銀の狐と共に   作:ロンメル

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ep.1 名誉無き戦争


 ここに至るまでの情勢を記そう。

まずアルメリカミシガン州で原因不明の病が大流行。大陸を半年で席巻したそれは海を越え欧州へ上陸、社会的地位が有ろうと関係なく牙を向くそれに誰もが震え上がった。

 …語弊がある。プロイセン人以外が恐れ慄いた。我が国は速攻でワクチンを開発、配給したのか?違う。誰も病にならなかった。そう国民が1人たりとも。

 他所では医療関係者から感染、医療態勢が崩壊する程の大流行だというのに、既に死者が5000万人を超そうというのに、誰もが家に閉じこもり世界の経済が停滞しているのにプロイセンだけ順調。寧ろ他国の生産を奪いうなぎ登りの成長をしている。

 誰かがこう言い出すのも時間の問題であった。

 

 ”プロイセンがワクチンを予め国民に打って病をばら撒いたに違いない。”と。

 

 病に対し自分達プロイセン国民だけ平気な理由に思い当たる節はある。だが公開してどうする。仮に対処法が見つかったとして根も葉も無い陰謀の裏付けとされ現状を悪化させるだけだろう。

 誓って記すがプロイセン上層部が狙ってこの事態を引き起こした可能性は無い。やるならもっと上手くやる。突拍子の無い話を信じさせるのに現在の世界は下地が十分すぎたのだ。そして急成長を遂げたプロイセンを囲んで叩く機会だと列強国の有識者は民衆の熱狂を黙認した。

 

 

 ここからは実に早かった。民主主義を掲げる隣国はプロイセン憎しの国民の声に押され根も葉もない賠償、謝罪、内政干渉を含む過激な最終通告を作成。草案作成からたった1週間の審議を経て我が国に手交してきた。

 通告の期限は48時間。回答を待たずにフランセーヌは部分動員を開始、対して皇帝は即座に総動員を下命。1日遅れてフランセーヌが総動員へ無理矢理切り替える。手交から2日後フランセーヌはプロイセンと国交断絶を宣言、宣戦布告を行った。

 次いで各陣営の軍事同盟に基づきソルビエス、ブリタニアがプロイセンへオーストリアがソルビエスへ宣戦布告。各々総動員を開始。国家存亡のレベルで病が猛威を振るうアルメリカは欧州のことに関わる余裕も無く、イタリアーナは沈黙。  

 それまでの小競り合いの数々を飲み込んで長きに渡り組まれた戦時計画の連鎖的発動は止まらない。

 

 

 

 

 その日は実にあっさりとやってきた。今リチャードとエルヴィナは先陣を切るべくプロイセン西部国境へ移動している。騒がしいホームは不安気な顔をした少年達から中年に届く職業軍人がぎっしり。続々と後方から襲来する列車の間隔は数分に足らず。大量の兵士、兵器、物資を吐き出しては東へ戻っていく。

 

「だ、大丈夫かな俺達。」

「心配するな。神様は俺達の味方さ。敵は皆ベッドでお寝んねだ。」

「そうだよな。」

 

 数日前まで街で働いていたと見える若者達の会話が聞こえてくる。不安を隠そうと私語をしたのだろうが運は悪かった様だ。上官に会話を聞かれて仲良く鉄拳をもらっている。彼等の様なほぼ素人も緒戦から投入することは以前からの決定だが…実際に率いるとなるとやはり複雑である。

 

(天は俺達の味方なんかじゃない。人を弄んで笑ってやがる。)

「行くわよリチャード。クロック司令に顔を見せなきゃ。」

「ああ。」

 

 自分達第1軍が展開するのは隣国ベネルクスとの国境線。点在する要塞を蹴散らしフランセーヌ軍左翼を突くことが求められる。1日前プロイセンは駄目元でベネルクスに対して無害通行権を要求。そして見事に拒否された。後は形だけ抵抗するのか徹底抗戦してくるのかが問題だ。

 

「ベネルクスの成り立ち上仕方がない、か。エルヴィナ。」

「手心を加えたりはしない。例え市民でも貴方に銃を向けてくる者は敵よ。」

「ああ、心強いな。」

 

 懸念された中立国への侵犯行為による問題もブリタニアが既に参戦したことで些事。もうプロイセンは圧倒的戦果を元に勝ち馬に乗る輩を呼び込むしか味方を作れない。

 総距離450キロの進撃中足を止めれば逆包囲が待つ常識外の任務。これでも数年前の戦時計画から相当旋回半径を小さくして投入する戦力を倍増、各軍団の負担を減らす努力はしている。後方担当は発狂しかけたそうだが。

 兎角この難関な任務に当たる第1、第2、第3軍にはプロイセン陸軍の精鋭が優先して配されていた。呼応してフランセーヌをアルザスへ誘引する第6、第7軍の動きも此方の助けとなる。

 第一軍司令クロック大将。フォンを冠する貴族にして40年前にもフランセーヌと戦った現役。眼光は鋭く唯歳を経た爺ではないと判る。

 

「エルンストの倅か。ここに来るとは…愚か者が。」

「クロックのおじさん。後ろで怯えているのは性に合わなくてね。」 

「リチャード!ごめんなさい司令。」

「良い良い。エルヴィナも大きくなったな。」

「はい。お久しぶりですクロック小父様。」

 

 出立前、父から軍団司令がこの爺だと聞き2人は安堵したものだ。上からの命令に従うことに基本否はない2人だが愚か者の下で命を懸けることは御免蒙る。

 しばし近況について話していると第1軍司令部に各師団から参謀が集まって来た。大半がリチャードの顔見知りである。大きな地図を前に綿密な進軍経路の最終確認を行っていく。

 

「フランセーヌは動員切替によって混乱、ベネルクスはまだ動員をかけて間もない。リエージュは第2軍に任せブリュッセルへ直行する。儂等の働きにパリへの鉄道網確保がかかっておる。フライドポテトを蹴散らし自分達が狩人だと勘違いしているカエルの脇を食い破れ。」

「鉄道さえ使えればあれを運べます。各師団くれぐれも要塞への無茶な攻撃は避けて下さい。代償は己の命で払うことになります。」

「生き残っても儂が脳天を撃ち抜くからな。くっく。」

 

 銃を懐から取り出すな。撃鉄を起こすな。銃口をこちらに向けて置くな。とは向かい合った若者達の心の叫びである。ほら見ろエルヴィナが給仕のふりをしてクロックとの距離を詰めているじゃないか!

 

「冗談だ。リチャードの周囲にそんな愚か者はおるまい。」

 

 エルヴィナを一瞥して簡易机に拳銃をしまいにやりと笑う老人に呆れる。この爺さんそこらの一兵卒では相手にならないだろう。

 

「仰る通りです。」

「解散。各員は己の責務を果たし敵を撃滅しろ。」

「ヤヴォール!」

 

 

 

 

 3日後プロイセン軍はベネルクスへ侵攻し国境警備隊と接敵。後にグレイトウォーと呼ばれる大戦争初の戦闘が開始された。

 

 

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