東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜   作:糖分99%

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人食いと工作と桃色玉

 幻想郷には、人間の生活圏たる人里がある。

 それと同じく、妖怪の生活圏とも言える場所も当然存在する。

 そこは妖怪がたむろする場所であるために、人間はその辺りに近づくような自殺じみたことをする者はいない。そのため、その辺りをうろつく人間は大抵尋常な者ではない。霊夢のような力を持った人間か、妖に魅入られた人間か、どちらかだ。

 

 しかしその場所に、力を持つわけでもなく、魅入られたわけでもない人間が一人、入り込んだ。

 妖怪の生活圏で、たとえ命が奪われても文句の言えない場所で、ただ何かを待つように。

 その人間は若かった。若い人間の女性だった。

 江戸時代か明治時代の価値観を持つ幻想郷ならば大人として扱うのかもしれないが、我々の価値観からすれば、その女性はまだ未成年であった。

 前途ある若者のその顔は……微塵も生気を感じさせなかった。

 

「────あなたは食べてもいい人間?」

 

 夜闇に紛れて、闇そのものが問いかけた。

 幼くあどけない少女の声が。

 

 『妖怪のたむろする場所に来ては人間は生きて帰れない』。要約すればそのようなことを前に言ったが、しかしいまこの幻想郷においてはそうは限らない。

 獣のような知性しか持たない妖怪に出くわせば、そうなるであろう。しかし出くわしたのが知性を持つ妖怪であり、無闇矢鱈に人を殺すことが禁じられている今の幻想郷ならば、身の程を弁えて行動したならば助かる見込みがある。

 

 この問いかけが、それである。

 『違う』そう答えるだけで彼女は諦め、次の獲物を探すだろう。

 

 人間の女性は口を開き───

 

「…………ええ。そうよ」

 

 ────この妖怪を、受け入れた。

 

 一瞬。一瞬だけ、金糸が夜闇を切った。

 水音と咀嚼音だけが、暗闇に響いた。

 後には血の匂いのみが残っていた。

 

 

●○●○●

 

 

「ねぇ」

“はい”

 

 木の上で、一人の少女が脚をパタパタ揺らしながら、隣にいるものに問いかける。

 その少女の髪は金髪のボブカット。チャームポイントとして金のリボンを右に着けている。

 問いかけた先にいるのは、影。薄く朧な、人の影。

 

「なんであなたは私にまとわりつくんだ?」

“……さぁ”

「今までこんなこと無かったぞ。いくら人を食べても、食べた相手にまとわりつかれるなんてなかった」

“そう言われても……”

 

 金髪の少女の詰問に、人の影は困ったように頭部にあたる部分を揺らす。おそらくは首を傾げているのだろう。

 

「なぁ」

 

 金髪の少女は問いかけた。

 

「なんでお前は私に食われたんだ?」

“……なんでだろうね。私には恋人がいたの。その人に先立たれたからかな”

「んー? 恋人に死なれたらなんで私に食われるんだ?」

“……貴女にはまだ早いのかな”

 

 人の影は困ったようにゆらゆら揺れた。

 同じように、金髪の少女もゆらゆらと脚を揺らした。

 

 

●○●○●

 

 

「なあなあ、なんの騒ぎだ?」

 

 夜だというのに、人里や妖怪の山から夜空を煌々と照らす篝火を見て不審に思ったのだろう。金髪の少女は未だについてくる人の影に問いかけた。

 

“人が……人が、狂ってるの”

「なんでだ?」

“わからない。でも……”

 

 人の影の返事はか細い。

 しかしながら、芯が通っており、何か確信があるように思えた。

 

「もしかしてー、なんか知ってるのかー?」

“…………”

「……遠慮しなくていいぞ?」

“……え?”

「私とお前は、私がお前を食ってからずっと一緒にいるんだ。だからもう友達だぞ? 友達なら『困った時はお互い様』なんでしょ?」

“…………”

 

 人の影は揺らいだ。

 長く、長く、揺らいだ。

 そして、体を震わせる。

 

“……お願いが、あるの”

 

 

●○●○●

 

 

「柳葉権右ヱ門って……人里で護身術教えてた剣の名家じゃないか!」

「ぽよ?」

「魔理沙、知っているの?」

「知っているも何も、最近じゃ知らぬ者はいないというか……護身術を大々的に宣伝していたから、今じゃ知らぬ者はいない、ってくらい隆盛だったぜ」

「隆盛を極めた家長が異変を起こす、ねぇ……人里での台頭は目的というより、手段かしら?」

「どういうことだ?」

「うぃ?」

 

 アリスのやや抽象的な発言に、魔理沙とカービィが首を傾げる。

 

「つまりはこの大規模な人間の洗脳を行うには、裏で秘密裏に工作するというよりも、大々的に目立ち、力を持たなくては出来得なかった、ということよ」

『概ね正解です』

「ぅわっ! ……いきなり喋らないで頂戴」

 

 アリスの講義を無視し、霊烏路空の口を借り、ドローンは勝手に喋り出す。

 

『柳葉権右ヱ門は巧みな宣伝により人里の人間を自らの道場に集め、Sanity 0 systemにより作り上げられた受信式小型洗脳パルス放射機器を埋め込んだ短刀を配布しました』

「えと……そのジュシン……パル……なんだ?」

『脳に直接干渉し人間を洗脳する電磁波を発生させる装置です』

「つまり、集めた人間に、人間を洗脳する術式を埋め込んだカースドアイテムを持たせた、ってこと?」

『概ね正解です。ただし魔法などによるものではなく、物理学、化学、生物学に則った力による洗脳です』

「仕組みはどうでもいいわ。それより……どう考えても幻想郷の存在ではないものが暗躍している、ってことはわかったわね」

「なるほどな。マルクを思い出すぜ」

「ぽよ」

 

 魔理沙とカービィが思い出すのは、あのマルクとの決戦。

 彼は何ヶ月もかけて入念な準備をして、幻想郷にその毒牙を向けた。

 おそらく、『サニティゼロシステム』というやつも同類なのだろう。

 

 と、ここで一つ、魔理沙はあることを思い出した。

 

「そういえば、その短刀がスられまくる、っていう事件もあったよな? そしたら人里に出回る洗脳機械入りの短刀の数は減る事になる。だとしたら人里の人間全員が洗脳される、ってのはおかしいんじゃないか?」

 

 そう。この洗脳事件が起こる前に起きた、柳葉家が配った短刀のみを狙ったスリ。

 相当な数が盗まれたはずで、それならば被害はここまで増えることはないはずだ。

 だがドローンの口から伝えられたのは、柳葉家、そして『サニティゼロシステム』の周到さであった。

 

『その後、被害に遭った者への『手当』として配られたお守りにも同じ機械が仕込まれています』

「あちゃー」

『また、偵察用ドローンの情報から鈴仙優曇華院イナバが捕獲されたとの情報が入っております。その能力を増強させる機械装甲の装着が確認されており、幻想郷を覆う洗脳パルスはさらに強力なものになっております』

「優曇華が!? ってことは永遠亭が襲撃された、と」

「あそこにはあの月人がいるはず……一体どうやって攻略を……」

 

 一体、自分達はナニを相手にしようとしているのか。

 正体不明の恐怖が魔理沙とアリスの背筋を突き刺すように凍らせる。

 

 だが、感情を持たないのであろうドローンは構わず情報を羅列してゆく。

 

『また、そのスリは我々Insanity 0 systemの同盟者による工作活動です』

「お前らの仲間がやった、ということか? まぁ、仲間が多いことに越したことはないが……しかし、短刀のスリ? ……なんか聞き覚えがあるような……」

「一体誰なの?」

 

 魔理沙は『短刀のスリ』の話をどこかで聞いたような気がした。が、洗脳の影響か思い出せない。

 しかしその答え合せをドローンがすぐさましてくれた。

 

『鏡の国の住人、シャドーカービィです』

「え……あ、そうだ、思い出したっ!」

「ぽよっ!」

 

 そう、そうだ。

 あの時、自分の家から出る前に、メタナイトから話を聞いたのだった。

 今。そう、短刀の正体を掴んだ今ならわかる。

 彼は一人で戦っていたのだと。

 

「……いや、誰なの?」

 

 そして、全くの初耳のアリスはぽかんとした表情を浮かべていた。




ちょっと状況整理

陣営A・カービィ、魔理沙、アリス、霊烏路空(ドローン)
状況・魔法の森でドローンから情報収集

陣営B・灰色カービィ、霊夢、あうん、咲夜、パチュリー
状況・紅魔館メンバーと合流。咲夜とパチュリーが仲間に加わった! 優曇華の誘拐情報が入ったので永遠亭へ情報収集

陣営C・メタナイト、メタナイツ、命蓮寺メンバー
状況・宇宙へ避難。そして短刀の秘密に気がついてこの手のものに詳しい者を訪ねにゆく

陣営D・フランドール、金髪の子
状況・ガールミーツガール

陣営E・永琳、輝夜、てゐ
状況・逃走中。優曇華は苦渋の判断の末置いていった

陣営F・八雲家
状況・この緊急事態の最中、陰でめっちゃ頑張ってる。多分胃に穴が空いてる

陣営G・こころ、こいし
状況・まだ人が侵入していない幻想郷の端っこで、状況を見ている

陣営H・河童、天狗、守谷の面々
状況・守谷神社で避難。ぶっちゃけピンチ

最後の四陣営は本当に少ししか出てませんねー。




……戦線広げすぎじゃね?
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