東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
初投稿ではありますが、よろしくお願いします。
……なんだかシリアスチックですが、気にせずお付き合いください。
また、カービィ以外のカービィキャラが出るかは未定です。
感想にてご指摘があれば非常に嬉しいです。
あと、評価も(笑)
2017/09/29追記:作者活動報告にて重要なアンケートがあります。
常に彼は正義であり続けた。
常に彼は純粋であり続けた。
常に彼は皆に夢を与えてきた。
皆は口を揃えて言う。
彼こそ真の英雄なのだと。
困った人は見捨てず。
全ての人を愛し。
憎むのは罪のみで、人を憎まず。
皆は口を揃えていう。
彼こそ真の優しさそのものだと。
皆のために、大地を駆け。
皆のために、地底を進み。
皆のために、宇宙すらもまたにかける。
困った人のために、異世界へ。
困った人のために、異次元へ。
困った人のために、宇宙の彼方へ。
幾度となく世界を救いながら、彼の欲は薄く、求めるのはただちょっぴり多めの食料。
何よりも食を愛し、満たされぬ胃袋を持っていた。
しかし彼は、皆のために盗まれた食料を奪い返し、育ち盛りの小鳥たちのために山盛りのリンゴを与えた。
彼は欲のままに動くことはなかった。
彼は求められれば、何処へでも行く。
そう、何処へでも。
例え、幻想の彼方でも。
求められれば、何処へでも。
彼に不可能なことはない。
彼は鏡の中へすら入ったこともある。
彼は無限の力すら打ち破ったこともある。
だからこそ、幻想の世界にだって渡れるはずだ。
例え幻想の世界が、彼に厳しく当たっても、きっと大丈夫だ。
彼は体が毛糸になっても、世界を救った。
彼は体から手足を奪われても、世界を絵画世界から解放した。
彼は力を奪われ十分割されても、黒幕を打ち倒し、力を取り戻した。
いかなる逆境も、彼は覆してきた。
それに、幻想の世界はきっと彼を受け入れる。
だって幻想の世界は、全てを受け入れるのだから。
●○●○●
博麗神社は、ほぼ常に騒がしい。
しかしそれは人で賑わっているのではなく、妖怪や妖精の類がたむろしている、という意味である。
妖怪は基本的に人に畏れられている。
故に、人外の溜まり場と化した博麗神社に参拝客は少ない。
せいぜい、催し物をした時に少々、といった程度だ。
その博麗神社の唯一の巫女である博麗霊夢もそのことを気にしている。
気にしてはいるが。
「あー、なんでウチってここまで参拝客が少ないのかしら。」
などと口で言いつつも、縁側で茶を啜りくつろいでいるあたり、彼女の暢気さがうかがい知れる。
おかげで博麗神社は『妖怪神社』やら『貧乏神社』などと呼ばれる始末。
しかし『貧乏神社』などの不名誉な二つ名で呼ばれ、実際に貧乏ながらも、生活に困った様子はない。
おそらく、後ろに『支援する者』がいるのだろう。
その『支援』によってか、彼女は数々の『異変』を解決してきた。
赤い霧に染まった異変も、訪れぬ春の異変も、すり替わった月の異変も、妖怪の山の異変も、溢れ出る怨霊の異変も、空を飛ぶ船の異変も、騒ぐ神霊の異変も。
それら全てを解決してきた。
しかし、彼女はまだ十代前半程度。
その幼さで何故彼女は戦うのか。
何故なら彼女は『博麗の巫女』だから。
外の世界で忘れ去られた者たちの最後の希望、『幻想郷』の要だから。
この『幻想郷』のバランスを保つために、彼女は戦うのだ。
しかしながら、その異変さえなければ彼女もまた人の子に過ぎない。
彼女の纏う『独特の雰囲気』こそそのままではあるが、鬼巫女と恐れられる彼女だって年相応の少女である。
異変のない日くらいはゆっくりしたいのだ。
目の前で戯れる三妖精を視界の端に収めつつ、また霊夢は茶を啜る。
話変わって、幻想郷の異変を語る上で、欠かせない存在がいる。
それは、単なる人の子。
霊夢のように天賦の才を持たぬ、正真正銘の人の子である。
しかし彼女は正義感故か、顕示欲故か、向上心故か、霊夢とともに人外の引き起こした異変に果敢に立ち向かう。
それはまさに、『努力の人』と称するに相応しい。
『いたって普通の魔法使い』。そう自称する彼女の名は……
霊夢がお茶を啜る手を止める。
そして小さくため息をつく。
勘のいい彼女は『何かの接近』を感じ取ったのだ。
そして勘のいい彼女は誰が接近したのかもわかっている。
やがて一陣の突風が縁側に吹き込み、そしてその突風に乗ってきたかのように、箒にまたがった彼女が現れる。
黒い三角帽子の鍔を片手であげつつ、満面の笑みを見せるのは、癖のある長い金髪の少女。
そう、彼女こそ……
「よっ! 飛んでたら姿が見えたんでお邪魔しにきたぜ!」
「頼んでもないのに来ないでくれる? 頼んでもないのにきていいのはお賽銭をくれる参拝客だけよ。」
そう、霧雨魔理沙という少女である。
魔理沙に対して霊夢は冷たく当たる。
しかし、とある彼女二人と付き合いの長い古道具屋の主人は、彼女らの事を『仲が良い』と認識している。
要するに、いつものことなのだ。
彼女ら特有の『じゃれあい』なのだろう。
現に、魔理沙に対して否定的な事を言いつつも、魔理沙は気にせず隣に座り、霊夢はそれ以上何も言わない。
「聞いてくれよー。香霖が面白そうなものを拾ったんだけどさ、それを譲ってくれないんだよ。」
「当たり前でしょ。代金なく霖之助さんが物を渡すはずがないじゃない。」
「お前も代金なしで物を持っていってるじゃないか。」
「あれはツケよツケ。……ところで、それってどんなもの?」
「確か……赤と白の棒を一緒に捻ったような棒に……」
そこで、魔理沙は言葉を遮った。
一体どうしたというのか。そう聞くよりも先に、その原因を理解した。
空の一点。そこに光があった。
その光は幻想郷を覆う大結界と拮抗し、やがて霊夢と魔理沙の見ている目の前で、その結界を突き破った。
そして流星の如き速度を持って、妖怪の山に着弾したのだ。
「ええい、ひとつ異変を解決したらまた異変が起こる! キリがないわ!」
「なんにせよ、行くぞ霊夢。」