東方桃玉魔 〜ピンクの悪魔が跳ねる時、幻想郷は恐怖に慄く〜 作:糖分99%
洗脳された優曇華、レミリア、河童達は解放された。
しかし、無傷というわけにはいかなかった。大元を叩けていない以上、機械を破壊するという荒い方法でしか洗脳を解く方法はなかった。
故に、レミリアは力を失い、河童の一人は空の力で皮膚にやけどを負い、もう一人は人形やビームによる傷を負い、優曇華は爆風による裂傷を負っていた。
傷を負った彼女達は永琳の手により治療を施されてゆく。
レミリアには永琳が自らが不死であることをいいことに自らの血を数リットル用意し、やけどを負った河童にはアリスが魔法で生み出した水を使って冷やし、軟膏を塗りつけ、刺し傷などを負った河童には止血を行う。
そして、裂傷を負った優曇華が永琳の前に運ばれる。
妹紅もアンテナを吹き飛ばすギリギリの威力に留めたのだろう。あの爆発の割にはその怪我は軽いものであった。
「優曇華……」
しかし洗脳の影響か、意識はない。
意識のない優曇華をしばし見つめた後、永琳はテキパキと治療をしてゆく。
最後の包帯を巻き終え、永琳は優曇華を抱き抱える。
「……では、私達はこれで失礼します」
「本丸を叩きにはいかないのか?」
「……悪いけど、これ以上突っ込みたくはないわ。私達は幻想郷に逃げてきた罪人。ただ隠れ、平穏に無限の時を過ごしたいだけなのよ」
ただそれを言い残し、永琳は輝夜とてゐを引き連れ、どこかへと去っていった。
魔理沙は引き止めようとした。蓬莱人という戦力ほど頼もしいものはないのだから。
だが意識を失い、包帯を巻かれた優曇華を抱き、つれて行く永琳の目を見るとどうにも言葉が発せられないのだ。
彼女達の切実な願い……だからだろうか。
それ以上もそれ以下でもない、切実な唯一の望み。
人里離れた竹林で、数少ない仲間とともに悠久の時を過ごす。ただそれだけの望み。
それを踏みにじるほどの勇気は魔理沙にはなかった。
そんな勇気がなかったからこそ、あの時魔理沙はカービィ達に最後まで付いていったのではないのか。
やがて、永琳達の姿は完全に夜闇に紛れ込む。
耳に痛い沈黙の中、アリスは残った者に声をかける。
「で、貴女達は残るのね?」
「当然だろう? あの姫様と違ってやられっぱなしというのは気に食わないんでね」
残ったのは藤原妹紅。そして……
「私とて……生徒をいいように操られて黙っていられるものか……!」
その妹紅に支えられるようにして立つ、上白澤慧音。
本当は妹紅は慧音を連れて行きたくはないのだろう。妹紅と違い、人より頑丈とはいえ、慧音は死を克服した蓬莱人ではない。死からは免れられない一妖怪である。
しかし、妹紅は慧音の不退転の決意を愚弄するような者ではない。そして例え説得しようにも付いてくるであろうとその力強い目から察していた。
「ま、戦力は多いに越したことはないな。……で、レミリア。調子はどうだ?」
「ええ、万全よ。思いの外あの藪医者の血は美味かったわ」
そこには、フランの側に寄り添うようにして立つレミリアがいた。
先ほどまで小さな吸血蝙蝠の姿をしていたが、完全に元の姿に戻っている。
「全く。私の居城に押し入ったその罪をしっかり償ってもらわないと割に合わないわ」
「バラバラにしちゃえばいいのよ!」
「あらそれじゃあまだ生温いわ。せっかくだから(自主規制)いで(自主規制)んだ後じっくり(自主規制)してやりましょう」
「アハハ! それがいいわお姉様!」
「お、おう。取り敢えず相当頭にきているのはわかった」
「当然よ?」
そこにいるのはいつものレミリア。傲岸不遜で魔性の化け物、レミリアだった。
やはり耐久力は群を抜いている吸血鬼だけあって、回復が早い。
『早急にカービィ、および鶴刃の追跡を行うことを提案します』
と、呑気で剣呑な会話に焦れたのか、ドローンが空の口を借りて喋り出す。
「それもそうだな。首謀者を叩かない限り、この異変は終わらない」
「そして被害も出続ける、と」
「……ああ、急ごうか。アリスは私の後ろに、妹紅、慧音を運んで付いて来られるか?」
「……すまん。私はそこまで早くは飛べない」
「ならレミリア、フラン、二人を連れてきてくれ。おっと、レミリアが慧音、フランが妹紅な」
「ん? ……まぁいいか。では任せてくれ」
「すまない、頼んだ」
「任されろ!」
魔理沙はアリスを乗せ、レミリアは慧音を担ぎ、フランは妹紅を担ぎ、ドローンが再び先導して飛んで行く。
いざ、最終決戦の地へ……
●○●○●
ドラグーンは風を切り、瘴気漂う森を突き進む。
慣れた様子で乗りこなすカービィと、機体にしがみつくルーミアの体を借りた鶴刃。
妖怪の膂力でなんとかしがみつきながらも、鶴刃はカービィを不思議そうに見る。
伝え聞いたどの妖怪の姿にも、カービィという妖怪は似ていない。
一体、彼はどこから来たのだろうか。
そんな疑問が鶴刃の胸中にふと舞い降りる。
いや、そんなことを考えている場合ではない。
私にはしなくてはならない事がある。
成し遂げなければならない事がある。
私自身清算せねばならない事がある。
私の過ちを正すために。
我が父の過ちを正すために。
私の過ち。それは────
ズドン、と腹の奥底が響くような音が鳴る。
鈍く重く低い音が。
ひどく嫌な予感がした。
借りているルーミアの体が鶴刃の感情を感じ取り、その額に汗を浮かべる。
そしてその予感は合っていた。
かつて我が家は……柳葉家の道場は弾け飛び、どこにもなかった。
代わりにそびえ立っていたのは、巨大な螺子のようなもの。白く輝き翼を広げる巨大な螺子。それが我が家を貫き屹立していた。
そしてその周囲には我が家の残骸に混じり、人が倒れていた。
鶴刃が名前を知らぬ者たち……妖夢が、パチュリーが、咲夜が、幽々子が、あうんが、その場に倒れていた。
未だ両の脚で立つのは紫と霊夢のみ。しかも身体中に傷をつけて。
そして……
「父……上……」
愛刀を握りしめる鶴刃の父、権右ヱ門。
しかしその姿は黒く染まり、腹部から巨大な目を覗かせ、瘴気を吐き出す化け物じみた姿。到底、正気など保っているはずがない。
化け物を身に宿した者の末路に他ならなかった。
「ああ。そんな……父上……」
「ぷい!」
そんな彼に鶴刃はドラグーンから降りふらふらと近づく。
しかし狂っている上に、他人の体を借りた娘の姿を認知できるはずがない。
「オォおおおお!」
父は娘に刃を向けた。
「ぽょ!?」
「なっ、ルーミア!?」
霊夢も駆けつけたカービィと鶴刃に気がつくが、権右ヱ門の剣撃を阻止するには遅すぎた。
無慈悲にも刀は振るわれ────目玉の覗くスキマが受け止めた。
しかしそのスキマは刀より溢れる闇が蝕み、歪み出す。
だがスキマが歪みきり破断するよりも早く、何者かが斬りつけた。
それは、小さな日本刀。
振るうは忍者装束のシャドーカービィ。
権右ヱ門は跳びのき回避したため、振るわれた刀は空を切ったが、権右ヱ門の凶刃を防ぐことには成功した。
「霊夢。その子はいつもの宵闇妖怪ではないわ。その中にある魂はこいつの娘のものよ」
「……はぁ!? 妖怪の中に人間の魂が入ってるっていうの?」
「信じられないようだけど、その通りよ。カービィ、来て早速だけど、休む暇はないわ。酷使させて貰うわよ」
紫はカービィへ向け、一本の棒……恐らくは警棒を投げつける。
それをカービィは飲み込み、光が集う。
その光が晴れた時、その姿は大陸の猿の英雄を模した金の輪を被り、紅の棒を担ぐ姿へと変化した。
新手。そうカービィを断定した権右ヱ門は奇声とともに飛びかかる。
それと同時に、屹立する翼のある螺子が怪しく光る。
カービィにはそれが何かわかっていた。
それが件の星の夢 Sanity 0 system……正気を失った機械であることを。
「来るわよ」
「分かってる!」
「ぶぃ!」
星の夢の胴からレーザーが放たれる。
だがそのレーザーは不自然に軌道を変え、権右ヱ門へと……いや権右ヱ門の持つ愛刀へと飛ぶ。そのまま纏わり付くように、レーザーは愛刀に吸収された。
そして、愛刀は先のレーザーと同じ輝きを灯す。
刀は振るわれる。
同時に、刀に宿る輝きは強くなる。
そして、鎌鼬のように星の夢が放ったレーザーと同じものが迸った。
●○●○●
夜空を怪しい光が照らす。
それと同時に爆音も夜の静寂を破る。
「近いな」
『肯定。既に戦闘が開始されているようです』
「そんなの見りゃわかる」
ドローンの案内の下、魔理沙達は夜の森を飛ぶ。
と、その時。
「魔理沙、来るわよ!」
「ん? ……うぉっ!?」
レミリアの警告の直後、妖しい色のレーザーが編隊を組み飛行する魔理沙達に向け飛来する。
被弾する者はいなかったが、凄まじい熱量は髪を焦がす嫌な臭いを鼻腔に届ける。
「カービィ……無事でいてくれよ!」
それでもなお、魔理沙は先へと進む。
なぜなら、友が戦地にいるから。
友を追う事に理由なぞ……要らない。
スターアライズのコピーミックスは強かったですね。
では、それを敵がやると……?