銀の狐と共に   作:ロンメル

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 他所の軍もそうであるがプロイセン陸軍には馬は勿論犬、鳩などの動物が多数所属している。第2師団を構成する12個の歩兵大隊にもそれぞれ士気高揚、伝令、警備の任を負ったシェパードが配されていた。

 大柄な体躯と精悍な顔つき砲撃音にも動じない立ち姿はよく訓練された兵士そのもの。事実ちょっかいを出した新兵がトラウマを刻まれていたりもする。彼等としては少し脅かしただけだろうが。

 

「よーしよし良い子だ。」

 

 忠誠心の塊である彼等がハンドラーを置き去りにし駆け寄る先には一組の男女。言わずと知れたリチャード、エルヴィナのコンビである。2人は苦笑するハンドラーを背後に体を寄せてくる犬達の首から肩をゆっくり撫でてやる。数匹は自ら背を向けて尻尾の付け根を撫でろと催促してくる始末。

 彼等の生まれは2年前シュペルリンク家。そこに帰省した2人は幼い彼等兄妹をよく可愛がっていたのだ。順当な結果とも言える。ちなみに2人の上位存在としてマリアンネその少し下にエルンストが位置する。

 

「ちゃんとバディと仲良くしてる?」

「お前等無駄にプライド高いからな。我が儘言ってるんじゃねえの?」

 

 2人の言葉から露骨に顔を背ける群れと苦笑するハンドラー達。その身体能力を駆使し大抵の訓練をそつなくこなす彼等は気ままに軍隊生活を送っていた。自由に練兵場をうろつく姿は兵士達に親しみを持たれている。

 そんな彼等を任されるハンドラー達も大概優秀なのだがどうも振り回されている感じが拭えない。コンビが真に対等な関係を結ぶにはもう少し時間が必要な様子である。

 

「自分達も見捨てられない様必死ですよ。」

「精進なさい。その内は彼等も待ってくれる。ね?」

「そうだぞ。努力を怠るな。」

「貴方が偉そうにしない。」

 

 問いかけつつ頭を撫でるエルヴィナに低く喉を鳴らして答える一頭。周りでは数匹がクンクン鳴き自分もと要求しだし順番と宥められ、リチャードはすまし顔の他数匹に構いだす。周りに訓練を終えた兵士達が集まりだすのも時間の問題である。

 

「中尉殿。我等がアイドルを独占するのは如何なものかと。」

「おっ?じゃあこいつ等に選んで貰おうか。」

「リチャード…ずるい。」

 

 ぷいっと犬達に背を向けられたお調子者が大げさに崩れ周囲の笑いを誘う。普段は撫でさせる位は許される彼も今回は相手が悪かった。

 気づけば野外ボクシングやら持ち込んだ楽器を鳴らす者、娯楽を目当てに兵士が集まりだす。酒や食事が持ち込まれて宴会となるに時間はかからなかった。

 彼等はプロイセン王国ダンツィヒに居を構える帝国の剣。しかし兵士達も人間。それも大半が若者である。リチャード、エルヴィナは転属して早々隊員達の心を掌握していた。

 

 

 

 

 シュペルリンク家にエルヴィナが引き取られて数年。10歳を迎えたリチャードは軍の幼年学校への入学を控えていた。そこで一悶着が起こる。戸籍上2歳年下のエルヴィナが自分もついて行くと主張。家中に激震走る、などということは無く娘が初めて我が儘を言ったことに喜んだ。

 

「まあ、まあまあ旦那様。」

「良いぞ。」

「いや良いの?俺でさえ特例なんでしょ。」

「リチャードは私がいると邪魔?」

「そんなことない。」

 

 リチャード寧ろラッキーと考えるべきではと思い始める。父親が許可を出したのならばどうにか出来るのだろうし。自分としても彼女が傍にいない生活は考えにくい。

 

「お前が入れるのなら今のエルヴィナが行けないことはないだろう。」

「いや、まあそうだけど。」

「お前1人では心もとない。ぐずぐず言わずに連れていけ。これも超人兵受け入れの下地だと思え。精神面の弱さをお前が支えろ。」

「うぐ。分かった。」

「良かったですねエルヴィナ様。」

「うん。ありがとマリー。」

 

 エルヴィナの口元がほんの僅かに緩んでいるのを見て取ったリチャード。彼女に向き直ってこれからも頼むよと一言。エルヴィナは仕方ないわねと笑って返した。

 

 

「なあ、そろそろ買い物は終わりにしないか?」

「もう少しあるの。」

「早くしてくれ。」

 

 時は戻りベルリン西地区に出来て間もないデパート。衣食住の大半が詰め込まれ人でごった返すそこに2人の姿はあった。リチャードは両手に大荷物、対してエルヴィナはハンドバックのみ。男女ショッピングデートの宿命である。

 エルヴィナが着飾る様になったのはここ数年の話でリチャードも乗り気であったのだがそれも最初の2時間の話。同僚(年上)や部下の話に聞く面倒な質問こそエルヴィナはしないがその分商品を前にして長考する。

 表情を変えずにじっと立っている美人。声をかけてくる店員や男共の相手はリチャードがする。既に野郎共との会話量が相棒とのそれを越えている事実を前にやる気なぞ出ない。

 

「これにする。」

「あいよ。うん、似合ってるな。」

「そう、ありがとう。」

 

 彼女の手にはスカート丈を膝頭まで上げたローウエストのワンピース。装飾は少なくデザインは質素。灰と白のチェック柄は軍服を好む彼女からして勇気を出したと見える。統括すると着用した姿は貴族のお嬢様であった。まんまその通りである。

 もう立ち振る舞いからして何を着ても美人なんだがなとはリチャードの内心。ちなみに戻した服はフリルが多用されたプロイセンの民族衣装。自分で贈るのは気恥ずかしいのでマリーに頼んでおこうと決意。

 

「折角だ。着て帰ったらどうだ。」

「いい。家で着るから。」

「そうか。」

 

 残念やら嬉しいやら複雑な感情で前を行く相棒に続く。忙しい軍務の間、ある休日の一幕である。これで終わったかと油断する彼の苦難は続く。

 

「次はリチャードの分も買うから。」  

(勘弁してくれ。)

 

 

 

 

 プロイセンから海を越えた向かい側、大陸中部の工業都市。1人の中年男性が体調に違和感を感じつつも会社へ出勤した。自分の誇りである自動車企業の売り込みを風邪程度で止めるわけにはいかないと。

 

 

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