東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
最近更新が遅れ気味な理由→禿げそう
…………なくらいのストレス。
ほら、あれですよ。誰もが乗り越えたり乗り越えなかったりするアレですよ。
ま、いずれなんとかなるでしょう(笑)
「待った待った! まさか戦う気かい!?」
悲鳴のような反論をあげたのは、高麗野あうん。その目からはひしひしと必死さが伝わってくる。
おそらくはその先が死地であることを悟っているのだろう……いや、この陥落寸前の幻想郷において、この状況を作り出した元凶と戦うことがどれだけ危険なことか、誰であっても想像できるだろう。
しかし霊夢は当然と言うべきか、その嘆願を一蹴する。
「そ。ならそこら辺で丸まってなさい。私は行くわよ」
「ひぇえ〜そんな殺生な……」
「神社にでも戻ればいいじゃない。確か萃香と針妙丸を残したままだったし、守護獣やめて被守護獣に転身すれば?」
「ええ……道中でやられそう……」
「意気地がないわね。ま、どちらにしろ私たちは行くわよ。灰色」
「……」
自らの名を指し示す愛称で呼ばれた灰色のカービィは黙って頷き、どこかふらりと向かう霊夢に追従する。
「ま、待ってよぅ〜」
そしてその後を情けない声を出しつつあうんは追うのであった。
●○●○●
「……案外歩くわね」
「……」
「まだまだ先ってこと? はぁ……」
「霊夢〜、引き返そ? 二人じゃ無理だって」
「時間は敵よ。後何さらっと自分をカウント外にしているのよ」
「やだむり戦いたくない」
「……ほんっと、使えない守護獣ね」
「……」
人里離れた荒地を灰色のカービィを先頭に歩き続ける霊夢。そしてその後ろをおっかなびっくりついてくるあうん。
灰色のカービィはただひたすら進み続け、霊夢は黙々と追い続ける。
あたりはしんとしている。
しかし少しあたりを見回せば、人里は篝火により妖しく光り、妖怪の山は狂った人間たちが持っているのであろう松明の灯りがちらほらと見える。
まるで幻想の黄昏のようだ。
気味が悪い。
そう心の中で吐き捨て、また視線を戻して灰色のカービィの後をついて行く。
「……何が目的なのかしら」
「首謀者のこと? ……幻想郷を滅ぼしたい?」
「回りくどい気がするわねー。人間全てを操れる力があるなら、普通に力押しで何とかなる気もするけど……洗脳を得意とする妖怪かしら? でも妖力は感じないしなぁ」
「うーん、妖力なら私だって一応守護獣ですし、邪なものとして防ぐことはできるけど……なんだろう。何か目的があってやっているのかも?」
「目的って何よ」
「さ、さあ……」
しばし耳に痛いほどの無言が続く。
だが、ふとある言葉が脳裏に蘇った。
それは、小鈴が霊夢に向かって発した言葉。
「……あー、そういや狂った小鈴ちゃん、人外がどうとか言ってたっけ?」
「……言ってた気がする」
「人外……妖怪とか精霊とか、そう言う類への恨み、ねぇ……妖怪に殺された人間の怨霊がよくそんなことを言っていた気がするわね」
「でも怨霊だったら……私でも対処できるし……わふっ!?」
あうんの顔に何かがぶつかる。
それは霊夢の背中。おっかなびっくり前かがみになって歩いていたせいでぶつかったのだろう。
なお、あうんの額には角が生えている。
「いっっった! 何すんのよ! 刺さったわよね!? 刺さったわよね!!?」
「急に止まるのが悪いんじゃないか!」
背中をさすり若干涙目で激昂する霊夢と、恐怖でやはり涙目のあうんがこれに抗議し、耳に痛いほどの静寂は尾を巻いて何処かへ逃げて行く。
ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる二人に、第三者の声がかかる。
「……悪いわね、驚かせたようで」
それは、霊夢の前に何の前触れもなく現れたのだ。
それは紫色のネグリジェらしきものをまとい、薄紫のモブキャップを被った、紫の長髪の少女。
紅魔館の魔女、パチュリー・ノーレッジであった。
「はぁ、もう……ええ、あんたのせいね。引きこもりのあんたが何でここにいるわけ?」
「……話は中でするわ。……率直に言うと、貴女が来てくれて助かったわ」
「何よ気持ち悪い」
「……私だけじゃないのよ」
パチュリーは背を向け、手を少し振る。
途端、荒野の一部が切り取られるように景色が変わり……そこには簡素な野営地が設置されていた。
そこにいたのは何人かの妖精たち。しかしそこにいるのはそこらへんで見かけるものではなく、服装が統一されたもの。
その姿はメイドであった。
そしてその中に見覚えのある顔がいくつかあった。
パチュリーに仕える小悪魔。紅魔館の門番、美鈴。吸血鬼のメイド、咲夜。
そう、紅魔館の住人たちが、荒野に野営地を張っていたのだ。
どういうわけか、その紅魔館の主人を除いた者たちが。
「……どういうこと?」
「……私の……せいです」
「はい?」
「……」
「私が説明するわ。……紅魔館が落とされたの」
「は?」
パチュリーは語った。
狂った人間が紅魔館に押し寄せたこと。
なんらかの力により、咲夜が一度洗脳されたこと。
そして……咲夜の正気と全員の脱出と引き換えに、レミリアが正気を失った妖怪に襲われたことを。
「妖怪? 妖怪が洗脳されている?」
「間違いないわ。金属のパーツを付けられた河童と……もう一つは永遠亭の月兎かしら」
「……永遠亭にも行ってみる必要がありそうね……で、気の触れた妹の方は?」
「フランは自室にいたまま。外の状況に気づいていたとは思えないわ」
「ふーん」
「……霊夢、頼みがあるわ」
「私からもお願いいたします」
パチュリーと咲夜は霊夢にその頭を下げた。
その後ろで、美鈴も、小悪魔も、妖精メイドたちも、頭を下げた。
その口から漏れだすのは懇願……いや、哀願であった。
片や親友とその妹を、片や主とその妹を、為すすべもなく置いてくことになった者の、哀願。
「どうか……レミィを助けて欲しい。魔女らしく対価は払いましょう」
「私からもお嬢様と妹様をよろしくお願いいたします」
それに対して霊夢は。
「私は人間巫女よ。それを分かった上で言ってるの?」
「……」
「わかっています」
「私は……異変を解決する。ただそれだけよ。その過程までは私には与り知らぬところよ?」
「それでも、よ」
霊夢はパチュリーの、咲夜の、美鈴の、小悪魔の、妖精メイドたちの横をすり抜け、通り過ぎた。
その後を遠慮がちにあうんが、一度だけ紅魔館の者たちを一瞥した灰色のカービィが、付いて行く。
残された咲夜は、美鈴に、妖精メイドに、指示を出した。
「美鈴、メイドたち。貴女たちはここで待機よ」
「え、いや、でも!」
「小悪魔も残りなさい」
「そんな! 私も戦えます!」
「それでも、よ」
「……!」
咲夜とパチュリーの目は、美鈴の、小悪魔、メイドは何も言えなくさせた。
その目の前に、何も、反論できなくなった。
それは洗脳や、魅了の魔法なんかよりももっとずっと強い力。
「……では、ここをよろしく頼むわ」
「……任せてください」
美鈴と小悪魔、妖精メイドたちは恭しく頭を下げる。
そして、パチュリーと咲夜は歩き出した。
「全く……あの巫女も堅物ね」
「ええ、全く」
その先にいるのは、ただ異変に向けて歩き続ける鬼巫女だった。
●○●○●
なぜ、誰もいないの?
メイドは? 咲夜は? パチュリーは? 小悪魔は? 美鈴は?
お姉様は、どこ?
誰もいない。
あるのは荒れはてた館のみ。
そこに人のカゲはいない。
なにも。なにも。なにも。
すてられた?
すてられたの?
わたしは、すてられたの?
いや、ちがう。
コドクのオリのなかに、またとじこめられたの?
ヨゾラはくらい。いつもならすべてみわたせる、わたしのめは、いまはすべてがにじんでみえる
いやだ。
わたしをとじこめないで。
コドクのなかに、またとじこめないで。
「貴女、吸血鬼……なんだよね?」
「……誰? ……もしかして……宵闇の……ルー……?」
「お願いがあるの。あなたの、家族を取り戻すために」
「なに?」
「私の…………止めて欲しいの」