東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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洗脳装置を

お空に

置くう!!!



えーき様:「はい黒確定」



烏と桃色玉

「貴女、地獄烏の……霊烏路空……なのよね?」

「おくー?」

 

 アリスは目の前に立つ霊烏路空……いや、それに似た何かに向けて、恐る恐る問いかける。

 カービィは何が何だかわからないといった様子で、しきりに首を傾げている。

 霊烏路空のような者は霊烏路空の口を借り、またあの恐ろしく無機質な声を発する。

 

『現在使用している身体は霊烏路空のものです』

「それで、その身体を使っている貴方は何者? そこの狂った人間を生み出した元凶かしら?」

「うぃ!?」

 

 問いかけつつ、静かに戦闘態勢をとるアリス。その側ではカービィはその発言に驚いたのか、あたふたとしている。

 しかし当の霊烏路空の身体を借りる者は、敵意を向けられているのにも関わらず、その無機質な調子を崩さなかった。

 

『否定します。私はSanity 0 system破壊program、Insanity 0 systemのdroneです』

「はぁ……」

「う??」

 

 そして飛び出した幻想郷では聞きなれない外国語の羅列に辟易する両者。

 アリスは理解できないわけでもないが、こうも突然に、しかも『あの』霊烏路空の口から飛び出してくるとは思っても見なかった。

 そしてそう辟易している間に、彼女は……仮称『ドローン』は話を進める。

 

『警告、私の周囲50㎝には電波妨害の為の高濃度放射線が磁気に包まれています。長時間の被曝は身体に悪影響を及ぼす可能性があります。注意してください』

「え、と……離れてろ、と?」

『はい』

 

 その堅苦しく機械的な声には、どこか妙に近寄りがたい雰囲気を纏っている。

 それはアリスらが『幻想』の存在だからだろうか。科学を軸に、機械と数式、理論の力で勢力を伸ばした『現実』と相反する存在だからであろうか。

 

 しかし、一個人の感情だけで『ドローン』との接触を拒むわけにはいかない。

 この場にいる中で唯一、洗脳されていながら理性的に話ができる相手なのだから。

 

「……で、貴女は一体何者? 私たちの味方と言っていいの?」

『Sanity 0 systemの支配下に置かれない限り、そうと言って良い』

「では貴女は……幻想郷の味方なの?」

『……回答不能。その質問に対する答えを持っていません』

「なら、貴女はどのようにしてその地獄烏の身体を奪ったのかしら」

『宿主、霊烏路空及び旧地獄の情報はすでに数少ないdrone全体に共有されています。その情報を利用し、地上に上昇してきたところを捕捉、接触を図り、私を装着させることに成功。現在に至ります』

「……つまり地獄烏の性格を利用して洗脳した、と? ……そこまでやる理由は?」

『Sanity 0 systemの破壊。私の現在の行動原理はそれのみに完結しています』

「さっきから言っている、その、『サニティ ゼロ システム』ってなんなの?」

『それ────』

 

 ドローンは口を開く。

 だが、何か核心に触れようとした時、その口を閉じ、背後を振り返った。

 釣られてアリスも、そちらを見た。

 

 そこに居たのは、よたよたと立ち上がる魔理沙だった。

 未だ、その目には狂気が宿っている。

 

「まだやるか!」

「まりさー!」

 

 最早魔理沙の機械装甲は意味をなして居ないが、それでもその重量は脅威である。

 アリスとカービィが再び臨戦態勢に入る。

 

 が。

 

『これ以上の戦闘は危険』

 

 そうドローンは呟くと、カチャリ、という音とともにバイザーの数センチもあるネジのようなものを取り外す。

 そしてそれをおもむろに魔理沙に投げつけた。

 それは淡い光を放って魔理沙の足元に転がり────

 

「……っ! いっ、イテテテテテ!? 頭が痛い! 体も痛い!」

 

 ────その目に、再び理性が戻った。

 

「あれ? 私一体何してたんだ? ……うわ、なんだこの金属の服。重っ!」

「魔理沙!? 本当に魔理沙ね!?」

「ん? アリス? ああ、私は私だが……いやなんでお前がここに居るんだ?」

「ぷぃ!」

「おお、カービィも居たか! ……あれ、私たち、確か森の上空を飛んでいたような……てかなんでここにお空がいるんだ? なんだそのダサい目隠しは」

 

 全く要領を得ない魔理沙に、アリスが事の顛末を知っている限り魔理沙に教える。

 自分が洗脳されていたと聞いて少し顔をしかめたが、あとは淡々と、先ほどの狂乱があったとは思えないほど落ち着いて話を聞いていた。

 

「成る程、人間を狂わせる力か……私はそれにやられたと」

「人里もおそらく全滅ね」

「ぽよ……」

「成る程な。……あれ、なんで私は平気なんだ?」

『妨害装置の範囲内にいるからです』

「ぼう……なんだ?」

『今マリサの足元にある、洗脳電波を妨害する電波を発生させる装置のことです』

「……これか? でかいネジみたいだな」

『そこから常に妨害電波が発生しています。尚、範囲から外れると再び洗脳電波に侵され、洗脳されますので肌身離さず所持しておいてください』

「お、おう……アリスらは……人間じゃないから反応しないのか」

『はい。もっとも、脳に直接電磁波を送られた場合はその限りではありません』

「……なんだろうな、この……」

「お空の体でこうも訳わからないこと言われると……ね」

「ぷぃ」

 

 普段のお空がお空であるために、なんとも言えない絶妙な違和感を感じる。カービィもひどく困惑した表情をしている。

 しかし当の本人、もしくはドローンはそれに気がついていないか無視しているのか、構わず喋り続ける。

 

『では、我々は向かわねばならない』

「何処へ?」

『Sanity 0 systemの破壊の為。全ては終わらせねばならない。繰り返してはならない。それがInsanity 0 systemの行動原理の一つである』

「その、さっきから言っている『インサニティゼロシステム』ってのはなんなんだ? お前の主人であることはわかる。だが、全くなんなのかわからん。『サニティゼロシステム』との違いはなんだ? 『サニティゼロシステム』がこの洗脳の犯人なのか?」

 

 魔理沙はまくしたてるようにドローンに問い詰める。

 しばしドローンは黙り、やがて霊烏路空の口を借りて、たったひとつだけ、答えた。

 

『Sanity 0 systemを起動させた者、今回の首謀者はわかっている』

「それは!?」

『柳葉流師範にして柳葉家当主、柳葉権右ヱ門だ』

 

 

●○●○●

 

 

「ギィイイイイイ!!」

「ひょえええええ!?」

 

 大木に括り付けられ、バタバタと暴れる小鈴。しかしやはりというべきか、その目に正気はない。

 その狂乱を見て、高麗野あうんは霊夢の後ろで怯えだす。

 そしてその様子を見て霊夢が呆れるという始末。

 

「あんた本当に守護獣?」

「こんな狂った人間なんか見たことある訳ないでしょ!」

「それには同意するけどね」

 

 そして、暴れ狂う小鈴を見る。

 お守りが焼かれた途端に大人しくなったはずなのに、どういうわけか突然再び暴れ出したのだ。

 てっきりこのお守りがキーアイテムかと思ったが、どうもそうとは言い切れないらしい。

 さらには、自らを蝕もうとする不穏な気配も強くなっている気がする。

 

「全く、変なことしか起きないわね。まーた知らない奴がウヨウヨしだしたんだろうなー」

 

 そう、知らない奴と言えばもう一人。ピエロのような帽子を被った灰色の子。

 あんなグロテスクな奴と平然と戦っていたのだ。普通の人間ではあるまい。

 

「そういや、あんたの名前聞き忘れてたわね。あんた、名前はなんて言うの……」

 

 霊夢は振り返り、尋ねる。

 だが、そこに灰色の子はいなかった。

 代わりにいたのは……灰色の球体だった。

 

「……誰あんた」

「……」

「その雰囲気……まさかさっきの灰色の子ね?」

 

 その問いに、灰色の子はゆっくりと頷く。

 

「化けてたのかしら。霊力とか妖力は感じなかったけど……それにしてもあんた、カービィに似てるわね」

 

 それはまさに『カービィの影』とでも言うべき存在であった。

 シルエットはカービィそのまま。体色は灰色で、カービィが常に天真爛漫で能天気な表情をしているのに対し、この灰色のカービィはどこか大人びた、少し物憂げな表情をしている。

 しかも、霊夢にはこの灰色のカービィに見覚えがあった。

 

「あ、もしかしてマルクとか言う奴に緑色の乗り物で突っ込んで行ったの、あんた?」

「……」

 

 またも無言で頷く灰色のカービィ。うんともすんともぽよとも言わないあたり、やはりカービィとは決定的に何か違うようだ。

 カービィと同じような反応を期待していたために、少々違和感を感じるが、しかし他はどう見ても───格好が変わるとそれに応じた力を使えるあたりも────カービィだ。

 そして、霊夢が確認したいことはただ一つ。

 

「灰色。あんた、この異変について何か知ってるわね?」

「……」

 

 肯定。

 予想通りだ。でなければ人間の姿を取って人間の街を歩き、小鈴の呼び出した化け物と戦うはずがない。

 コイツは、この異変について何かを知った上で行動している。

 しかしおそらくコイツもカービィと同じで人語を喋ることはできまい。

 

「あんたはこの異変を収束させようとしている。それは間違いないわね?」

「……」

「ま、でしょうね。それに私が手伝うと言ったら? あんたは受け入れる?」

「……」

「そう。なら首謀者はわかる?」

「……」

「……上出来よ。なら私のやり方で異変を解決するわ。案内して頂戴」

「……」

「……微妙な返事ね。ここは私たちが住まう地よ。なら、原住民が決定権を持つのが道理じゃない?」

「……」

「そう、それでよろしい」

 

 渋々といった様子で灰色のカービィは霊夢との取引───に近い強要────に応じる。

 だが仕方あるまい。灰色のカービィは部外者。霊夢は幻想郷の住人であり、バランサーでもある。どちらの意見が優先されるべきか言うまでもない。

 そしてそのやり方が、博麗霊夢の異変解決のやり方の中で最も成功率が高いのだから。

 下手な打算をした時は損をした。

 後手に回った時は悪化した。

 なら、霊夢が取るべき方法はただ一つ。

 

 敵地に乗り込み、首謀者を討つ。作戦も何もない力押し。それだけだ。




霊夢は本編みたいに敵地に乗り込んで解決した異変はあまり失敗なく終わらせるけど、『鈴奈庵』とかの外伝にて、色々打算した時は大体失敗しているんですよねー。

やっぱ脳筋が性にあっているんだろうか。

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