていて、全体の指揮者は情報提供に徹している現状、この中へ単身駆け込んでいって誰の足も引っ張らない自信はボクにはない。確実に走ってる誰かとぶつかるだろう。負けて混乱し始めたらなおさらだ。

 

「このまま優位に進んでくれると良いんだけれど・・・」

 

 たぶん無理だなと思いながらも、ボクはそう願わずにはいられない。

 現在の時点でボクたち即席レイドパーティーは、多分だけど有利に戦局を進めていると思う。全体を通して見る目が備わってないし、経験もないボクには断言できないけど。

 

 ボスのHPバーはレッドゾーンに達した。もうレイドボスクラスのHPとは言えない。通常のイベントボスレベルだ。ここまで来たら勝利は目前だろう。

 

 ーーボクが気になっているのは、ここまで誰一人として戦死者が出ていないこと。

 

 “デスゲームは攻略不可能なんかじゃない”それを《はじまりの街》にいる皆の教えるための戦闘。ゲームが始まってから初めて挑む、皆での戦闘。

 

 ーーそれを劇的に飾ることを茅場明人は望んでいるんじゃないだろうか? ボクはそう思う。そう思えてならない。

 

 なぜなら彼はSAOを作り、デスゲーム化し、一万人のプレイヤーすべてを《アインクラッド》の囚人とすることで、この世界を“人が生きてる本当の異世界”にした。

 

 本物だ。この世界のすべては、生きとし生ける全ての者たちは、呼吸して生きている本物の生命体だ。Mobでさえも例外じゃない。

 だって彼らのデータはカーディナルと言う自ら思考するコンピュータに上げられ、やがて全てにフィードバックされるから。彼らの命は死ぬことで世界に召し上げられ、別の生物に還元される。

 いずれはカーディナルも意志を持つ日が来るかも知れない。自我の芽生えが訪れるのかも知れない。

 そんな“異世界”にボクたちは生きている。

 

 

 茅場晶彦がこうまでして作り上げた“本物の異世界”。それを半端な形で放置し、されるがままに見ていることが果たして彼に出来るだろうか?

 

 ゲーマーなら誰でも考えたことのある単純な心理。

 

 《他人に自分の考えた最高のRPGを遊ばせて、楽しんでもらえたらスッゴく嬉しい》

 

 プログラマーになって世界初のVRMMORPGを生みだした彼に、この願望がない保証は皆無だ。ふつうに考えてあり得ない。

 コテコテの設定とストーリーを世界中に配信して平気でいられる、一般ゲーマーには理解不能なクソ度胸の持ち主なら何しでかしたって不思議じゃない。

 

 そんな《ボクの考えた最高におもしろいRPG》で最初に挑むボス戦。そこで死人が出るとしたら役柄的に・・・・・・

 

「下がれ! 俺が出る!」

「なぁっ!?」

 

 予想外すぎる行動に打って出たのは、逆説的には予想通りのディアベルさんだった。

 茅場晶彦に今の時点で殺される可能性がもっとも高いのは彼だ。

 彼以外のプレイヤーでゲームクリアを目指している人間が一人もいない以上、彼を除いた全てのプレイヤーがモブのNPC仲間キャラクターだと思われてたって不思議じゃない。

 

 そんな中で彼が死に、その意志を多くの人が引き継げば《アインクラッド》は一つの“生きた世界”として完成する。

 人が生きるために襲い来る敵と戦い続ける、剣と戦闘の世界になる。

 もちろん、誰も引き継がずに世界は未完のままタイムオーバーで消えてしまう可能性もあるのだけれど、どの道このままじゃ息詰まってるんだ。風穴空けるためには賭けに出ざるを得ない。

 

 閉息した状況の中で窒息した心理にある人間たちに希望の光を灯すには、英雄が必要だ。

 

 貴い犠牲を払ったことで覚醒した、魔王を打倒しうる世界で唯一の選ばれし者。

 全てを背負わされ、試練と苦痛に満ち満ちた人生を歩かれる、勇者という名の生け贄(英雄)がーー。

 

 

 だからこそ警戒して見守ってたのに! 指揮官が単独で自分から飛び出すって、想定外すぎるんですけども!

 

 どうするんだこれ!? どうなるんだこれ!?

 

 

 ――え!? まさかこれってあの“お約束展開”じゃあ・・・。

 

 

 

 

 

「ダメだ! 全力で後ろに飛べっ!!」

「キリトっ!」

 

 ボクの悲痛な叫びは二人ともに届かず、ディアベルさんはガイドブックに載っていなかったボスのソードスキルをまともに受けて、一撃でHPの半分以上を持って行かれ、続く二撃目で完全に止めを刺された。

 

 

 

 

「ぐわぁぁぁぁぁっ!!」

「ディアベルはんっ!?」

 

 

 

 ディアベルさんが敗北して、

 

 

 

「ディアベル! なぜ一人で・・・!」

 

 

 

 キリトが駆け寄りーー

 

 

 

「頼む。ボスを・・・ボスを倒してくれ・・・・・・みんなの為に!」

 

 

 

 ディアベルさんの死で、

 

 

 

「・・・・・・っ!」

 

 

 

 キリトが決意の元、一人きりの道をみんなの為にと歩み出す。

 

 最強の剣士様の誕生だ。みんなの為に自分を犠牲にして平然としていられる本当の意味でのデスゲームの虜囚が、今この場の戦闘で生み出されてしまった。

 

 ――かくして、《ソードアート・オンライン》は物語の幕を上がる・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「クソがっ!」

 

 “僕”が吠える。

 身体の持ち主、紺野木綿季の叫びじゃない。

 身体に入っている今野悠樹の魂の叫びだ。

 

 

 絶対にやらせない!

 キリトもアスナも誰も、誰一人として僕の手が届く範囲の人は死なせてやらない! 不幸になんかさせてやらない! 犠牲になんかさせはしない! みんな纏めて救ってやる!

 

 

 これは僕自身の意志だ! 他の誰のものでもない! 僕がこれを選びたいから選んだんだ!

 運命なんかに邪魔させるものか! 神様なんかに邪魔されてたまるか! ましてやカーディナルや茅場晶彦なんて言う出来損ないの神様もどきに邪魔なんかさせない! 絶対にだ!

 

 

 思い上がるなよ茅場晶彦! ゲーム世界を支配したくらいでいい気になるな! おまえの思い通りになんかさせない! させてやらない! 人の意志はその人のものだ! その人だけのものだ!

 髪の毛一本、血の一滴に至るまで、その人だけの物だ! 捧げられるのはその人の意志によってだ! 強制的に使命を与えるなんて傲慢は許されない! 神が許しても僕が許さない! 僕が決して許しはしない! 必ず邪魔して阻止してみせる! 絶対にな!

 

 

「わたしも行く。パートナーだから」

「解った。頼む。ーー手順はセンチネルと同じだ!

 うおぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 キリトとアスナが駆けだした。もう止まらない、止められない。

 あの二人が組んで世界の救世主になる道を選んでしまったのなら、たかだか転生者ごときが介入できる余地はない。

 

 ならどうする? 僕に何が出来る? 何をすればいい?

 僕には何がある? ユウキは何を持っていて、ユウキは何が出来る?

 

 アバターの剣士ユウキは、普段は病弱で弱々しく体育の苦手な紺野木綿季と比べてスペックが高い。ステータスだけで救えるものは少ないけれど、今はこれが一番頼りになる。

 

 アスナがボスの一撃でフードが吹き飛び、素顔をさらす。その瞬間、彼女の顔の美麗さに思わず見惚れて動きが止まるキリト。

 ここだ。このタイミングでなら僕にも介入できる余地がある。

 

 行くぞ茅場晶彦。これが僕の、今野悠樹が女剣士ユウキとして介入するSAO最初の一撃だ。

 誰も死なせないための剣。絶対に人を守り抜く剣が放つ、最初の一刀だ。

 

 

「《レイジスパイク》!!」

 

 ボクにとって本当のデスゲームが、死との戦いが今始まる。

 

 

 

 

 

シリアスに続くが次回中盤までしか保たない

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