銀の狐と共に 作:ロンメル
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今から12年前の夏、父と訪ねた研究所での出会いは今でも鮮明に思い出すことが出来る。案内役の理解出来ない説明と無機質な白化粧に飽きた幼い自分は中庭で待っていることにしたのだ。父が説明を聞くごとに無表情になっていくのが怖かったのも多少ある。
真夏にも関わらず快適な気温に涼しい風が吹く芝の上。広い緑の中に銀の彼女は突っ立っているとしか表現できない有様でそこに居て。彼女に惹かれた自分は声を掛けたのだ。
ああ、いいところで意識が遠のいていく…。
「何で気持ちよく寝ていたのに脛蹴りなんて。」
「仕事は終わったのかしら?」
夢から鈍い痛みで呼び戻した原因は隣からこちらを睨む2歳年下の少女。窓から差し込む夕日に照らされた彼女は1枚の絵画の様である。彼女の名前はエルヴィナ。ある事情から幼少期から幼年士官学校、配属先まで同じという腐れ縁。しかし彼女の純粋な戦闘能力は軍内トップクラスであり白い手は机に投げ出された自分の手首を掴んでいた。
ひんやりした彼女の体温を感じると共に冷や汗が流れる。彼女は即座にこちらを捕縛出来る体勢を取ってから蹴り起こしたのだ。
「…あと少しです。」
「手伝うから早く終わらせなさい。」
「はい。」
机に張り付くこと1時間。機嫌を直したエルヴィナの助けもあり終業までになんとか仕事は片付いた。帰り支度を済ませ彼女と並んで帰宅、この後キャベツとソーセージ、パンで軽い夕食を済ませ2人して勉強、その後就寝。士官学校の時から続く毎日のルーティンである。
今は1907年。ソルビエスが艦隊を東の果てで失った戦争から数年。軍の近代化が進んだ国家同士の争いは戦訓として格好の物だったが2年も経てば2人の興味は自動車やアルメリカ発祥の飛行機に向いていた。今は貧弱な性能でも10年も経てば必ず使い物になると2人は考えている。それらは戦場の在り方を変えるとも。そんな議論の合間にふと零れるのは我が国の主導部への不満であった。
「陸軍の父と鉄血宰相が現状を知ったらどんな顔をするのかしら?」
「苦虫を万匹噛んだ顔をして手を取り合う。」
「正解。」
自分の名前はリヒャルト。近しい人からはリチャードと呼ばれている。歳は18、肩書きはプロイセン王国陸軍第3近衛歩兵連隊下の中隊長を務める中尉。プロイセン王国陸軍はプロイセン国王を皇帝に戴く連邦国家の中の1軍隊である。
軍と言っても40年前にフランセーヌとの戦争を行ってからは大きな争いがない組織。つまり実戦未経験者が多い。このまま充実した訓練の日々を過ごしたいものだがそうは問屋が卸さない。
10年と少し前、鉄血宰相の退陣を機に対外政策を転換した我が帝国は西アジア進出を巡ってブリタニアと対立。ブリタニアの気取った外交孤立を止めてしまう。更にイタリアーナは三国同盟から脱落、オーストリアは民族問題と皇室の不幸から機能不全。プロイセンは実質孤立し数十年前と逆の立場に立たされてしまっていた。
直近では一昨年にフランセーヌの領土拡張に口出しした結果去年は部分動員に加えフランセーヌと国境越しに睨み合いもしている。
アルザス=ロレーヌを取られたこともあり隣の国は復讐心に燃えていた。鉄血宰相の残したフランセーヌ包囲網も破綻した現状戦争はひょんなことで起こりうる。手を伸ばせば隣に当たるピリピリとした欧州情勢だった。
プロイセン ドイツ帝国
フランセーヌ フランス
ブリタニア イギリス
ソルビエス ロシア帝国
皇国 大日本帝国