仮面ライダー剣~The earthly World~ 作:龍騎鯖威武
ノゾムがレンゲルの力をコントロールできた事によって、剣斗たちに大きな戦力が増えた。
剣斗自身は、まだBOARDが何か隠し玉があるかもしれないというが、ブレイド、ギャレン、レンゲルの3人のライダーがいれば、とりあえず不安はないだろう。
一週間が過ぎたが、イサカ達やBOARDも大きな動きを見せなかった。故にひと時の平和を謳歌する事が出来た。
そんな中、剣斗は自宅前の駐車場で竹刀を振るっている。常に鍛錬を積み重ね戦いに備える事が、世界に平和をもたらすための道につながるのだと信じて。
それに付き合うものたちがいた。
今回の件で仲間となった留美奈である。
「留美奈、おまえは十分といえるほど強いだろう。能力者だから当然のことではあるがな。…だが」
「…なんだよ」
剣斗の鋭い瞳は、留美奈の幼さが残る少年らしい瞳をまるで焼くかのように捉える。
「今までの戦いぶりを見ている限り、おまえ自身の強さを感じられない。特異な能力に頼りきりだ」
「なんだと…!?」
留美奈は感情を高ぶらせた。それはルリを守るため、仲間と生き抜くために培った自分の力を「無駄」と吐き捨てられたようなものだ。
「聞いた話、おまえの能力はルリの「反魂の力」によって生み出されたそうだな?」
「…あぁ」
「結局、それは他者から譲り受けた力だ。おまえ自身の力じゃない」
留美奈は歯軋りして下を向く。剣斗はその姿を見て、小さくため息をついた。
「図星だな」
「…でもおまえや銀之助だって、ブレイドやギャレンの力は自分自身の力とはいえないだろ!」
自分の持つ竹刀を剣斗に向けて、訴えかける。
「…なら、かかって来い。能力を使わずにおれに一本でも取れれば、おまえが正しいと認める。もちろん、おれもブレイドには変身しない。武器は両者とも竹刀と肉体、条件は同じだ」
ブレイラウザーの構えと同じ動きで、竹刀を構える剣斗。
二人のやり取りを見ていた、ルリ、チェルシー、銀之助、ノゾム。
ルリはふと、不可解なことに気づいた。
「…銀之助さんには何も言いませんでしたね。留美奈さんの方が、腕っ節は強いのに」
たしかにギャレンの力を除けば、銀之助もあまり実力者とは言えない。アンダーグラウンドでの戦いを経て幾分か強くはなったが、まだ留美奈の方が上だ。
「なんか、ルリさんに遠まわしの攻撃を受けた気が…」
「あ、ごめんなさい、そういうつもりじゃなくて…」
落胆する銀之助に、困ったような表情で謝るルリ。その間に入って、ノゾムが呟く。
「留美奈と比べて、おれ、剣斗、銀之助、チェルシーには、一つ大きな違いがある」
「わたし達との違い…?」
チェルシーには、まず後者4人の共通項が浮かばなかった。仮面ライダーならばチェルシーは除外、能力者はその逆、生身の実力も銀之助が留美奈より下だ。
「ま、おまえさん達も見ながら気づきなさいな。分かれば100点満点!」
「なんなのよ、全く…」
チェルシーはノゾムのふざけた態度にあきれながら、再び視線を二人に戻した。
先手は留美奈だ。
「はあぁっ!」
彼は剣道を祖父から無理やり叩き込まれている。故に竹刀捌きには自信がある。
だが、剣斗もそうだ。ブレイドの主となる武器は剣型となる「ブレイラウザー」。そのために今まであらゆる刀の使い方、あらゆる太刀筋を学んできた。そして鍛え抜かれたしなやかな肉体が創り出す、稲妻の閃光のごとき素早さで…。
「おおおぉっ!!」
バシィン!!
「うっ!?」
留美奈の竹刀を弾き飛ばした。留美奈の握力では、剣斗の竹刀の一撃を受け止めきることは出来なかった。
とっさに地面に落ちた竹刀を留美奈が手に取ろうとかがんだ瞬間、目の前を剣斗の竹刀が右から風を切って現れる。
「…勝負ありだな」
「そんな…早すぎる…」
ブレイドとして戦い続ける剣斗に対して、留美奈は戦いを終えてから彼と出会うまで戦う事がなかった。つまり、鈍っているのだ。
「言っておくが、おれも実力があるほうじゃない。それでおれに負けるってことが…どういうことかわかるだろう?」
そう言って向けていた竹刀を引き、剣斗は踵を返して歩き去る。
彼が留美奈を鍛えさせようと考えた理由は、現在の状況からだ。
たしかに、今の常用で戦力は十分だろう。だが、個々のライダーの持つ力が不安定すぎる。
ノゾムは下手をすればアンデッドに支配されかねない。剣斗と銀之助はその心配はないが、実力が伴っていない。故に戦えない状況に陥る事も考えられるだろう。
そうなった場合、留美奈とチェルシーだけが戦えるのだ。中でも、とある理由で留美奈を鍛えるべきと剣斗は考えたのだ。
剣斗は彼らと少し離れて、ある雑木林の中に来た。
「おれは…」
正直に言えば、彼らと共に過ごす時間を戦いの事だけにしたくはない。
彼らと関わる事で、戦いを終わらせた先にある生活というものを見出せた気がする。
戦いの先にあると望むのは「平和」。その平和になったとして、自分は何をしていけば良いのか。
それが少しだけ見えた気がした。
「久しぶりだね、剣斗君」
声に振り返ると、天王寺が立っている。
「天王寺…!」
彼はルリを利用して実験を企てていた。現在の自分の敵に等しい。
「そう怒らないでくれたまえ。私はあくまでも「繁栄」を望んでいるんだ」
「そのために、ルリを利用するのか?」
「私も試行錯誤しているのだよ」
この会話の中、天王寺は表情を全く変えずに淡々と会話を続けていた。
「…とは言うもののアンデッドの封印という作業は、選ばれた仮面ライダーにしか出来ない。そこでだ」
おもむろに懐から2つの機械を取り出し、それを剣斗に投げ渡した。
「これは…?」
「ラウズアブゾーバー、新開発の強化システムだよ」
質問の答えを聞いた後、ラウズアブゾーバーをもう一度だけ見つめる。
「それはカテゴリーQによって起動し、カテゴリーJまたはカテゴリーKによって効果を発揮する。その力は絶大であると予測できる」
視線が離れた後も、天王寺は淡々と説明を続けた。
彼の元で活動しているときも感じていたが、彼に感情というものを感じられない。それを抑制しているというよりは、欠落して元より無いように感じた。
「ただ…起動後はさらに適合率と身体能力が必要になる。だから…テストさせてもらおう」
その言葉で天王寺を見ると、彼の周辺にはメカローチの大群がうごめいていた。
何をしようとしているのかは理解できる。
「ざっと20体。一人で討伐するのは骨が折れるよ。さぁ、やるかな?」
要は腕試しだ。メカローチはアンデッドの細胞を機械の核に組み込み、劣化しているアンデッドを再現している。封印せずとも機能停止するし、固体の力は高くない。
数で戦うメカローチたちを殲滅できるかというものだ。
「…無論!」
その言葉の直後、剣斗の腰にはブレイバックルが装着されていた。
「変身っ!!」
<TURN-UP>
オリハルコンエレメントをくぐり、ブレイドへと変化する。
「来い!!」
その言葉が合図となり、メカローチたちは一斉にブレイドに群がるように襲い掛かった。
留美奈はあの後、ずっと竹刀を振るい続けていた。
何が足りない?どうすれば、彼と同等に戦える?
その答えが分からなかった。
休まず振るい続けたために、その手には血豆ができ、それが潰れて竹刀の柄の部分を赤く染めていた。
「留美奈さん、もうそろそろ休まないと…」
「でも…答えがよ…!」
カランッ!
ルリに止められ、彼は悔しそうに竹刀を地面に叩きつけた。
これだけやっても理由が分からない。
「おまえぇ…ぶっきようだなぁ~!」
「な、なんだと!?」
見かねたノゾムが、留美奈の肩を叩きながらおかしそうに笑う。
「あのな、さっきの剣斗の言葉を聞いて強くなれば良いと思うか?」
その言葉で、首をかしげた。剣斗の言葉は、まるで留美奈が弱いかのような発言をしていた。それを覆したくて竹刀を振るい続けた。
だが、剣斗の真意はそうでない。なにしろ、自分自身が強いと発言していない。
「じゃあ、どう言う…」
「それを考えるのが、この特訓だ!鍛えるってのはな、なにも筋力を高めたり、技術を磨くだけじゃないんだってことだ。これがヒント!」
「じゃあ…一体…」
「はぁっ!!」
ズバアアァッ!
ブレイラウザーが唸りを上げ、メカローチを蹴散らしていく。
少しずつだが、その数は徐々に減っていく。
だが、それと同時に…。
「はぁっ…はぁっ…ちぃっ…!」
体力も減っていく。剣斗の致命的な欠点は耐久力が低い事だ。短距離型というべきか。
短時間の間で全力を出し切り、すぐにバテが来てしまうことなのだ。
ブレイドになることでそれは軽減しているのだが、変身者の身体能力もダイレクトに反映される。
おそらく、留美奈よりも早くバテがくるのだろう。
「どうやら…まだ耐久力の課題は克服できていないようだね」
「黙れ…!」
自分の弱点を指摘されると、敵味方問わずに気分は良くない。特に天王寺は無表情ながらも嘲笑しているような雰囲気もあるため、ブレイドは苛立ちを隠せない。
「そこも未熟だね」
ドガァッ!
「っ!?」
そういわれるや否や、メカローチが背中を切り裂いてきた。
その衝撃に地面を転がるブレイド。
「心が乱れると、集中力が途切れる。戦士とは常に冷静であるべきだ」
留美奈は一人で残り、竹刀を見つめる。
今は振り回したりはしていないが、これを見つめていると答えが見出せそうな気がした」からだ。
「力や技術じゃないとしたら…」
それ以外に戦いに影響するもの…。
「人間という生命体は、高等な存在だ」
声に振り向くと、そこにはカリスがいた。
「カリス…!」
未だ正体の知れない仮面ライダーを名乗る、謎の存在。その手にはカリスアローがないことから戦う意思はないらしい。
「人間は他の生物には持ちえないモノがある」
その言葉に気づいた。
「…心!!!」
体に身につける以外の鍛える方法ならば、それしかない。
「人間は本調子を維持するために、精神や心を研ぎ澄ます。これは本能だけで生きている生物には成せない鍛錬だ」
「でも…心を鍛えるっていっても…」
たしかに、心を鍛えるというのは並大抵の鍛錬とは違う。留美奈も全くやってこなかった鍛錬だ。
「後は、オマエが何に気づくかだ…」
留美奈は…自分の手を見つめ…。
未だにメカローチは3分の1を残している。しかし、ブレイドはもう立ち上がれない。ブレイラウザーを地面につきたてて座り込んでいる。
「くっそ…!」
「ふむ…まだ融合係数が足りないようだね。アンデッドと融合すれば、まだ疲労感は消えるはずだ」
そう、アンデッドは不死生物。故に身体能力も高い。そのアンデッドと融合する事を前提に作られたライダーシステムを装着したのならば、装着者の疲労や苦痛は生身と比べても全く違うはずだ。
だが剣斗は筋力等に関しては上がっているものの、耐久力は未だに低い。おそらくはカテゴリーAとの融合係数が低いのだろう。
「その程度ではラウズアブゾーバーは使えない。君はここまでかな?」
天王寺がそう言うと、メカローチが一斉に襲い掛かってくる。
…負けた。
そうあきらめた瞬間。
ザァッ!!!
強い風が吹き荒れ、メカローチが吹き飛ばされた。おかげでブレイドは難を逃れた。
「これは…!?」
振り返ると、留美奈が小鳥丸を構えて立っていた。
「剣斗!ようやく分かった!」
ブレイドに走りより、彼を立ち上がらせる。
「浅葱留美奈…」
「おれの力は他者から「望まずに与えられた物」だったってことだろ?」
彼は答えを見つけているのだろうか。ブレイドは彼の言葉のその先を聞きたかった。
「つまり…?」
「この力を、しっかりと自分のモノにしろってことだ!」
「…合格だ!」
安心した。彼なら、背中を預けて戦えそうだ。
「そういや、剣斗は大丈夫なのか?」
「さっきまで、大丈夫じゃなかったがな。今なら戦えそうだ!」
先ほどまでの疲労が幾分か解消されている。それでも体は重いが、戦うには十分といえるだろう。
「「はああああぁっ!!」」
二人は一斉に駆け出す。
留美奈の風の刃はメカローチを真っ二つに切り裂き、ブレイドのブレイラウザーは雷を纏い、メカローチを原型が残らないほど黒焦げにした。
「ほう…この短時間で僅かに融合係数が上がるか…。意思との繋がりがありそうだな」
その光景を感動もなく見つめていた天王寺。ただ、自分が知りえなかった事を知り、それを整理していた。
程なくして、メカローチは完全に殲滅した。
「どうだ…!」「次はあんたがやるか!?」
二人が切っ先を天王寺に向ける。しかし、驚く事も怯える事もしない。
ただ微動だにせず、それを見ていた。
「…その調子でアンデッドを封印してくれたまえ」
そう言いながら、踵を返して歩き去った。
「まてっ!」
留美奈が追おうと駆けるが、天王寺は近くの木を通り過ぎた瞬間、まるで手品師のマジックのように姿は忽然と消えていた。
それから、剣斗と留美奈は仲間達の待つ場所に戻った。
「随分掛かったな」「剣斗さん…傷だらけじゃないですか!!」
ルリと銀之助は剣斗の背中を押し、手当てを始めた。
「そうだ、五十鈴銀之助。おまえにこれを」
そう言って、剣斗は銀之助にラウズアブゾーバーを渡した。
「これは…?」
「戦利品だ。近いうちに説明する」
銀之助はルリに手当てをまかせ、訝しげにラウズアブゾーバーを見つめていた。
残ったチェルシーとノゾムは、留美奈に結果を聞いていた。
「安心しろ!課題は合格だ!」
ニッと笑い、剣斗を見つめる。その視線に気づいた剣斗は、僅かに笑みを見せていた。
続く…。
次回!
人間め…
僕が相手だ!
見せてみろ、その力!
諦めない!絶対に!
僕にできることがそれだから!
第9話「今の精一杯」
今、その力が全開する…!
キャスト
斬崎剣斗=仮面ライダーブレイド
浅葱留美奈
ルリ・サラサ
チェルシー・ローレック
五十鈴銀之助=仮面ライダーギャレン
雲間ノゾム=仮面ライダーレンゲル
???=仮面ライダーカリス
天王寺賢二郎